小売業者が活用するあらゆるチャネルや業務をひとまとめにし、業務の効率化だけでなく顧客満足度の向上にもつなげることができるユニファイドコマースについて、その意味や事例、利点、オムニチャネルとの違いなどを解説します。
ユニファイドコマースとは?

ユニファイドコマースとは、実店舗やECサイトなどのあらゆるチャネルや顧客情報をリアルタイムに統合し、一人一人に合わせた顧客体験を提供するシステムです。ユニファイドコマースのプラットフォームでは、複数の販売チャネルや在庫管理、注文フルフィルメント、マーケティングなどの各業務の垣根を取り払い、一元的に管理することができます。
ユニファイドコマースを活用することで、B2BとD2C、国内配送と海外配送といった、従来は別々に対応する必要のあった業務を統一することができます。さらに、各業務で得たデータを連携させることができるため、顧客情報と在庫状況を最適な形で把握することが可能となります。すべての業務をシームレスに管理できれば、データ活用の幅が広がり、注文処理や顧客ごとのサービス改善など、事業運営の円滑化につなげることができます。
今日の消費者は、オンラインストア、キャンペーンメール、実店舗でのサポート、SNS投稿など、複数のチャネルを通じて商品を検討し、購入に至ります。ユニファイドコマースでは、あらゆる接点(タッチポイント)において一貫したサービスを提供できるため、例えばオンラインで購入して実店舗で受け取る、あるいは実店舗で試してみてから自宅で決済するなど、ユーザーの多様な購買ニーズに柔軟に対応できます。
ユニファイドコマースの事例:トーキョーバイク

自転車ブランドのトーキョーバイクは、世界中に顧客を抱えているものの、需要のある地域に実店舗を構えたり取扱店を確保したりするのが難しく、頭を抱えていました。
試乗目的で遠方から店舗に訪れる顧客はいましたが、購入に至らなかった際は名刺や製品の仕様表、注文用紙が手渡されるだけで、その後の決済の手続きに不便が生じていました。また、店舗が自宅から離れていることが多いため、一度試乗したものの再訪につながらないケースが多く、売上機会の損失が問題となっていました。
そこで、トーキョーバイクはShopifyのPOSシステムを導入してオンラインストアと実店舗を一元化するユニファイドコマースを取り入れ、オンラインとオフラインのギャップの解消を図りました。
試乗のみで購入に至らなかった場合でも、ショッピングカートに入れた商品情報が保存され、顧客が帰宅後に自宅から再検討できるよう、メールが送られる仕組みを整えたのです。
店舗で購入を決め支払いだけ後日にしたいという要望にも、オンラインで決済を完了できる仕組みを整えることで応えられるようになり、売り上げの取りこぼしを効果的に減らせるようになりました。
このように、Shopifyを活用してユニファイドコマースを実現したことによって、トーキョーバイクは従来の店舗販売の枠を超えて、より柔軟で効率的な顧客対応体制を確立することに成功しました。
ユニファイドコマース vs オムニチャネルコマース

現代はウェブサイト、アプリ、SNS、さらにはポップアップイベントなど、あらゆる場所で販売が行われています。
こうした新しいチャネルの普及に伴い、各接点で一貫したブランドイメージや製品情報を提供するためにオムニチャネルマーケティングが活用されています。しかし、オムニチャネルコマースでは、ユーザーに見える部分の一貫性は実現できても、内部システムが連携されていないためにデータの不一致やエラーが生じやすく、チャネル間で柔軟に対応するのが難しいという課題があります。
一方、ユニファイドコマースでは、オムニチャネルの利点をさらに進化させ、販売チャネル、決済システム、ユーザーとの接点も一元管理することで、シームレスな顧客体験を実現できます。
ユーザーの購入履歴や決済情報を把握し、注文トラブルを迅速に解決できるほか、ユーザーの嗜好に合わせた商品提案を行うことができるため、よりパーソナライズした顧客体験を提供することができます。
ユニファイドコマースの6つのメリット

1. 柔軟なサービス提供
ユニファイドコマースに対応したプラットフォームを活用すれば、ショッピングカートへの商品追加、クーポンコードの利用、ユーザーの都合に合わせた受け取り方法など、柔軟なサービスを提供できます。
POSシステムの端末では、注文内容や配送状況をリアルタイムに確認できることも多く、顧客と店舗スタッフ両方に利点があります。例えばShopify POSでは、実店舗やオンラインストアの購入に対して追跡番号を発行し、顧客に最新情報を伝えることができます。
2. ユーザーとの接点を一元管理
ユニファイドコマースでは、カスタマージャーニーの各接点でのユーザー行動を一カ所で効率的に追跡でき、割引コード付きのメール送信や、近隣店舗での来店予約案内など、適切なフォローアップ施策を行うことができます。
例えば、Facebook広告のリンクからオンラインストアにアクセスしたユーザーが、アカウントを作成し、商品を閲覧してカートにいれたものの、最終的には購入に至らず、カゴ落ちしてしまう、というのはよくあるカスタマージャーニーです。この場合も、ユニファイドコマースで追跡することで、各タッチポイントで顧客に合わせたアプローチをすることが可能です。
3. パーソナライズされた顧客体験
消費者は、パーソナライズされた体験を求めています。ユニファイドコマースを活用することで、企業は蓄積されたデータを基に、各ユーザーに合わせたマーケティングやショッピング体験を提供できます。
例えば、特定の商品を頻繁に閲覧しているユーザーには、すぐに商品を閲覧できるようナビゲーションを表示したり、ユーザーのデータ分析をもとにタイムリーに商品のおすすめを行ったり、購買傾向に基づいてロイヤリティプログラムを微調整することもできます。
4. リアルタイムの製品情報
「在庫あり」と表示されているにもかかわらず、実際は欠品していたという状況は、サイトの信頼性を下げるだけでなく、収益にも悪影響を及ぼします。アメリカでは、2023年に在庫不足や過剰在庫により、推定1.7兆ドルの売上損失が生じたとされています(英語)。ユニファイドコマースでは、複数チャネルの価格や在庫情報の管理が容易になり、一貫性を保つことができます。ニーズに応じた在庫移動や再発注のタイミングを正確に把握することで、売上損失リスクを大幅に低減できます。
5. 柔軟な返品対応
オンラインストアと実店舗を連携させることで、購入後の顧客体験が格段に向上します。Shopify POSなどのシステムを利用すれば、購入したチャネルに関わらずどの店舗でも返品を受け付けられる柔軟な返品ポリシーを構築でき、顧客は手間なく返品手続きを進められます。こうしたスムーズな返品対応は、再購入意欲の向上やブランドへの信頼構築、ひいては顧客生涯価値(LTV)の向上につながります。
6. スタッフ管理の効率化
ユニファイドコマースに対応したプラットフォームは、従業員の雇用や研修を大幅に簡素化し、複数システムの切り替えに伴う負担を軽減します。従業員は1つのシステムを習得すればよいため、業務効率を向上させることができ、特にスタッフの入れ替わりが多い企業にとっては大きなメリットとなります。
また、ユニファイドコマースのシステムは在庫情報や顧客データが自動更新されるため、手作業の入力負担や人的ミスを減らすことができます。Shopify POSでは、従業員の情報管理、売上実績の追跡、さらには追加研修が必要な領域の特定が容易になり、最高の顧客サービスを提供できる体制を整えることができます。
まとめ
ユニファイドコマースは、複数の販売チャネルや関連する業務を一元化することのできるシステムで、顧客にはパーソナライズされた顧客体験を提供できます。
一つのプラットフォームからすべてのチャネルを管理し、データを活用することで、オンラインとオフラインの境界をなくして一人一人に合わせたシームレスな体験を提供できるのが利点です。また、分断されたデータや複数のシステムに煩わされることなく、業務に専念できる環境を作ることもできます。
ショッピング環境がますますマルチチャネル化する今、約60%の買い物は、購入前と購入後で異なるデバイスが用いられているという調査結果(英語)もあります。
すべての販売チャネルをまとめるプラットフォームを導入すべき時期は、まさに今です。ユニファイドコマースが、ビジネスに大きな成長と進化をもたらすでしょう。
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よくある質問
オムニチャネルとユニファイドコマースの違いは?
オムニチャネルとユニファイドコマースの違いは、顧客の捉え方とパーソナライゼーションの有無にあります。オムニチャネルでは顧客一人一人を分けて考えず、セグメントや各チャネルでの行動をベースにアプローチしますが、ユニファイドコマースでは顧客一人一人を個別に捉え、パーソナライズしたアプローチを行います。
ユニファイドコマースとOMOの違いは?
ユニファイドコマースとOMO(Online Merges with Offline)の違いは、ユニファイドコマースがオンラインとオフラインを融合し顧客体験の向上を目指すのに対し、OMOはオンラインとオフラインを融合して顧客の利便性を高め、売り上げにつなげることを主な目的としています。
ユニファイドコマースの導入による主なメリットは?
- 柔軟なサービスの提供:顧客はオンラインで商品を選び、店舗受け取りを選択するなど、ライフスタイルに合わせた購入が可能となります。
- ユーザーの行動追跡が容易に:広告からのアクセスやカゴ落ちなどの行動を把握し、個々に合わせたプロモーションや情報提供が可能になります。
- リアルタイムでの在庫管理や価格統一:複数チャネルの在庫や価格をリアルタイムに管理・更新することができ、一貫性のあるサービスを提供できます。
- スタッフ管理の効率化:複数のシステムを統合でき、研修やアカウント管理など業務の効率が大幅に向上します。
ユニファイドコマースを成功に導くツールは?
ユニファイドコマースを成功に導くツールは、単に販売チャネルを統合するだけでなく、バックオフィス業務のシステムもカバーできるものです。例えば、ShopifyのPOSシステムは、在庫や注文、顧客データも一元管理し、業務効率を向上させることが可能です。また、顧客行動の追跡や解析により、顧客に合わせた提案やマーケティング戦略の最適化が可能となります。
文:Yoshiaki S. Ikeda