カスタマージャーニーマップはECサイトにおける顧客の行動や心理を理解し、サービスを改善するのに役立つツールです。この記事ではその目的や作り方をテンプレートや例と共に紹介します。
カスタマージャーニーマップとは?
「カスタマージャーニー」とは、顧客が気になる商品やブランドを見つけ、ウェブサイトにアクセスし、商品の購入を決めて取引を完了しサポートを受けるなどの目的に到達するまでに辿る過程を「旅(=ジャーニー)」に例えたものです。このような過程をマップ(=地図)という形で可視化し、顧客の行動と満足度をより深く理解できるようにしたものが「カスタマージャーニーマップ」です。
購入後の製品サポートやカスタマーサービスの利用状況をマッピングする場合もあります。マップはシンプルなテキストやスプレッドシートで作成することもできますが、顧客が辿る道のりの各フェーズ、行動、タッチポイント(ユーザーがブランドと接触するポイント)を時間軸で整理した視覚的なタイムラインにまとめると、さらに効果的な資料となります。
マップ上のタッチポイントには、広告やオンラインストア、メルマガ、商品ページ、アプリ、ショッピングカート、FAQなどが挙げられます。顧客は商品情報を検索したり、レビューを投稿したり、販売担当者とチャットで会話したり、カートに商品を追加して購入手続きを進めたりする際に、これらのタッチポイントを通じてブランドとの関わり(エンゲージメント)を深めています。
ブランドにとって理想的なのは、カスタマージャーニーが可能な限りスムーズに進み、顧客がストレスなく購入に至ることです。しかし、顧客が操作の途中でつまずいたりストレスを感じたりすると、タッチポイントが「ペインポイント(障壁)」となり、顧客が途中で離脱する要因となる可能性があります。こうした課題を可視化して解決策を見出すことが、カスタマージャーニーマップの重要な役割です。
カスタマージャーニーマップを構成する要素
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カスタマージャーニーは、ストーリーのように展開します。ストーリーには筋書きや舞台設定があり、最終的な結末や目的地に向かって進んでいきます。このストーリーにおいて、主人公となるのは顧客です。カスタマージャーニーを構成する要素には以下のようなものがあります。
1. 購入者ペルソナ
カスタマージャーニーの主人公となるのが「購入者ペルソナ」です。これは、実際の顧客データをもとに作成された架空の人物像(=ペルソナ)であり、特定の顧客層を代表するキャラクターとして設定されます。バイヤーペルソナとも呼ばれます。異なるタイプの顧客ごとに、異なるジャーニーが存在します。
2. シナリオ
良いストーリーには、ニーズや期待に基づいて行動し、明確な目的を持ったキャラクターが登場します。購入者ペルソナも、特定の目標に向かって行動する存在として設定されます。
3. 主要な各段階
カスタマージャーニーは、顧客が目的地に向かって進む過程をいくつかの主要な段階(ステージ)に分けて整理できます。これは、ストーリーにおける「章」のようなもので、ブランドの存在を知る「認知」、選択肢を比較する「検討」、購入を決断する「決定」、商品やサービスの価値を実感し継続的に使用する「維持」、そしてブランドに愛着を持ち、リピーターや推奨者となる「ロイヤルティ」といった段階に分けられます。
4. ユーザーの行動とタッチポイント
各段階において、ペルソナは特定の行動を取り、重要なタッチポイントを通じて企業と関わります。各段階でのストーリーは、次のように展開していきます。
- 認知段階:顧客が自身のニーズに気づき、情報収集を始めます。この段階のタッチポイントは、広告、メール、検索エンジンなどです。
- 検討段階:顧客が商品の検索や比較検討を行います。この段階のタッチポイントは、ウェブサイト上の商品説明、オンラインレビュー、競合他社のウェブサイトなどです。
- 決定段階:顧客が購入する商品を選び、決済を完了します。
- 維持段階:顧客が商品購入後にウェルカムメールや商品の案内を受け取り、オンラインフォーラムなどを活用してブランドとの関係を継続します。この段階のタッチポイントは、電話、チャットなどのカスタマーサポートです。
- ロイヤルティ段階:顧客がブランドへの愛着を深め、継続的に利用したり他の人に勧めたりします。この段階のタッチポイントは、SNSやレビューサイトなどです。また、メールマーケティングや無料特典、割引、ポイントプログラムなどを活用することで、ブランドとの関係をさらに強化できます。
5. ユーザーの感情
各段階やタッチポイントにおける顧客の思考や感情を分析する際には行動心理学が用いられます。顧客がどのような感情を抱くのかを理解することで、顧客エンゲージメントが高まるポイントや、逆に低くなるポイントをマッピングできます。また、ウェブサイトのナビゲーションや入力フォームの設計が顧客の心理にどのような影響を与えるかを分析する手がかりにもなります。
6. 改善の機会
カスタマージャーニーが完了した後の結果を分析することで、購入手続きはスムーズだったか、どの段階で顧客が離脱しやすいのかを把握できます。こうした考察をもとに、メニュー構成の見直し、より分かりやすい商品説明の追加、デザインの改善、ページの読み込み速度の改善など、具体的な改善策につなげることができます。
5種類のカスタマージャーニーマップ
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カスタマージャーニーマップを活用することで、現在の顧客の行動を分析するだけでなく、未来の変化も見据えて理解を深めることができます。特定の購入者ペルソナに特化したマップを作成したり、事業者側の視点を交えてマップを分析したりすることも可能です。ここでは、代表的な5種類のカスタマージャーニーマップを紹介します。
1. 現状のカスタマージャーニーマップ
現在進行中のカスタマージャーニーを可視化し、顧客がどのようにブランドと関わっているか(顧客エンゲージメント)をリアルタイムで視覚化するマップで、最も一般的なマップです。このマップでは、顧客の現在の行動を整理し、どの部分がうまく機能しているのか、どこに課題があるのかを特定するのに役立ちます。
2. 未来のカスタマージャーニーマップ
「こうあって欲しい」という未来の理想の顧客行動を可視化する、予測ツールの一種です。例えば、ウェブサイトのリニューアルを検討している場合、変更を実施する前に顧客の行動がどう変わるのかをシミュレーションできます。このような予測を行うことで、変更後の仕組みに対して顧客が好意的な反応を示すかどうかを事前に評価し、必要に応じた調整が可能になります。
3. ペルソナ別カスタマージャーニーマップ
異なる顧客層(ペルソナ)ごとに作成するマップです。顧客の属性や特徴に応じてマップを作成することで、特定のターゲット層に対する計画をより効果的に立案できます。例えば、ECサイトにおいて、初めてそのサイトを利用する顧客はチェックアウト時に迷いやすいのに対し、リピーターはスムーズに購入を完了できるという傾向がある場合、新規顧客向けのガイドやサポートを強化することで購入率を向上させることができます。
4. サービスブループリント(社内の業務手順や顧客対応の流れを含めたマップ)
現状のカスタマージャーニーマップに、営業チームやカスタマーサービスチーム、必要な技術、ポリシー、業務手順などの要素を追加し、各ステージおよびタッチポイントでどのように顧客対応を行っているかを可視化するマップです。このマップを活用することで、業務に携わる全員が共通認識を持ち、自分たちの役割がどのように顧客満足度に影響を与えているのかを把握できるようになります。
5. オンボーディングカスタマージャーニーマップ
顧客が商品やサービスを購入・利用した後の行動に焦点を当てたマップです。購入後に商品の使い方を調べたり、サポートを受けたり、新しい商品について情報を得るためにウェブサイトを再訪したりするなどの顧客の行動を分析する際にも活用されます。
5つのステップでカスタマージャーニーマップを作成する方法
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ここまで見てきたように、カスタマージャーニーマップを作成することで、顧客がブランドとどのように関わり、どこでスムーズに進み、どこでつまずいているのかを可視化できます。ここでは、効果的なカスタマージャーニーマップを作成するための5つのステップを紹介します。
1. 購入者ペルソナを定義する
初めに、分析する購入者ペルソナを明確にします。対象とする顧客層を決定し、顧客のレビューやアンケート結果、過去のやり取りなどのデータを収集します。特定の顧客グループに焦点を当てることで、より実際の行動に即したカスタマージャーニーマップを作成できます。複数の異なる顧客層がいる場合は、それぞれ別のマップを作成することも検討すると良いでしょう。
2. ペルソナの目標と期待値を明確化する
次に、そのペルソナがどのような課題を抱え、どのような目的でブランドや商品にたどり着くのかを考えます。顧客は何を求めてブランドに関心を持ち、商品にどのような期待を抱いているのかを明確化することが重要です。例えば、顧客インタビューや商品レビューなどのデータを活用することで、「このペルソナは商品の購入を通じて何を実現したいのか」「どのような条件が満たされれば満足したと感じるのか」といったポイントを明らかにすることができます。これらの情報をもとに、各タッチポイントでの顧客対応の成否を評価できます。
3. タッチポイントをリストアップする
カスタマージャーニーは、ペルソナが各ステージを進む中で取る一連の行動を時間軸で示したものです。段階ごとの具体的な行動を挙げ、それぞれの行動に関連するチャネルのタッチポイントを特定します。タッチポイントは、広告、検索エンジン、商品ページ、SNS、メール、実店舗、カスタマーサポートなど、多岐にわたります。これらを洗い出すことで、顧客がどのような経路をたどってブランドにたどり着くのかをより正確に把握できます。
4. ペインポイント(障壁)を特定する
ペインポイントとは、顧客がストレスを感じたり、離脱する原因となる障壁のことです。購入までのプロセスでスムーズに進めない箇所があったり、情報が不足していることでやり取りに不都合が生じたりすると、そのタッチポイントはすべてペインポイントになります。例えば、商品検索の結果が期待通りでない、商品説明が不十分、チェックアウト時のページ読み込みが遅い、カスタマーサポートに連絡が取りにくいといった問題が挙げられます。マップ上の問題のある箇所を、色分けやハイライト表示を使って目立つように表示しましょう。そうすれば特に問題の大きい箇所をすぐに把握でき、より効果的な対策を講じやすくなります。
5. 顧客の感情を分析する
カスタマージャーニーの各段階において、ペルソナのプロフィールやニーズ、期待値などをもとに、それぞれのタッチポイントにおける顧客の感情の変化を分析し、購買意欲が高まる瞬間や、逆にストレスを感じるポイントを特定します。これらのポイントは、吹き出しや絵文字、顧客の感情の変化を時間軸ごとに可視化したグラフを使ってマッピングすることができます。
カスタマージャーニーマップを作成する目的・メリット
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カスタマージャーニーマップを作成する主な目的・メリットをご紹介します。
- 課題の特定:カスタマージャーニーマップを顧客の視点で分析することで、ECサイトやオンラインサービスのどの部分に課題があるのかを把握しやすくなります。例えば、ウェブサイトやアプリで操作がしにくい箇所や、商品サポートやカスタマーサービスの対応が期待通りでないといった問題点を特定できます。
- 売上およびリピーター顧客率の向上:課題のある箇所を特定し、必要な対策を優先的に講じることで、顧客関係を築き、売上やリピーター顧客率向上につなげることができます。
- マーケティング戦略の強化:カスタマージャーニーマップを活用することで、顧客のニーズをより深く理解できます。これにより、各ターゲット層に適したマーケティング戦略を立案することができます。
- 製品開発の際の意思決定に活用が可能:カスタマージャーニーマップを通じて得られた分析データは、新しい製品やサービスの開発の際の意思決定にも役立ちます。顧客が何を求め、どこで不満を感じているのかを分析することで、より市場ニーズに合った商品設計が可能になります。
カスタマージャーニーマップのテンプレート例
実際にカスタマージャーニーマップを作成する際、どのような形式で作成すればよいか分からないという方も多いでしょう。そこで最後に、カスタマージャーニーマップのテンプレート例をご紹介します。
まずご紹介するのは、UI設計やイラスト制作、セミナー・講座研修などを行なっている「15VISION」が提供しているテンプレートです。「Design Tools」というテンプレートで、ディレクターやデザイナー向けのコンテンツとして配布されています。
もう一つは、Webマーケティングに関する情報を多数発信している「ferret」というメディアが提供しているテンプレートです。ferretのテンプレートは非常にシンプルで、作成の流れや使用例が具体的に記載されているため、初めて作成する際にもおすすめです。
テンプレートを活用する際は、自社の業種や商材に合った項目を選択できるものを選びましょう。
カスタマージャーニーマップの活用事例
ここからは、カスタマージャーニーマップの活用事例を紹介します。
▼大手人材派遣会社の株式会社パソナキャリアカンパニーの活用事例
株式会社パソナキャリアカンパニーでは、新規事業を始めるにあたって、Webサイトで人材を確保することを目的にカスタマージャーニーマップを作成しています。
就職から入社するまでの就活生の行動や思考を洗い出した結果、就活生は「入社したいと思う企業に対する情報収集が不十分である」という課題が見つかりました。これを踏まえて、就活生が情報収集しやすいWebサイトを開発して、自社のWebサイトに取り入れたことで、就活生の関心を集めることに成功しました。
▼中部国際空港セントレアの事例
中部国際空港セントレアでは、コンテンツ制作の改善ポイントを明確化することを目的に、カスタマージャーニーマップを作成しています。設定したペルソナは、「週末に旅行を計画しているカップル」です。実際に空港利用者にインタビューをするなど、正確な情報収集でリアルな思考や行動、感情が明確化することで、利用者が本当に求めているものを分析できたようです。
このように、カスタマージャーニーマップは多種多様なシーンで活用されています。
まとめ
カスタマージャーニーマップは、顧客がECサイトを利用する過程を可視化し、行動や満足度を理解するためのツールです。見込み顧客がブランドを認知し、購入やサポートに至るまでの流れを整理し、各タッチポイントでの課題を明らかにすることで、サービスの改善につなげることができます。
カスタマージャーニーマップには、「現状のカスタマージャーニーマップ」「未来のカスタマージャーニーマップ」「ペルソナ別カスタマージャーニーマップ」などの5種類があり、目的に応じて使い分けられます。
作成の際は、購入者ペルソナの定義、ペルソナの目標と期待値の明確化、タッチポイントのリストアップ、ペインポイントの特定、顧客の感情分析の5つのステップに従って行います。このマップを活用することで、売上・リピーター顧客率の向上や、マーケティング戦略の強化、製品開発の際の意思決定などに役立ちます。実際に企業のウェブサイト改善や空港のサービス向上などに活用されており、幅広い業界で取り入れられています。
ECサイトを運営する際にカスタマージャーニーマップを活用することで、よりスムーズな顧客体験を提供し、顧客満足度を高めることが可能です。Shopify を利用すれば、直感的な操作でオンラインストアを構築し、顧客の行動データを活用したマーケティング戦略を実現できます。カスタマージャーニーマップと組み合わせ、より魅力的なECサイトを運営しましょう。
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よくある質問
カスタマージャーニーを活用して商品やサービスを改善するには?
カスタマージャーニーでは、仮説に基づきながらも現実的な顧客のシナリオを作成し、ブランドとの関わりの中で発生する問題点を可視化できます。顧客がどこでつまずくのかを把握することで、サイトのナビゲーションや機能の改善点を明確にすることができます。
カスタマージャーニー上で課題を特定するには?
ペルソナがカスタマージャーニーを続ける様子を想像し、各タッチポイントを検証することで、どこに課題があるのかを把握することができます。また、顧客インタビューを活用し、実際にどの場面でストレスを感じているのかを特定するのも有効な方法です。特定したペインポイントは、最新のカスタマージャーニーマップに反映し、なぜ問題が生じているのかを分析することが重要です。
カスタマージャーニーマップはどのくらいの頻度で更新すればいい?
頻度としては、月次または四半期ごとの見直しがよいでしょう。顧客は多様であり、事業の成長とともに変化していくため、同じジャーニーマップをずっと使い続けることはできません。ユーザージャーニーマップの効果を維持するためには、作成時の前提を定期的に見直し、必要に応じて更新することが重要です。
カスタマージャーニーマップにおける「離脱ポイント」とは?
離脱ポイントとは、ユーザーがウェブサイトの操作を途中でやめてしまう地点を指します。例えば、商品検索やチェックアウトがスムーズにいかないなどの箇所が積み重なると、ユーザーが離脱してしまいます。カスタマージャーニーマップに顧客の感情の変化を記録することで、どういった箇所で離脱が発生しやすいのかを特定し、改善策を講じることができます。
カスタマージャーニーマップとユーザーストーリーマップの違いは?
カスタマージャーニーマップとユーザーストーリーマップは、いずれもユーザーの行動を可視化するツールですが、目的と活用の場面が異なります。カスタマージャーニーマップは、顧客が製品やサービスを認知し、検討、購入、利用、再購入に至るまでの一連のプロセスを時間軸ごとに整理し、各段階での行動や思考、感情、タッチポイントを分析します。これにより、マーケティング戦略の立案や顧客満足度の向上に役立てることができます。 一方、ユーザーストーリーマップは、製品開発の初期段階で使用されるもので、ユーザーが達成したい目的やタスクを階層的に整理し、必要な機能や開発の優先順位を明確化するためのツールです。開発チームがユーザーのニーズを理解し、効果的な製品開発を進めるのに役立てています。
文:Yukari Watanabe