日本国内だけでなく、海外へ向けて商品販売を行う越境ECは、拡大の動きを見せています。日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、越境ECの利用者数が世界的に増加しており、2017年からの6年間で1.8倍に増えていると報告されています。今後も利用者が増えると予測されているものの、国際取引において課題の一つとして挙げられるのが海外倉庫です。
この記事では、海外倉庫とは何か、国際物流における輸出入通関手続きなど、海外物流センターに関するテーマを分かりやすく解説していきます。個人輸出や輸入業に興味がある方はぜひ参考にしてください。
海外倉庫とは
国際倉庫(海外倉庫)とは、輸出入する荷物を保管する日本国外の倉庫のことです。その多くは港近くや港へ輸送しやすい所にあります。
海外倉庫を利用すると、さまざまな所から輸送される荷物を一度集めて仕分けや梱包などをまとめてできるため、輸出入に関わるコストや手続き、輸送準備の手間を少なくすることができます。
海外倉庫の4つの種類

海外倉庫は、次の4つの種類があります。
1. 営業倉庫
営業倉庫とは、第三者の物品を預かり、保管や流通など物流業務を行う目的で使用される倉庫です。日本国内では、倉庫業法に基づいて、国土交通省への届け出を行い、認定されないと営業倉庫として認められません。
日本国内外でeコマース事業を展開する企業は、営業倉庫を活用することで、海外での商品の保管やフルフィルメントを行えます。自社用の倉庫を建設する必要がなく、海外販売を始めたばかりの事業者や、初めて国際取引に参入する人にも適しています。
2. 自家倉庫
自家倉庫とは、自家用倉庫とも呼ばれ、民間企業が自社のために所有している倉庫のことです。自社商品を一時的に保管しておいたり、販売の拠点として商品をストックしておくために使用されます。海外の顧客のニーズに応えるために、販売先の国で自家倉庫を建設することができます。
3. 保税倉庫
保税倉庫とは、企業が輸入または輸出目的で在庫を保管する倉庫です。正式名称は保税蔵置場と呼ばれ、税関長の許可を得て外国貨物を置くことができます。保税倉庫にある貨物は、通関手続きが完了しておらず、関税が一時的に保留されている状態となります。企業が輸出入にかかる関税を支払うことなく商品を国内に持ち込んだり、国外に持ち出したりすることが可能となります。
在庫型物流センター
在庫型物流センターでは、入荷した商品を保管するだけでなく、商品の仕分けや流通加工、梱包も行うことができます。Distribution Center(ディストリビューションセンター)の頭文字を取ってDCとも呼ばれ、顧客へのスピーディーな配送が可能です。卸売業や小売業、製造業でよく使用されている形態です。
海外に倉庫を借りるメリット
輸送費と手間を軽減できる
海外倉庫を活用して商品をストックし、まとめて輸送することで、手続きの手間と輸送コストを抑えることができます。商品を一時的に海外倉庫にストックし、自社の都合に合わせてまとめて輸送をすれば、仕入れや受注ごとに海外配送するよりも、手間とコストを減らせます。
例えば海外商品を仕入れる場合、各仕入れ先から購入した商品を一度、海外倉庫に集めます。パッキングしてひとまとめに輸入することで、送料を抑えられるだけでなく、税関手続きも1回で済ませることができます。
配送時間を短縮できる
販売先の国に倉庫を借りている場合、日本から商品を発送するよりも、海外の拠点となる倉庫から発送した方が配送日数が少なくなります。発注から納品までにかかる時間(リードタイム)を短くすることで、顧客満足度アップにもつながります。
輸入の場合、仕入れ先が広がる
日本への発送を行っていない海外企業でも、発送可能エリアに海外倉庫があれば商品を購入することができるため、仕入れ先の選択肢が広がります。
海外倉庫の選び方
1. 戦略的な場所に倉庫を借りる
倉庫の立地は、利便性やコストにも直結することから、戦略的な場所を選ぶようにしましょう。郊外の倉庫は費用が安い傾向にありますが、アクセスが悪いと輸送コストがかかってしまったり、トラブルの際に対応が遅れたりする可能性があります。海外倉庫は、顧客の多い国やエリアに設置されるケースが多いものの、一か所に集約させてしまうと現地の情勢や経済状況により、リスクとなることも考えられます。そのため、戦略的な場所を複数箇所確保することで、さまざまな状況に対応ができるようになり、顧客に安定したサービスを提供できます。
2. 輸出入や配送に関する法律を確認する
倉庫を選ぶ際には、輸出入や配送に関する法律も事前に確認しておく必要があります。政府サイトを活用して、海外倉庫の候補地への輸出や、候補地からの輸入が合法であるかを確認しましょう。
例えば、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、サングラスを医療機器とみなすため、アメリカに向けてサングラスを販売する場合にはFDAからの認証を受ける必要があります。国やエリアによりルールが異なるため、商品を販売する国や仕入れる国の輸出入規制を定期的に確認することが重要です。
3. 提供サービスとコストを確認する
海外倉庫が提供しているサービスとコストを確認し、自社に合ったものを選びましょう。価格の安さだけで選んでしまうと、自社で必要なサービスが提供されておらず、コストがかさむ可能性もあります。安全管理や人的資源管理、セキュリティ、メンテナンス、品質管理など、必要なサービスが含まれているかを確認しましょう。また、倉庫の基本利用料金だけでなく、ピッキングや梱包に必要となる追加料金、長期契約の際の解約料などもチェックしておきましょう。
4. 保管要件を把握する
保管方法の詳細をチェックして、商品に適していることを確認することも重要です。温度や湿度などの管理が必要な商品は、冷蔵機能や湿度コントロール機能を備えた倉庫が必要になります。期限のある商品の場合、期限データを管理できる倉庫管理システムを導入できる倉庫、アパレルの場合はハンガーに掛けた状態で保管や輸送ができる倉庫を選ぶと良いでしょう。倉庫選びの目安として、次のような情報が参考になります。
- 倉庫のサイズ
- セキュリティ
- 商品の取り扱いに使用できる機器
- サードパーティの必要性
- 過去に取引経験のあるクライアントとその業界や取り扱い商品
5. 倉庫管理システムなどの利用可能な機能を確認する
海外倉庫の在庫管理を円滑に行うために、次のような機能が利用可能かどうかを確認しましょう。
- 倉庫管理システム(WMS)
- 無線波を使用して在庫の位置を追跡できるRFIDスキャナー
物流を第三者の専門企業に委託する3PLを活用していたり、迅速な配送を必要とする場合もあるでしょう。倉庫管理システムやRFIDスキャナーがある海外倉庫であれば、在庫管理だけでなく、迅速かつ柔軟な対応が可能になります。
6. 資料を取り寄せる
利用する海外倉庫の候補をいくつかに絞ったら、詳しい資料を取り寄せます。候補に挙がった海外倉庫のサービスや料金、メリットとデメリットを比較することで、自社のビジネスに合った海外倉庫を見つけやすくなります。
7. 実際に海外倉庫を訪問する
海外倉庫が適切に管理されているか、定期的に訪問して確認します。具体的に着目すべき点は、倉庫は清潔に保たれているか、整頓されているか、アクセスしやすいか、安全対策は万全かなどです。
海外倉庫を利用する際に必要になる輸出入通関手続き
先ほど、海外倉庫の選び方でも触れたとおり、輸出入に関する法律や手続きに関しても知っておく必要があります。具体的な輸出入の手続きや必要書類は次のとおりです。
輸出通関手続き
輸出通関手続きは、保税倉庫での保管中に完了させる必要があります。この手続きに必要な書類は以下のとおりです。
- 輸出申告書(自分で手続きする場合):税関のHPからダウンロードできます。
- 委任状(通関業者を利用する場合):通関業者に手続きを委託する旨を税関に示す書類です。
- 仕入書(Invoice、インボイス、商業送り状):輸出入者情報、品名・数量・価格などを記載した書類です。
- 包装明細書(Packing List、パッキングリスト):商品名と数量、重量、梱包後の重量、容積などを記載して、梱包内容について説明します。必要に応じて写真やカタログも添付します。
- 船積依頼書(Shipping Instructions、S/I、シッピング・インストラクション)(通関業者を利用する場合):荷送人、荷受人、船情報などを記載します。
- 他法令の確認書類:植物や食品、医薬品などで必要になることがあります。
個人輸出で郵便物として荷物を海外に送る場合は、申告価格が20万円以下であれば通関手続きは不要です。郵便局にある「税関票符」や「税関告知書」に必要事項を記入し、荷物に貼り付けて預けましょう。途中の税関検査で、輸出の許可が必要な品物があった場合は、別途手続きを求められます。
20万円を超える場合は、郵便局に荷物を出す時に、委任状を含む必要書類も合わせて提出します。日本郵便が通関手続きを行い、許可が出ると海外に発送されます。
輸入通関手続き
輸入通関手続きは、税関への申告のほかに、関税や消費税などの税金の申告も必要になります。保税倉庫での保管中に通関手続きと税金の支払いを完了させ輸入の許可を取ります。必要書類は以下のとおりです。
- 輸入申告書(自分で手続きする場合):税関のHPからダウンロードできます。
- 委任状(通関業者を利用する場合)
- 仕入書(Invoice、インボイス、商業送り状):輸出入者情報、品名・数量・価格などを記載した書類で、輸出する側が作成します。
- 包装明細書(Packing List、パッキングリスト)
- 船荷証券又は海上運送状(航空貨物は航空貨物運送状):船会社(航空会社)が荷物を預かったことを証明します。
- 保険料明細書:保険金額も課税価格に入るため、保険をかけた場合は提出が必要になります。
- 他法令の確認書類
個人輸入で郵便物として荷物が日本に届いた場合は、課税価格や税金額によって受け取りまでの流れが変わります。課税価格が1万円以下の場合は基本的に免税となりますが、関税対象となるものもあります。また、1万~20万円の場合は、一部を除いて簡易税率が適用され、20万円を超えると一般税率が適用されます。品目により所定金額以下であっても関税の対象となったり、品目ごとに税率が異なったりするため、事前に確認しておきましょう。
まとめ
越境EC利用者数は世界的に増加傾向にあり、越境ECで活躍するShopifyストアも数多くあります。
海外倉庫を利用することで、さまざまな所から輸送される荷物を一度集めて、まとめて仕分けや梱包などをすることができ、輸出入に関わるコストや手続き、輸送準備の手間を少なくすることができます。さらに、海外の拠点から発送することで、配送時間を短縮したり、海外発送を行っていない企業から商品を仕入れたりといったことも可能となります。越境ECを始めたい方や、海外倉庫の利用を検討している方は、今回の記事を参考にして、自社ビジネスに合った倉庫を見つけましょう。
海外倉庫に関するよくある質問
海外に倉庫を借りるメリットは?
- 運送費と手間を軽減できる
- 配送時間を短縮できる
- 輸入の場合、仕入れ先が広がる
海外倉庫の選び方は?
海外倉庫を選ぶ際のポイントは、以下の通りです。
- 戦略的な場所に倉庫を借りる
- 輸出入や配送に関する法律を確認する
- 提供サービスとコストを確認する
- 保管要件を把握する
- 倉庫管理システムなどの利用可能な機能を確認する
- 資料を取り寄せる
- 実際に海外倉庫を訪問する
海外物流センターとは?
海外物流センターとは、海外倉庫や国際倉庫とも呼ばれ、輸出入する荷物を保管する日本国外の倉庫のことです。単に商品の保管だけを行う倉庫を海外倉庫のほかに、商品の保管だけでなく、仕分けや流通加工、梱包も行う倉庫を海外物流センターと呼び、使い分けることもあります。
輸出入業務をサポートしてもらうには?
通関業者や国際フォワーダー(国際物流代行業者)を利用すれば、輸入時のインボイス作成や輸送手配をサポートしてもらえます。
文:Masumi Murakami