説得は、日頃から気づかないうちにも起こっています。日常の会話ややり取りの多くは、実は説得の一形態です。
説得の仕組みを理解すればするほど、より効果的な「説得者」となれるでしょう。このスキルを磨くことで、他者に共感したりコミュニケーションを取ったりするあらゆる場面で、ビジネス、友情、経済状況、キャリア、人間関係にプラスの影響を与えることができます。
説得心理学は、さまざまな戦術や戦略を活用して、例えば商品の購入など、人に何かをするように説得することを成功させます。今回は、説得の6原則、さまざまな理論、そしてその原則や理論を実践することで人間の行動がどのように変わるのかについて解説します。
説得とは?
説得とは、個人、ブランド、または他の要因が他の人の行動や態度に影響を与えるプロセスを指します。説得は強制されて起こるものではなく、むしろ交渉や影響力の一種であることを覚えておきましょう。
ご想像の通り、説得は効果的なマーケティングの基本的な部分であり、これは成長するビジネスの生命線です。結局のところ、販売のプロセスは、潜在的な顧客にあなたの商品が必要であると説得することに他なりません。
リチャード・パーロフ氏は、論文『説得のダイナミクス(The Dynamics of Persuasion :Communication and Attitudes in the 21st Century)』の中で、説得が今日非常に重要である理由について、いくつか興味深い点を述べています。
- 説得力のあるコミュニケーションの数は飛躍的に増加している。
- 説得力のあるメッセージはこれまで以上に早く伝わる。
- 説得力のあるコミュニケーションはこれまで以上に複雑になっている。
では、説得の5つの要素を見ていきましょう。
- 出典:信頼性と質は説得の技術において非常に重要です。顧客が信頼していなければ、どんなに戦略的に説得を試みても購入を説得することはできません。しかし、信頼性が高く透明性があり、正確であれば、顧客から好まれるようになります。好んでくれる人に対して説得をする方がはるかに簡単です。
- メッセージ:言葉は販売を左右する力があります。メール、広告、その他のコンテンツに書く内容は、誰かが商品を購入したいかどうかに大きな影響を与えます。優れた説得力のある文章とは、事実と感情を組み合わせて信頼性を高め、感情を呼び起こすものです。
- メディア(媒体):消費者にリーチするためにどのチャネルを使用するかによって、メッセージがどれだけ効果的に伝わるかが決定します。メール、ソーシャルメディア(SNS)、その他のいずれであっても、プラットフォームを選ぶ際は慎重に選択しましょう。
- オーディエンス(聴衆):説得を成功させるには、オーディエンスが誰であるのかを知ることから始まります。誰かに何かを購入するように説得するためには、なぜそれを必要としているのが誰なのかが分からなければ説得することは不可能です。
- 効果:結局のところ、顧客に何をするように説得しようとしているのかを明確にする必要があります。最終的な目標がなければ、努力が成功したのかどうかを判断するのは困難です。
説得の6つの原則
説得のための試みを記したり最も影響力のあるリーダーを紹介したり、倫理的な影響力のあるトレーニングを推進したりするビジネス書はたくさんありますが、アリゾナ州立大学のロバート・チャルディーニ氏による『影響力の武器』が最も有名です。
ロバート・チャルディーニ氏は、キャリアを通して説得と人々に影響を与える方法を研究し続け、その研究結果を次の6つの普遍的な原則にまとめました。
1. 返報性
「あなたが私の背中を掻いてくれるのなら、私もあなたの背中を掻いてあげる」という言葉にあるように、研究によると、誰かがあなたのために何かをしてくれる可能性は、あなたが先に何かをしてあげた場合に高まります。eコマースでは、魅力的な購入や取引であることを伝えるために、顧客の初回購入には10%の割引を提供したり、メールアドレスの登録と引き換えに価値のあるブログ記事を共有したりすることが検討できます。
2. コミットメントと一貫性
人間は習慣の生き物です。コミットメントと一貫性は、人間は一貫して行動し、将来の行動は過去の行動を反映するという考えに基づいています。誰かが他の人に小さな親切を行えば、将来的により大きな親切をしてくれる可能性が高まります。
実際には、顧客に小さな行動をお願いすること(例:ブログの共有、友だち紹介、など)が、将来的により大きな行動(購入)を促す可能性があります。これらの小さな行動はビジネスの扉を開く手助けとなって、購入するように説得することができるようになります。
3. 社会的証明
人間の群れ心理は強力です。研究によると、社会的証明は説得の6つの普遍的原則のひとつであることが分かっています。なぜなら、人々は何かを強く勧められたとき、特に友人や同僚からのものである場合、何かを購入する傾向があります。販売した商品の数を見せたり顧客のレビューを共有したり、ケーススタディを紹介したりして、社会的証明を活用し、ブランドに対する肯定的な印象を与えましょう。
4. 権威
人々は信頼できる権威のある人物やブランドから商品を購入します。口で伝えたり実際の行動として示したりすることは重要な説得戦略です。例えば、受賞歴を強調したり、名のあるビジネスパートナーを紹介したり、有名なインフルエンサーとキャンペーンを実施したりすることは、すべて権威を示すことができます。ショック療法や証拠に基づく研究などで知られる「ミルグラム実験」は、信頼と意思決定において権威がいかに重要であるかを示しています。
5. 好意
特にその商品が個人的に関連性のある場合、人々はまったく見知らぬ人よりも友人から購入する可能性が高くなります。この「好意」という概念は、特に競争が激しい場合に非常に重要です。親しみやすい性格を作り出し、顧客の興味を理解していることを示すことで、顧客との共通点を確立して売上を向上させることができます。
6. 希少性
誰もが「チャンスを逃している」と感じたくありません。希少性は、期間限定のオファー、在庫限り、限定セールなどを通じて、顧客の中に組み込まれている「FOMO(fear of missing out:チャンスを逃すことへの不安)」を刺激します。
説得心理学の3つの理論
1. 社会的比較理論
社会的比較理論は、1960年代にムザファー・シェリフ氏とカール・ホヴランド氏によって考案され、メッセージ(または説得)に対して人がどの程度受容するのかを特定しようとしました。彼らは、人々の態度、信念、人間の行動が「拒絶の許容度」(同意しない)、「非コミットメントの許容度」(両義的)、「受け入れの許容度」(同意)という連続体に依存していることを発見しました。
前提はシンプルです:人々は、説得されている内容にすでに同意している場合、説得(またはマーケティングメッセージ)に対して受け入れやすくなります。
前提は単純で、人々は説得されている内容にすでに同意している場合、説得(またはマーケティングメッセージ)を受け入れる可能性が高くなります。
その結果、シェリフ氏とホヴランド氏は、説得が成功するかどうかは消費者がどの程度見解に同意または反対しているのかを知ることに掛かっていると結論づけました。お互いの視点が違い過ぎると全体的な態度(行動)の変化を促すことは非常に困難となります。
2. 認知的不協和理論
この理論は、1957年にレオン・フェスティンガー氏が著した古典的な本に由来します。この理論は、消費者は自分の見解に振り回され、特に同時に2つの対立する見解を持っている場合には、適切な社会的影響力によって態度を完全に変えることができるという考えを支持しています。
フライミアー氏とナドラー氏は、これが機能するための3つの必要な条件を特定しました。
- 嫌悪的な結果:大きな得を逃すなど、変化しないことに対する十分に強い結果や罰。
- 選択の自由:消費者に決断を強要されていると感じさせてはいけません。自らの考えであると感じる必要があります。
- 外的な正当化が不十分:消費者が購入しない理由が外的に多すぎると、購入を促すのが難しくなります。
3. 精緻化見込みモデル
このモデルは1986年にペティ氏とカチオポ氏によって設計され、メッセージの内容の分析に誰かがどれだけの認知エネルギーを費やしたかについてのインサイトを提供します。人が取ることができるルート(経路)は次の2つがあります。
中心ルート(論理的関与):メッセージを分析するために高度な詳細を使用する場合。
周辺ルート(周辺的手がかり):メッセージを読んだものの分析しなかった場合。
理想的には、誰もが中心ルートを通ることですが、必ずしもそうなるとは限りません。メッセージを理解できない人はそれを分析することできないため、シンプルさが重要です。メッセージを分析しないことを選択したために周辺ルートを通る人もいるでしょう。効果的な説得とは、人々にコミュニケーションを分析する理由を与えることを意味します。
小規模ビジネスにおける説得の例
1. KeySmart:継続的な一貫性
多くの場合、粘り強さが販売とマーケティングの成功の鍵となります。ある研究によると、リードを潜在顧客として確定するまでに6〜8回の接触が必要です。「いいえ」を答えた場合や、応答がないこと(カートが放棄された場合など)を失敗だと考えないようにしましょう。むしろ、それが説得の始まりだと考えるようにします。
「KeySmart」は、あなたのかさばる鍵をコンパクトにまとめるソリューションで、この原理をよく理解しています。カートに商品を追加して放棄した場合、すぐにFacebook Messengerの受信箱に次のようなメッセージが表示されることがあります。
興味深いことは、「いいえ」と言うことは、人々に、まるで自分が運転手であるかのような安心感を与えるということです。特に、相手が「はい」を求めている場合に当てはまります。防御的になるのは簡単なことです。
「いいえ」を引き起こすことのプラスの面は、確実に何かを学ぶことができるということです。「いいえ」は通常、反対やためらいに関するインサイトを提供します。「いいえ」は限度を設けて、欲望をより明確に定義します。
「いいえ」を恐れる必要はありません。代わりに、それを利用して顧客や反対意見を理解し、迅速かつ効果的に対処できるようにしましょう。
2. Whiskey River Soap Co.:説得力のあるメッセージの使用
あらゆる形式の説得において最も強力な言葉は「その通り」です。顧客にこの言葉を使ってもらうことができれば会話は変わります。「その通り」は、「はい」よりもさらによい言葉なのです。
なぜなのでしょうか?その肯定的な見解は、思考、行動、さらには個人の自己イメージや重大な個人的な変化を切り開きます。顧客が理解されていると感じれば感じるほど、望む行動を取ってくれる可能性が高くなります。
「Whiskey River Soap Co.」は、石鹸やキャンドル、その他の親しみやすいさまざまな家庭用品を販売しています。
ラベルに書かれたメッセージ(「だって本当に、どうせ誰も会いに来ないんだもの。そうでしょ?」)は「そうですよね?」という質問の形で終わるため、非常に効果的です。一方、どちらの場合でもこの概念は機能します。別の例を見てみましょう。
もし受け取り手が内向的や中間子であれば、ラベルのメッセージ(「髪を紫に染めてみなよ。誰も気づかないから。」)におそらく共感できて、心の中で「その通り」と思うでしょう。
その肯定的な評価は、あなたがそのキャンドルを購入する意欲を高めるのです。
3. Busted Tees:オファーに緊急性を追加
期限が近いと交渉プロセスは緊迫性を増します。この代表的な例は、食料品店のレジ付近に商品を配置することです。
レジの順番を待っているときに、チョコレートが並んでいるのを見つけます。最初はチョコレートを買うつもりではなかったのに、チョコレートをカゴに入れる最後のチャンスと考えると誘惑に駆られて手を伸ばしてしまうかもしれません。
緊急性は、上記のように些細で自ら引き起こしたものであっても効果的です。「CXL Institute」は、独自の役立つレポートで、クライアントの商品ページに「16:00迄に注文すると翌営業日無料配送」という文言を追加したところ、収益が27.1%増加したことを発見しました。
アグレッシブである必要はありません。購入者に今すぐ決定することで得られる利益を思い出させる穏やかな促しでも効果的です。
「BustedTees」は、大規模なプロモーションを行う際にこのテクニックをよく適用します。
適切な種類の緊急性が非常に効果的である理由は、人々が利益を得るよりも損失を回避したいと思うからで、勝つことよりも負けないことの方が重要だからです。これは損失回避と呼ばれる認知バイアスとして知られています。
決定するまでに長い時間待ってしまうと大きな割引を逃したり、翌営業日の無料配送を逃したりすることを顧客に示すと、損失回避が引き起こされ、今日の決定によって明日には得られないお得なオファーを確保できるということを思い出させます。
事実、顧客が必ずしも今すぐ商品を欲しいというわけではなく、最終的には欲しいと思っている場合でも、特別な機会を逃したくないという理由で行動する可能性があるのです。
説得心理学の実践
私たちは人間です。FBIのため、ウォール街の企業のため、母親が経営する小さな店のため、どのような説得を任務としているのかに関わらず、これらの共有する経験は他者に共感するための入り口となります。
「説得者のリーダー」であるとは感じられないかもしれませんが、実際には、特に新しい顧客に購入を促すために説得したい場合には、説得力を持たなければなりません。
これから行う説得は面と向かったものではないかもしれませんし、命を賭けるわけでもないかもしれませんが、それでも説得であることには変わりません。最終的には、説得スキルを磨くことで、マーケティングだけでなく、人生のあらゆる側面でより大きな影響力を与えることができるようになるのです。
説得心理学に関するよくあるFAQ
説得の3つの種類とは何ですか?
説得の3つのタイプは、社会的比較理論、認知的不協和理論、精緻化見込みモデルです。これらのモデルは、意思決定において説得がどのように重要な役割を果たすかを強調しています。
説得の6つの原則とは何ですか?
説得の6つの原則は以下の通りです。
説得の例はありますか?
説得の優れた例は、希少性を利用して期間限定のオファーや在庫限りの商品を宣伝することです。顧客は、たとえその時点では商品を購入する予定がなかったとしても、この機会を最大限に活用しなければならないように感じます。