適切なアトリビューション分析を行うことで、より効果的なマーケティング戦略の立案と効率的な予算配分が可能になりますが、正しく行わないと、評価する広告やチャネルなどのタッチポイントに偏りが出て、本来成果を生んでいる部分を見落としてしまう可能性があります。アトリビューションの意味やモデルについて解説したこの記事を参考に、適切なアトリビューション分析をはじめましょう。
アトリビューションとは
アトリビューションは、間接効果とも呼ばれ、コンバージョンにつながるまでの間接的な影響度を測る手法です。アトリビューション分析により、顧客が購入に至るまでに接触した広告やチャネル(タッチポイント)の貢献度を数値化します。これにより、どのタッチポイントが商品やブランドの認知に貢献し、どのタッチポイントが購入決定に影響を与えたかを把握できます。この結果をもとに広告予算を効果的に配分できます。
アトリビューション分析の課題
アトリビューション分析は、マーケティング効果を測定する重要なツールですが、以下のような点に注意する必要があります。
- 1人で複数のデバイスを使用している:現代のユーザーは複数のデバイスを使い分けながら情報収集や購買を行うため、一貫したユーザー行動を正確に追跡することが難しくなっています。特に、異なるデバイスで別々のアカウントを使用している場合はデータの欠落や重複が避けられません。
- プライバシーを保護するため規制が強まっている:プライバシー保護の観点からGDPRやCCPAなどの法規制が強化され、データ収集にも制限がかかっています。日本でも2024年4月の改正により、個人情報保護の強化(ウェブスキミング対策、個人情報管理、プライバシーポリシー見直し、Cookieの管理など)が義務化されました。これにより、ユーザーの同意を得る必要性が高まり、アトリビューション分析に必要なデータを十分に取得することが難しくなっています。
- クリックで貢献度を計るアトリビューションモデルが多い:アトリビューションモデルの多くはクリックやキャンペーンのパフォーマンスを計測するUTM(Urchin Tracking Module、ウェブサイトへのアクセス元を特定するためのパラメータ)を使って貢献度を計測します。しかし、スマートフォンの普及で購買までの過程が複雑化しているため、単純にラストクリックだけで広告効果を判断すると、貢献度の高い広告を誤って停止してしまうリスクがあります。
アトリビューション分析を活用するには
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- ピクセルやコンバージョントラッキングを適切に設定する:MetaピクセルやGoogle広告のコンバージョントラッキング、Googleアナリティクスの目標やイベントなどを適切に設定することで、より正確なデータを収集し、判断の指標として活用できます。
- UTMパラメータを活用する:顧客の行動を正確に把握するために一貫性のあるUTMパラメータを設定することが大切です。
- アトリビューションモデルを理解する:各アトリビューションモデルの視点を理解し、状況に応じて柔軟に活用することで、意思決定とマーケティング施策を最適化できます。
UTMパラメータについて
UTMパラメータを設定することで、マーケティング施策の効果を詳細に分析し、どの広告やキャンペーンが最も効果的であるかを把握することができます。URLの末尾に「?」を付け、以降のパラメータは「&」で区切ることで複数のUTMパラメータを設定できます。設定する際は、一貫性とわかりやすさを重視し、後で見ても理解しやすい名前にすることが大切です。トラフィックを分類、整理、分析するために使える5つの標準的なタイプがあります。
- utm_source:トラフィックの流入元(例:Google、Facebookなど)を示す
- utm_medium:トラフィックの媒体(例:CPC、バナー広告、メールなど)を示す
- utm_campaign:特定のキャンペーン名(例:summer_saleなど)を示す
- utm_term:有料検索広告のキーワードを特定するために使用
- utm_content:同一キャンペーンの異なるコンテンツを区別するために使用。A/Bテストなどでも役立つ
アトリビューション分析の基本モデル7つ
アトリビューション分析では、ビジネスの目的やマーケティングファネルのどの段階を重視するかに応じて7つの基本モデルがあります。これらのモデルは広告や施策の貢献度の割り当てが異なり、それぞれに特徴や適用シーンがあります。正確な施策の評価を行うためには、適切なモデルを選択することが重要です。
1. ラストクリックモデル
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ラストクリックモデルは、コンバージョンに至るまでの経路で最後にクリックした広告とそのキーワードに100%の貢献度を割り当てるモデルです。
購入直前のファネル下層の広告(商品名での検索広告やリターゲティング広告)が評価される一方で、ユーザーが最初に商品を知るきっかけとなったファネル上層の広告の効果は評価されにくいという特徴があります。
このモデルは、費用対効果を測定しやすく、期間限定キャンペーンやイベントなど短期間で完結するキャンペーンに向いています。潜在顧客に対する広告の評価には適していませんが、すでに商品やブランドを知っている、購入を具体的に検討しているなど、購買プロセスの中にいるユーザーに対する広告の評価に有効です。
2. ファーストクリックモデル
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ファーストクリックモデルは、ラストクリックモデルとは正反対の考え方を持つモデルで、コンバージョンに至るまでの過程で、最初にクリックした広告に100%の貢献度を割り当てます。
このモデルでは、マーケティングファネルの最上層にいる顧客との最初の接点を重視します。たとえば、ユーザーが「スキンケア おすすめ」などの一般的なキーワードで検索し、その検索結果の広告をクリックした場合、その広告がコンバージョンに対して最も貢献したとみなされます。
ただし、このモデルではファネル最下層での施策(リターゲティングなど)の効果が適切に評価されないため、下層施策への投資が減少し、結果として全体的な売り上げやコンバージョンの低下を引き起こす可能性があります。
3. ラスト非ダイレクトクリックモデル
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ラスト非ダイレクトクリックモデルは、URLを入力してサイトを直接訪問するダイレクトトラフィックを除外し、最後に接触した広告チャネルに100%の貢献度を割り当てるモデルです。たとえば、ユーザーがメルマガの受信後に直接サイトにアクセスして購入した場合、そのメール施策に100%の貢献度を与えます。
ユーザーは広告やメールで商品を知り、検討した後にURLを直接入力してサイトを訪れる行動をとることが多いため、ダイレクトトラフィックを除外するこのモデルを使うことで、どのマーケティング施策が購買の決め手となったのかを正確に把握できます。ただし、ユーザーの行動履歴を追跡したときに、直接訪問しか記録されていないような場合(プライベートブラウジングを使用しているユーザーなど)は、ダイレクトトラフィックが効果測定の対象(帰属チャネル)として扱われます。
4. 線形モデル
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線形モデル(リニアモデル)は、ユーザーがコンバージョンに至るまでに接触したすべての広告やメディアに対して、均等に貢献度を割り当てるモデルです。
たとえば、ユーザーが商品やサービスを購入するまでに4つの広告に接触した場合、各広告に25%ずつの貢献度を割り当てます。複数のキーワードや広告を組み合わせた段階的なキャンペーンの効果測定に最適で、どのメディアや広告が機能したかを把握しやすいため、さまざまなビジネスモデルで活用されています。
一方で、均等に貢献度を割り振る特性上、最も貢献度が高いチャネルやタッチポイントを厳密に判断することは難しいという課題があります。また、確かな分析結果を得るためには、十分なサンプル数を収集する必要があります。このような制約はあるものの、ユーザーが接点を持ったすべての広告を公平に評価するため、コンバージョンプロセスが複雑化している現代のマーケティングにおいて高い効果を発揮します。
5. 減衰モデル
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減衰モデル(タイムディケイモデル)は、ユーザーが接点を持ったすべての広告に対して、コンバージョンに近いほど貢献度を多く割り当てます。このモデルはコンバージョンに直結した広告を重視しつつ、それ以前の接点にも適切な貢献度を割り振ることができるため、時間をかけて広告効果の詳細を分析したい場合に効果的です。また、各接点の価値に明確な差をつけられることから、短期間でプロモーションを展開する商品やサービスの広告評価にも適しています。
6. 接点ベースモデル
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接点ベースモデル(ポジションベースドモデル)は、コンバージョン経路の最初と最後に高い貢献度を割り当て、その間に接触した広告には比較的低い貢献度を割り当てるモデルです。たとえば、ユーザーがコンバージョンに至るまでに複数の広告に接触した場合、最初に接触した広告と最後に接触した広告にそれぞれ40%の貢献度を割り当て、残りの20%を中間の広告に分配します。これは、新商品やサービスの認知のきっかけとなった最初の広告と、購買意思決定に直接影響を与えた最後の広告を重視する考え方に基づいています。
このモデルは、新商品やサービスを認知させるための最初の広告と、コンバージョンに直接つながる最後の広告をバランスよく評価したい場合に適しています。全体的な広告効果を俯瞰的に分析したい場面にも活用できます。ただし、中間の接点に対する評価が相対的に低くなるため、その間のキャンペーンや接点がコンバージョンに与えた影響を見逃す可能性があるため留意が必要です。
7. カスタムモデル
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カスタムモデル(アルゴリズムモデル)は、顧客の購買行動における各接点の貢献度を機械学習によって動的に評価するモデルです。ビジネス状況の変化に合わせてモデルを調整できるため、季節ごとのプロモーションや新商品の発売など、状況に合わせてアトリビューションモデルを再構築することができます。このモデルで各接点の適切な評価を行うには、機械学習に必要な十分な量のデータが必要となります。
アルゴリズムモデルの一例のデータドリブンアトリビューション(DDA)モデルはGoogle広告で利用されています。機械学習を用いて過去のコンバージョンデータをもとに、各接点の貢献度を自動的に調整します。ユーザーの行動パターンを学習することで、より精度の高い分析を提供できるDDAモデルは、多くのデータが収集されている場合に効果を発揮します。
アトリビューション分析のやり方
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1. 仮説を立てる
顧客がコンバージョンに至るまでの経路を洗い出し、どの広告やメディアが成果に影響を与えているか仮説を立てます。このプロセスは、ユーザーの行動を予測し、効果的な分析を行うための基礎となります。
仮説例
- ユーザーがInstagram広告を見て興味を持つ
- 商品のレビューや比較記事を調べるためにウェブ検索する
- ウェブサイトを訪れたユーザーがメールマガジンに登録する
- メールで特別割引を受け取り購入を決定する
- 最終的にユーザーがECサイトで購入する
2. モデルの選択
仮説に基づいて目的に合ったアトリビューションモデルを選択します。たとえば、新規顧客の獲得に注力する場合にはファーストクリックモデルを選択し、既存顧客のリピート率の向上を目指す場合にはラストクリックを選択するなど適したモデルが異なります。選択するモデルによって得られるデータや施策の方向性が大きく変わるため、慎重に検討する必要があります。
3. ツールを選定する
多様なツールの中から、選択したアトリビューションモデルでの分析ができる最適なツールを選びましょう。以下はアトリビューション分析ができる主なツールです。
- Googleアナリティクス4(GA4)は無料でも利用できるウェブ解析ツールです。イベントベースの計測、複数のOSに対応するクロスプラットフォームのトラッキング、購入や離脱の確率を予測する機能などを備えています。ラストクリックとデータドリブンアトリビューション(DDA)が使用可能です。DDAでは、機械学習アルゴリズムを使用してタッチポイントの貢献度を算出するため、マーケティング施策の効果をリアルタイムで評価しやすくなっています。UTMパラメータを設定することでデータの一貫性を保ち、分析の精度を高めることができます。複数のパラメータを設定できるため、各キャンペーンの投資対効果(ROI)を正確に測定し効率的な予算配分を導き出せます。
- Metaピクセルは、ウェブサイトに設置するコードで主にFacebook広告やInstagram広告の効果を測定します。ウェブサイトでのユーザーの行動を把握して、宣伝の効果を測定できます。
- Google広告は、ラストクリックとデータドリブンのみ利用可能です。サポートが終了したモデルは、GoogleのAIを使用するデータドリブンに移行されていますが、ラストクリックモデルに切り替えることもできます。
4. データ収集と検証
データを収集し仮説を検証します。Googleアナリティクスや広告プラットフォームのデータから各タッチポイントの効果を測定します。たとえば、広告のクリック数、ウェブサイト訪問数、コンバージョン率、各接点からの売り上げなどのデータを収集し、分析を行います。選択したアトリビューションモデルを用いて各チャネルやタッチポイントの貢献度を評価します。この分析により仮説の正確性を確認するとともに、どのマーケティング施策が最も効果的だったのかを明らかにし、今後のマーケティング戦略の精度を高めることができます。

5. 検証結果に基づいて改善を行う
アトリビューション分析は、一度行ったら終わりではありません。市場環境や顧客のニーズは常に変化するため、定期的にデータを分析し、広告の貢献度や予算配分を見直す必要があります。たとえば、効果が高い広告やメディアに予算を再配分し、効果が低い施策は見直すことでマーケティング活動全体の取り組みを最適化します。改善策を実施した後はコンバージョン率の変化などからその効果を再評価します。このようにPDCA(計画、実行、評価、改善)を繰り返すことで、より効果的なマーケティング戦略を構築し、費用対効果の向上を図ることができます。
プラットフォームごとのアトリビューションの違い
Shopifyのレポート、Google広告、Googleアナリティクスなどそれぞれのプラットフォームは顧客のコンバージョンに至る経路を異なる視点で捉えているため、計測結果に差が生じます。各プラットフォームがコンバージョンをどのように評価し、貢献度を割り当てるかを理解しておきましょう。
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- Shopifyのレポート(ストア分析):ラストクリック、ラスト非ダイレクトクリック、ファーストクリックを選択可能で、顧客の購買行動全体を把握するのに役立ちます。
- Google広告:Google広告のトラフィックのみを追跡し、他のプラットフォームでのコンバージョンを重複排除しません。つまり、ユーザーがGoogle広告に一度でも接触していれば、他のチャネルを経由してコンバージョンした場合でも、Google広告が成果としてカウントされます。Google広告のアトリビューションウィンドウは、デフォルトでは、広告をクリックしてから30日以内のアクションをラストクリックで評価します。コンバージョンアクションの種類によっては、サポート対象ネットワークで30日以内に300回以上のコンバージョンと3,000回以上の広告インタラクションが必要な場合があります。
- Googleアナリティクス:データ インポート機能により、他のソースからのデータも分析でき、さまざまなプラットフォームのデータを一元管理できます。すべてのチャネルからのコンバージョンに至るラストタッチポイントに貢献度を割り当て、ダイレクト訪問の場合はラスト非ダイレクトクリックに貢献度を割り当てます。
まとめ
アトリビューション分析は、マーケティング施策がコンバージョンに与える影響を多角的に評価する手法です。近年はユーザーの行動が多様化しているため、コンバージョンに至るまでのあらゆるタッチポイントを分析する必要があります。こうした複雑な状況においては、プライバシーに配慮しながら、適切なアトリビューションモデルで現実に即したデータを収集し、できる限り正確な分析を行うことが重要です。分析結果にもとづき、マーケティング予算を効果的に配分し施策の改善を進めることで、ROIを効率的に引き上げることができます。
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よくある質問
アトリビューション分析に向いているのは?
- 購買プロセスが複雑な商品:高価格帯商品や専門性の高いIT製品や金融商品などでは、顧客が広告、検索、レビューなどを経由して購買に至ることが一般的なため、複数のタッチポイントを分析できるアトリビューション分析が向いています。また、サブスクリプションサービスのように購入または契約に至るまでに顧客が複数のステップを踏む必要がある商品やサービスにも有効です。
- マルチチャネルでプロモーションを展開する場合:ウェブ広告やコンテンツマーケティング(ブログ、動画など)をマルチチャネルでプロモーション展開する場合もアトリビューション分析は有効です。どのチャネルやコンテンツが購買に結びついているかを把握し、効果的なマーケティング戦略を立案することができます。
- 新しいターゲット層へのアプローチ方法を検討する場合:アトリビューション分析は、新しいブランドや商品の認知度向上を目指すキャンペーンの評価にも適しています。特に、商品やサービスの認知度が低い潜在顧客層へのアプローチ効果を測定する際に有効です。一般的なキーワードを使った検索広告や、新規顧客の開拓を目的とした広告配信の効果測定に活用されています。
アトリビューションモデルを選択する上で大切なことは?
アトリビューションモデルを選択する際は、一つの手法に固執せず、その商品の特性やマーケティングの目的に合わせて複数の評価方法を使うことが大切です。異なる角度から効果を測定することで、マーケティング活動の全体的な成果がより明確に見えてきます。選んだモデルを別のアトリビューションモデルに切り替えて、キャンペーンがコンバージョンにどのような変化をもたらすのかを試してみるのもいいでしょう。
文:Asami Miyamoto イラスト:Jarred Briggs