モンゴルの社会問題の解決に尽力したい。そんなシンプルでまっすぐな思いから、戸田貴久さんはモンゴルレザーを使ったメンズバッグブランド、HushTugを立ち上げました。資金が不足し、倒産の危機に直面しながらも、自前のマンパワー、
■売上急伸!月商2000万円も射程範囲内に
広告費がない中、ブランドの知名度を上げて、なんとか売上に結びつけようと戸田さんが採った手段がオウンドメディアとアフィリエイト、そしてクラウドファンディングでした。
中でも売上増に直結したのがアフィリエイトです。Shopifyで作ったHushTugのECストアがオープンしたのは2019年3月末。翌月の4月の売上は6万4800円でしたが、5月には39万6780円と約6倍に増え、早くも7月には100万円を突破。163万5972円の売上を達成しました。
以降も売上は右肩上がりを続けています。2019年11月には売上は840万円に達し、年があけてからもその勢いに衰えは見られません。すでに月商1000万円が目前に迫っており、
HushTugのECサイトの成長を牽引したのがShopify アプリです。戸田さんは片っ端からアプリを入れては試行錯誤を繰り返し、自分たちにとって効果的なものにたどりついたと語ります
「実際に使ってみて本当に良かったなと思っているのが、各商品ページにレビューを掲載できる『Product Reviews』、 顧客のメールアドレスを元に本格的なメールマーケティングが展開できる『Klaviyo』、それから各種分析に使える『Lucky Orange』の3つでしょうか。特に、無料の 『Product Reviews』は効果絶大です。明らかにコンバージョンが上がりました。お客様はこんなにもレビューを読んでいるんだということがよくわかった(笑)。これからShopifyで情報発信する人がどんどん増えるといいですね」
■小ロットで作っても原価率は40%程度
ここでHushTugの人気アイテムを紹介しましょう。商品点数は13点(2019年1月末時点)とまださほど多くありませんが、その中でもっとも人気を集めているのは、トートバッグの黒。シンプルで使いやすく、耐久性が高くて容量もある。HushTugのコンセプトを体現している看板商品です。
価格は1万9800円(税込み)。バッグの価格はおおむね1万5000円~2万円の設定です。価格を設定するにあたり、戸田さんはずいぶんと悩んだといいます。どんなにクオリティが高いバッグでも5万円は高すぎる。日常に使えて、気軽に買いやすいバッグとなるといくらぐらいが適切なのか。原価率も考えて、戸田さんは6割の粗利がとれる価格設定に踏み切りました。
「利益をちゃんと確保してブランドを発展させるには、配送料や手数料を考えて、6割の粗利が取れれば十分だろうと考えました。いまは小ロットで作っても原価率は40%程度に押さえられているので、ロットが増えればさらに原価率は下がるはずです」
周到な読みに支えられたHushTugのバッグは、期待通り、「手頃で上質なバッグを求めていた層」の需要を開拓しました。現在、顧客の85%は男性客。メンズバッグブランドとして誕生しているので当然といえば当然ですが、女性客も15%ほど存在しています。今後の可能性を感じさせる数字でしょう。
戸田さんは「HushTugのユーザー像」をこう語ります。
「イメージとしては30歳ちょっとで、結婚していて奥さんに財布を握られているので、あまり高いモノは買えないけれど、立場的にちゃんとしたバッグを持たないと恥ずかしいという人ですね。HushTugのバッグを買うと社会貢献できるという意識がある方も多いと思います。もちろんもっと上の年代の方もお客様にはいらっしゃいますよ。手書きのレビューもいただいています」
モンゴルレザーに対する顧客からの評価は上々です。「頑丈」「硬そう」「思ったよりも高級感がある」「思ったよりずっと良かった」「落ち着いたデザイン」「ロゴがないのがいい」。決してポピュラーな素材とはいえないモンゴルレザーを使って丹念に仕上げたクオリティはHushTugの人気の源泉です。
■生産体制が追いつかない
売上は順調に伸び、顧客も広がりを見せている。新しいバッグの計画もある。いいこと尽くめのように見えますが、課題は少なくありません。
一つは生産体制の問題です。
「僕たちは自社工房を構え、自分たちで作り自分たちで売るD2Cのビジネスモデル。そのため、容易に生産を増やすことができません。現状は注文から2ヶ月待ちで、ほぼ受注生産と同じ。先に決済していただいているのでキャッシュフロー的にはいいのですが、アクセルを踏めるのに踏み込めない状態が続いています。そのため、僕たちが描いている成長曲線になかなか乗れずにいます」
なぜ、生産量を増やすことができないのか。理由はモンゴルの工房にあります。工房では需要に応えて毎月2〜3人ペースで職人を増やしていますが、雇ったからといってすぐにバッグ作りの技術が身につくわけではありません。
「採用しているのは未経験者ばかり。経験者の場合、自己流に陥りやすいのと、日本のクオリティに近づけるのが大変だからです。だったら未経験でも手に職をつけたいという熱心な人を雇った方がいいと考えました。トレーニングして育てるにしてもどうしても時間がかかるのは仕方がない。でも僕は技術のことは素人なので、技術指導をしているモンゴル人幹部を信じて、任せています」
HushTugのモンゴル工場にいる社員は17人。人事部と総務部、職人のいる技術部に部署を分け、それぞれの幹部が直轄で部下を育ててています。幹部が責任を持って、手を取りながら部下を育てる。モンゴルの工場を舞台に昭和の日本的な経営が行われています。
「モンゴルにはたくさんの民間企業がありますが給料の未払い問題を抱えている会社が少なくありません。知人の日本人サッカー選手は数ヶ月賃金が未払いだったこともあります。プロサッカーチームを保有する企業であってもこのような問題を抱えています」
前編でも紹介したように、HushTugはスタートから1年間、資金繰りに苦労し、赤字が続く中でも、賃金の支払いに遅れることなく、全額払ってきました。事業主としては当たり前ともいえますが、モンゴル人の職人やスタッフを対等な相手として敬意を払い、どんなに苦しい状況であっても仕事の対価をきっちりと支払い続けてきたらからこそ、HushTugで働きたいというモンゴル人の職人志望者が多いのでしょう。
戸田さんが抱えているもう一つの大きな問題が工房です。HushTugは、生誕体制を増強するため、2019年8月に新しい工房に移転しました。しかし、移転してみると予想外の事態が待ち受けていました。工場内の暖房設備がじゅうぶんではなく、室温10度の環境を強いられるなど、予想外の事態が頻発したのです。
明らかな契約違反であり、訴えれば戸田さん側が勝訴することは間違いありません。しかし、裁判にかければ解決までに時間がかかり、多額の弁護士費用も必要です。
戸田さんは諦めて、別の工房への移転を決めました。新しい工場の広さは約800㎡。職人のトレーニング機能も備えた現在の5倍ほどの規模の工場が本格稼働すれば、2ヶ月待ちの納期も緩和され、売上に弾みがつくはずです。
■まず都内に出店し、その後地方へ
少しずつ扱いアイテムを増やしている戸田さんが、次のラインアップとして考えているのはボディバッグとビジネスバッグ。ビジネスバッグはおおぶりのバッグを想定しています。
「D2Cのビジネスモデルなのでお客様の声を直で聞くことができるため、お客様の声を次の商品企画の参考にしています。ただし参考にとどめる程度で製品の詳細部分にはあまり取り入れていません。それよりも自分たちの思想を信じているというか(笑)。家電製品のリモコンがいい例ですよね。日本のリモコンってボタンがたくさんありますが、お客様の声を聞きすぎるとあんな風になる見本だと思うんですよ。その点、アップル製品はすごい。ボタンひとつですからね」
HushTugは、一切顧客の声を取り入れていないわけではありません。「バッグに底鋲をつけてほしい」という要望が寄せられても、コストが高くなるため、製品に反映させていませんでしたが、次に計画しているビジネスバッグには底鋲をつける予定です。
「不動産業者が持つようなビジネスバッグをイメージしています。だったら、底鋲はないとまずいと思いました」
顧客の声を反映させたからといって、それが受けるとは限りません。消費者とはわがままな存在です。何を取り入れ、何を取り入れないのか。企業理念や設計思想に沿ってバランスを取ることが重要なのでしょう。
今後の計画についても聞いてみました。現在はECストアのみの運営ですが、実店舗の出店計画もあるそうです。
「まず都内に1店舗開きます。その後は地方にも出したいですね。僕は出身が鳥取なのですが、東京とか大阪に出して成功した店をそのまま地方に持っていってもうまういかないと思うんですよ。だったら先に鳥取など地方で成功する事例を作りたい。義理の兄が鳥取で美容室を経営しているので、そこにバッグを置くことはもう決めています。向こうとすれば商品を置くだけでフィーが入ってくる。オーダースーツの店に置いてもいいかもしれません。そうすれば出店コストはすごく下がる。インターネットで認知してもらっているので、商品を見せる場所はどこでもいいですから」
ECサイトでブランドの理念を伝え、世界観を広め、共感を集めてファンを増やしながら、従来の小売店とは異なる形で小売の場を作るHushTugの構想は、ブランドビジネスの新しい方向性を示しています。
戸田さんは材料調達を見直し、D2Cを極める道も模索しています。
「いまは革を取引先の革工場から調達していますが、皮のなめし工場を買収し、遊牧民から直取引をして仕入れた皮を自社工場でなめして製品化したい。いまは遊牧民が売る皮は二束三文で買い叩かれています。そのため、皮の扱いも雑で、穴だらけのことが多いのですが、適正な価格で引き取れば、きれいにやってくれるはず。そこまでやって初めて本当のD2Cだと思っています」
ただ材料を仕入れるのではなく、上流に自ら関与し、製造から販売までの一連の流れをコントロールして、モンゴルにひとつの産業を創る。HushTugは、どのレザーブランドもやったことがない未知の領域を開拓しようとしています。
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