さまざまなマーケティングチャネルがある現代ではオムニチャネルマーケティングが浸透しつつあり、顧客はECサイトで購入した商品を実店舗で受け取ったり、実店舗で商品をチェックしてからECサイトで購入したりと、オンラインとオフラインの垣根を越えさまざまなチャネル(経路)を組み合わせて商品を検討・購入できることを期待しています。
しかし、どのようにオムニチャネルを活用したらよいのかわからない、そもそもオムニチャネルとは何かよくわかっていない、という事業者は多いのではないでしょうか。
この記事では、オムニチャネルとは何かを簡単に説明するとともに、オムニチャネル戦略の立て方や成功事例、Shopifyでストアをオムニチャネル化する際に役立つアプリなどを紹介します。
オムニチャネル戦略を取り入れて顧客体験を向上させたい事業者は、ぜひ参考にしてください。
オムニチャネルとは?
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オムニチャネル(OmniChannel)とは、実店舗、ECサイト、SNS、アプリ、カタログなど顧客と企業を結ぶあらゆる経路(チャネル)で一貫した購買体験を提供し、顧客満足度を高めて購買へとつなげるマーケティング手法です。
「オムニ」はラテン語で「あらゆる」という意味を持ち、オムニチャネルではオンライン・オフラインを問わずあらゆるルートを駆使して顧客にアプローチします。顧客の購買プロセスのさまざまな段階で各チャネルを最適に組み合わせてアプローチする、顧客起点の戦略です。
シングルチャネル、マルチチャネル、オムニチャネルの違い
シングルチャネル、マルチチャネル、オムニチャネルの違いは、チャネルが単数か複数か、チャネル間に連携があるかどうかにあります。
- シングルチャネル:実店舗など1つのチャネルを通じて商品やサービスを販売
- マルチチャネル:実店舗やECサイト、マーケットプレイスなど複数のチャネルを展開するが、各チャネルの連携はなし
- オムニチャネル:実店舗やECサイト、マーケットプレイス、モバイルアプリ、カタログなど、あらゆるチャネルを連携させてシームレスなショッピグ体験を提供
オムニチャネルを活用した販売戦略
オムニチャネルを活用した販売戦略では、デジタルマーケティング戦略を含め、ECサイトと実店舗の在庫の同期、ネット購入した商品の実店舗での受け取り、モバイルアプリを活用した実店舗での体験の提供など、顧客と企業を結ぶあらゆるチャネルを連携させ、一貫した顧客体験を提供します。
自分のビジネスがオムニチャネル化できているかどうかは、以下の項目でチェックすることができます。
- 顧客は実店舗で商品を探して専用アプリでスキャンし、後に異なるサイズのものを自宅から購入できるか
- 顧客はECサイトで見つけた商品の使用例を、そのブランドのPinterest(ピンタレスト)やInstagram(インスタグラム)アカウントなどで確認し、実店舗で使えるクーポンを入手できるか
- 顧客が実店舗で購入した商品に類似した商品がECサイトまたは実店舗で発売された際に、購入履歴に基づいてその旨が顧客にFacebookのメッセンジャーなどで通知されるか
- 顧客はAmazon(アマゾン)などのマーケットプレイスであなたの会社の商品を検索してから実店舗で購入することができるか
- 押しつけがましくなく、価値を実感してもらえるパーソナライズされた体験を顧客に提供できているか
オムニチャネル販売戦略の流れ
顧客が商品を探し購入するまでの各段階やその後のサポートまで、オムニチャネル戦略でどのようなアプローチができるかみていきましょう。
商品の検索
オムニチャネルでのカスタマージャーニーは通常、商品の検索から始まります。顧客は企業のウェブサイトやECサイト、オンラインマーケットプレイス、実店舗、SNSなどさまざまなチャネルで商品を詳細に調べ、価格を比較します。
商品リサーチの段階ではパーソナライゼーションが重要な役割を果たします。企業は統合された各チャネルの顧客データを駆使して、ターゲットを絞ったマーケティングを展開することができます。
例えば、靴を探して実店舗で何足か試し履きし、その後オンラインで価格を比較する顧客に、全チャネルでの購買履歴や閲覧履歴に基づいてお勧めの靴を表示するというのがこれに当たります。
購入
購入したい商品が決まると購入の段階に移ります。オムニチャネルでは、実店舗に在庫のある商品の決済をアプリ上で行えるようにする、SMSでクーポンを発行して実店舗で利用できるようにするなど、顧客にとって利便性の高い購入経路を提供します。
注文処理
顧客が購入手続きを終えて注文確認を受け取った時点でフルフィルメント(注文処理)に移行します。
企業は購入した商品が顧客のもとに届くまでの間、メールやSMSでの通知、または自動追跡システムを通じて、商品がどこにあるのか最新情報を提供します。あるいは、オンラインで注文して実店舗で受け取ることができるようにするのもオムニチャネル戦略の一つです。
注文が複数のプラットフォームから入るオムニチャネルでは、商品の発送を効率的かつ円滑に行うために、3PLのような物流業者と提携することも重要となります。自社の受注管理システムと物流業者のシステムを連携させることで正確かつ迅速な配送が可能となります。
購入後
顧客は購入後に商品そのものやブランドとの一連のやり取りが満足するものだったかどうかを判断します。これは開封体験だけに限らず、商品のライフサイクル全体を通じた商品の質やブランドとの関わりも評価対象となります。
そのため、企業は商品を届けた後も、アフターサービスや有益なコンテンツを提供する必要があります。
例えば、靴を購入した顧客に後日メールで商品の手入れ方法を案内し、季節が変わる頃に次のシーズンの靴購入に使えるクーポンを発行したり、さまざまなチャネルを通じて閲覧履歴や購入履歴からパーソナライズされたお勧めの商品を案内したりします。
また、顧客からのフィードバックやレビューも重要なタッチポイント(接点)となるため、複数のチャネルからカスタマーサービスにアクセスできるようにすることが大切です。返品も、購入時と同じようにどのチャネルからでもシームレスにできるようにしましょう。
例えば、ECサイトで購入した商品の実店舗での返品、提携している配送業者による返品の回収、コンビニなど顧客が利用しやすい場所でのQRコードを活用した返品などがあります。
オムニチャネル販売戦略でのファーストパーティデータの活用
商品検索からアフターサービスまでの一連のプロセスで、その都度顧客にパーソナライズされた体験を提供するには、ファーストパーティデータ(企業が自社で収集・保有している顧客データ)の活用が大切です。あらゆるタッチポイントで顧客のデータを収集し、それらを統合して顧客の全体像を把握することで、オムニチャネルのアプローチがより効果的なものになります。
ファーストパーティデータを活用することで得られるメリットには以下のようなものがあります。
- あらゆるチャネルでのパーソナライゼーションができる:ファーストパーティデータがあれば、ECサイトや実店舗、メールマーケティング、SNSなど、顧客に最適なアプローチができます。
- プライバシー規制に影響されにくい:サードパーティデータを集めるのに利用されているクッキーを規制する動きが強まる中でも、顧客が共有を許可した情報であるファーストパーティデータは自社の販売戦略に継続して使用できる可能性が高いです。
- シームレスなショッピング体験が提供できる:ECサイト、実店舗、モバイルアプリなどチャネルを問わず、一貫性を期待する顧客にシームレスな購買体験を提供できます。
- 効率的に顧客を獲得できる:Shopify Audiencesなど、ファーストパーティデータを活用したツールを使用することで顧客獲得にかかるコストを大幅に削減できます。
ファーストパーティデータを使うことで、カスタマージャーニー全体を通じて一貫性のあるパーソナライズされた体験を提供することができます。
オムニチャネルの成功事例
ユニクロ
ユニクロでは、ネットで注文したものを実店舗で受け取ったり、ネットで購入して自宅まで配送してもらったものを実店舗で返品したりすることができます。ECサイトと実店舗をシームレスに連携させることで、満足度の高いサービスを顧客に提供しています。
また、InstagramのライブコマースなどSNSでの情報発信や、店頭商品をスキャンして詳細をオンラインで確認できる専用アプリ、来店や購入につながるアプリでのクーポン配布なども行い、顧客とのタッチポイントを複数活用して売り上げの促進やロイヤリティの獲得につなげています。
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イオングループ
イオングループではECサイトで注文したものを自宅近くの実店舗で受け取るのはもちろん、実店舗に設置されているタブレット端末から店舗で取り扱っていない商品を取り寄せることもできます。
また、専用アプリで商品をスキャンしながら買い物できるシステムや、売り場にある食材のポップにスマホのカメラを向けるとレシピが表示されるシステムなども導入し、顧客の利便性を高めさらなる購入につなげています。
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オムニチャネル戦略のメリット
オムニチャネル戦略を取り入れることの主なメリットは以下の通りです。
- 在庫管理が容易になる:全チャネルの情報がつながるため、在庫状況を正確に把握でき、どのチャネルからの注文にも対応できるようになります。
- 競争力が高まる:調査会社ESWの2023年11月の調べによると、米国の成人の約23%が商品についてネットで調べてから実店舗で購入すると回答しています。オムニチャネル戦略を取り入れることで、あらゆるタッチポイントでパーソナライズされたアプローチをすることができるため、競合他社よりも効果的に消費者にリーチできます。
- 顧客体験を向上できる:顧客はさまざまなチャネルでブランドと関わることを求めています。オムニチャネル戦略を取ると、顧客は複数のチャネルで一貫したサービスを受けることができるため、顧客エンゲージメントと満足度が向上します。
- 顧客への理解が深まる:ファーストパーティデータを収集して分析することで、顧客の好みや行動に関する深い洞察が得られ、ターゲットをさらに絞った効果的なマーケティングを展開することができます。
- 売り上げが増加する:オムニチャネル戦略を取る企業は複数のチャネルを利用することで多くの顧客にリーチすることができます。その結果、売り上げを伸ばし、顧客生涯価値(CLV)の向上につながります。
- カスタマージャーニーのパーソナライズができる:オムニチャネル戦略では顧客データの収集と、顧客を共通の特性に基づいてグループに分けるセグメンテーションが容易になり、よりパーソナライズされたショッピング体験を提供することができます。
- 統一されたブランド体験が創出できる:オムニチャネルを活用することで、すべてのチャネルで一貫したブランド体験を創出することが容易になり、信頼と顧客ロイヤリティが構築できます。
オムニチャネル販売戦略のコツ
オムニチャネル戦略のコツを、Shopifyでできることと共に解説します。
1. 顧客とのタッチポイントを探る
完璧なオムニチャネル販売戦略を構築する第一歩は、顧客がどんなプラットフォームやメディア、デバイスを日常的に利用しているかを把握することです。顧客が好むショッピング場所や日常生活に影響を与える体験なども探りましょう。
ShopifyとIDC(インターナショナル・データ・コーポレーション)の最近のレポートでは、小売業者の74%が顧客の好みや行動をより深く理解することを優先していることが示されています。競合他社に後れを取らないよう、しっかりと顧客の傾向を調べましょう。
Shopifyでできること
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顧客の全体像の把握
顧客の全体像を把握するにはShopifyが便利です。Shopifyではあらゆる販売チャネルを統合できるため、各チャネルから得られる閲覧や購入、注文に関するデータを統合して分析し、顧客が最も頻繁に利用するプラットフォームやタッチポイントを特定することができます。 -
顧客の行動分析
チャネル全体にわたる顧客の行動を評価するには、Shopifyストア分析などのツールが有効です。情報が集約されたダッシュボードでは顧客の獲得や行動、マーケティングのパフォーマンスに関する重要な洞察が得られるため、顧客が最も利用しているチャネルを特定するのに役立ちます。
2. あらゆるタッチポイントで購入できるようにする
オムニチャネル戦略を設計する上で重要なことの一つは、あらゆるタッチポイントで購入できるようにして、販売の機会を広げることです。
例えば、顧客がECサイトで商品をカートに追加した場合、顧客の携帯電話のモバイルアプリでもカートにその商品が入っているようにします。顧客がFacebookやInstagramといったSNSを利用するときには、閲覧履歴に基づいてお勧めの商品が表示されるようにします。
顧客情報を一元化することで、すべてのタッチポイントで顧客情報が共有されるため、あらゆるチャネルを販売の機会にすることができます。このアプローチは販売促進につながるだけでなく、気の利く販売員が要望などにきめ細かく対応してくれるような感覚を顧客に覚えさせ、顧客体験を向上させます。
Shopifyでできること
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SNSとショップの同期
ShopifyではSNSとショップを同期させることができるため、顧客はSNSアプリを離れることなく商品を購入することができます。 -
チェックアウトのパーソナライズ
Shopifyの精算システムはファーストパーティデータをリアルタイムで収集・使用するため、顧客の購買習慣に基づいてお得な情報やワンランク上の商品の提案、ロイヤリティプログラムをカスタマイズすることができます。
3. オンラインとオフラインを連携させる
オンラインとオフラインの両方で販売する場合、この2つのチャネルをつなげることが重要です。消費者は、ECサイトと実店舗の違いを意識せず利用できるような利便性の高い購買体験を求めています。
オンラインとオフラインを結びつける例として、多くの小売業者が展開するモバイルアプリが挙げられます。オムニチャネル戦略におけるモバイルアプリでは、実店舗で買い物をする際に、アプリを使って店舗の在庫状況を確認したり特別割引をチェックしたりして、オンラインと実店舗をつなげて利用することができます。ユーザーが商品をバーチャルで試し、カートに追加して実店舗で商品を受け取ることができるアプリもあります。
オンラインとオフラインを連携させることで、顧客は複数のシステムが連結されているタッチポイントを経由しながら、商品の検索、購入、店舗での受け取りまでを済ませることができます。
Shopifyでできること
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顧客情報やバックエンド業務などの一元管理
オンラインとオフラインをシームレスに連携させるには、顧客とのやり取りや在庫データ、取引情報などの一元化が欠かせません。Shopifyでは顧客情報からバックエンドの業務や物流に至るまですべてが一カ所に集約されているため、高度なオムニチャネル体験の提供が可能になります。 -
実店舗とオンラインストアのデータの同期
Shopify POSを使用すると、店頭での売り上げデータや在庫状況などとオンラインストアのデータを同期することができます。 -
Googleショッピングとの連携
幅広いターゲットにリーチできるGoogleショッピングで必要となる商品フィードの作成を簡単に行えます。ShopifyではGoogleチャネルを設定することでショップの商品がGoogleショッピングタブに同期されるため、潜在顧客に商品を見つけてもらいやすくなります。
成功するオムニチャネル戦略は、特定のチャネルでの販売に焦点を当てるのではなく、どのチャネルでも顧客のエンゲージメントやコンバージョンを獲得できるようにしています。
そして、プラットフォーム同士が完全に同期している状態で、各プラットフォームで売り上げが自然に発生するようにできるとよいでしょう。
Eコマース事業向けのオムニチャネルに便利なアプリ
Shopifyでオムニチャネル戦略を始める際に便利なアプリを紹介します。
- easyPoints:POS拡張機能を使い、ECサイトと実店舗でポイントシステムを統合できる
- Omni Hub:スマレジやSquareなどのPOSサービスとShopifyの間で会員情報を連携できる。Shopify Basicプランから利用可能
- Growave:マーケティングやロイヤリティプログラム、Shopify POSとの統合が可能
まとめ
今日では当たり前になっているオムニチャネルは、オンラインとオフラインの両方で商品を探したり購入したりする消費者にとってはとても利便性が高く、企業にとっては顧客とのタッチポイントが増えるため販売の機会が広がる魅力的なマーケティング手法です。オムニチャネル戦略を取り入れず、チャネルを1つまたは2つに限定してシームレスな統合もしなければ、顧客の満足度が上がらずに長期的な成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
しかし、やみくもにチャネルを増やし連携させればよいのではなく、ターゲットとなる顧客が利用するチャネルを理解し、パーソナライズされた顧客体験を提供する必要があります。
この記事を参考に、効果的なチャネルを探したり、各チャネルを結びつける方法を模索したりして顧客体験の向上につなげましょう。
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よくある質問
オムニチャネルとマルチチャネルの違いは?
オムニチャネルではすべてのチャネルが連携し、一貫性のあるシームレスな体験を提供するのに対し、マルチチャネルは各チャネルが独立して機能するため、チャネルごとに異なる体験が提供されます。
オムニチャネルとクロスチャネルの違いは?
オムニチャネルとクロスチャネルの違いは、オムニチャネルがあらゆるチャネルを統合させてシームレスで統一感のあるサービスを顧客に提供する、顧客起点の手法であるのに対し、クロスチャネルは複数チャネルを連携させ情報を一元化することで最適な販売を展開することを目指す、売り手起点の手法であることです。
オムニチャネルはクロスチャネルをさらに発展させた形であり、顧客が商品やサービスを購入する前段階でも顧客の利便性を高めることができます。
オムニチャネルとOMOの違いは?
オムニチャネルとOMO(Online Merges with Offlineの略)の違いは、オムニチャネルがオンラインとオフラインを区別した上でシームレスに連携させるのに対し、OMOはオンラインとオフラインを区別せず融合させる点にあります。
オムニチャネルを導入するメリットは?
オムニチャネルを導入するメリットは、パーソナライズされた一貫性のあるアプローチができるため競争力が高まり、売り上げにつながりやすくなることです。また、顧客が好きなチャネルから自分のタイミングで商品を購入できるようになるため、顧客満足度が上がるほか、販売の機会損失を減らすこともできます。
オムニチャネルのデメリットは?
オムニチャネルのデメリットは、各チャネルが顧客に認識され、利用されるようになるまでに時間がかかることです。
文:Nariko Mizoguchi