ビジネスの立ち上げには、創業秘話、ビジネスのアイディアが生まれたきっかけ、そしてその実現にどれだけの熱意を注いできたかといった、魅力的なストーリーがつきものです。こうした物語に共感や納得感を覚えた顧客は、ブランドに高い価値を感じるようになり、そのファンとなり、ビジネス拡大とブランド構築の原動力となっていきます。
この記事では、ブランド戦略を立てるなかでストーリー性がなぜ強力な武器となるのか、解説していきます。また、魅力的なストーリーを効果的に語るための手順や、成功したブランドストーリーの例もご紹介します。
ブランドストーリーとは?
ブランドストーリーとは、ブランドにまつわる歴史や社会との関わり、創業者の想い、製品のこだわりなどを物語として語り、製品やサービス、価値観をポジティブなイメージで伝えることで、ブランドを宣伝する方法です。
企業のWebサイトにあるAboutページなどで、誕生の経緯や理念、目標、使命を紹介しているケースが想像しやすいでしょう。このストーリーは、実店舗とオンラインショップを問わず、顧客がブランドと関わるあらゆるやり取りの土台を作ります。そして優れたブランドストーリーは、顧客だけではなくスタッフに対してもブランドの在り方を示すものとなります。
ブランドストーリーの重要性
ブランドストーリーを伝える物語は、顧客とのつながりを築き、ロイヤリティや信頼を育み、競合他社との差別化を図るのに役立ちます。また、それが結果的に収益の増加につながっていきます。
より多くの消費者へ訴求できる
優れたメッセージは世間に浸透しやすく、それまで関心のなかった人々を惹きつけ、ファンに変える力があります。消費者は、手にすることで自分らしさを表現できるブランドや、なりたい自分のイメージに近いと感じるブランドに価値を見出します。これを「自己表現的価値」と呼びます。ブランドストーリーを通じてどんな自己表現的価値を提供できるかを伝えることで、より多くの消費者が惹きつけられるようになります。
信頼関係とロイヤリティが生まれる
優れたブランドストーリーは、大きなマーケティング予算をかけられない小規模な小売企業にとって特に効果的です。こうしたブランディングを効果的に展開すれば、商品を通して共感を呼び新規顧客を惹きつけるだけでなく、顧客にこのブランドから購入したいと思ってもらえるようになります。何度も購入してくれるリピーターをつかむことは、売上を伸ばして会社を成長させるために特に重要です。
自社ブランドを差別化できる
ブランディングは、消費者があなたから商品を購入するか、それとも他社から購入するかの決め手になることもあります。こうしたストーリーを広く浸透させることで、それまで関心のなかった消費者もあなたのブランドに好感を抱くようになるきっかけとなるのです。
ブランドストーリーの作り方:5つのステップ
1. ブランドの存在意義を明確にする
ブランドストーリーをわかりやすく伝えるには、ブランドの「存在意義」を特定することから始めます。その準備として、下記のような質問に答えてみると良いでしょう。
- このブランドや会社はなんのために存在しているのか?
- このブランドはどのように世界に貢献できるか?
- このブランドのミッションとは?
- このブランドの価値とは?
- 何が起業のモチベーションだったのか?
ブランドストーリーは画期的なものである必要はありません。まずはひとつひとつの商品について語るより、ブランドを立ち上げた時の強い想いをもとに、「このブランドが必要だと考えたきっかけ」を伝えることが人々の共感を呼びます。
例えば、ネコの保護施設に食べ物を寄付していた人が、さらに支援するため「利益の20%が保護施設に寄付される」というTシャツブランドを立ち上げたケースがあります。多くの消費者がその熱意に共感し、自身もそんな活動の一助になりたいと思ったからこそ、大きな反響を得ることができました。
2. 商品を理解する
ブランドストーリーのどこにどのようにして自社製品を効果的に落とし込めるのかを、理解する必要があります。商品との関連性がないブランドストーリーでは、ファンは増やせても売上にはほとんど反映されません。商品とのズレは、ストーリー作成における最大のミスとなります。
例えば同じ会社の自動車でも、洗練された高級感がアメリカで好評を博したレクサスを、燃費や扱いやすさを重視した大衆向けのプリウスと同じように売り込むことはできません。それぞれのブランドや商品の品質、性能、価格帯、期待されているユーザー体験を理解した上で、ストーリーを売り込みましょう。
ブランドストーリーに織り込む商品の要点を理解するためには、以下のポイントを把握することをお勧めします。
- 自社商品の品質と価格のポイントは?
- 商品はどんな悩みを解決するか?消費者をどんな気分にさせるか?
- 競合商品との違いは何か?
3. ターゲットを理解する
ブランドストーリーを作っていく際の3つめのポイントは、ターゲットユーザーを知ることです。ブランドストーリーを作成するにあたって、誰に向けて語るのかを定義しておく必要があります。ターゲットユーザーの興味・関心と悩みを理解することで、そのニーズや価値観に一致するブランドストーリーを模索しやすくなります。
「ターゲット」を理解する手がかりとなる質問を見てみましょう。
- 消費者は、自社の商品を購入しないとなにを失うのか?
- 現在の顧客はだれか?
- 自社の理想の顧客像とは?
多くの小売企業は、あらゆる人に向けてアピールしようとします。対象が幅広いこと自体には問題はないものの、すべての消費者が求める万能の商品はまず存在しません。そのため対象を広げすぎると逆に消費者の関心を失うので、ターゲットとなる理想の顧客を特定して売り込む必要があります。
ただ、大きな顧客基盤のない企業がターゲットを限定するのは簡単ではありません。その場合、まずはブランドコンセプトや価値観をリスト化して、それを魅力に感じてくれそうな消費者層を特定しましょう。
理想の顧客を特定したら、次は売上やファンや認知度の増加といった実益につながるように、想いが伝わるブランドストーリー作りを開始します。
4. 簡潔かつ明確にまとめる
ブランドのメッセージや価値は、簡潔な一文で、またはロゴを一目見ただけではっきりと伝わる必要があります。ブランドストーリーを下書きしたら、メッセージが明確で印象に残るようにさらに推敲していきましょう。また、第三者にチェックしてもらい、情報過多または情報不足でわかりにくい部分を指摘してもらうといいでしょう。
5. 主人公のストーリーに焦点を当てる
人々が求めているのは、商品や会社ではなく人とのつながりです。ブランドへの愛着を生むような心に残るストーリーを作成するには、ブランドに携わる人を主人公にしてその想いや熱意を紹介しましょう。
主人公のいるストーリー例を見てみましょう。
- 困難を乗り越えて一号店をオープンした経営者の体験
- 起業家による地域コミュニティへの社会的な功績
- ブランドストーリーを具現化する優秀な従業員
ブランドストーリーを展開していくためのヒント
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魅力的なブランドストーリーを作ること自体も重要ですが、それを小売ビジネスのあらゆる分野で展開することもまた重要です。ブランド運営のあらゆる場面にストーリーを落とし込む必要があります。そのためのヒントや注意点をまとめたのでご覧ください。
一貫性をもつこと
ストーリーのメッセージに一貫性がないと、ターゲットの共感を得る効果が薄れてインパクトに欠けます。例えば従業員の接客対応、店舗のデザイン、SNSマーケティング、Webサイト、ロゴやテーマカラーといったブランドアイデンティティまで、すべてのコミュニケーションに一貫したブランドストーリーが紐づいている必要があります。
商品開発においても、一貫性の大切さを念頭におきましょう。スタイルが一致しない商品をいくつも開発するのは避け、ブランドの各要素(ストーリーの文言やビジュアル)の目的をはっきりさせます。一貫性がないために自社商品同士が陳列棚スペースやユーザーを奪い合うようなことは、あってはなりません。
信頼性を保つこと
消費者は根拠ある誠実なストーリーでないと興味を失ってしまいます。より多くの顧客の共感を呼ぶ演出としての誇張は問題ありませんが、信頼を失ったり炎上したりしないためにも、ブランドストーリーはあなた自身やブランドや商品を誠実に表現するものでなければなりません。
ブランディングの信頼性を損ねてしまう要因としては、自身のビジネスをよく理解できていない、説明するスキルがない、または顧客をしっかり理解できていないといったものが挙げられます。
ブランドストーリーを広く共有すること
一貫性があって信頼性の高いブランドストーリーを作成したら、従業員や顧客と共有する手段を決定します。ブランドガイドラインを共有することで、ストーリーの誤解や間違って伝えてしまうことが防げるはずです。店舗の看板のフォントに至るまで、すべての要素がブランドストーリーの伝達に不可欠です。ビジネスのあらゆる面でガイドラインを共有し、足並みを揃えてブランドストーリーを正確に伝達してください。
ブランドガイドラインに記載するべき代表的なポイントは、下記の通りです。
- ブランドストーリーの起承転結
- ロゴ、フォント、ビジュアルスタイルのガイドライン
- ブランドに共通の言葉遣いやコミュニケーションスタイル
- ブランドスローガン
- ミッションとビジョン
- ブランド価値
ブランドガイドラインを明確にしておくことは、とくにデザインやマーケティングアイディアを外注する場合に威力を発揮します。明確で印象に残るストーリーができたら、フォントや色使いでさらにわかりやすくすることも大切です。あなたが経験を積んだデザイナーでなければ、ブランドのエッセンスを表現するビジュアルを制作できるプロに任せましょう。
心を揺り動かすこと
感情は記憶の中の話や経験を思い起こさせ、記憶を強化することが証明されています。
あなたが起業アイディアを思いついた瞬間や一号店のあった場所など、ブランドストーリーの詳細を顧客が完全に記憶する必要はありません。それらのストーリーを聞いた時の気持は記憶に残るからこそ、感情を揺さぶるブランドストーリーの作成が大切です。
国際感情心理学会の発表によると、ネガティブな感情はポジティブな感情よりも記憶に残りやすいといった研究もあります。つまり、失敗談や苦労話は消費者の心に残るストーリーとなります。良いことばかりではなく、トラブルなどをブランドストーリーに盛り込んでいく方が良いでしょう。
ブランドストーリーを展開するプラットフォーム選び
効果的なストーリー作成同様に、メッセージの伝達方法も大切です。ストーリーコンテンツを発信するプラットフォームもしっかり検討しましょう。
文章や動画を使って自社Webサイトに掲載したストーリーを、店舗ではどう伝えるか。これには柔軟な発想が求められます。ブランドの誕生秘話をウォールアートにしてくれるアーティストや、あなたのこれまでの道のりを紹介するループ動画を顧客に観てもらうといった方法も考えられるでしょう。また、ブランドストーリーを商品ラベルやパッケージで紹介する手法も有効です。
ストーリーが共有できるフォーマットをご紹介します。
- ブランドのWebサイト
- 実店舗
- 商品ラベル
- 小売および配送用パッケージ
- ソーシャルメディア
- メールおよび印刷版のニュースレター
- カタログ
- 動画
- プレス報道(印刷メディア、テレビ報道、ポッドキャストの特集)
他の人にもあなたのストーリーを語ってもらう
従業員や顧客は、接客や口コミであなたの代わりにブランドストーリーを語ってくれる心強いサポーターとなります。
従業員を採用したら、顧客にブランドストーリーを伝えられるように社員教育をしましょう。あなたのストーリーを採用ツールとして活用することもできます。面接では、採用候補者に自社ストーリーのどこに共鳴したのか、また、自社と価値観や想いを同じくしているのかを確認します。自社に共感してくれる従業員と共に、組織的にブランドストーリーを広めてください。
顧客はブランドの最大のファンです。自社ブランドや商品に関する個人的で効果的なストーリーをシェアしてもらえるよう促しましょう。ソーシャルメディアやオンラインレビューで共有される体験談など、ユーザー生成コンテンツを活用すれば説得力のあるマーケティングキャンペーンを展開することができます。
成功したブランドストーリー事例
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Shopifyを導入した企業や、Shopifyを活用してECサイトを構築したネットショップの成功事例は数多く存在しますが、実際のブランドストーリー事例を参考にすることで、さらなるヒントを得られます。ここでは、2つのShopify販売者の強力なブランドストーリーをご紹介します。
オリオンビール(食品・飲料系)
日本の大手ビールメーカー5社のひとつオリオンビールは、沖縄を代表するビールメーカーです。創業者は、沖縄の人々に愛されるビールを作ることを理念として掲げていました。そのため顧客の大半は、沖縄旅行の経験がある、もしくは沖縄の土産品をもらったことがあるなど、何らかの形で沖縄と「接点」がある人です。
オリオンビールのイメージは、沖縄の人と沖縄以外の人とでは大きく違います。沖縄の人にとってはおじいさんが飲んでいる古き良きビールというイメージ。
でも、東京の人にとってのオリオンビールは、沖縄の文化や観光、リゾート、海のイメージと紐付いています。県外の人に向けては、沖縄のことを知ってもらうためのラインナップを販売しています。
土屋鞄製造所(アパレル)
土屋鞄製造所は、1965年に職人によるランドセル製造からスタートした老舗ブランドで、長年にわたり高品質な革製品を手掛けています。といっても、大人向けの製品を提供するようになったのは、創業から35年後。小学校に通う6年間もの間、子どもたちの成長を支えるランドセルづくりで技術を培ってきたからこそ、「人とものと時間を大切にする」というコンセプトが生まれました。
使い込むほどに深まる革の魅力を大切にするため、職人の卓越した技術と丁寧な作業によって作られる製品は、細部にまでこだわり抜いて仕上げています。
まとめ
ブランドストーリーの重要性とその作り方についてご紹介しました。ブランドストーリーを作成する際には、人々の心を揺り動かすメッセージが重要となります。ブランド誕生の原点に立ち返って、伝えたい思いや熱意を探してみましょう。
魅力的なブランドストーリーから生まれる心理的なつながりは、顧客との間に信頼とロイヤリティを築き、競合との差別化を図る強力な手段です。それは初めて商品を買ってくれた顧客を、生涯にわたって利益をもたらす忠実なファンへと変える鍵となります。ブランドストーリー作りは、真剣に取り組むべき重要な課題と言えるでしょう。ブランドストーリーを理解したら、ぜひ実際に語り始めてみましょう。
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よくある質問
ブランドストーリーはどんなところで活用できますか?
ブランドストーリーの役割は、ターゲット顧客の共感を呼び、企業との感情的なつながりを生み出すことにあります。広告やソーシャルメディア、顧客とのコミュニケーションに至るまで、マーケティングやブランディングを行なう際のあらゆる基盤となっていきます。
ブランドストーリーの書き方は?
魅力的で興味を引くブランドストーリーを書くために、考慮するべきポイントをご紹介します。
- ブランドの独自性を明確にする:ブランドの特別でユニークな点は?ブランドの歴史は?行動や判断の基準となる最も大切な価値観は?
- わかりやすく人を惹きつける文体で書く:力強い動詞や能動的な表現を使って、読みやすく興味を引く文体にする。
- 発表前に必ず校正と編集を行う:ストーリーを公開する前に、他者の視点からどう見えるか、内容に誤りがないかを確認する。
ブランドストーリーには何を織り込めばいい?
通常、ブランドストーリーには、ブランドの起源、理念や目的、そして価値観が含まれます。
ブランドストーリーとはなんですか?
特定のブランドや製品にひもづく物語です。通常、ポジティブなイメージを伝えてブランドや製品を宣伝するために採用されます。
文:Non Osakabe