在庫管理とは、注文・保管・生産・販売・補充のサイクルを回して、商品の流れを管理するプロセスを指します。特にEC事業においては、在庫管理は収益性を向上させるための大きな要素を占めています。
在庫管理の目的は、在庫レベルを適切に保ちながら、保管コストを最小限に抑えて、商品をより迅速に顧客の元に届けることです。需要に対して在庫が過剰になると、販売率が低下するだけでなく、保管のためのコストも増加し、キャッシュフローが逼迫します。反対に在庫が不足してしまうと販売機会の損失となり、欠品が発生すれば、顧客満足度を低下させてしまう可能性があります。
この記事では在庫管理の概念を解説しつつ、おすすめの在庫管理方法や、在庫管理のコツなどを紹介します。
在庫管理とは

在庫管理とは、商品の流れを管理するプロセスです。具体的には、商品の動きを追って、どの商品が売れているかなど、回転率を把握します。そして、最適なタイミングで在庫を補充して、商品がそろっている状態を維持し、注文フルフィルメントを迅速に完結させることです。
在庫管理を適切に行うことができれば、商品の補充や製造に必要な材料の調達を的確に判断できるようになり、在庫の保管コストを最小限に抑えられます。
在庫管理の方法

在庫管理の方法には主に次の3種類があります。
- 継続在庫管理:リアルタイムで在庫を継続的にアップデートします。永久在庫管理システムとも呼ばれます。マルチチャネル戦略などにも有効です。
- 定期在庫管理:特定の期間で区切り、開始時と終了時に在庫数をカウントするシステムです。
- 手動在庫管理: 手動で在庫数を記入していく方法です。月間の販売数が一桁程度の小規模な事業では、現実的な選択肢になりえます。棚カード(棚札)と呼ばれる入出庫記録に、紙とペンで記録していくという方法もあります。エクセルやスプレッドシートでは、在庫管理用の表のテンプレートなどもあります。
現在、在庫管理システムのほとんどはデジタル化され、クラウド上で管理されています。複数のユーザーが、それぞれのデバイスから確認し、商品の動きや在庫の状況を共有し、アップデートできるからです。
在庫管理システムを活用することで、在庫管理に関わるすべての要素を監視し、整理することができます。他の業務システムとデータを同期することも可能です。
在庫管理の目的

廃棄を防ぐ
在庫管理によって、不要な廃棄を防ぐことができます。特に消費期限、賞味期限のある商品を取り扱っている場合、販売できる期間は限られています。在庫を把握し、そもそもの廃棄の発生を抑制できれば、余分に生産する必要がなくなります。これにより、コスト削減と、持続可能なビジネスの実現につなげることができます。
デッドストックを出さない
賞味期限が切れたわけではなくても、季節が終わったり、流行が過ぎたりして売れ残ってしまい、販売が難しくなった在庫をデッドストック(不動在庫、死蔵在庫)と呼びます。効果的な在庫管理戦略を駆使できれば、デッドストックを減らすことができます。
保管費用の削減
適切な在庫管理により、保管費用を削減することができます。一度に大量の商品を保管する場所が必要になったり、売れにくい商品が残って長期間動かなくなったりすると、広い面積の倉庫が必要になり、保管費用が増大します。在庫を最適な量に保つことで、無駄な保管費用を抑えることができます。
キャッシュフローの改善
在庫管理を行うことで、販売できる商品の数と仕入れるべき商品の数を把握できるので、キャッシュフローの改善につながります。これは、売り上げの見込みと、仕入れに必要な経費を理解することでもあり、事業の運転資金に関わる重要な要素です。適切な在庫管理を行うことで、キャッシュフローをより健全に保つことができます。
配送の最適化
在庫管理は注文処理にもプラスの影響をもたらし、配送の最適化に寄与します。たとえば、複数の配送拠点がある場合、各拠点に適切な数の在庫を配置しておくことで、配送時間を短縮し、物流コストを抑えることが可能になります。
在庫管理の12のポイント

1. 需要の予測
在庫管理は、いかに正確に需要を予測できるかにかかっています。次の点に注目して、いつ何がどのくらい売れそうか予測をたてましょう。
- 前年の同時期の売り上げ
- 契約やサブスクリプションによって確定している売り上げ
- 季節の影響
- プロモーションの予定
2. 在庫の把握
在庫を定期的に数え直し、必要に応じて数を調整することが不可欠です。在庫管理ソフトや、倉庫管理システムのレポートを通じて、在庫の数をリアルタイムに把握しておくことが、在庫の回転率を上げることにつながります。
またリアルタイムに確認するだけでなく、定期的に在庫の数を数えて、実際の数とデータの間に差がないことを確認することも重要です。確実な方法は、実際に棚卸しをすることです。在庫数と財務記録を照らし合わせて、データにズレがないかどうかを確認しましょう。ズレがある場合は、その原因を突き止めて、改善策を講じることが必要です。
3. 商品の販売順
商品を販売する順番も重要になります。販売順の決め方には次の2つの方法がありますが、現在は先入れ先出しが主流です。EC事業においても、先入れ先出しをおすすめします。
- 先入れ先出し(First In First Out = FIFO): 先に仕入れたものを優先的に販売する方法です。商品が保管場所に滞留して、品質が劣化するのを防ぎ、在庫の廃棄を最低限に抑えることができます。消費期限のある商品では特に重要です。古いものから出さねばならないため、入荷のタイミング別に商品を分類し、倉庫や棚での在庫の並び方を整頓するなど、ルールの徹底が求められます。在庫の回転率が非常に高い場合には、先入れ先出しが不要なこともあります。
- 後入れ先出し(Last In First Out = LIFO): 後から仕入れた商品を優先的に販売する方法です。「先入れ後出し」とも呼ばれます。入庫した商品を保管スペースに移動させることなく、そのまま出荷作業に入ることができるので、作業スペースの節約につながります。
4. RFIDタグの利用
RFIDタグは、電磁波を用いて電子タグの情報を非接触で読み書きする技術です。入荷した商品にRFIDタグをつけておくと、後でRFIDリーダーを使用して、タグを無線で読み取ることができます。いちいち箱をあけなくても商品の読み取りができたり、探している商品を探索できたり、手の届かない棚の上などに保管しておいた商品を読み取れたりと、非常に便利で在庫管理を効率化できます。
RFIDタグを利用するにあたっては、システムの導入にコストがかかりますが、高額で個別管理が必要な商品を扱っている場合は、導入を検討するのもいいでしょう。
5. バーコード管理
小売業では、バーコードスキャンシステムを利用して在庫を管理することが一般的です。バーコードをスキャンすることで、商品ごとの在庫情報を在庫管理システムに送信し、各商品の動きをリアルタイムに把握できます。
バーコード管理を導入すると、店舗に入荷した瞬間から販売されるまでの流れを自動で追跡できるため、正確な在庫データを取得しやすくなります。
6. ABC分析
在庫を3つのカテゴリに分類する、ABC分析を活用してみましょう。
- Aカテゴリ:収益の80%を占める主要商品
- Bカテゴリ:収益の15%を占める商品
- Cカテゴリ:収益の5%を占める低回転商品
Aカテゴリの商品は売上への影響が大きいため、在庫を切らさないように注意が必要です。一方で、Cカテゴリの在庫は動きが遅いため、値下げ販売などを検討しましょう。
7. 在庫評価
在庫は多くのビジネスにとって最大の資産となります。そのため、会計期間の終わりに、未販売の在庫の価値を計算する在庫評価を行います。
在庫の価値によって、売上原価、純利益、期末在庫の金額が変動するので、在庫評価は最終的な利益や課税額にも影響します。現在日本で使用できる評価方法は、大きくわけて低価法と原価法の2種類があり、さらに原価法には6種類の計算方法があります。
低価法
- 仕入れ時点の原価と、計算する時点での原価を比較して、いずれかの安い方を採用します。
原価法
- 最終仕入原価法:期末に最も近い日に取得した仕入れ単価を基準に計算します。
- 個別法:それぞれの商品を仕入れたタイミングの価格で計算します。不動産、車、宝石、アートなど、特定の商品に適用される場合が多いです。
- 先入れ先出し法(FIFO) : 商品や資産は、仕入れた順に売れていくという仮定の元に計算します。
- 総平均法:決算時に平均単価を計算します。
- 移動平均法(WAC):商品を仕入れるたびに、その時点の在庫と仕入れから在庫の平均単価を計算します。電子部品、化学薬品、金属材料など価格変動の大きい商品に適しています。
- 売価還元法:販売価格の合計に原価率を掛けます。 正確性がやや低く、価格変動に影響されやすいですが、計算が簡単です。
評価方法によって税金の額が変わるので、あなたの事業にあった評価方法を選びましょう。
8. 最低発注数量の理解
仕入れ先から一度に購入しなければならない最小の数量を考慮しましょう。多くの仕入先は、利益の出ない小口注文を避けるために、最低発注数量(MOQ)を設定しています。MOQが大きすぎると初期費用がかさみ、売れ残りによる在庫リスクやキャッシュフローの圧迫につながります。一方で、MOQが小さすぎると頻繁な発注が必要になり、在庫切れのリスクが高まるため、安定供給を意識した仕入れが大切です。
また、大量仕入れでは単価を抑えられるメリットがあるものの、売れなければ利益につながらないため、少量発注でも採算が取れるかを事前に計算することが重要です。
9. 安全在庫の確保
安全在庫は、常に確保すべき最小限の在庫量を指します。在庫がこの基準を下回ると、新たに発注する必要があります。
安全在庫の基準は、以下の要因によって変わります。
- 商品の種類
- 顧客の需要
- 補充にかかる時間
10. 仕入先との関係構築
仕入れ先としっかり連絡をとり、強い関係を築いておくと、予期せぬ問題が発生した際にも柔軟に対応できます。例えば、売上が増加すると予想される場合や、大量の発注を予定している場合は、仕入れ先に事前に伝えておくと、スケジュールを組み、注文してから商品が届くまでのリードタイムの調整をスムーズに行ってもらえます。仕入先のパフォーマンスを定期的に評価し、改善の余地がある場合や、契約を見直すべきタイミングを把握することも大切です。
11. ジャストインタイム
在庫を最小限に保ち、在庫がなくなる直前に補充する、ジャストインタイム(JIT)という方法で管理するのが効果的な場合もあります。JITはトヨタ自動車が開発した生産管理のシステムで、必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給し、ムダ・ムラ・ムリをなくすという考え方が元になっています。
急成長しているブランドや、新商品を定期的に発売する企業にとって有効な戦略です。
12. フルフィルメントサービスの活用
フルフィルメントサービスを利用して、外部業者の物流倉庫にて出荷業務を代行してもらうという方法もあります。
Shopify Fulfillment Networkは、日本では2025年3月時点で未対応ですが、Shopifyとオープンロジが提携したShopify物流代行サービスがあります。フルフィルメントサービスをうまく活用して、注文処理、返品受付、在庫管理などを一括で代行してもらいましょう。
マルチチャネルの在庫管理

EC事業において、マルチチャネル販売が一般的になってきている今、在庫管理もマルチチャネルに対応させていく必要があります。しかし、マルチチャネルの在庫管理は、手動で行うと非常に複雑です。在庫がどこにいくつあるか、リアルタイムで見える化してくれるシステムを使用するのがおすすめです。
例えば、Shopify POSでは、実店舗とオンラインの在庫データを同期でき、各拠点の在庫を最適な状態に保つことが可能です。編み物専門のオンラインマガジンを発行し、国内外の毛糸や手芸雑貨の販売を行うamirisu(アミリス)は、Shopify POSを導入して、POSシステムとECシステムを一元化し、実店舗とECサイトの売上情報、在庫状況を一元管理しました。実店舗が東京店と京都店の2店舗になってからは、在庫管理の機能をさらに強化するため、オンライン在庫管理用の連携アプリも追加して、円滑な運営を実現しています。
在庫管理システム

在庫管理のミスを最小限に抑えるには、在庫管理システムの活用が欠かせません。
在庫管理システムには、以下の3つがあります。
- クラウド型:ネットワーク上のサーバーに設置されたシステムに、利用者がインターネットを介してアクセスする
- オンプレミス型:システムを自社サーバー内に設置し、自社で運用・管理する
- パッケージ型:専用のソフトウェアを購入しパソコンにインストールして使用する
初期費用が低く、導入しやすいのはクラウド型のシステムです。店舗や倉庫の在庫状況を一括管理して、リアルタイムに確認できます。また、システムがアプリを提供していればスマートフォンやタブレットからも簡単にアクセスができます。多くの在庫管理アプリには、在庫の数量や保管場所の管理、在庫レベルのアラート、注文の追跡機能が備わっています。
Shopifyで利用できる人気の在庫管理アプリ
- Stocky:Shopify POSと連携して使用できるShopifyの公式の在庫管理アプリです(2025年3月時点、日本語未対応)。
- ロジクラ:iPhoneで検品作業ができます。検品の作業結果はAPIでリアルタイムに自動でShopifyに連携可能です。
- はぴロジ:セット品などの設定も可能です。フルフィルメントサービスも提供しています。
- DCX:D2Cビジネスを主とする企業に特化した管理アプリです。
- まとまるEC店長:商品登録、在庫管理、受注管理がまとめて管理できます。
- Retail Barcode Labels:商品のバーコードラベルを作成して印刷できるアプリです。
Shopifyでの在庫管理

Shopifyには、在庫管理の機能が標準で搭載されています。Shopifyの管理画面の「在庫」ページから、在庫の追跡設定、在庫の確認、在庫レベルの調整を簡単に行うことができます。リアルタイムでの在庫追跡も可能です。
さらに、Shopifyでは、月末時点での在庫状況を示す「在庫レポート」も提供しています。在庫データでは以下のようなさまざまな在庫データを確認できます。
- 月末の在庫スナップショット:商品ごとの月末の在庫数
- 1日あたりの平均販売在庫:商品ごとの1日に販売した平均数や販売総数
- 商品別のABC分析:各商品が過去28日間に出した収益の割合に基づき、収益の80%を占めるAクラス、15%のBクラス、5%のCクラスに分類して表示
- 商品販売率:特定期間内に販売された在庫総数の割合
- 在庫残存日数:現在の在庫がどれくらいもつかを予測した日数
在庫レポートを活用することで、販売データに基づいた適切な補充計画を立てることが可能です。
在庫レポートの確認方法
- Shopifyの管理画面にログイン
- [ストア分析] > [レポート] に移動
- [カテゴリー] をクリック
- [在庫] を選択し、在庫関連のレポートを表示
まとめ
在庫管理は、EC事業の成功に欠かせない重要なプロセスです。適切な在庫管理は、過剰在庫や欠品を防ぎ、保管コストの削減、キャッシュフローの改善、配送の最適化につながります。管理の方法には、継続在庫管理、定期在庫管理、手動管理があり、現在では多くの企業がクラウド型の在庫管理システムを活用しています。どの管理方法を採用していても、具体的な管理ポイントを押さえることが重要です。
Shopifyを利用している場合は、リアルタイムの在庫追跡や在庫レポートを活用して、より効率的な管理を実現できます。マルチチャネルでの販売が一般的になった今、POSシステムや在庫管理アプリを活用して、実店舗とオンラインの在庫を一元管理することも求められています。在庫管理を最適化し、事業を成長させていきましょう。
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よくある質問
在庫管理とは?
在庫管理とは、商品の流れを管理するプロセスです。具体的には、商品の動きを追い、どの商品が売れているかなど、回転率を把握します。そして、最適なタイミングで在庫を補充して、商品がそろっている状態を維持することです。
在庫管理をはじめるには?
- 在庫管理システムを決定し、導入する
- 現在の在庫データを入力する
- 結果を分析する
在庫管理の主な目的は?
- 廃棄を防ぐ
- デッドストックを出さない
- 保管費用の削減
- キャッシュフローの改善
- 配送の最適化
在庫管理の手順とは?
- 需要予測:将来の需要を予測し、適切な在庫レベルを設定する。
- 補充:適切なタイミングで商品を補充する。
- 注文処理:スムーズな注文処理を行い、注文の履行を効率化する。
- 保管と整理:倉庫を効率的に管理し、在庫の取り扱いを最適化する。
- レポートと分析:データを活用して、在庫管理の改善策を見つける。
在庫管理の具体例は?
在庫管理の具体例としては、小売店がバーコードスキャンシステムを導入して、在庫の状況をリアルタイムに把握することが挙げられます。システムを利用することで、需要の予測や販売データの分析ができるため、最適な在庫数を決定でき、自動補充システムを活用して、在庫が一定のレベルを下回ると自動で発注をすることも可能になります。
文:Taeko Adachi