ビジネス業界で使用されている「ピッチ」とは、限られた時間でアイデアやビジネスプランを効果的に伝えるプレゼンテーションの一種です。特にアントレプレナーが投資家に事業計画について説明する場合など、短時間で相手の関心を引き、理解と共感を得ることが求められる場面で用いられます。
本記事では、プレゼンテーションとの違いや、説得力のあるピッチを作るための5つのコツを紹介します。
ピッチとは
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ピッチとは、事業主や起業家が創業時や起業の際に、投資家に向けて行う短時間のプレゼンテーションのことです。ピッチは英語の「Pitch」に由来し、「売り込む」や「飛び込む」といった意味があります。ビジネスでは、短時間でアイデアやビジネスプランを伝えるプレゼンテーションを意味し、特に起業家が投資家に事業計画を説明する際に使われます。
ピッチの目的は、相手の関心を引き、理解と共感を得ることです。そのため、情報を簡潔にまとめ、価値を強調することが重要です。代表的なものにエレベーターピッチ(30秒~2分で要点を伝える)やインベスターピッチ(投資家向けプレゼン)があり、短時間で相手を惹きつける場面で用いられます。
複数のピッチがトーナメント形式などで争われ、入賞者に賞金が授与されるようなピッチイベントも存在します。
ピッチとプレゼンテーションの違い
ピッチとプレゼンテーションは、情報を伝える手段としての共通点がありますが、目的・時間・対象に違いがあります。ピッチは、短時間で要点を簡潔に伝え、相手の関心を引き、迅速な意思決定を促すことを目的としています。例えば、スタートアップ企業が投資家に対して行う数分間の事業紹介が典型的で、長くても20分程度が理想的です。一方で、プレゼンテーションは、より長い時間をかけて詳細な情報を提示し、聞き手の理解を深めることを目的としており、状況に応じて60~90分程度行われることもあります。社内会議や顧客向けの製品説明などがこれに当たります。
ピッチは初対面の相手や不特定多数に向けて行われることが多く、プレゼンテーションは特定の顧客や社内メンバーに対して行われることが一般的です。
ピッチを作るときのコツ5つ
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1. 目的意識
ピッチは単なる情報共有ではなく、聞き手に特定の行動を促すためのものです。目的を明確にし、それに沿った構成を心がけましょう。社内プレゼンであれば、「なぜ今この提案が会社に必要なのか」を最初に伝えると共感を得やすくなります。
目的が明確でないピッチは、聞き手がどう行動につなげればよいかわからず、印象に残りにくくなります。
2. 簡潔でインパクトのあるメッセージ
ピッチでは、短時間で要点を伝える必要があるため、できるだけシンプルにまとめましょう。専門用語や複雑な説明を避け、誰にでも伝わる表現を使うことが重要です。例えば、技術系のサービスを紹介する場合、「独自のアルゴリズムを活用した画期的なソリューション」よりも、「AIを使って作業時間を50%削減するツール」と言えば直感的に理解しやすくなります。シンプルな言葉ほど、相手に響きやすくなります。
3. 根拠の明示
ピッチの内容に説得力を持たせるには、データや実績を活用しましょう。「市場が拡大している」よりも「2024年の市場規模は前年比20%増」と述べた方が納得感が高くなります。ユーザーの成功事例を加えるのも効果的です。「導入企業の生産性が30%向上」という具体的な数字を示すことで、聞き手は「本当に効果がある」と感じやすくなります。信頼できる根拠を示すことができれば、相手の行動を後押しできます。
4. オリジナリティ
聞き手の記憶に残るピッチにするには、独自の要素を加えることが重要です。例えば、創業の背景やブランドストーリーを盛り込むと、プロジェクトに対する熱意が伝わり、共感を呼びやすくなります。「このアイデアは自分の実体験から生まれた」と話せば、聞き手にストーリーとして覚えてもらいやすくなるでしょう。
5. 競合との差別化
ピッチでは、競合との差別化を明確に示すことが重要です。「競合と比較してサービスがどう違うのか?」を説明できなければ、投資家や顧客の関心を引くのは難しくなります。価格で勝負するのか、機能に優位性があるのか、顧客サポートが手厚いのかなど、具体的な強みを強調しましょう。
ピッチデックとは
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ピッチデックとは、企業が自社のビジネスモデルや戦略、ビジョンを効果的に伝えるための10~20枚程度のスライド資料です。投資家や顧客などに、短時間で自社の価値や強みを理解してもらうことが目的です。そのため、多くのピッチデックは、大きなフォントを使用して、数字やグラフを差し込んで作られています。
ピッチデックには、製品・サービスの概要、解決すべき課題、市場規模、競合分析、ビジネスモデル、チーム紹介などが含まれます。効果的なピッチデックを作成することで、ビジネスの魅力を的確に伝え、資金調達やビジネスチャンスの獲得につなげることができます。
ピッチデックの構成
1. 表紙
どのようなビジネス資料にも表紙は必要です。会社名やロゴ、キャッチコピーなどを記載しましょう。一目で自社の特徴や魅力が伝わるように、シンプルで視覚的にわかりやすいデザインにすることが重要です。また、相手の関心を引くために、インパクトのあるタイトルやビジュアルを活用すると効果的です。
2. 簡単な自社説明
短く端的に自社を紹介します。論文でいうところの、冒頭の要約部分に当たります。事業内容やミッションを簡潔にまとめて、どういった価値を提供しているかを伝えましょう。専門用語を避け、シンプルな言葉で伝えることが重要です。短時間で印象に残せるように、ポイントを絞って紹介すると効果的です。
3. 課題
市場や顧客が直面している具体的な問題を端的に説明します。なぜその問題を解決すべきなのかを、データや事例を交えて示すと説得力が増します。また、問題が未解決のままの場合にどういった影響があるかを伝えることで、課題の重要性を明確にすることができます。
4. 課題を解決する自社のビジネス・製品
自社の製品やビジネスモデルがどのように前述の課題を解決できるかを説明します。サービスの特徴や仕組みをわかりやすく伝えることが重要です。特に、他にはない独自の価値や、顧客にとってのメリットを強調すると、相手の関心を引きやすくなります。
5. 市場規模
市場全体の規模や成長性をデータで示します。市場全体の規模だけでなく、自社のビジネスが狙っている具体的な市場の大きさを示すことで、より現実的なビジネスチャンスを伝えることができます。
6. トラクション
ユーザー数、年間収益率、利益率などの情報を用いて、これまでの実績や現状を共有します。売上やユーザー数、契約件数などの具体的な数値を提示することで、事業の成長性や信頼性をアピールできます。
7. 競合
競合他社、あるいは競合製品などから市場での位置づけを説明します。競合分析を行うことで、自社のポジションや強みが伝わりやすくなります。また、競合との差別化ポイントを示すことで、市場における優位性をどのように確立していくのかを明示することが可能です。
8. 自社の強み
競合と比較した自社の強みについて説明します。技術力、コスト、サービスの利便性など、他社にはない独自の価値を強調することが重要です。
9. 収益・資金調達計画
事業の収益モデル、売上見込み、コスト構造を明確に示します。具体的な収益源や価格設定、KPIについて説明し、利益を生み出せる可能性を伝えます。また、必要な資金、資金の用途、調達方法(投資・融資など)を記載し、成長に向けた計画性を示すことが重要です。
10. 創業者もしくは経営陣・チームの紹介
創業者、あるいは共同創業者、経営陣、チームの紹介をします。創業に至った強い動機、ストーリーや該当分野における専門性をアピールし、オリジナリティを出すと良いでしょう。
11. 連絡先
ピッチを行った起業家や創業者など、ピッチを通して興味を持った人たちが連絡できる連絡先を記載します。
国内外で開催されているピッチイベント
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ピッチイベントとは、企業や個人が投資家や関係者に向けて短時間で事業内容をプレゼンし、ビジネスの資金調達や協業の機会を得る場です。資金調達だけでなく、0円起業や学生起業などの発表を通して、さまざまなアイデアに出会うことができるでしょう。以下に、国内外のピッチイベントの紹介をします。
Morning Pitch
Morning Pitch(モーニングピッチ)は、毎週木曜日の午前7時に開催されているベンチャー企業と大企業の事業提携を促進するためのピッチイベントです。毎回5社のベンチャー企業が大企業や投資家に対してプレゼンテーションを行います。2013年の開始以来、計2,600社以上が登壇し、多くの企業が資金調達や事業提携を実現しています。
Keidanren Innovation Crossing
Keidanren Innovation Crossing(経団連イノベーションクロッシング)は、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が主催する、スタートアップと大企業の連携を促進するためのネットワーキングイベントです。2019年10月から定期的に開催されており、これまでに延べ300社以上のスタートアップが登壇しています。同イベントでは、スタートアップ企業が自社のビジネスや技術を大企業の経営者や担当者に紹介し、積極的な交流が行われています。
スタートアップワールドカップ
スタートアップワールドカップは、アメリカのペガサス・テック・ベンチャーズが主催する世界最大級のピッチコンテストです。世界各国で予選が行われており、世界大会の優勝者には賞金として約1億5千万円が授与されます。東京大会では、東京都知事やデジタル大臣が参加する予定で、注目を集めています。
Slush
Slush(スラッシュ)は、フィンランド・ヘルシンキで毎年開催される世界最大級のスタートアップイベントです。2008年に始まり、現在では世界中からスタートアップ企業、投資家、大手企業、メディアなど世界中から数万人もの参加者が集まります。同イベントでは、スタートアップ企業によるピッチコンテスト「Slush 100」や、投資家との個別商談、カンファレンスなどが行われています。
まとめ
ピッチは、短時間で要点を的確に伝え、相手の関心を引くプレゼンテーションの一形態です。効果的なピッチを行うには、明確な目的意識、簡潔でインパクトのあるメッセージ、信頼できる根拠、独自性、そして競合との差別化が欠かせません。起業家として活動していくなかで、未知のことに直面することも多いと思いますが、ピッチイベントなどに参加することで起業に必要なアイデアを得ることもできるでしょう。本記事のポイントを押さえて、自社の強みを最大限に活かしたピッチを作成しましょう。
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よくある質問
ピッチとは?
ピッチとは、主にスタートアップ業界で行われる短く端的なプレゼンテーションのことで、資金を調達する目的で行なわれます。英単語のpitchから来ており、音楽の文脈では「音程」、その他にも「(的などに向かって)投げる」 「売り込む」などの意味があります。
ピッチデックとは?
ピッチデックとは、企業が自社のビジネスモデルや戦略、ビジョンを効果的に伝えるために使用する10~20枚程度のスライド資料です。投資家や顧客などに対して短時間で端的にアピールし、関心を持ってもらうことが目的です。
エレベーターピッチとは?
エレベーターピッチは、15~30秒ほどの短く限られた時間の中で、要点を端的に伝える手法です。短時間でプレゼンを行うため、伝える内容や順番が整理されており、簡潔でわかりやすいという特徴があります。
文:Ryotetsu