Eコマース市場の急激な成長に伴い、商品の発送作業などを効率化するための3PL(スリーピーエル)と呼ばれるサービスに注目が集まるようになりました。
在庫の保管から梱包、配送まで代行してくれるこのサービスは、ECサイト管理者がコア業務に集中するために欠かせない存在として、需要が高まり続けています。日本の3PL市場規模は、2029年までに595億3,000万米ドルに達すると予測されているほどです。
この記事では、3PLとは何かを説明するとともに、その仕組みやメリット、3PLを導入するべきタイミングなどについて、わかりやすくまとめました。
3PLとは
3PLとは、3rd Party Logistics(サード・パーティー・ロジスティクス)の略称で、物流に関わる荷主としての業務を、配送業者とは異なる第三者の専門企業に委託することです。
3PLサービスでは、次のような業務を請け負います。
事業者は3PL業者に委託することで物流業務にかかるコストを削減し、効率化することができます。自社で倉庫を所有したり管理したり、配送手続きを行ったりする必要がなくなり、3PL業者が管理する倉庫で商品を保管し、出荷作業も任せることができます。
3PLの種類
3PLのサービスは、アセット型とノンアセット型の2つのタイプに分類できます。
アセット型
3PL業者が車両や倉庫などの物流業務に必要な資産を有して運用を行う業務形態を、アセット型と呼びます。物流業務の改善やドライバーの教育も担うため、サービス向上ができ、信頼関係を築きやすいというメリットがあります。
ノンアセット型
ノンアセット型は、輸送手段や倉庫を保有せず、専門業者と提携して荷主のニーズに対応する業務形態のことです。例えば、輸送はA社、倉庫はB社に依頼する、というように荷主の事業規模や費用に合わせて柔軟にサービスを提供してもらえるというメリットがあります。
3PLの仕組み
契約を交わした3PL業者が提供するサービスによって異なる場合もありますが、一般的な3PLの流れは以下の通りです。
- 3PL業者は在庫を倉庫で受け取り、SKUごとに整理・管理します。
- ECサイトで注文が入ったら、その注文詳細は3PL業者に手動で転送、または自動的に送信されます。自動送信は、オンラインストアに3PLのソフトウェアを導入している場合に利用可能です。
- 倉庫の管理担当者が、注文商品のリストを受け取ります。
- 商品は領収書と注文の詳細とともに箱詰めされます。
- 3PL業者が配送ラベルを用意します。
- 配送業者が3PL業者の配送センターから商品を集荷し、顧客へ配送します。
- 追跡情報が3PLシステムにアップロードされ、注文管理ソフトと同期されます。
このように、3PLは物流から追跡情報管理システムまで包括的な機能を担いますが、物流を担うサービスは他にもあります。3PLをより理解するために、他の物流サービスと比較してみましょう。
3PLなどの物流サービスの種類
- ドロップシッピング:小売業者は販売商品の在庫を持たず、商品が売れた際にメーカーやサプライヤーから購入者へ直接商品が発送されます。EC事業者は、事前に商品を仕入れたり、在庫管理をしたりすることなく商品を販売でき、梱包や発送作業も不要です。
- 2PL:2nd Party Logistics(セカンド・パーティー・ロジスティクス)の略で、配送業者が倉庫から商品を集荷し、顧客に配達します。
- 3PL:在庫は3PL業者によって保管、集荷、梱包、発送されます。業者によっては、注文追跡と在庫管理のためのソフトウェアの提供も行います。
- 4PL:4th Party Logistics(フォース・パーティー・ロジスティクス)の略で、物流だけではなく複数の3PL業者とやり取りを行い、荷主企業に合った物流戦略を企画提案したりコンサルティングしたりします。
- 貨物取次事業者:荷主の需要に合わせて運送業者へ貨物の委託や取次を行います。貨物取次事業者は、企業と運送業者のマッチングに特化しているという点で3PLとは異なります。
3PL導入を検討するタイミング
企業やEC事業者が3PLの導入を検討するのは、主に注文が増加した場合です。3PLは中規模や大規模事業者向けと思われがちですが、実際には事業規模を問わず今後拡大したいと考えている事業者に対応できるよう設計されています。以下の4つの項目に当てはまる場合は、3PL導入を検討すべきタイミングであると言えるでしょう。
1. 1日に処理する注文数が10~20件を超える
1日の注文処理数が10~20件を超えている場合は、3PL事業者に委託した方がトータルコストを削減できる可能性が高いでしょう。梱包や集荷、配送を3PL業者に委託することで、手作業にかかる時間と人件費を節約できます。ECサイトと連携できるソフトがある場合には、注文情報が3PLに自動送信され、より効率良く注文処理が完了します。
2. 在庫保管スペースが不足している
現在の在庫保管スペースが不足しはじめた場合は、3PLの導入を検討するべき最適なタイミングとなります。配送コストとともに、倉庫費用などの保管にかかっているコストも加えたフルフィルメント費用を算出し、3PLを利用した場合のコストと比較してみましょう。単純に倉庫を拡大させるよりも経費を抑えられる可能性があります。
3. 現状の体制では需要の急増に対応できない可能性がある
注文量の増加が予測されるときに、発送や注文処理を現状の体制では対応できない可能性がある場合は、3PL導入を検討する良いタイミングと言えます。増加した需要に対応するために、自社で物流業務に従事するための社員を雇用したり、自動化のためのシステムを導入したりすると、大きな費用や時間がかかるでしょう。3PLを導入した方が柔軟かつ段階的に対応でき、費用対効果が高くなる可能性があります。
4. 迅速な発送と注文処理を提供したい
翌日や翌々日配送などの迅速な配送オプションを提供したいと検討している事業者で、自社での対応が難しい場合は、3PLの導入を検討してみましょう。迅速な配送オプションは顧客満足度やコンバージョン率、リピート率の向上に貢献してくれます。
3PLは複数の事業者の物流を取り扱うことで、スケールメリットを活かして配送業者と安価な契約を結んでいる場合もあります。つまり、より低い送料で、迅速な配送オプションを顧客へ提供できるようになるのです。また、3PL事業者が複数の配送業者と連携していることで、注文ごとに発送のタイミングやスピード、コストに応じた最適なものを選択することも可能となります。
3PLを活用するメリット・デメリット
メリット
自社事業に集中できる
物流業務を3PL業者に委託することで、人や資金などを生産や販売といったコア業務に割り当てられるようになり、社内リソースの最適化を行うことができます。また、専門的なノウハウを持った業者に委託できるため、ゼロからノウハウを積み上げて体制を構築する必要もありません。自社の人的資源や設備の有効活用が目指せます。
経費を削減できる
自社で物流業務を行う際に必要となる車両や倉庫、ドライバーといった固定費用が削減できます。これらの固定費を3PL業者に委託することで変動費に変えることができ、出荷量に応じて利用料を支払うことになるため、物流コスト削減につながります。
顧客体験を向上させる
経験豊富なプロに委託することで物流の質が上がり、顧客満足度の向上にも役立ちます。自社で物流業務を行う際に比べて、納品時間を短縮出来たり、配送ミスを減らしたりといった効果が得られます。
海外進出をテストできる
海外進出に3PLを活用することで、顧客の注文に対する国際配送や関税処理の手間が省けるだけではなく、より迅速に商品を届けることにもつながります。まずは少量の在庫を進出先の国に保管しておき、試験的に販売を行うことで現地での反応を確認できるほか、配送にかかる時間の短縮やコスト削減が可能となり顧客満足度の向上も目指せます。
デメリット
先行投資が必要となる
3PL業者と契約する場合、ソフトウェアをECサイトに統合したり、SKUをアップロードしたりといった手間とコストが必要となる場合があります。通常、必要となるコストは以下の7つに分類できます。
- 輸送費用:商品を3PL事業者の倉庫へ出荷する費用。
- 荷受費用:商品を倉庫に積み下ろしする際の費用。
- 倉庫費用:在庫の保管に使用するスペースに応じた月額料金。
- ピッキングと梱包費用:倉庫にある商品をピックアップし、出荷用に梱包する手数料。数量が多いと割引が適用される場合があります。
- 配送費用:商品を顧客へ配送するための費用。
- アカウント設定費用:アカウント作成やソフトウェア統合にかかる費用。
- 最低料金:通常、最低月額料金が設定されています。
物流業務における自社のノウハウ蓄積や人材育成ができない
物流業務を外部の専門企業に委託することで、自社のノウハウを蓄積したり人材育成をしたりといったことができなくなります。万が一物流におけるトラブルが発生した場合も、自社で原因を特定したり問題を解決したりことができないこともあります。将来的に自社で物流業務を行う可能性がある場合には、注意が必要です。
まとめ
3PLは、ECサイト管理者や事業者にとって利便性の高いサービスで、今後も市場規模を拡大することが予測されています。商品の保管から輸送、ピッキング、梱包、配送までのEC物流を専門業者に委託することで、自社のコアビジネスに集中できるというメリットがあります。また、3PL業者によっては注文追跡や在庫管理のためのソフトウェアも提供しており、業務効率化を目指す事業主にも適しています。
1日の注文処理数が増えている、在庫保管スペースが不足し始めている、需要の急増に対応できない可能性がある、迅速な配送を提供したいといった場合には、3PLの導入を検討すると良いでしょう。ただし、先行投資が必要になったり、物流における自社ノウハウ蓄積や人材育成がしにくいというデメリットもあることから、費用やメリット・デメリットを比較して、自社ビジネスに適しているかどうかを検討することが大切です。
3PLに関するよくある質問
3PLの意味は?
3PLとはサード・パーティー・ロジスティクスの略で、荷物の輸送や在庫管理などの物流業務を自社で担わず、専門のノウハウを持つ第三者に委託する業務形態のことです。
3PLの読み方は?
3PLは、「スリーピーエル」や「さんピーエル」と読みます。
3PLとフルフィルメントの違いは?
3PLは物流業務の一部または全部を専門の外部企業に委託するサービスを指すのに対し、フルフィルメントはEC事業における受注から発送、アフターサービスまでの一連の流れを指します。つまり、フルフィルメントに含まれる業務を代行してくれるサービスや事業者が、3PLということになります。
3PLとコントラロジスティクスの違いは?
3PLとコントラロジスティクスの違いは、業務範囲にあります。3PLは、荷主に代わって物流戦略の企画や立案、物流システムの構築を提案して包括的に請け負う物流サービスです。一方、コントラロジスティクスは長期的に契約して輸送や保管、管理などを委託する形となり、3PLの物流業務だけを請け負うサービスです。
3PLと4PLの違いは?
3PLは事業者の物流業務を委託する業務形態のことを指すのに対し、4PLは物流だけではなく、物流戦略を提案したりコンサルティング業務なども行う形態のことを指します。
3PLのメリットは?
3PLサービスを活用して物流業務を委託すると、人や物などの経営資源を商品開発や営業など、会社運営のコアとなる業務に集中させることができます。また、配送サービスの質や生産性の向上にもつながるほか、海外進出のテストにも活用できる点なども、メリットとなります。
文:Masumi Murakami