限られた時間の中で、自分の事業やプロジェクトの魅力を的確に伝えることは簡単ではありません。簡潔に印象に残る説明をするためには、言葉の選び方や表現方法が重要になります。
そこで活用したいのがエレベーターピッチです。これは、聞き手の興味を引きつけ、共感を得ることを目的としたプレゼン技術のひとつです。
この記事では、8つの簡単なステップで説得力のあるエレベーターピッチを作る方法を紹介します。すぐに使えるテンプレートと具体例も紹介していますので、資金調達をしたいアントレプレナーや新規顧客を獲得したい営業担当者などはぜひ活用してください。
エレベーターピッチとは?
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エレベーターピッチとは、文字通りエレベーターに乗っている間、つまり15~30秒という短い時間内に自分自身やビジネスの魅力を簡潔に伝える手法です。
エレベーターという名称は、シリコンバレーの起業家がエレベーターに乗っている数十秒の間に、乗り合わせた投資家の関心を引くプレゼンをしたのが由来と言われています。
短時間でプレゼンを行うため、伝える内容や順番を整理し、簡潔にわかりやすく話す必要があります。営業活動だけでなく、自己アピールなどにも活用できるスキルで、以下のようなシーンで活用できます。
- 潜在的な顧客や投資家などの興味を引く必要があるとき
- アイデアを売り込みたいとき
- イベントで商品を販売するとき
- コピーライティングやパーソナルブランディングの参考として
- ネットワーキングイベントや就活、キャリアフェアでの自己PRとして
- 社内で新しいプロジェクトを提案するとき
エレベーターピッチの適切な長さ
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エレベーターピッチの長さは、その名前の通り「エレベーターに乗っている間に話せる長さ」が目安で、時間は約30秒、文字数で言うと250文字程度にまとめるのが理想的です。
相手に興味を持ってもらえれば、その後より詳しい説明をする機会は十分にあるため、エレベーターピッチ自体は概要にとどめ、相手に「もっと知りたい」と思わせることを意識しましょう。
エレベーターピッチの作り方
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製品やサービスを魅力的に伝えたい営業担当者、投資家を引きつけたい起業家など、立場によってエレベーターピッチの目的は違いますが、基本的な要素は同じです。以下のポイントを押さえて、魅力的なエレベーターピッチを作りましょう。
1. つかみを作る
ビジネスイベントなどでは、最初の一言で相手の興味を引くことがカギとなります。聞き手との関係や状況に応じたつかみを作りましょう。
注意喚起、問題点の指摘、解決策の提示、未来像の視覚化、アクション提起という5段階で展開する有名なスピーチ術の「アラン・モンローの説得法」では、まず注意喚起することを推奨しています。例えば、「この問題を抱えている人は◯%もいます」といった統計を提示したり、「こういう不便、誰でも経験ありますよね?」などと共感を呼ぶ言葉を投げかけたりすると興味を持ってもらいやすくなります。
また、会社名を最初に伝えることで、相手の記憶に残りやすくすることもできます。事業内容だけ説明して社名を言い忘れてしまう人も少なからずいるため、早い段階で会社名を伝えるようにします。
つかみが決まり文句のような形式的なものにならないよう、相手に応じて柔軟にアプローチを変えましょう。
2. 自己紹介する
次に、自分が誰なのか、どういう目的で自分が話しているのかを説明するパートを作りましょう。「XYZファスナーの取締役です」や「ABCコスメティックスで営業をしています」というような感じです。
最初に名前と立場を伝えることで、相手はこれからどのような話が展開されるのかをすぐに理解できます。
3. 「何を」「なぜ」「どのように」行うのか説明する
自己紹介に続いて、自分が何を提案したいのか説明します。最初の2〜3文で、相手が以下のことを理解できるようにしましょう。
- 話し手の職務・経歴・専門分野
- 事業のミッションやビジネスモデル
- 提供する製品やサービスの概要
4. 誰に向けたものなのかを伝える
ターゲットとなる市場を明確にし、「その製品やサービスがなぜ必要なのか」を伝えます。
データや口コミなどを織り交ぜて製品やサービスに需要があることを示すことで、聞き手に興味を持ってもらいやすくなります。以下の観点から、聞き手がイメージしやすい説明を考えましょう。
- 特定の課題を解決できる(例:長時間座っても疲れにくい椅子)
- 価値や情熱を提供できる(例:犬好きのためのTシャツブランド)
- 市場の新たな機会を生み出せる(例:より手軽にデータ管理できるソフトウェア)
- 時間やコストの削減になる(例:食費を節約できるアプリ)
5. 目標を伝える
エレベーターピッチで達成したい目標を、「弊社では、従業員の生産性を25%以上アップさせるシステムを開発中です」「次のコレクションに向けて、資金の調達先を探しています」のように明確に伝えましょう。
自分や自社をアピールできる理由も含めると、より説得力を持って相手の行動に訴えかけることができるでしょう。
6. 競合との差別化ポイントを加える
競合分析を行って自社の強みを見つけ、それを伝えることも大切です。特に、業界や市場に詳しい相手に対しては、市場環境を踏まえた差別化ポイントを伝えると効果的です。
このとき、必ずしも特定の会社を名指しする必要はありません。業界の一般的な慣習や、現在の市場の動向を例に挙げるだけでも十分です。この際、具体的なポイントを簡潔に伝えるようにします。
7. 具体的な行動を提案する
興味を持ってもらうことができたら、それを具体的な行動につなげる必要があります。エレベーターピッチの最後は、相手に合わせた適切な提案で締めくくりましょう。
聞き手への行動喚起として、以下のようなものが考えられます。
- 名刺を渡し、情報交換の機会を作る(Shopifyの無料名刺作成ツールを活用するのもよいでしょう)
- 商品のサンプルを送付し、実際に試してもらう
- SNSでつながり、具体的な話を進める
- 自分の情報を相手のネットワークで共有してもらう
8. 繰り返し練習する
エレベーターピッチは、一度作っただけでは完璧になりません。話すスピードや抑揚にも気をつけながら、鏡の前、エレベーターの中、友達や家族の前で何度も練習し、自分のものにすることが大切です。
特に、自分の声を録音して聞き返してみると改善点が見つかりやすくなります。文章や構成を修正し、より伝わりやすい内容や話し方になるようにしましょう。
また、実際に人前で話すときは、相手の反応を観察することも重要です。興味を持ってもらえているか、理解しているかを確認しながら、必要に応じて微調整していきましょう。
エレベーターピッチの作成例と無料テンプレート
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テンプレートの使用は初心者におすすめですが、できる限り自分らしさも取り入れることが重要です。以下に、重要なポイントを押さえられるテンプレートと具体例をご紹介します。
基本のエレベーターピッチ
初対面のビジネスシーン、あるいはイベントで、自社や自分自身の強みを相手に端的に伝えるためのフォーマットです。内容はシンプルながら、必要な情報を網羅でき、状況に応じて項目の追加・削除が容易です。
基本のエレベーターピッチのテンプレート
【つかみ】【自己紹介】
初めまして。私は[会社名]の[氏名/役職]です。
【提供内容】
当社は[ターゲット市場]向けに[製品/サービス]を提供し、[価値提案]を実現しております。
【差別化】
[競合他社]とは異なり、当社は[差別化ポイント]に強みがあります。また、[最近の実績]を達成いたしました。
【行動喚起】
ぜひ[次のアクション(お問い合わせ、無料トライアル、資料請求など)]をご確認ください。
基本のエレベーターピッチの例
初めまして。私は株式会社ABCの営業部長、佐藤一郎です。
当社は、中小企業向けに業務効率化システムを提供し、作業時間の大幅短縮とコスト削減を実現しております。
主要競合と比べ、カスタマイズ性に優れ、導入後3ヶ月で平均20%の業務改善効果を上げております。
詳細につきましては、ぜひ弊社ウェブサイトの無料デモをご覧いただければと思います。
ストーリー型のエレベーターピッチ
ストーリー型エレベーターピッチは、物語を通して聞き手に共感してもらうアプローチです。実体験や成功事例を基にした売り込みは、信頼してもらいやすい傾向があります。自社製品が、多くの人が感じる共通の悩みを解決するものであれば、この手法は非常に効果的です。
ストーリー型エレベーターピッチのテンプレート
【つかみ】【誰に向けたものか】
[事例となるターゲット]は、[課題]に頭を悩ませていました。
【自己紹介】【提供内容】
そこで、[会社名]の[製品/サービス]を導入したところ、[どのように課題が解決されたか]改善しました。
【差別化】
弊社の[解決策]には[差別化ポイント]があるため、[事例となるターゲット]は[具体的な利点]を実現しています。
【行動喚起】
かかった費用などは[次のアクション]でご覧いただけます。
ストーリー型エレベーターピッチの例
日本料理店『和の味 彩』の店主、山本さんは、集客に頭を悩ませていました。毎月、固定客が減少し経営が厳しくなる中、SNSでのプロモーションが必要だと感じながらも、どう始めたらよいかわからなかったのです。
そこで、弊社DEF株式会社のSNSマーケティング支援サービス『SmartSNS』を導入したところ、わずか1ヶ月でInstagramフォロワー数が40%増加し、若年層の来店が大幅に増加しました。
弊社の『SmartSNS』は従来サービスと異なり定期的なマーケティングをサポートするため、キャンペーンを重ねるごとに売上拡大につながっています。
プラン料金や事例ごとのコストなどはこちらの資料でご覧いただけますので、ぜひご覧ください。
問題解決型
問題解決型のエレベーターピッチは、聞き手が直面している具体的な問題に焦点を当て、その解決策として自社製品やサービスのメリットを強調する方法です。冒頭に疑問を投げかけることで、相手の関心を引き、共感を得やすくなります。
問題解決型エレベーターピッチのテンプレート
【つかみ】【問題提起】
[共感できる状況/課題]を経験されたことはありませんか?
【解決策の提示】
[会社名]は、[ターゲット市場]向けに[製品/サービス]を提供し、[具体的な利点]を実現しています。
【差別化】
[既存の選択肢/競合他社]とは異なり、[自社の製品/サービス]は[差別化ポイント]が明確です。
【行動喚起】
ぜひ[次のアクション]をご確認ください。
問題解決型エレベーターピッチの例
深夜、ベッドに入ってようやく眠ろうとした矢先、照明を消すためにまたベッドから立ち上がる、なんていう経験はありませんか?
株式会社ライトテックは、スマートホーム向けに『BrightLight』という照明管理システムを提供しております。
BrightLightは、専用のスマートフォンアプリで家中の照明を自由に操作できる上、一般的なスマート電球と比べ、最大30%の省エネ効果を実現しています。
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エレベーターピッチをうまく作るコツ
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基本のテンプレートをさらに効果的なエレベーターピッチにするにはいくつかポイントがあります。
1. ソーシャルプルーフを活用する
有名企業との取引実績や、著名人のクライアント、投資家の存在、インフルエンサーからの支持などといった社会的信用のことを、ソーシャルプルーフ(社会的証明)といいます。これを活用して自分のアイデアがすでに大きな支持を得ていることを伝えると、相手も興味を持ちやすくなります。
エレベーターピッチでソーシャルプルーフを活用する方法には、以下のようなものがあります。
- これまでの取引企業数を具体的に伝える
- 著名なクライアントを2、3社紹介する
- 事業を推薦してくれている会社名を挙げる
エレベーターピッチは30秒が目安ですので、推薦文などを読み上げる時間はありませんが、有名企業の名前を1つ出すだけでも、大きな効果が期待できます。
2. 具体的な数字で説得力を高める
専門性や実績を示すことで、アイデアの説得力が格段に上がります。これまでの販売数や資金調達額、顧客獲得の伸び率といった重要な数字を入れ込み、自信を持って製品について語ることで、エレベーターピッチの信頼性も大きく向上します。
3. たとえ話を使って製品を説明する
新しい概念や複雑なサービスなどを、身近な例を使って説明したり、何か比較する対象を作ったりするのも有効です。
例えば、映画「エイリアン」の脚本家は「エイリアンは宇宙版『ジョーズ』」という説明で、たちまち関係者の興味を引くことに成功しました。短いフレーズで、「謎の存在によって次々と仲間が殺されていく、宇宙空間を舞台にしたホラー映画」というコンセプトが伝わったのです。
自分や自社製品を数語で理解してもらうにはどのようなたとえや例が使えるか、考えてみましょう。
4. ストーリーで伝える
物語は、聞く人の心に響き共感を呼ぶ強力なツールです。物語を語る際の基本は、最初と最後に大きなギャップを作ることです。平凡な状況や危機的状況から、どのように成功に至ったかを伝えると効果的でしょう。
語り手自身が深く関わっている内容であれば、成功までの経緯や問題解決に対する情熱がより強く相手に伝わり、関心や共感を得ることができます。
5. 聞きやすい言葉を選ぶ
韻やリズムを取り入れると言葉が滑らかに流れ、記憶に残りやすくなります。聞いていて心地よい表現は、エレベーターピッチにオリジナリティと、他の人に真似できない魅力を与えます。
6. 動画を活用する
動画を活用したエレベーターピッチは現代ならではの手法です。動画なら、聞き手に直接語りかけ、情熱や興奮を伝えることができ、オンラインでも効果的なプレゼンテーションが可能です。例えば、自社ウェブサイトや各種SNSにエレベーターピッチを投稿しておくと、投資家などのターゲットに目にしてもらいやすくなります。
対面でのエレベーターピッチと基本は同じですが、動画の場合は30〜60秒程度の余裕を持たせてもよいでしょう。熱意と情熱を伝え、自分が何を解決できるのか、そしてその理由を数字で示しましょう。
7. 会話のきっかけを準備する
会話の切り出し方を工夫しましょう。イベントや面接の場で積極的に交流し、さまざまな人と会話が始められるようにしておくことで、自分の提案や商品に興味を持ってもらえる可能性が高まります。
- こういうイベントに参加されるのは初めてですか?
- 今日のイベントで特に印象に残った講演はありましたか?
- 今の会社ではどのくらい働いているんですか?
- どんなお仕事をされているのですか?
- このイベントに参加しようと思ったきっかけは?
イベントについてのごく基本的な質問から会話を始めてみましょう。もし相手のことをよく知っている場合は、その人の実績や仕事ぶりに感銘をうけたことを伝えてもいいでしょう。
会話が形式的にならないよう、話の切り出し方は適宜変えていきます。
まとめ
エレベーターピッチは、自分の会社を紹介するとき、商品を売り込むとき、あるいは就職活動の面接など、それぞれの場面で有効です。ポイントは、出だしを工夫して相手の興味を引く、たとえ話や具体例、数字を効果的に使う、繰り返し練習することです。
今回紹介した手順と無料のテンプレートや例を参考にしてエレベーターピッチを作成し、実際の場面でしっかりとアピールできるように練習してみましょう。
よくある質問
エレベーターピッチの例は?
初めまして。私は株式会社ABCの営業部長、佐藤一郎です。
当社は、中小企業向けに業務効率化システムを提供し、作業時間の大幅短縮とコスト削減を実現しております。
主要競合と比べ、カスタマイズ性に優れ、導入後3ヶ月で平均20%の業務改善効果を上げております。
詳細につきましては、ぜひ弊社ウェブサイトの無料デモをご覧いただければと思います。
エレベーターピッチで気をつけることは?
- 十分に練習・準備し、リハーサルを重ねる
- 話す相手のことをよく理解する
- 最後に具体的な行動を提案して締めくくる
- 自己紹介だけで終わらせない
エレベーターピッチをうまく作るコツは?
- ソーシャルプルーフを活用する
- 具体的な数字で説得力を高める
- たとえ話を使って製品を説明する
- ストーリー(物語)で伝える
- 聞きやすい言葉を選ぶ
- 動画を活用する
- 会話のきっかけを準備する
文:Yoshiaki S. Ikeda