個人事業主として起業すると、自身のビジネス分野の知識や技術だけではなく、経理や会計の知識も必要になります。これまで経理や会計をやったことがない初心者にとってはとても難しいように感じてしまうこともあるでしょう。そこで、起業したばかりの個人事業主なら知っておきたい経理のやり方や会計の基礎、日々・月次のやることリストを解説します。知っておくと便利な最新のおすすめ会計ソフトもあわせて紹介しますので、個人事業主やフリーランスになりたての方は必見です。
個人事業主の経理で行うこと
個人事業主として経理を自分で行う場合は、日々の帳簿付けから毎月、毎年行うべき作業やその内容を知っておく必要があります。具体的にどのような作業をする必要があるのかを順に紹介します。
個人事業主が開業時に行うこと
ネットショップの開業などで個人事業主として起業する場合、以下の3つの届出が必要です。
- 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届):税務署に提出
- 個人事業税の事業開始等申告書:都道府県に提出
- 青色申告承認申請書:開業届と一緒に税務署に提出
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個人事業の開業・廃業等届出書は、いわゆる開業届のことで、事業開始から1か月以内に管轄の税務署に提出する必要があります。提出方法は、税務署に持参または郵送するか、e-Taxを利用して電子申請することも可能です。
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個人事業税の事業開始等申告書は、都道府県に提出する書類です。提出期限は事業を開始した都道府県によって異なります。東京都の場合、事業開始日から15日以内の申告が求められていますが、義務ではありません。確定申告時に所得情報が都道府県に伝えられるため、提出するかどうかは任意です。
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確定申告の方法には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。白色申告は、記帳が簡単なので初心者でも簡単に帳簿付けができますが、青色申告で受けられる特別控除などのメリットはありません。
白色申告の場合は、税務署に申請書を提出する必要はありません。開業時に青色申告を希望する場合は、開業届と一緒に「青色申告承認申請書」を提出しましょう。初年度は白色申告として、翌年以降に青色申告に変更することも可能です。
青色申告と白色申告の特徴は以下のとおりです。
青色申告
青色申告は、事前に青色申告承認申請書を提出した事業者が行うことのできる申告方法です。
青色申告には次のようなメリットがあります。
- 最大65万円の特別控除が受けられる
- 赤字を最長3年間繰り越しできる
- 家族への給料を経費に計上できる
- 30万円未満の減価償却資産(経年劣化する固定資産)を取得した際、費用を一括で経費にできる(2026年3月31日までの特例)
- 自宅で事業を行っている場合は、事業に使用している割合分の電気代・家賃などの固定費を経費に計上できる
メリットが多い反面、帳簿は複式簿記のため白色申告の簡易簿記(単式簿記)に比べて複雑で、確定申告時の提出書類が多いなど、手続きが複雑というデメリットがあります。
また、青色申告承認申請書は提出期限があり、青色申告を適用したい年の3月15日までに提出する必要があります。たとえば、現在白色申告で、2025年から青色申告に変更したい場合、2025年3月15日までに提出すれば適用されます。
起業した年から青色申告にする場合は、開業のタイミングによって提出期限が異なります。
- 開業が1月1日~1月15日までの場合:3月15日まで
- 開業が1月16日以降の場合:事業開始から2か月以内
白色申告
白色申告は、青色申告をしない事業者が行う申告方法です。次のメリットがあります。
- 事前の手続きが不要
- 簡易簿記(単式簿記)で帳簿付けが簡単
- 自宅で事業を行っている場合は、業務・仕事で利用する部分の割合がおおむね50%超の家事関連費を経費に計上できる
手続きが容易なので経理の知識がない人にも安心の申告方法ですが、青色申告にあるような控除などのメリットは受けられません。
個人事業主が行う日々の経理
帳簿付け
- 白色申告の場合:簡易簿記(単式簿記)と呼ばれる方法で記帳します。単式簿記は家計簿や預金通帳のように、一つの取引でお金の増減の一面のみを記載する方法で、売上や仕入、経費などの項目を記入します。納品書や請求書の控えなどで内容が確認できる取引に関しては、日々の売り上げの合計金額を一括記載できます。
- 青色申告の場合:複式簿記と呼ばれ、一つの取引を原因(借方科目とその金額)と結果(貸方科目とその金額)に振り分ける帳簿の記載方法です。
必ずしも定期的に記帳する必要はありませんが、取引数が増えたり、お金の動きが多かったりする場合、記載漏れの原因になる可能性があります。こまめに帳簿付けを行うことで、収支の金額が合わないといった経理上の問題を防ぐことができるので、日々の記帳が大切です。
請求書発行
取引ごとに請求書を発行する場合、納品時または納品後に請求書を発行します。
また、青色申告と白色申告の両方において、請求書を5年間保管する義務があります。オンラインで請求書を発行する場合は、クラウド上のフォルダにわかりやすく保存しておきましょう。
領収書の保管
領収書は、経費を計上するうえで欠かせない書類です。領収書の提出義務はありませんが、税務署からの問い合わせがあった場合などに提示できるように、整理しておく必要があります。領収書には以下の保管義務期間があることも知っておきましょう。
- 青色申告:7年間(前々年分の事業所得が300万円以下の場合は5年)
- 白色申告:5年間
見積書、納品書の保管
発行した見積書や納品書は証憑(しょうひょう)書類と呼ばれ、取引の証明書となるため、原本を保管しておきます。これらの書類にも保管義務があり、個人事業主は5年間保管しなければなりません。
個人事業主が行う毎月の経理
1か月分の収支の確認
1か月分の取引が漏れなく帳簿に記載されていることを確認します。毎月帳簿の記載内容を確認しておくことで、確定申告時に金額ミスが判明し、1年分の書類を見直すといった作業を防ぐことができます。また、毎月のキャッシュフローもあわせて確認し、利益率は高いか、今後の支払いに必要な金額が十分に確保されているか、売掛金(後払いで代金を回収する取引)が多すぎていないかどうかを確認してください。早めに対策を取り、黒字倒産などのリスクを未然に防ぐことが大切です。
通帳の記帳やオンラインでの残高確認
月末には通帳を記帳したり、オンラインで確認したりして、銀行口座の残高をチェックしましょう。発行した請求書の金額と実際に支払われた金額が一致しているか、帳簿に記載した金額と実際の取引の金額が合っているかなどを確認します。
請求書発行
取引先との取り決めによっては、月末に1か月分の請求書を送る場合があります。その際は、毎月の請求書発行を忘れずに行いましょう。また、取引ごとに請求書を発行している場合は、請求書の送付漏れがないことを確認します。
支払い確認
受領した請求書の支払いを済ませているかどうかを確認しましょう。万が一、支払い漏れがあった場合は、すみやかに支払いを済ませてください。また、支払いを受ける側で、月末払いの場合は、請求書に記載した額が振り込まれていることを確認しましょう。
個人事業主が行う毎年の経理
棚卸し
棚卸しは年末に行います。その年に仕入れた商品の在庫数を数えて、棚卸表に記録する作業です。飲食店やたくさんの商品を扱う小売店などでは毎月棚卸しを行うこともあります。
帳簿の確認
作成した帳簿に間違いがないかどうかを確認します。この帳簿を元に決算書を作成するため、帳簿に間違いがあると決算書にも間違いが生じてしまいます。正確な決算書を作成するためにも、帳簿の確認を忘れずに行いましょう。
青色申告の場合は決算書作成
青色申告を選択した場合には、以下の2つの書類を青色申告決算書として作成します。
- 損益計算書:1月1日から12月31日までの収入や経費をもとに所得を算出した書類
- 貸借対照表(10万円の特別控除の場合を除く):期首(通常1月1日)と期末(通常12月31日)の資産、負債、資本(純資産)をもとに、事業の財政状況示した書類
白色申告の場合は収支内訳書作成
収支内訳書とは、勘定科目ごとに経費や売り上げなどを記載する書類です。簡易簿記(単式簿記)の内容をもとに記載します。
確定申告に必要な書類の準備と提出
確定申告には、青色申告、白色申告とも共通の確定申告書に記入します。この確定申告書以外に、以下の書類が必要となります。
- マイナンバーカード
- マイナンバーカードがない場合:税務署や確定申告会場で申請する場合はマイナンバーが確認できる書類と免許証やパスポートなどの本人確認書類。e-Taxの「ID・パスワード方式」を使う場合は事前に税務署で本人確認を行い、発行されたIDとパスワード方式でログインの必要あり
- 所得証明:青色申告は青色申告決算書、白色申告は収支内訳書
- 銀行口座がわかるもの:還付金の振り込みを受け取るための銀行口座情報
- 控除の証明書類:医療控除や社会保険料控除など控除を受ける場合のみ、明細書などの証明書
原則として毎年、2月16日〜3月15日の間に確定申告を行わなければなりません。申告の内容によって必要な書類が変わるため、早めに確定申告書類を準備しておくと手続きもスムーズで安心です。
従業員がいる場合は年末調整などの手続きも必要
従業員やアルバイトを雇っている個人事業主の場合は、年末調整をして給与支払報告書や源泉徴収票を発行する必要があるので、忘れずに手続きしましょう。
e-Taxとは?
e-Taxとは、毎年の確定申告や納税を自宅のパソコンやスマートフォンから行えるシステムのことです。国税電子申告・納税システムとも呼ばれ、2004年から全国で運用開始となった国税庁のシステムです。e-Taxを使って、オンラインでできる手続きは次のとおりです。
- 所得税、消費税、贈与税、印紙税、酒税などの国税の申告
- 開業届や所得税青色申告承認申請書などの届出や申請
- 源泉徴収票や不動産使用料等の支払調書などの法的調書の作成と提出
- 税金の納付
e-Taxは、国税庁が提供するe-Taxのウェブサイトから利用できますが、e-Tax電子申告に対応した会計ソフトを使えば、入力の手間を省いて確定申告書類もスムーズに作成できます。
エクセルで簡単にできる個人事業主の経理管理
個人事業主の経理作業は、エクセルを使って行えます。経理のためのエクセルシートを自作する場合は、エクセルのノウハウや会計の知識が必要ですが、会計ソフトのウェブサイトなどで個人事業主向けの帳簿のエクセルテンプレートをダウンロードできます。テンプレートを使用すれば、自分で最初からフォーマットを作成する必要がないので、簡単に始められます。
エクセルで個人事業主の経理を行うメリット
- 初期投資や月額が要らない
- データの共有・移行がしやすい
エクセルで個人事業主の経理を行うデメリット
- テンプレートを使わない場合は、自作しなければならない
- エクセルの知識がないと、テンプレートをカスタマイズしにくい
- 法改正があった場合は、自分でテンプレートを修正しなければならない
エクセルや会計の知識があったり、既存のテンプレートを使用したりする場合は、エクセルで容易に経理業務を行えます。自分が使いやすいようにカスタマイズもでき、初期投資も不要です。エクセルを使い慣れていない、経理に詳しくなくて必要な項目がわからない場合は、会計ソフトに頼ると経理業務がスムーズになります。
個人事業主の経理に使える会計ソフトのおすすめ3選
個人事業の経理の初心者にとって、会計ソフトは心強い味方となります。日本でおすすめの会計ソフトは以下の3つです。
- freee:近年注目度が上がっている会計ソフトです。使いやすいインターフェースが特徴で、初めての人でも質問に答える形式で経理から確定申告書類まで作成できます。
- マネーフォワードクラウド確定申告:経理業務を初めて行う人から、簿記の知識のある人まで、幅広い層から人気のある会計ソフトです。1か月の無料トライアルがあります。
- やよいの青色申告オンライン:初年度は無料で使える会計ソフトです。初期費用を抑えたい、ソフトへの投資は内容を試してからにしたい人におすすめです。
個人事業主も経理代行を利用できる
自分で経理業務を行うことに不安があるという人は、個人事業主の経理を代わりに行ってくれる経理代行を利用するのも良いでしょう。経理代行を利用するメリットとデメリット、費用の相場は以下の通りです。
経理代行を利用するメリット
- 経理に割く時間を節約でき、事業に集中できる
- 経理のミスを防げる
- 専門家のアドバイスを受けられる
経理代行を利用するデメリット
- 費用がかかる
- 経理の知識やノウハウを蓄積できない
- 情報漏洩のリスクがある
個人事業主の経理代行の相場
経理代行は、どのような内容を依頼するかで相場が異なります。経理代行の一般的な内容と相場は次のとおりです。
記帳業務
記帳業務とは、帳簿記入や経費計上など、日々の取引に関する業務のことです。経理代行会社によって料金体系が異なります。以下は代表的な料金の目安です。
- 1件あたり:50~100円程度
- 〜100件:1万円程度
- 〜200件:1万5,000円程度
- 〜300件:2万円程度
- 時間制の場合:2,000〜3,000円程度/時間
月額制の場合:1〜3万円
決算書の作成
決算書は、1月1日から12月31日までの売上と経費をまとめて、所得額を算出するものです。決算書の作成を依頼する場合は、事業の規模や依頼する内容量によって料金が異なります。
- 決算書作成:5~20万円程度
まとめ
個人事業主の経理作業は、白色申告か青色申告かによって必要な内容が異なります。自分の事業に必要な経理作業は何かを確認し、正確に行いましょう。帳簿の作成には、エクセルのテンプレートや会計ソフトを活用することで、より簡単に作業を行うこともできるので、自分に合った方法を見つけて計画的に経理作業を進めていきましょう。
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よくある質問
個人事業主の経理作業でおすすめのアプリは?
個人事業主の経理作業でおすすめのアプリは以下の3つです。
- freee
- マネーフォワードクラウド確定申告
- やよいの青色申告オンライン
これらのアプリは「クラウド会計ソフト」のアプリ版です。アプリで表示されるデータにブラウザからもアクセス可能です。
会計ソフトは個人事業主の経理に必要?
会計ソフトがなくても個人事業主の経理はできます。会計の知識がある人やエクセルに慣れている人は、エクセルで帳簿管理をすることも可能です。個人事業を始めたばかりの人や、経理初心者の人は、会計ソフトを使うと経理をスムーズに行えます。
個人事業主でも経費を計上できる?
個人事業主も経費を計上できます。経費に計上できるものは青色申告、白色申告で異なります。
文:Momo Hidaka