モンゴルレザーを使ったバッグブランド、HushTug(ハッシュタグ)のECストアが快進撃を続けています。2019年3月末の販売開始から約8ヶ月で月商840万円を達成し、1年弱で売上が月商1000万円が目前に迫っています。世界に通用する高品質な製品をモンゴル国内で作って世界に売り出し、「モンゴルに産業を創る」ことを目標に掲げて邁進するHushTugの原動力はどこにあるのでしょう。Shopifyをどのように活用しているのでしょうか。HushTugを運営するラズホールディングスの代表取締役・戸田貴久さんにお聞きしました。
■困っている友だちを助けたい
日本国内にはたくさんのメンズバッグブランドが存在します。その中でもHushTugはちょっと変わった存在かもしれません。ロゴを表に出さず、素材のモンゴルレザーの持ち味を引き出し、持つ人の個性を引き立てる商品設計は、同様のバッグがあふれるマーケットの中で異彩を放っています。
シンプルでありながら個性的。そんなブランド、HushTugは、2017年5月にモンゴルに単身移住した戸田さんの「ある疑問」から始まりました。
「周囲の友人知人の女性たち5人が同時期に妊娠したんですが、そのうち4人が流産してしまいました。5分の4の確率ってちょっとありえないですよね。実はモンゴルの首都、ウランバートルの大気汚染は世界でも最悪レベルです。冬場の大気汚染は本当にひどくて、PM2.5の数値はWHOが定める国際基準値の133倍ある。友人は、この20年間、状況はまったく変わっていないと言っていましたが、僕は友人が小さな命を失っているのに何もできないのが情けなくて、何かこの国で自分ができることがあるんじゃないかと考えるようになりました」
困っている友だちを助けたい。シンプルで強い思いから、自分にできることを模索し始めた戸田さんがたどりついたのがモンゴルレザーです。ウランバートル市内で見かける安価なモンゴルレザー製品は、デザインも縫製も粗悪でしたが、もしこのレザーを使って、クオリティの高い革製品を作ってみたらどうだろう? 戸田さんの心にビジネスのヒントが浮かび上がりました。
HushTugを運営するラズホールディングスの代表取締役・戸田貴久さん
■理念に共鳴してくれた職人夫婦と試作スタート
あまり知られていませんが、モンゴルレザーのクオリティ自体は決して低くはありません。大自然の中で自由に放牧されて育った牛の革なので、丈夫で耐久性が高く、ドイツの某高級車メーカーの内装にも使われています。モンゴルで加工されている革の約40%はレザーの本場イタリアやスペイン、トルコ、韓国にも輸出されているとか。モンゴルレザーは世界のブランドや革産業を支えている素材なのです。
しかし、そのクオリティを活かせる人、技術、設備がモンゴルにはありません。そのため人も育たず、産業化もできない。よし、この負の循環を断ち切り、モンゴルレザーを使用した質の良いレザー製品を作って、日本を始めて海外に売っていこう。雇用を生み出し、技術を持つ人材を育て、社会問題を解決していこう。戸田さんの頭の中でHushTugのアウトラインが固まりました。
早速、ブランド立ち上げに向かって戸田さんは走り始めますが、難航したのが職人探しです。職人はいても、技術力を伴う人なるとそうは簡単に見つかりません。探し求めて3ヶ月が経過したある日、戸田さんは人柄の良い職人夫婦と出会います。
「技術力が非常に高いというわけでなかったのですが、何より、僕たちの理念に共鳴してくれた。いっしょに挑戦をしていこうと意気投合してサンプル作成をスタートしました」
ここで、HushTugのコンセプトを確認しておきましょう。戸田さんが目指したのは、クオリティを備えながら手軽に買えるシンプルなメンズバッグです。こうしたバッグは実はありそうでありません。機能が豊富すぎたり、価格が高すぎたり、やたらとロゴが目立ったり。最低限の機能を備え、それでいて耐久性が高く、使い勝手の良いバッグはメンズバーケット市場の中では一種のエアポケットでした。
「ロゴが目立ちすぎたり、持っているブランドものの財布やカバンの方が、収入(月収)より高いのってなんか変だなとと思ったんですよね。だから僕は価格を押さえたかった。そういう見栄の張り方ではなく、自分に投資をしてほしいというメッセージでもあります」
主役ではないけれど、脇役として光るバッグを形にしようと試作を重ねること数ヶ月。スタッフの誰もが納得の行くクオリティを兼ね備えたバッグが完成したときには、ブランドを立ち上げてからすでに1年が経過していました。
■入金サイクルの短さがShopifyの決め手
完成したバッグの販売チャネルとして、2019年3月末に戸田さんはECストアを開設しました。ECサイトの立ち上げにはShopifyを選択。理由は極めてシンプルです。
「入金サイクルの短さが決め手になりました。申請など必要なく、毎週売上が入金されますからね。これだけ早いところは他にはない。決済手数料が安いという利点もありますが、入金サイクルだけでShopify一択でした」
Shopifyを使って運営されているHushTugのオンラインストア
Shopifyを使う前、戸田さんはモンゴル人のエンジニアにサイト作成を依頼していました。将来、ビジネスを大きくスケールするため自前での製作を選択しましたが、予定していたサイトオープンの直前にエンジニアから連絡が入ります。「家庭の事情で、どうしてもできない」。ECサイトのオープンはすでに確定していたため、いまさら後ろにはずらせません。窮地を救ったのがShopifyでした。
「社員の一人が『Shopify、いいらしいよ』というので調べたら、日本にも上陸していることがわかって、『じゃあ、それにしよう』と即、決めました。使ってみたら便利で機能的だし、入金サイクルは早いし、何も問題がない。最初からそうすればよかった。モンゴル人エンジニアにつぎ込んだ100万円以上もの開発費はいったいなんだったのかと3日ぐらい凹みました(笑)」
物流事業者としては、送料を代表とする各種の料金が明朗会計で非常に安く、商品1個から入庫~保管~出庫の利用が可能でShopifyとも連携しているオープンロジを選定しました。こうして100万円はムダにしたものの、ECサイトは無事にオープンの日を迎えます。
次の課題はマーケティング。戸田さんはクラウドファンディングを思い立ちました。
「実はここまで毎月100万円~200万円の赤字が出ていました。以前やっていたウェブメディア事業を売却した資金が手元に3000万円ほどあったので、なんとかしのいでこれましたが、赤字がこれ以上続けば資金がショートしてしまうことは間違いない。クラウドファンディングを始めたのは、そんなギリギリの状況のときでした」
■クラウドファンディングとアフィリエイトで危機を脱出
切羽詰まった状況で、キャンプファイヤーを舞台に選んだ戸田さんは志と熱意のすべてをクラウドファンディングにぶつけます。
「というか、あるのが志と熱意だけだったんです(笑)。全部で3回にわたってクラウドファンディングをしましたが、一発目では原稿を書くのに1ヶ月もかけました。それこそもんもんと書き続けました。ブロガーさんやアフィリエイターさんの知人からもフィードバックをもらって、ブラッシュアップを重ねました。画像も作り込んで、結局、3回の挑戦で470万円以上もの資金を調達することができました。クラウドファンディングの意義はお金だけではないです。数字が見えるので、職人さんたちのモチベーションにも直結するんですよ。職人さんたちの期待値に応えるためには絶対に失敗できない。1年間やってきた集大成だからと粘りに粘った。その成果だと思っています」
実際のクラウドファンディングのページ
クラウドファンディングと並行して、戸田さんはオウンドメディアとアフィリエイトマーケティングにも力を入れました。どちらも広告予算の少なさを補うための手法ですが、とりわけ興味深いのは、HushTugを短期間で成長させる起爆剤となったアフィリエイトでしょう。
HushTugの主力製品であるトートバッグのキーワードで検索上位に上がっているサイトは、すでにアフィリエイト常連組で、HushTugが割り込む余地はありません。では、どうするか。戸田さんは手始めに小さな個人メディアに営業をかけました。
以前、ウェブメディア事業を手掛けていたときに17万円ほどで買い取っていたアフィリエイトシステムを使い、自社ASPでアフィリエイトをスタート。個人メディアにHushTugの商品を掲載してもらい、実績があがったら、その数字をもとに別のメディアに営業をかける。愚直なまでにこの繰り返しです。
「『僕らの商品を使ってくれたら、あなたのサイトはこれぐらい売上がアップできますよ』と数字的な根拠を示して営業しました。そのうち、個人メディアでは日本では上位に入るところが引き受けてくれたんです。これは大きかったですね。いまでのそのサイトにおける取引量はHushTugが二番目です。アフィリエイトによって僕たちは緊急事態を脱することができた。その結果、顧客データもたまったので広告の確率も上がり始めました」
危機を脱して、好循環が生まれたHushTug。しかし、さらなる問題が待ち受けていました。<後編へ続く>
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