経営者であれば、誰でも事業の浮き沈みを経験します。帝国データバンクの2024年12月の倒産集計によると、倒産数は3年連続で増加しており、特に小規模事業者に多いという結果が出ています。赤字経営になってしまったからといって、回復が見込めないわけではありません。
この記事では、赤字経営に陥る一般的な原因と、赤字回復への具体的な対策について、手順をおって解説します。起業したもののの、業績不振に悩んでいる、赤字からの脱却方法がわからないという方は参考にしてください。
赤字経営を立て直すための14のステップ
1. 成長マインドセットを身につける
成長マインドセットとは、努力することで能力が向上するとする考え方のことです。成長マインドセットを身につけられると、逆境は成長の機会であると捉えられ、前向きに行動できるようになります。
成長マインドセットを身につける方法は次のとおりです。
- 失敗から学ぶ:失敗からは多くの学びを得ることができます。あなたのビジネスで何が起きたのかを冷静に見つめ、次はどうしたらいいのかを考えましょう。
- 柔軟にかまえる:何もかもが計画通りに進むことは、ほとんどありません。想定外のことにも臨機応変に対応できるようにしましょう。
- 自分を大切にする:自分のための時間をつくりましょう。身を粉にして一生懸命働くことはできますが、心も体もボロボロになり、やめたくなってしまっては元も子もありません。
2. 目標を明確にする
適切な目標を設定して、その目標に向かって行動することで、成果につなげることができます。明確な目標設定ができると、モチベーションの維持に役立つだけでなく、やるべきことへの集中力の向上や自信を取り戻すことにもつながります。
大きな目標に辿り着くためのステップとして、小さな目標を細かく設定するのがおすすめです。たとえば「メルマガの登録者数」をKPIとし、200人の獲得を目標とする場合、次のように小さな目標を設定できます。
- 無料のメールマーケティングソフトに登録する
- メルマガ登録用のランディングページを作成する
- メルマガキャンペーンを作成する
- ウェブサイトやSNSでメルマガを宣伝する
小さな目標を達成するたびに自分をほめて、着実に成果を積み重ねていきましょう。
3. 顧客が離れる理由を知る
顧客からの否定的なレビューや意見がある場合、顧客が離れる原因を特定できる可能性があります。考えられる原因としては、次のようなものがあります。
- カスタマーサービスに不満がある
- 製品が期待に応えていない
- 価値が明確でない
- 過度に攻撃的な販売戦術
既存顧客からのフィードバックを得るためには、SEA購入後調査やNPS購入後アンケート、AsklayerなどのShopifyアプリの活用がおすすめです。収集したデータと意見を元に、製品とマーケティング戦略を改善し、売上向上を目指しましょう。
4. ターゲットを特定して、ペルソナを設定する
現状把握の延長として、ターゲットを特定しましょう。ターゲットは、マーケティングや広告活動の対象となる人のグループのことです。ターゲットを特定することで、新規顧客を開拓しやすくなり、より質の高い見込み客をウェブサイトに呼び込むことができます。
あなたの商品を買ってくれるのは、どんな人でしょうか?既存の顧客のプロフィールを分析して、どういった層の人が買ってくれているのかをまとめてみましょう。競合分析を行い、競合他社の顧客について知ることも重要です。
ターゲットの特定に加えて、ペルソナ設定も効果的です。ペルソナとは、架空のユーザー像です。ターゲットがユーザーを層でとらえるのに対して、ペルソナはユーザーを個人としてとらえます。市場調査や顧客のデータに基づいて、性別、年代、職業、収入、居住地や家族構成、性格まで細かく設定し、架空のユーザーを作りあげましょう。リアリティを持ってユーザーのライフスタイルを想像できるようになり、具体的な対策を打ちやすくなります。
5. SWOT分析を行う
SWOT分析をとおして客観的にあなたのビジネスを分析し、現状を把握しましょう。SWOT分析は、強み、弱み、機会、脅威という4つの角度からビジネスを検証し、事業の今後の将来性を理解するのに役立ちます。
SWOT分析は大きく内部要因と外部要因に分類できます。
- 内部要因:強みと弱みが該当し、評判やパートナーシップ、知的財産、スタッフなど、自分でコントロールできる要因。
- 外部要因:機会と脅威が該当し、競合他社や経済、市場状況、業界のトレンド、サプライヤーとの関係など、自分でコントロールできない要因。
SWOT分析を行って問題点を特定し、未来を見据えた戦略的計画を立てることができます。
また、以下のようなビジネス分析のフレームワークを活用することも検討してみてください。
- 3C分析:Customer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)をそれぞれ分析します。内部と外部の両面から分析するという点でSWOT分析に似ていますが、3C分析は、自分たちの強みと弱みの分析により重点を置いているのが特徴です。
- 4P分析:Product(商品・製品)、Price(価格)、Place(立地・流通)、Promotion(広報・宣伝)を分析します。製品やサービスの販売促進を目指すときに有効です。
- PEST分析:Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会環境)、Technology(技術)の4つの要素を分析します。自社ではコントロールできない外部環境が自社に与える影響に特化した分析です。市場調査や、将来の予測に役立ちます。
6. 財務状況を把握する
赤字を黒字に転換させるには、収入と支出を見直し、キャッシュフローを確認し、財務状況を正確に把握する必要があります。一口に赤字といっても、収入が少なすぎるのか、支出が多すぎるのか、その両方なのかで、対処方法は異なります。業種にもよりますが、現状をタイムリーに把握するには、月単位ではなく、週単位での財務状況の確認をおすすめします。
一般的によくある企業の財務課題は以下のとおりです。
- 自転車操業になっている
- 予算を確保できていない
- 予期せぬ支出が続いている
- 負債が多すぎる
- 税務にしっかりと対応できていない
- プライベートと事業の支出が混在している
- 財務レポートの見落としや報告漏れがある
財務状況を把握し、どんな問題が起きているのかがわかれば、一つひとつ改善していくことができます。収入が足りていないのであれば、収入を増やすために単価をあげる、顧客を増やす、市場を開拓するなど、収入を増やすための対策が考えられます。反対に、支出が多いのであれば、何にお金がかかりすぎているのか、節約できる部分はないか、を検討してみましょう。
7. 資金を調達する
ビジネスプランにおいて、キャッシュフローが回っていない場合は、事業計画書を作成し、外部から資金を調達するという選択肢もあります。
資金の調達方法には次のようなものがあります。
補助金・助成金
各都道府県、地方自治体、公共団体ごとに、さまざまな補助金や助成金、支援制度などが用意されています。利用できる制度がないかどうかを調べてみましょう。
銀行融資
日本を拠点に事業を行っている場合は、日本政策金融公庫から融資を受けられる可能性があります。複数の制度が用意されているので、あなたの事業に適したものがあるかどうか、チェックしてみましょう。外的要因により一時的に業績が悪化してしまった場合は、条件に当てはまれば、セーフティネットとして資金を補填してくれる制度もあります。
また、民間銀行も、保証付き融資やプロパー融資、不動産担保融資など、さまざまな形で融資を行っています。
ビジネスローン
ビジネスローンは、通常の銀行融資よりも金利は高いですが、保証人や担保なしで、スピーディーに借入を行うことができます。
ファクタリング
ファクタリングとは、売掛債権、つまり請求書や注文書等を期日前に買い取ってもらうサービスです。法的には、債権の売買にあたります。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、多くの個人から資金を集めることで、ネット上で資金提供者を募ります。近年注目を集める資金調達の方法のひとつで、赤字で融資を受けられない場合にも活用できます。
8. 戦略を変更する
事業を見直した上で、戦略を変更することも検討してください。ビジネスモデルを消費者への直接販売からBtoB向け卸売販売に切り替えたり、ビジネス名を更新するなどの簡単な変更を加えたりすることもできます。異なる業種への転換やターゲット顧客の見直し、利益率の高いビジネスへの切り替えといった、思い切った戦略変更が必要になることもあるでしょう。
最初は苦境を乗り切るための変更だったとしても、ビジネスの幅を広げてくれるきっかけになることもあります。
9. マーケティング戦略を立案する
ターゲットを絞ってマーケティング戦略を立案し、商品や自社ブランドの認知度を高めましょう。新規顧客獲得を目指せるだけでなく、顧客維持にも役立ちます。
特に、SNSマーケティングは多くの顧客に効率的にアプローチできる方法としても知られており、限られた予算で認知度を高めたい場合にも適しています。以下のプラットフォームを使ったマーケティングがおすすめです。
また、YouTube広告やFacebook広告、TikTok広告、Instagram広告の活用も検討してみましょう。
10. AIを活用して業務の効率化を図る
AIツールを上手に利用すれば、煩雑な作業を効率よく処理でき、業務の効率化が実現します。
Shopify Magic(ショッピファイマジック)は、ストアの構築やマーケティング、顧客サポートなどコマースに特化したAI機能です。たとえば、AIアシスタントのShopify Sidekick(サイドキック)を使えば、配送設定や在庫追跡、フォローアップメールなどのタスクを自動化でき、顧客の興味関心に合ったECサイトのレコメンド機能もあります。
11. オンラインストアを改善する
売れるECサイトのデザインを参考にし、自社サイトの改善を図ります。またShopifyレポートに含まれるベンチマーキング機能を使って、自社ストアと類似ビジネスのパフォーマンスを比較しましょう。常に下位25%に位置している場合には、オンラインストアを改善することをおすすめします。
具体的には以下の方法で改善を試みることができます。
- モバイル最適化:世界のEコマース売上の 60% がモバイル端末で発生しています。スマホやタブレットで閲覧・購入がしやすいサイトかを確認し、改善しましょう。
- サイトスピード改善:サイトの読み込み時間が遅いと、ユーザーの離脱の原因にもなります。不要なアプリを減らす、画像を最適化する、テーマをアップグレードするといった対策をとり、可能な場合はシステムフォントを使用して、速度維持に努めます。
- SEO対策:検索結果の表示順位が低いと、新規顧客や潜在顧客の目に留まりにくくなります。検索エンジンでの表示順位を上げるためにSEO対策を行い、顧客獲得と売上向上を狙いましょう。
オンラインストアを作ってから時間が経過している、使いにくいと感じる場合には、大幅な変更を加えるサイトリニューアルを行うのも良いでしょう。
12. 運用の効率化を図る
ECサイトの運用効率化や自動化ができるツールを活用して、時間やリソースの有効活用を実現しましょう。
たとえば、Shopify Marketplace Connectを使用すると、自社サイトの商品カタログを更新するとAmazonなどのマーケットプレイスでも同期ができます。これにより反復作業が減り、どのプラットフォームでも商品の一貫性が保たれます。
13. 専門家の助けを借りる
経営コンサルタントや税理士などの専門家の助けを借りることも赤字回復に効果的です。
経営からマーケティング、財務など全てを網羅することは難しく、問題点や改善点を正しく知るためには外部の専門家からの意見も重要です。
経営コンサルタントは、苦戦している企業の問題を診断し、解決策を提案することを専門としています。コンサルタントを選ぶ際には、経歴や実績だけでなく、得意とする業界や費用、口コミなども確認、比較しましょう。
14. すぐに行動に移す
素早い改善を目指すためにも、すぐ行動に移しましょう。赤字が回復に向かうかも、と楽観視し行動に移さずにいると、さらに状況が悪化する可能性があります。問題を先延ばしせず、赤字の立て直し策をすぐに講じて行動することで、経営状態の改善を目指しましょう。
小規模事業者が赤字に陥る一般的な理由4つ
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キャッシュフロー管理が甘い
キャッシュフロー管理がしっかりできておらず、現金の流れが把握できていない、必要な資金の確保が不十分である可能性があります。取引先や支払先が複数ある場合は、入金のタイミングが把握できておらず、赤字に陥るケースも珍しくありません。キャッシュフロー管理を適切に行うことでお金の流れを把握し、資金が不足しそうな場合には、新たな収入源の確保やコストの削減といった戦略を実行することが大切です。
PMF(プロダクトマーケットフィット)が達成できていない
PMFは、市場のニーズにどれだけ応えられているかを表す指標です。期待したほどの需要がない場合は、PMFが不十分であることが考えられます。市場調査の結果を元に、提供するサービスや商品内容を転換したり、新規顧客を開拓したりして調整する必要があります。
競争が激化している
Eコマース市場は競合が多く、類似商品が安く販売されているケースも少なくありません。販売数に着目するあまり、価格競争に陥ってしまうこともあります。しかし、急いで値下げをするのではなく、ビジネスの独自性や付加価値に焦点をあてて、自社の強みを活かした戦略を練ることも重要です。
ビジネスモデルが合っていない
提供している商品やサービスとビジネスモデルが合っていない可能性もあります。その場合は、一時的な解決策ではなく、一からビジネスモデルを見直し、対策を講じる必要があるでしょう。
事業の課題を早期発見する方法3つ
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顧客からのフィードバックを参考にする
顧客のレビューや意見には、ビジネスの問題点を明らかにしてくれるものがあります。否定的なフィードバックは読みたくないかもしれませんが、優れた顧客体験を提供するためにも、否定的な意見を真摯に受け止めて、誠意を持って対応することが重要です。Podiumの調査(英語)によると、レビューに返信することで、消費者の56%が企業に対する意見が変わった、という結果が出ています。
スタッフの士気の変化に敏感になる
スタッフの士気の低下は、商品や顧客への関心が薄れたり、問題発見が遅れたりすることにつながります。士気の低下を感じたり、離職率が高くなったりしている場合は、会話や匿名のアンケートを通じて意見を求めましょう。スタッフの意見を重視していることを伝えられるだけでなく、社内での改善点が見つかることにもなります。
コンバージョン率をチェックする
Dynamic Yield社の調査(英語)によると、世界のEコマース市場において、2023年11月~2024年10月までの平均コンバージョン率は3.37%でした。Shopifyのレポート分析を確認して、ストアの状況を把握しましょう。商品ページのコンバージョン率を改善するなどの対策を実践し、商品に興味を持った人が、より購入しやすくなるように工夫しましょう。
まとめ
事業者が赤字経営に陥る一般的な理由として、キャッシュフロー管理の甘さやPMFの未達成、競争の激化、ビジネスモデルの不適合などが挙げられます。赤字経営に陥ってしまった場合は、現状を正しく把握することが立て直しの第一歩となります。ビジネスを継続するためには、ビジネスモデルやターゲット層の見直し、事業内容のシフトなど、大きな戦略変更を迫られることもあります。
新規顧客を開拓して売上を伸ばしたり、外部から資金調達を行ったりすることは、ビジネスを成長させるうえで必要なステップのひとつです。成長マインドセットを身につけて、赤字経営立て直しを目指しましょう。
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赤字経営立て直しに関するよくある質問
赤字経営でも会社は潰れない?
赤字経営でも会社はすぐには潰れません。しかし、赤字経営は手持ちの資金が減っていることを意味します。資金が減り、事業が継続できなくなってしまうと、倒産することになります。
赤字経営のデメリットは?
赤字経営のデメリットには、融資が受けづらくなることや、取引先からの信用の低下が考えられます。また、倒産の危険も高まります。
事業資金が不足したら何をすべき?
- 原因を特定する
- 収益を増やす方法や経費を削減する方法を探す
- 専門家に相談する
- 事業運営を維持するための資金調達を検討する
文:Masumi Murakami