起業してアパレルブランドを立ち上げるには、計画性が重要です。ブランドのコンセプトや販売方法など順を追って丁寧に決めていくことが大切になります。
この記事では、アパレルブランドを立ち上げる際の流れを5つのステップに分けて解説します。必要な資格や費用などもまとめていますので、ぜひ参考にしてアパレルブランド立ち上げの成功率を高めてください。
アパレルブランドを立ち上げるのに必要な資格
基本的にアパレルブランドの立ち上げに必要な資格はありません。開業資金を用意し、仕入れ先または製造ルートの確立などができれば、誰でもアパレル起業を始めることが可能です。ただし、古着を販売したり、素材として使用したりする場合は、古物商許可証が必要です。管轄の警察署で申請しましょう。
特に資格は必要のないアパレル事業ですが、衣類販売時の義務や起業時にやっておくと安心な任意の手続きがあります。
衣類を販売する際の義務
日本国内で販売する衣類には、消費者が正しく衣類を扱えるよう、洗濯ネームの取り付けが家庭用品品質表示法で義務化されています。洗濯ネームには素材やお手入れ方法、注意点、表示者名と連絡先などを記載する必要があります。
仕入れ商品には洗濯ネームが取り付けられていることが多いですが、オリジナル商品を製造して販売する場合は、洗濯ネームの取り付けを忘れないように注意しましょう。また、海外製品を仕入れて販売する際は、素材の用語などが日本の品質表示法に準拠しているか確認し、必要に応じて洗濯ネームの取り付けを行うことが求められます。
開業届と商標登録
個人事業主としてアパレルブランドを立ち上げるときは、税務署への開業届の提出をしておきましょう。開業届を提出する際に青色申告の申請をしておくと、節税メリットを受けられるのでおすすめです。
また、ブランド名やロゴなどの商標登録も行っておくと安心です。商標登録していない場合、あとから開業した第三者のアパレル事業者が同じブランド名で商標登録してしまうと、たとえ先に利用していたブランド名だとしても、継続して使えなくなります。
すでに商標登録されているブランド名を利用するのは商標権の侵害になる可能性もあるため、ブランド名が決まったら特許庁で同じブランド名がないか確認し、すぐに商標登録を済ませると安心です。ロゴの商標検索はToreru(トレル)などのサイトで行うことができます。
アパレルブランドを立ち上げるまでの5つのステップ

1. ブランドのコンセプト・イメージを決める
まず、アパレルブランド立ち上げのきっかけとなった思いや達成したい使命などを考えてブランドコンセプトを決め、ブランド構築を行います。コンセプトをベースにブランド名やロゴなどを決め、ウェブサイトのデザインなどにも適用することで、ブランドに一貫性が生まれます。
次のような項目を考えると、コンセプトやブランドイメージを固めやすいでしょう。
- ブランドストーリー:ブランド立ち上げの動機やテーマなど、ブランドに込められた背景や物語
- 価値観:ブランドが大切にする価値観や解決したい課題、発信したいメッセージ(サステナビリティ、個性の尊重、快適さなど)
- ターゲット層:年齢、性別、ライフスタイルなど、どういった人に着てほしいブランドなのか
- 独自性:デザイン・素材・製造プロセス・価格帯などの観点で競合分析を行い見つけたブランドの強みや差別化できるポイント
- ショップ名:コンセプトや価値観を表現できるもの、ターゲットに合ったもの
- ブランドアイデンティティ:コンセプトや価値観を表現する色やフォント、ロゴ
- キャッチコピー:ブランドを端的に表すメッセージ
たとえば、知的障害のある作家が手がけたアートを活かしたアパレル用品を展開するHERALBONY(ヘラルボニー)は、障害を特性として肯定的に捉え、社会にある障害のイメージを変えることを目指しています。
創業者は双子の松田崇弥さんと文登さんで、ブランド名の「ヘラルボニー」は、二人の兄であり、自閉症の翔太さんが、ノートの端に書いた言葉に由来しています。キャッチコピーは「異彩を、放て。」で、個性や違いを肯定し、力強く発信するブランドボイスが体現されています。

2. 商品を仕入れるか、つくるか決める
既存商品を仕入れる
問屋や古着屋、海外などから買い付けた服を販売するセレクトショップは、製作にかけるコストや手間が省けるため、アパレル事業が初めての方でも挑戦しやすいビジネスモデルです。
しかし参入しやすい反面、独自性が出しづらく、価格競争になりやすいというデメリットがあります。ネットで仕入れられるアパレルの卸売業者などを使い、競争力のある価格設定ができる商品を見つけましょう。
また、既存商品を仕入れる場合は、ブランドコンセプトにあった服を選ぶセンスと、商品の質を見極める力、ブランディング能力が求められます。
オリジナル商品をつくる
オリジナル商品を製造する場合は製造コストがかかりますが、より独自性を出すことができ、顧客のニーズにも対応できます。製造方法は主に以下の4つです。
- オンデマンド印刷(プリントオンデマンド):オンデマンド印刷業者を利用して、既製のTシャツやバッグなどに、自分のデザインを印刷する
- ハンドメイド:自分でデザインしてハンドメイドする
- 自社製造:製造スタッフを雇用する
- 製造パートナー:縫製職人や縫製工場などに委託する
製造パートナーを検討する場合は、アパレルブランドの立ち上げから支援してほしいのか、縫製のみを依頼したいのかなどで、委託先を選びましょう。
- nutte(ヌッテ):2,000人以上のプロの縫製職人に、縫製を依頼できるマッチングサービス。職人と相談しながら小ロットで服をつくることが可能
- terao-f(テラオエフ):商品企画からサポートしてくれるブランド立ち上げ支援サービス
- フクル:縫製のみや、生地選定からのフルサポートの依頼が選べるサービス
- SD(エスディー)ファクトリー:アパレルメーカーと縫製工場をつなぐ無料のマッチングサイト
- 株式会社小倉メリヤス製造所:ブランドの立ち上げ支援から、縫製まで行っている老舗縫製工場
製造パートナーに委託する場合は最低注文数が設定されていることが多く、個人でつくるよりも多額の資金が必要となります。事前に見積もりをもらって検討しましょう。
ハンドメイドや自社製造の場合、生地の仕入れが必要です。生地を直接触ったり、比較したりしながら探したい場合は、問屋の小売店舗で購入できます。たとえば、東京では日暮里繊維街、大阪では中央区にある船場センタービルなどが有名な生地問屋街です。
オンラインでは、生地問屋ドットコムや有限会社福田織物のような生地の調達ができるECサイトを利用しましょう。
また、生地全体に自分のデザインをプリントしてもらい、オリジナル生地をつくることもできます。小ロットから依頼できる業者は以下のとおりです。
- オリジナルプリント.jp:3種類のサイズから選べ、オリジナルの写真やイラストを生地にプリントしてくれるサービス
- ファブリックデザイン:アイテムに適した生地を選べ、布・生地の見本帳(有料)もあるため、イメージに近い商品を選びやすい
- 安田織物株式会社:透ける生地が特徴のからみ織り技術を利用したオリジナル生地の生産が可能な老舗織物会社
3. 販売方法を決める
販売方法は主に4つあり、それぞれメリットやデメリットがあります。商品の特徴やターゲットを考えてどの販売方法が良いか決めましょう。販売方法は1つに絞る必要はなく、複数の方法を組み合わせてマルチチャネル販売をすることもできます。
実店舗
事業用の店舗を借り、顧客が実際に手にとって商品を選べる販売方法なら、商品の質感やサイズ感を試着で確認してもらえるため、納得した商品の購入につながります。また、顧客と対面して販売することでコミュニケーションがとりやすくなり、ターゲット顧客層に対する理解が深まります。これにより、今後のマーケティングや商品開発にも活かせるようになるでしょう。
ただし、実店舗での開業には初期費用が1,000万円以上かかるといわれており、ハードルが高いと感じる方が多いのが現状です。コストを抑えて始めるなら、イベントへのブース出店や、期間限定のポップアップストアから始めてみると良いでしょう。一度対面販売を行うことで、実際に店舗を持つ必要があるかどうかを判断しやすくなり、顧客の声や市場の反応は、今後の販売戦略において役立つ貴重な情報となります。
ECサイト
楽天などのECモールやオリジナルの自社ECサイトで販売する方法なら、実店舗よりも幅広いターゲット層にアプローチできます。さらに、ECサイトをInstagram(インスタグラム)やFacebook(フェイスブック)、Etsy(エッツィー)など複数の販売チャネルと連携することで、国内外の顧客層にアピールできます。
ECサイトでは商品ページが購入の決め手になるため、照明や背景、撮影スタイルなど商品撮影を工夫して、商品が魅力的に見える写真や動画を用意しましょう。
商品説明には、価格のほかに、サイズやフィット感、素材、洗濯の可否といった詳細も記載します。同じページに、ほかの顧客からの口コミを表示するというのもひとつのアイデアです。
委託販売
委託販売は、自社の商品を小売店などの第三者に商品を預けて、販売を代行してもらう販売方法です。この方法なら、実店舗を構えるコストを抑えつつ、顧客に商品を実際に手にとってもらえるというメリットがあります。特に、生地の質感やデザイン、サイズ感が重要になるアパレルブランドにとっては有効な方法です。
販売価格はブランド側が設定できますが、原価や委託手数料(販売価格の約20〜60%)がかかるため、これらを差し引いても利益が残る価格設定が重要です。
また、委託先を選ぶ際は、どのような客層が、どの程度の予算で買い物する店舗かを調べ、なるべく自分のブランドのイメージと価格帯にあった小売店を選ぶようにしましょう。
卸売販売
卸売とは、小売店に一定数量の商品をまとめて仕入れてもらう販売方法です。商品が事前に小売店に買い取られるため、ブランド側は売り上げを確定しやすいというメリットがあります。しかし、小売店にとっては在庫リスクが高くなるため、いきなり取引に応じてくれる可能性は低いでしょう。
まずは委託販売などで実績を積み、ブランドの将来性や販売力などを証明することが大切です。卸売販売の販売価格は小売店が決めるため、ブランドのイメージが維持されるかもポイントになります。
4. 資金計画と調達方法を決める
ブランドのコンセプトやイメージ、商品調達方法や販売方法が決まったら、資金計画と調達方法を決めましょう。
まずは必要な資金を明確にします。ブランドをスタートさせるために必要な初期費用を見積もり、必要な金額と資金の調達方法を明確にしましょう。
たとえば、オンデマンド印刷によるドロップシッピングでは製造にも販売にも初期費用をほぼかけずに事業が始められますが、自社製造の場合には縫製機材や材料費、人件費などが必要になり、実店舗販売であればテナントの賃料や内装工事費などが必要になるため、これらを資金計画に組み込む必要があります。
融資や補助金・助成金を利用して資金を調達する場合、金融機関や投資家に提出する書類として事業計画を作成します。事業の内容や戦略、収益予想など、具体的な数値やデータをまとめるだけでなく、ブランドの将来性をアピールできる内容であることが重要です。
融資などを利用せず自己資金でアパレルブランドを立ち上げる場合でも、事業計画書を作成しておくとマイルストーンとして目標や進め方を明確にでき、競合他社と差別化を図るのにも役に立ちます。
アパレル事業を始めたあとの経費や製造原価、想定売り上げなども書き出し、どのくらい売り上げがあれば初期費用を回収できるのか、キャッシュフローの見通しを立てるのもアパレルブランドの立ち上げで失敗しないポイントです。
5. 集客する
新たなブランドの認知度を上げるためには、戦略的なマーケティングでの集客が不可欠です。限られた予算でも、効果的に注目を集める方法はたくさんあります。ここでは、初心者でも取り組みやすいマーケティング戦略を紹介します。
コンテンツマーケティング
ブログ記事や動画を利用したコンテンツマーケティングで、ブランドの魅力を伝えましょう。ファッションに関する知識や、スタイリングする際のポイント、商品やブランド誕生の背景など、ユーザーにとって価値のある情報を提供することで、ブランドへの共感や信頼性が高まります。
SEOマーケティング
SEOマーケティングを行ってGoogleなどの検索エンジンやSNSを通じてECサイトへのアクセスを増やすことで、ブランド認知度の向上につながります。検索エンジンで上位表示を狙うにはSEO対策が欠かせません。キーワード選定やタイトル、記事構成が、ターゲットユーザーの検索意図に合うかどうかがポイントになります。
SNSマーケティング
InstagramやX、TikTok(ティックトック)などのSNSを活用したSNSマーケティングは、ブランドの認知拡大に効果的です。ターゲットユーザーに直接アプローチできるため、顧客とのコミュニティ形成にも最適です。定期的な投稿やライブ配信、インフルエンサーとのコラボレーションなどを行うと良いでしょう。
特に、Instagramはビジュアル重視のSNSなので、アパレルブランドとの相性が抜群です。デザインのインスピレーションや製作工程の紹介、ブランドストーリーなどをストーリーテリングで発信するなど、ブランドの世界観を伝える投稿を意識しましょう。
コラボレーション
異業種の別企業とコラボレーションを組み、キャンペーンを展開することで、新たな顧客層へアピールすることが可能です。お互いの強みを活かした企画や商品を共同で開発することで、ブランドの世界観を広げ、認知度を高める効果が期待できます。
まとめ
アパレルブランドを立ち上げるには、ブランド構築や商品の仕入れ・製作方法の決定、販売方法の選定、資金計画と調達、そして集客のためのマーケティング戦略などのステップが必要です。
アパレル事業を始めるのに特別な資格は不要ですが、洗濯ネームの取り付けや開業届の提出、商標登録といった手続きは忘れずに行いましょう。
アパレルブランドの立ち上げ費用は、ネットであれば安く抑えることも可能です。Shopifyのような低コストECプラットフォームなら、デザインやコーディングのスキルがなくても、簡単にECサイトを開設できます。ロゴやカラーなどをブランドに合わせてカスタマイズできるだけでなく、マーケティングツールなども利用できるため、低予算でアパレルブランドを立ち上げて成功させることができます。
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よくある質問
アパレルブランドの立ち上げにはどのくらいの費用が必要?
アパレルブランドの立ち上げに必要な一般的な費用は、実店舗の場合は初期費用で1,000万円以上、オンデマンド印刷のドロップシッピングであれば0円です。商品の調達方法や販売方法によって大きく変動し、生地やその他の材料費、人件費、光熱費、家賃、設備費、ウェブサイト運営費などを考慮する必要があります。
アパレルブランドの名前はどう決める?
アパレルブランドの名前は、ブランドコンセプトを象徴するもの、そしてターゲットの心に響くものを選びましょう。Shopifyでは無料のAIビジネス名ジェネレーターを提供しているのでアイデア探しにぜひ活用してください。
アパレルブランドの立ち上げに許可は必要?
アパレルブランドの立ち上げに許可は必要ありません。ただし、古着を販売したり、素材として使用したりする場合は、古物商許可が必要です。
アパレル起業は儲かる?
アパレル起業は他の業界と比較して利益率が高く、オリジナルブランドで販売した場合、60〜70%の利益率になることもあるため、ブランドをうまく発展させることができれば、儲かる可能性はあります。
文:Momo Hidaka