トートバッグやキャンドルなどのハンドメイド作品を一から手作りしたことがある人たちは、一度は地元のフリーマーケットやオンライン販売サイトを通じて商品として販売したいと考えたことがあるのではないでしょうか?しかし、好きで始めた趣味を継続することと、ビジネスとして成り立たせることには大きな隔たりがあります。
この記事では、趣味を活かして起業したい方のために、ビジネスに変えるための手順や趣味から転身した起業家の成功事例を紹介します。趣味に情熱を注いだことがある方はぜひご覧ください。
趣味をビジネスに変える9つのステップ
1. 市場調査を実施する
趣味から始めたビジネスを成功させるには、しっかりと市場調査を行って事前準備をすることが重要です。市場調査には、競合の調査、ターゲット顧客の調査、市場と消費者の動向の調査、ブランドのオリジナリティの模索など、いくつかのステップが含まれます。その調査から得られたデータをもとに、自分が作りたいものと、ビジネスにしていくためのアイデアの妥当性などの現実的な側面をすり合わせながら、実現の可能性を検討する必要があります。
ターゲット顧客のニーズや、競合となるブランドが抱える課題を見出すことで、市場のなかでどんな立ち位置を確立するべきかを決定することができます。具体的には、以下の項目を検討しましょう。
- 競合にないオリジナリティ:すでにターゲット市場で販売を開始しているブランドに立ち向かうには、競合が持っていないオリジナリティを模索する必要があります。競合分析を行って、他社が提供していない価値を探しましょう。
- 販売市場:その市場のパイオニアになれる環境であるのか、または競合が少なく自社ブランドが開拓できるニーズがあるのか、考えてみましょう。競合は少ない方がスモールビジネスでもビジネスを成功させやすくなります。
- 市場のトレンド:これから参入する業界ではどのようなトレンドがあるのか探ることが重要です。ビジネスは顧客がいてこそ成り立つので、移り変わるトレンドにマッチした商品を開発する必要があります。
- 発売のタイミング:最適なタイミングで顧客に興味を持ってもらえるように、販売タイミングも検討する必要があります。例えば、小学生がターゲットであればお年玉がもらえる年始、マフラーや手袋などの気温が関係する商品であれば10月ごろの販売がおすすめです。
2.ビジネスモデルを決定する
商品の性質からどのようなビジネスモデルが適切かを検討しましょう。確認すべき項目は以下の通りです。
- ビジネスを行う場所や方法:販売する商品に合わせて、在宅の仕事で収まるのか、一人で運営するのか、それともビジネス・パートナーと組むのかなど、場所や方法を検討しましょう。ハンドメイドキャンドルのような小さめの商品であれば自宅で行えるかもしれませんが、大きな材料を扱う場合はスタジオをレンタルする必要があります。
- 業務範囲:業務フローや1つの商品にかかる製作時間を考慮して、全体の業務のどの部分を外注したり従業員を雇用したりする必要があるのか、または全て自分で行うのかなどを検討する必要があります。他者を雇用する場合は、業務委託契約なのか雇用契約なのかによって準備や就業規則が異なります。
- 販売商品:完成した形のある商品を販売するのか、それともサービスなどの無形商品を提供するのか、販売商品の形式によってもビジネスモデルは変わります。形のある商品であれば在庫管理、送料や配送ポリシーを決める必要があります。またサービス提供の場合、提供内容の精査や免責事項の設定、会員制であればメンバー管理が必要です。
- 販売場所:オンラインで販売するのか、それとも実店舗で販売するのか、またはその両方なのかを明確にしましょう。オンラインであれば販売サイトの作成、実店舗であればテナント探しと物件の契約が必要です。
ビジネスプランを作成することで、これらの検討事項を整理できるだけではなく、開業までに必要な資金や黒字化までの道筋を明確化するのにも役立ちます。銀行などの外部から融資をしてもらう場合は、詳細に記述することで融資のための事業計画書としても活用できます。また、ビジネスプランの整理がきっかけで、新規事業のアイデアがブラッシュアップされるかもしれません。複数のアイデアを組み合わせて、ブランドに合う販売方法を確立することも可能です。
3.コンセプトを確立させる
趣味をビジネスに移行させる際には、提供する価値やメッセージを明確に伝えるためのブランドコンセプトが必要となります。事業理念、ブランドメッセージ、視覚的なロゴや創業ストーリーなどが商品・サービスに結びつくことで、消費者の印象に残りやすくなります。そしてそのイメージが、ブランド化につながります。
人気のあるブランドを参考にして、ウェブサイト、ロゴデザイン、SNSコンテンツ、商品パッケージなどのブランディングに必要な要素を考えていきましょう。競合が多い市場で商品を販売していたとしても、ターゲットとなる消費者の共感を呼ぶ魅力的なストーリーを語ることができれば、ブランディングによって競合他社と差別化することができます。また、そのようなストーリーはメディアの注目を集め、ブランドの宣伝につなげることも可能です。
4.運営資金の調達方法を決める
ビジネスとして運営していくためには、これまでの趣味よりも専門性を深めて規模を拡大する資金が必要になることがあります。趣味で使用していた機械をアップグレードしたり、消耗品をまとめ買いしたり、自宅の一室を専用のワークスペースに改装したりする必要が出てくるでしょう。
例えば、フィットネスが好きで、その趣味をバーチャル・レッスンに活かしたいと考えているのであれば、照明やカメラ機材にかかる初期費用が想定されます。また、販売サイトの構築、日々の売り上げ計算に使う会計ソフト、バナー広告やYouTube広告などのオンライン宣伝費用も考慮しましょう。これらの準備を行うために、ローンや中小企業向け助成金、クラウドファンディング、場合によっては貯蓄を取り崩して出費に対応する必要が出てくるかもしれません。
ですが一般的に、趣味から起業した場合は基本的な機材や顧客がすでに整っていることが多いので、ビジネスで発生した利益を事業に投資して徐々に成長させる方法が適しています。たとえ資金ゼロで起業したとしても、売上が伸びればその利益で少しずつ設備をアップグレードしたり、マーケティングに投資したりすることが可能です。
5.業務環境を整える
持続可能なビジネスにしていくために、座りやすい椅子や疲労防止マットなどの人間工学に基づいた環境整備、作業しやすい物の配置や導線確保、換気や安全性に関する法的要件を満たす職場整備を行いましょう。身体を壊さない環境づくりや法令順守するための準備を整えていくことで、突然の問題発生を避けるとともに、長期的なビジネスプランが立てやすくなります。
6.オンラインストアを開設する
提供するものが商品でもサービスでも、オンラインストアは特に重要な販売チャネルとなります。Shopify(ショッピファイ)のようなプラットフォームを活用すれば、初期費用をあまりかけずにショップ開設が可能です。オンラインストアを立ち上げたら、SNSなどの他の販売チャネルを検討し、マルチチャネル戦略を立てて販路を拡大しましょう。
適切な販売チャネルを利用すれば、マーケティング予算が少なくてもターゲット顧客にリーチすることができます。重要なのは、ブランドの商品や個性が輝く販売チャネルを見つけることです。例えば、若年層を対象にしているのであればTikTokがおすすめです。
7.ブランドの立ち上げと宣伝を行う
準備が整ったら、ブランドの立ち上げと認知拡大のためにマーケティングを行いましょう。友人や家族からサポートしてもらえる場合、まずはその人たちに商品を販売してブランドの口コミを広めてもらいます。そこから徐々に関係性を広げることで、ターゲット顧客グループでのブランドの認知につなげることが可能です。
話題性を生み出すには、正式なローンチに先駆けてSNSのアカウントとサイト準備中ページを立ち上げましょう。事前にメルマガに登録してもらって先行販売情報を流したり、SNSを通して潜在顧客とコミュニケーションをとることで、商品への期待値を高めることができます。
8.仕事と私生活のメリハリをつける
職場と生活を送る場所を分けることで、仕事と私生活のメリハリをつけ、ワークライフバランスを保つことができます。これまではテレビの前で編み物をしたり、寝室でゲームをしたりと、趣味は生活の一部になっていたことでしょう。ですが、ビジネスとして始めるのであれば、のんびりマイペースに楽しんでばかりはいられません。
好きだったものを好きなままでいるためにも、仕事と生活は分けてメリハリをつけることが重要です。仕事着を準備して始業と終業で着替えたり、業務ルーティンやスケジュールを決めて時間通りに進めることで、うまく切り替えることができます。他にも在宅勤務を成功させるコツはたくさんあるので、初期段階で積極的に取り入れるようにしましょう。
9.ブランド規模を拡大する
各商品の売上の節目で、どのように規模を拡大していくかを常に考えるようにしましょう。もしかすると趣味から転じたビジネスが人気となり、需要に応えるために働きづめになるかもしれません。そのような環境下でありがちな、顧客対応の遅れや売り切れ商品の続出などの事態は、新しい顧客を失うリスクとなっていきます。
委託販売やアルバイト雇用などの準備は先んじて進めておくなど、ビジネス全体を見通すことが重要です。安定してビジネスを拡大させていくためにも、2年後、5年後、10年後にどのくらいの規模にしていきたいか、そのためにはどんな準備や施策が必要か、考えておく必要があります。
マルチチャネル戦略の一環として、YouTubeでのグッズ販売やSNSでのライブコマースなどを活用する方法もあります。フィットネスオンライン講座などのコンテンツビジネスでも、人気が出てきたらオリジナルグッズの販売などへ展開することができるでしょう。
趣味起業の成功例4選
BALMUDA
キッチン家電で知られるBALMUDA(バルミューダ)は、2003年に寺尾玄氏がノートパソコンの冷却台を販売したことから始まりました。バルミューダを起業する以前は音楽活動に専念していましたが、夢が実らず挫折を経験しました。そのとき、楽曲制作のために使っていたコンピューターやデスクチェアから、「日常の道具の大切さ」を意識するようになったことが、ものづくりの道へと進むきっかけだったそうです。
2015年にはスチームトースター「BALMUDA The Toaster」を販売し、これまでに累計150万台以上を売り上げるなど大成功を収めました。後に電気ケトルやコーヒーメーカーなども展開し、キッチン家電市場において確固たる地位を築きました。
ヤッホーブルーイング
クラフトビールブームを巻き起こした「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイングは、創業者の星野佳路氏がビールと運命的な出会いをしたことから始まりました。星野氏が海外留学をしていたころ、パブで何気なく飲んだエールに衝撃を受け、そこから星野氏のビールへの愛が止まらなくなります。日本に帰国後、酒税法の改正で小規模醸造が可能になったことで転機が訪れ、1997年にヤッホーブルーイングを創業しました。
ビールの製造には、味だけではなく缶のデザインにも力を入れており、デザインを含めたチーム全体で理想のビールを追求しているとのことです。今や、コンビニやスーパーで見かけないことはない人気のブランドに成長しています。
craft×craft
オーダーメイド家具や手作り雑貨を展開するcraft×craft(クラフトクラフト)は、渡来拓郎氏の子ども時代の経験から始まりました。家族の影響で幼少期からものづくりに親しみ、中学時代の家の建て替えが木工への興味を深めるきっかけとなりました。
木材の特徴を活かしたデザインから実製作まで一貫して行うことで、ものを作る楽しさそのものを大切にしていることが同社の製品の魅力となっています。今では家具や雑貨といった木工製品だけにとどまらず、他社製品の商品パッケージのデザインやTシャツデザインなど、幅広いものづくりを提供しています。
81TEEZ
アパレルブランドの81TEEZ(ハイチーズ)は創業者の趣味から始まり、「自分が着たいものを作りたい」という考えでアパレル製品の製造・販売を行っているそうです。Instagram(インスタグラム)にイラストを投稿していたところ、フォロワーブランドのイラストを描いてほしいと依頼されたことが起業のきっかけになりました。そこで生まれた屋号を使いつつ、Instagramを通じてつながったイラストレーターやOEM会社とともに、ジャンルに縛られないアイテムの数々を生み出しています。
2020年には、原宿のラフォーレで初の単独ポップアップを開催し、2021年にはストリートと自然を上手くリミックスした服作りで人気のWIND AND SEA(ウィンダンシー)とコラボしたTシャツやジャケットを販売しました。2024年8月現在、Instagramのアカウントには2.3万人のフォロワーがいます。
まとめ
好きな趣味に没頭することほど、リラックスできて満足できることはありません。もしも、これまでにその楽しさを活かして仕事にできないかと考えたことがあるなら、それこそが好きなことをビジネスにする分岐点になります。クリエイターとしてのスキルや好きなことに注ぎ込む情熱は、ビジネスにおいても大きなアドバンテージとなります。すでに売れる商品があり、活かせるノウハウがあり、ビジネスを立ち上げるための意欲があるということです。思い切ってビジネスへの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
趣味で起業する方法についてよくある質問
副業にしやすい趣味は?
例えば、下記のようなビジネスが考えられます。
- 写真や動画(写真販売やSNSでのコンテンツビジネス)
- アート(作品の製作、販売)
- ファッションやインテリア(古着や中古家具の販売)
- フィットネス(オンライン講座)
- 人の話を聞くこと(相談アドバイザー)
- 子どもとのコミュニケーション(ベビーシッター)
- ペットの知識(シッターなどのペットビジネス)
- 片付け(収納アドバイザー)
- 旅行(ツアー企画やアテンダント)
- レストランの食べ比べ(ミステリーショッパー)
儲かりやすい趣味は?
ビジネスにしやすい趣味としては、下記のような例が挙げられます。
- ライティング
- イラストやデザインの制作
- 写真、動画編集
- 音楽制作
- 料理、コーヒー
- ハンドメイド
- 園芸
- サイクリング
- ペットの世話
- コメディ
- ゲーム
文:Ryotetsu