アップセルやクロスセルを活用すれば、マーケティングに多大な労力やコストをかけなくても、効率的に平均注文額(AOV)を増やすことができます。ただし、押し売りのような印象を与えないよう、適切なタイミングと場面で顧客が関心を持つように誘導していく知識が必要となります。この記事では、アップセルとクロスセルの重要性とともに、効果的に提案するための方法やタイミングについて解説します。
アップセルとは
アップセルとは、商品の購入を検討している顧客、または購入後の顧客に対し、上位の商品やオプションを提案する手法です。この手法を活用すれば、マーケティングに多大な労力をかけることなく、効率的に平均注文額(AOV)を増やすことができます。
例えば、新規顧客が商品を購入する確率は5〜20%にとどまるのに対し、既存顧客ではその確率が60%〜70%にまで上昇すると言われています。また、初回購入直後に再び商品を購入する可能性は27%程度ですが、2回目や3回目の購入を経ると、この確率は54%に増加します。つまり、アップセルは時間が経つにつれて成功率が高まることを意味しています。
アップセルの対象となる顧客はすでにブランドや商品に興味を持っているため、適切なタイミングと場面で顧客が関心を持ちそうなアップセル提案をすれば、顧客との関係を深めながら収益を伸ばすことができます。ただし、押し売りのような印象を与えないよう、提案の内容や頻度には注意が必要です。
購入前アップセルと購入後アップセル
アップセルには、購入前アップセルと購入後アップセルがあります。
購入前アップセルは、顧客が商品を選んでいる段階、または購入手続きに進む前に行う提案です。購入を検討中の顧客にとってあまりに高額なアップセルは逆効果になる可能性があるため、無料ギフトや少額の追加オプションといった、リスクが低く選択しやすい提案が適しています。
これに対し購入後アップセルは、顧客が注文を完了した後に追加の商品やオプションを提案する手法です。元の注文に影響を与えることがなく、カゴ落ちのリスクがないというメリットがあります。また、購入直後の提案は、スーパーのレジ横に置かれた商品を衝動買いする心理に似て、「ついで買い」をしやすい状態にあります。ワンクリック購入機能を導入している場合、顧客が再度支払い情報を入力する必要がないため、コンバージョン率が上がります。
クロスセルとは
クロスセルは、顧客が購入を検討している商品に関連する別の商品を提案する手法です。アップセルが商品の「アップグレード」を目的とするのに対し、クロスセルは関連商品の追加購入を促すことを目的としています。
アップセルとクロスセルの違い
アップセルは、顧客が検討中の商品よりも「上位の商品」や「高価格なオプション」を提案する手法です。この手法の目的は、現在の購入品よりも価値の高い選択肢を提示し、購入額を増やすことです。例えば、中程度の価格帯のノートパソコンを選んだ顧客に高性能なプロセッサを搭載した上位モデルを提案するケースがアップセルに該当します。
クロスセルは、顧客が検討中または購入した商品に「関連性のある別の商品」を提案する手法です。この手法の目的は、顧客のニーズに合った補完商品を提案し、追加購入を促すことです。例えば、ノートパソコンを購入する際に、保護ケースやワイヤレスマウスを提案する場合がクロスセルに該当します。
アップセルとクロスセルのやり方と活用方法
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アップセルとクロスセルの具体的な5つの方法を解説します。
1. 上位の選択肢を提案する
顧客が購入を検討している商品に対して、上位のモデルやプランを提案する手法です。アップグレードにより顧客に「より価値のある選択」をしていると感じさせることができるため、顧客の満足度を高めながら購入額を増やすことができます。
具体例:Dell公式サイトでノートパソコンの購入を検討する際、例えば「おすすめノートパソコン」のページで好きな商品を選択すると、次の画面で「お客様に最適なプロセッサーをお選びください」「お客様に最適なオペレーションシステムをお選びください」などの選択肢が表示されます。自分が選んでいるモデルに搭載されているものより上位の選択肢と簡単に比較できることで、「もうワンランク上のものにしようかな」という気持ちが生まれます。こうした提案により、最終的な購入額が増える可能性が高まります。
2. 定期購入を提案する
一度限りの購入を、定期購入に切り替える提案を行う手法です。定期購入オプションは、顧客の利便性を向上させるだけでなく、事業側にとっても安定した収益源を確保できるメリットがあります。さらに、定期購入による割引を提示することで、顧客の購買意欲をかき立てる効果があります。
具体例:化粧品、健康食品/サプリメント通販の「ファンケル」では、サプリメント商品の購入で定期購入を選ぶと期間限定で初回20%オフになるオプションを提示しています。これにより、顧客の長期的なリピート購入につなげています。
3. 送料無料を提案する
一定額以上の購入で送料無料と提示し、顧客に追加購入を促す手法です。送料無料の条件を設定することで、顧客はその条件を満たすために少額の商品を追加購入しやすくなります。送料を支払うのを避けたいという心理を利用した効果的な戦略です。
具体例:衣料品の「ユニクロ」では、4990円以上の注文で送料無料と提示しています。商品をカートに入れると「あと●●●円以上で送料無料」と表示されるため、下着や靴下など単価の低い商品もついでに買っておこうという心理を生み、クロスセルにつながります。
4. 割引を提示する
次回購入に使用できる割引クーポンを配布し、追加購入を促す手法です。 割引クーポンは顧客のコスト意識を和らげ、購入のハードルを下げる効果があります。特に期間限定の割引は、顧客を「今のうちに買うべき」という気持ちにさせて早めの購入を促すことができます。
具体例:化粧品ブランド通販「資生堂オンラインショップ」では、キャンペーン期間中に特定の商品を購入すると次回購入時に使えるクーポンを配布しています。
5. コーディネートができる商品を提案する
顧客がすでに購入した、または購入を検討している商品と合わせ、トータルコーディネートができるような関連商品を提案する手法です。例えばECサイトのレコメンド機能で関連商品を提案することで、顧客が商品の組み合わせを連想しやすくなり、売上アップにつながります。
具体例:家具・インテリアの通販「ニトリネット」では、商品を選択すると「素材でそろえてもっと快適に」「あわせて買いたい商品」という提案が「カートに入れる」というボタンの近くに表示されます。
アップセルやクロスセルを成功させるためのポイント
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顧客ひとりひとりに合わせた提案を行う
アップセルやクロスセルを効果的に行うためには、パーソナライズ(顧客ひとりひとりに合わせた提案)が重要です。調査によると、86%の消費者がパーソナライズされた提案が購入の際の意思決定に影響を与えると回答しています。例えば顧客が既に購入した商品に関連性の高い提案をすることで、ショッピング体験の満足度が高まり、顧客ロイヤルティを向上させます。さらに、消費者の40%がパーソナライズされた提案によって予定より高額な商品を購入したと答えており、平均注文額(AOV)の向上も期待できます。
提案金額を適切に設定する
提案する商品の価格は、元の商品価格の25%を超えない範囲で設定することが推奨されます。高額すぎる提案は、顧客に負担を感じさせる可能性があるため、慎重に検討して提案を行うことが大切です。
データを活用する
過去の販売データや顧客の購買行動を分析し、それに基づいて適切な商品を提案することが効果的です。さらに、アップセルキャンペーンを定期的に見直し、提案の効果を検証して改善を続けることで、顧客にとって最適な体験を提供できます。
メールを活用して顧客と継続的な関係を築く
メールを活用し、ターゲットに合わせたニュースレターや割引情報を定期的に提供することで、顧客との継続的な関係を構築できます。これにより、顧客が再びサイトに戻ってきて購入を検討するきっかけを作ることが可能になります。
まとめ
ご紹介した通りアップセルやクロスセルは、収益を伸ばすだけでなく、顧客満足度を高めるために効果的なマーケティング戦略の一種です。ただし成功させるためには、購入を検討中または購入した商品との関連性が高く、顧客のニーズに合った商品やオプションを提案することが重要です。また、提案のタイミングも考慮する必要があります。
例えば、購入後のサンクスページや確認メールで自然な形で追加購入の提案を行うことで、顧客に違和感なく受け入れてもらえる可能性が高まります。さらに、無料ギフトや送料無料の設定など、顧客にとってお得感のある提案をすることで、満足度をさらに高めることができます。
アップセルとクロスセルを賢く活用することで、顧客との信頼関係を築きながら、売上を伸ばすことが可能になります。
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よくある質問
アップセルとクロスセルを行なうメリットは?
アップセルとクロスセルは、顧客に対して上位の商品や関連性の高い商品を提案することで、顧客満足度を向上させながら、購入額をアップさせるというメリットがあります。また、どちらも既存顧客に対して成功率が高いという特徴があります。顧客のニーズに合った提案ができれば、顧客からの信頼を得て、関係性を強化することができます。購入前、購入中、購入後と、それぞれのタイミングに適した提案をすることで、成功率が高まります。例えば、購入直後に追加の商品を提案することで「ついで買い」を誘い、購入額を増やす効果があります。
アップセルとクロスセルを行なう際の注意点は?
過剰な提案や押し売りに近い提案は顧客に「アップセル疲れ」を引き起こし、ブランドイメージを損なう可能性があるため、適度な頻度で行うことが大切です。また、あまりに高額な商品を提案すると顧客に心理的な負担をかけることがあるため、適切な価格帯の商品を選択することも重要です。
ダウンセルとは?
ダウンセルとは、顧客が高価格な商品やサービスを購入しなかった場合に、より安価な代替商品やプランを提案する手法です。例えば、高額なカメラの購入をためらっている顧客に対して、同じブランドのエントリーモデルを提案することで、購入のハードルを下げて販売機会を逃さないようにするというものです。アップセルやクロスセルとはいわば逆の手法ですが、それぞれの顧客のニーズに合った提案をすることにより、購入率が高まる可能性があるため、戦略的に導入することで収益向上につながる可能性があります。
文:Yukari Watanabe