EC市場の競争が激化する中、成果につながるEC戦略を設計できているかどうかが、売上や成長スピードを大きく左右します。集客ツールや広告運用に力を入れていても、戦略の軸が曖昧なままでは、思うような結果は得られません。
短期的に売上をアップさせるだけでなく、顧客体験や中長期的な事業成長を見据えたEC戦略が重要です。本記事では、eコマース化に取り組み始める方から既存サイトの改善を考えている方まで役立てられる、EC戦略の立て方を4つのステップに分けてわかりやすく解説します。
EC戦略とは?

EC戦略とは、ECサイトで商品を効果的に訴求し、継続的に売上を伸ばすための一連の取り組みを体系化したものです。単なる販促施策の集合ではなく、商品・顧客・企業それぞれのライフサイクルを踏まえて設計される点が特徴です。
そのため的確なEC戦略を実行していくには、商品戦略(何をどう売るか)、顧客戦略(誰にどのような体験を提供するか)、企業戦略(事業としてどう成長させるか)、人事戦略(誰に業務を任せるか)の4つの要素が重要となります。これらを一貫性をもって設計することで、場当たり的な施策に終わらないEC運営が可能になります。
優れたEC戦略は、短期的な売上向上だけでなく、中長期的な成長の土台を築くものです。実行性が高く、新事業の展開やマルチチャネル販売など、大きなプロジェクトにおいても着実な指針となります。
EC戦略の重要な要素

商品戦略
商品戦略は、ECにおいてもビジネス戦略の土台となる重要な要素です。どのような商品を、どの市場で、どのように展開するかを明確にすることで、売上の安定化と事業成長につながります。
商品戦略を検討する際は、以下のステップに沿って整理していくと効果的です。
1. 研究開発を行う
研究開発(R&D)では、商品がどのようなプロセスで生まれ、改善されていくのかを把握することが重要です。現在扱っている商品や今後展開予定の商品は、自社で企画・開発するのか、あるいは外部パートナーやOEMに委託するのかを明確にしましょう。
あわせて、商品開発をどの程度の頻度で行うのかも重要な検討ポイントです。定番商品を長く販売するのか、定期的に新商品を投入するのかによって、EC運営の方針は大きく変わります。
2. 商品ポジショニングを開発する
商品ポジショニングとは、ターゲット市場に対して、商品の価値や強みをどのように訴求するかを定義することです。市場の中で自社商品がどの位置にあり、競合商品と比べてどのような違いや優位性があるのかを整理します。
この工程を行うことで、商品ページの説明文やキャッチコピーに一貫性が生まれ、顧客にとって理解しやすい訴求が可能になります。
3. 商品のサプライチェーンを調査する
サプライチェーンについて理解を深めることは、EC運営において非常に重要です。製造から配送までの流れを把握することで、コスト交渉やリードタイムの短縮、再注文や新商品投入の最適なタイミングを見極めやすくなります。
調査の際には、「商品はどのような経路で顧客に届くのか」「製造や配送をどのパートナーに依頼するのか」といった点を整理しましょう。これらは、商品の品質や納期、さらには粗利益にも直接影響します。
4. 商品ラインの将来的な拡張性を検討する
現時点で明確な計画がなくても、将来的に商品ラインを拡張する可能性があるかどうかを考えておくことは重要です。立ち上げ時や今後取り扱いたい商品の数、色・サイズ・味などのバリエーション展開についても整理しておきましょう。
また、次に投入する商品が「新しい商品ライン」なのか、それとも「既存商品の派生・拡張」なのかを考えることで、ECサイト全体の構成やブランドの方向性も定まりやすくなります。
5. 商品のライフサイクルを理解する
商品のライフサイクルとは、商品が販売可能であり、かつ顧客にとって価値を持つ期間を指します。定番商品として長期間販売できるものもあれば、季節限定や数量限定など、短期間で役割を終える商品もあります。商品ごとのライフサイクルを把握しておくことで、在庫管理や販促施策の計画が立てやすくなります。
顧客戦略
ECにおける優れたマーケティング戦略は、顧客との最初の接点から購入、リピートに至るまでのライフサイクル全体を見据えて設計されます。
顧客戦略を構築する際は、以下のポイントを順に整理していきましょう。
1. ターゲットオーディエンスを特定する
まず行うべきは、誰に向けて商品やサービスを提供するのかを明確にすることです。このターゲットオーディエンスを整理する際は、年齢・性別・悩み・購買動機などを具体化した「バイヤーペルソナ」を設定すると効果的です。
例えば、BRADELIS New York Japan(ブラデリス ニューヨーク ジャパン)は、体型に悩みを持つ女性向けに補整下着を展開するブランドです。「自分の体型に合う下着がわからない」「着け心地と補整力を両立したい」といった課題に着目し、サイズ提案やフィッティング体験を重視した商品設計と訴求を行っています。このように、顧客の悩みを起点にターゲットを定義することが、EC戦略の精度を高めるポイントです。
2. ブランドを構築する
ブランディングは、競合との差別化を図り、顧客との信頼関係を築くために欠かせません。自社ブランドがどのような価値観を持ち、顧客にどのような印象を与えたいのかを明確にしましょう。
ECでは、サイトデザイン、商品ページのトーン、SNSやメールの表現など、あらゆる接点で一貫したブランド体験を提供することが重要です。オンライン・オフラインを問わず顧客との多彩な接点を連携させたオムニチャネルを活用する場合でも、ブランドメッセージがぶれないように設計する必要があります。
3. 顧客獲得を理解する
顧客獲得とは、初めて商品を購入してもらうための導線設計を指します。ターゲットオーディエンスに対して、どのチャネルで、どのようにアプローチするのかを明確にしましょう。
具体的には、SNS運用、広告、SEO、メールマーケティングなどが代表的な手法です。重要なのは、闇雲に施策を増やすのではなく、ターゲットが最も接触しやすいマーケティングチャネルに集中することです。
4. 顧客体験(CX)を構築する
優れた顧客体験を提供することは、長期的な顧客関係を築くための基盤となります。現代の消費者は、価格だけでなく「体験の良さ」を重視する傾向が強まっています。
送料や返品ポリシー、サポート体制、保証の有無、サブスクリプションの導入など、自社が提供したい体験を整理し、それを支える仕組みやルールを整えましょう。一貫した顧客体験は、ECサイト全体の信頼性向上にもつながります。
5. 顧客維持に注力する
商品を購入した顧客が離れてしまわないように維持していく取り組みは、見落とされがちですがEC戦略において非常に重要な要素です。既存顧客に再購入してもらう方が、新規顧客を獲得するよりもコストを抑えやすいためです。
再購入の頻度をどの程度に設定するのかを考えたうえで、メール配信や会員特典、限定オファーなど、顧客が自然に戻ってくる仕組みを設計しましょう。なお、Shopify(ショッピファイ)などのECプラットフォームを活用すれば、顧客データをもとに購入履歴や行動分析を行い、顧客戦略の改善にも役立てることができます。
企業戦略
多くのECサイト運営者は、商品や顧客に対する強い想いをきっかけにビジネスを始めます。その一方で、企業戦略は後回しにされやすい分野でもあります。しかし、明確な企業戦略がなければ、事業の成長スピードは鈍化し、重要な意思決定も場当たり的になりがちです。
企業戦略は、EC事業を中長期的に成長させるための「土台」となる考え方です。ここでは、EC戦略の一環として検討すべき主なポイントを整理します。
株主の数
まず検討すべきなのが、誰がビジネスを所有し、意思決定に関与するのかという点です。すべてを経営者一人で所有すれば、意思決定の自由度は高まりますが、その分リソースや視点が限られる可能性もあります。
一方で、ビジネスパートナーや投資家を迎え入れることで、資金面だけでなく、専門知識や人脈といった付加価値を得られる場合もあります。ただし、株主や投資家は将来的にリターンを求める存在です。そのため、どのように利益を生み、どのタイミングで還元するのかといった計画をあらかじめ整理しておく必要があります。
資金調達戦略
ECビジネスは以前に比べて始めやすくなっていますが、商品仕入れ、在庫確保、広告運用など、一定の資金は必要になります。資金調達の方法としては、融資、投資、自身の貯蓄、事前販売、クラウドファンディングなど、さまざまな選択肢があります。
また、すでに運営しているECサイトであっても、資金調達戦略は欠かせません。例えば、大量発注が必要なタイミングや、季節需要に備える場合には、必要な時期に十分な資金を確保できる計画が重要になります。成長フェーズに応じて、資金の使い道と調達手段を見直していきましょう。
人事戦略
ECビジネスを立ち上げたばかりの段階では、人事戦略の重要性を実感しにくいかもしれません。しかし、事業が成長するにつれて、「誰を・いつ・どのように採用するか」は、売上や運営効率を大きく左右する要素になります。
初期段階では、すべての業務を少人数で兼任するケースが一般的です。その中で、最初に採用を検討すべきなのは、デジタルマーケティング担当、顧客体験(カスタマーサポート)担当、商品企画・開発担当など、EC運営の中核を担うポジションです。自社の課題や成長フェーズに応じて、どの役割を優先するかを見極めることが重要になります。
また、採用を進める際には、組織構造の設計も欠かせません。誰がどの業務を担い、どのように意思決定を行うのか、将来的にどのようなキャリアパスを描けるのかを整理しておくことで、従業員の定着や成長につながります。
人事戦略は単なる採用計画ではなく、ECビジネスを持続的に成長させるための基盤です。事業規模の拡大を見据え、段階的に人材を配置・育成していく視点を持ちましょう。
効果的にEC戦略を構築する4つのステップ

1. 目標と価値観を設定する
効果的なEC戦略を構築するうえで、最初に取り組むべきなのが目標と価値観の明確化です。売上規模をどこまで伸ばしたいのか、短期的な利益を重視するのか、それとも長期的なブランド構築を目指すのかによって、選ぶ戦略は大きく変わります。
また、「価格で勝負したい」「品質や体験を重視したい」「自分らしさやストーリーを大切にしたい」といった価値観は、商品選定やブランディング、顧客対応の方針に直結します。目標や価値観が曖昧なままでは、施策ごとの判断基準がぶれ、EC運営が属人的になりがちです。最初に軸を定めておくことで、一貫性のあるEC戦略を描きやすくなります。
2. 潜在顧客について調査する
EC戦略を成功させるためには、潜在顧客を深く理解することが欠かせません。潜在顧客とは、まだ商品を購入していないものの、将来的に顧客になる可能性を持つ人たちを指します。年齢や性別といった表面的な属性だけでなく、抱えている悩みや課題、購買に至るきっかけ、情報収集の方法などを把握することが重要です。
これらを整理する際は、バイヤーペルソナを設定すると、商品設計やコンテンツ制作、広告配信の精度が高まります。潜在顧客の視点に立ってECサイトや導線を見直すことで、「なぜ買うのか」「なぜ買わないのか」が明確になり、無駄のないEC戦略を構築しやすくなります。
3. 長期的なビジョンを作成する
効果的なEC戦略には、長期的なビジョンの明確化が欠かせません。短期的な売上やキャンペーン施策だけに目を向けていると、場当たり的な判断が増え、事業の方向性がぶれやすくなります。数年後にどのようなEC事業を実現したいのか、売上規模や顧客層、ブランドの立ち位置を具体的に描いておくことが重要です。
長期的なビジョンがあれば、新商品開発や販路拡大、人材採用といった重要な意思決定も行いやすくなります。また、日々の施策がビジョンに沿っているかを振り返る指標にもなり、EC戦略全体の一貫性を保つことにつながります。
4. 徹底的に優先順位をつける
EC戦略は「やること」が増えやすいため、成果につながる順に絞り込むことが欠かせません。まずは売上インパクトが大きいボトルネックを特定し、改善施策の上位から着手します。リソースが限られる場合は、KPIを決めて「やらないこと」も明確にしましょう。優先順位づけが徹底できると、施策が点ではなく線でつながり、少ない工数でも継続的に成果を積み上げられます。
まとめ
EC戦略は、集客や広告といった個別の施策を積み重ねるだけでは成果につながりません。
本記事で紹介したように、商品・顧客・企業・人事という4つの要素を押さえたうえで、「どんな価値を、誰に、どの順番で届けるのか」を設計することが重要です。さらに、目標や価値観を起点に、潜在顧客の理解、長期的なビジョン設定、優先順位付けを行うことで、EC戦略は初めて実行可能な形になります。重要なのは、完璧な戦略を作ることではなく、自社のフェーズに合った戦略を定期的に見直し、改善し続けることです。EC戦略を「考えて終わり」にせず、日々の運営と結びつけることで、持続的な成長を実現できるでしょう。
よくある質問
ECはマーケティングにおいて何を意味しますか?
EC(電子商取引)とは、インターネット上で商品やサービスを売買する仕組みを指します。マーケティングの視点では、ECは販売チャネルであると同時に、顧客データを活用しながら集客から購入、リピートまでを設計できる重要な基盤です。場所の制約なく顧客にアプローチでき、コストを抑えながら収益拡大を目指せるため、ビジネスにおいて重要なツールといえます。
ECマーケティングスペシャリストはどんな役割を担いますか?
ECマーケティングスペシャリストは、ECサイトの売上向上を目的とした施策全般を担当します。SEOや広告運用、SNS管理、データ分析などを通じて、集客から購入率改善までを継続的に最適化することがミッションとなります。
ECではどのようにマーケティングが行われますか?
ECでは、以下のような施策を組み合わせてマーケティングを行います。
- SEOによる検索流入の獲得
- PPC(クリック課金型)広告による即効性のある集客
- SNSを活用した認知拡大
- メール・SMSによるリピート促進
- 割引やキャンペーン施策
顧客行動に合わせてこれらを設計・運用することが、ECマーケティング成功のポイントです。
EC戦略とECマーケティング戦略の違いは何ですか?
EC戦略は、商品・顧客・企業・人事などを含めた事業全体の設計を指します。一方、ECマーケティング戦略は、集客や販促など売上を生むための手段にフォーカスした考え方です。ECマーケティング戦略は、EC戦略の一部に位置づけられます。
小規模なECサイトでも戦略は必要ですか?
はい、必要です。むしろリソースが限られている小規模ECほど、優先順位を明確にした戦略設計が重要になります。すべてをやろうとせず、勝ち筋に集中するためにもEC戦略は欠かせません。
文:Takumi Kitajima





