起業にはさまざまな方法があり、事業の立ち上げに挑戦する初心者も増えてきています。その中で注目を集めている事業が、ゲストハウス経営です。しかし、興味はあっても、「ゲストハウスの経営は難しいのでは?」「ゲストハウス経営で失敗するのが怖い」など、一歩を踏み出せずにいる方も多いでしょう。一見ハードルが高いように見えるゲストハウス経営ですが、適切な準備と計画を行えば、初心者でも成功する可能性のある事業です。
この記事では、ゲストハウス経営の特徴、人気の理由、開業までの流れや資金調達などについて詳しく解説します。ゲストハウス経営で副収入を得たいと考えている方や、趣味をビジネスにしたいと思っている方も参考にしてください。
ゲストハウスとは?
ゲストハウスとは、トイレやバスルームなどが共用で、ホテルなどに比べ安く泊まることのできる宿泊施設です。宿泊形態は、旅館業法の簡易宿泊営業に該当します。
食事は提供されない素泊まりが基本で、一泊から宿泊できます。キッチン、シャワールームなどを宿泊者同士で共用するほか、相部屋があることもあります。また、共用リビングなどがあることで、宿泊者同士や宿泊者とスタッフが交流しやすいという特徴があります。
施設は空き家などをリフォームして利用していることも多く、古民家や農村の体験型ゲストハウスなどさまざまなスタイルのゲストハウスがあります。
ゲストハウスと民泊の違い
ゲストハウスと民泊の違いは、適用される法律と管轄省庁です。
民泊もゲストハウス経営と同様に宿泊場所を提供し料金を得るシステムで、素泊まり施設という点は似ていますが、ゲストハウスと民泊では適用される法律が異なります。ゲストハウスは旅館業法に基づいて営業しますが、民泊には住宅宿泊事業法が適用されます。
国土交通省観光庁によると、ゲストハウス(旅館業法)と民泊(住宅宿泊事業法)の違いは下記の通りになっています。
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所轄省庁
ゲストハウス:厚生労働省
民泊:国土交通省・厚生労働省・観光庁 -
住居専用地域における営業
ゲストハウス:不可
民泊:可能(条例によって制限されている場合がある) -
営業日数の制限
ゲストハウス:制限なし
民泊:年間の営業日数180日間のみ(条例で実施期間の制限が可能) -
最低床面積
ゲストハウス:33㎡以上(ただし、宿泊者数10名未満の場合は1名あたり3.3㎡)
民泊:1名あたり3.3㎡以上 -
消防用設備等の設置
ゲストハウス:必要
民泊:必要(家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要) -
近隣住民とのトラブル防止措置
ゲストハウス:不要
民泊:必要(宿泊者への説明義務、苦情対応の義務) -
管理業者への委託業務
ゲストハウス:規定なし
民泊:規定あり
事業として営業する際、重要となるポイントが営業日数の制限です。民泊は年間の営業日数が180日間以内と決められていますが、ゲストハウスにはその制限はありません。営業日数は利益に直結するため、より多くの営業日数を確保できるゲストハウスのほうが事業に適しています。
旅館業とは
旅館業とは、旅館業法で「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義される事業です。宿泊料を徴収しない場合は旅館業法の適用外となります。
旅館業は3つの種類に分類され、ゲストハウスは2番目の簡易宿所営業に分類されます。
- 旅館・ホテル営業:宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業と下宿営業以外のものが該当します。
- 簡易宿所営業:多数の人が共用する施設を提供し、宿泊料を受け取って宿泊させる営業のことで、下宿営業以外のものが該当します。
- 下宿営業:1か月以上の長期滞在を対象とした宿泊施設の営業のことです。
ゲストハウスの将来性について
ゲストハウスが人気を集めている理由とその需要、そして都心と地方の違いなど、ゲストハウスの将来性について紹介します。
ゲストハウスが人気の理由とその需要
ゲストハウス人気の主な理由には、宿泊コストの低さや、宿泊者やスタッフとの交流を楽しみたい人からの需要増加などがあります。
ゲストハウスの宿泊費用は、一泊あたり2,000〜5,000円程度で、金銭的に余裕がない学生や若者、バックパッカーなどを中心に需要があります。また、共用設備があるため宿泊者同士のコミュニケーションが生まれやすく、ホテルとは違った体験をしたい人にも選ばれています。スタッフとの距離も近いため、地元の人しか知らない穴場スポットなどの情報が得られることも人気の理由の一つです。
それ以外に、ゲストハウスが提供する体験型の宿泊も人気を集める要因の一つになっています。例えば、海外観光客には古民家や日本のローカルな生活を体感できるゲストハウスなどが人気です。
都心と地方の違い
都心と地方のゲストハウスには、主にデザイン性の違いがあります。地方では、古民家や空き家を改修して利用することが多く、伝統的な日本のデザインを生かした建物が多い傾向にあります。
一方、都心のゲストハウスはビルの一室を改装するケースが多く、若者に人気のあるオシャレでスタイリッシュなデザインが目立ちます。デザイン性に惹かれて宿泊を選ぶ人も多いため、立地だけでなく見た目も集客において重要な要素です。
ゲストハウス経営の始め方
1. コンセプトの決定
ゲストハウス経営では、ビジョンやテーマなどのコンセプトを明確にすることが重要です。これを明確にすることで、競合施設との差別化が図りやすくなります。
まずはターゲット層を決め、そのターゲットに合った方向性を考えます。それに合わせてテーマやスタイルを決定しブランディングを行いましょう。コンセプトをベースに、物件や内装、設備、ホームページなどの方向性が決まるため、できるだけ具体的に考えるようにします。
例えば、ゲストハウス内での宿泊者同士の交流をテーマにした場合は、キッチンやダイニングを広めに設計する、ビリヤードなど一緒に楽しめるものを用意するなど、外に出なくても気軽に交流できるよう工夫する必要があります。このように初めからコンセプトを決めておくことで、内装工事や物件選びなどの準備を効率良く進められます。
2. 予算決めと資金準備
コンセプトを決めたら、次は予算を決め資金を準備します。ゲストハウスの開業にかかる費用は、旅館やホテルなどに比べると少ないものの、ある程度の資金が必要です。予算は、物件、内装、設備や備品、運転資金など、複数の項目に分けて計画します。特に、物件や内装は集客に大きく関わる部分のため、最初に決めたコンセプトに合わせ、しっかりと検討しましょう。
例えば、ターゲットが観光客であれば、観光名所へのアクセスのしやすさが重要となるため、物件にかける費用を優先させます。ゲストハウス自体が滞在目的となる場合は、内装や設備にウェイトを置いた予算配分にすると良いでしょう。また、ゲストハウスのみで収入を得る予定の場合は、開業後の自身の生活費も予算に含めておく必要があります。
予算を決めたら資金の準備を始めます。資金は、自己資金で全額準備する方法と、一部を融資で補う方法があります。現在の資産状況に応じて、最適な方法で資金を準備することが大切です。ゲストハウス開業にかかる費用は、立地やコンセプトにより変動しますが、一般的には数百万〜1,000万円程度が相場です。
3. 物件決め
資金の準備と並行して物件も決めます。物件選びの際のポイントは以下の通りです。
ゲストハウスのコンセプトを実現できる物件を選ぶことはとても重要です。特に、大規模なリフォームやリノベーションを考えている場合は、リフォーム会社や建築士など専門家に相談しながら探すようにしましょう。
例えば、宿泊者同士の交流をテーマに広く快適なリビングを作ろうと思っている場合、物件がどの程度リノベーションできるのかでコンセプトの実現度が大きく変わってきます。
コンセプトに最適な物件でも、利便性が悪すぎると集客に影響します。利便性に問題がなくても、競合施設が多い地域では集客が難しい場合もあります。不便な立地は送迎サービスをつける、競合が多い立地では体験型のサービスを提供して差別化を図るなど、デメリットをカバーするような工夫をすると良いでしょう。
また、水回りが不衛生であったり、レンタカー利用者が多い場所で駐車場がなかったりする場合は、顧客満足度の低下につながり、稼働率が低下する可能性があります。Wi-Fi環境など必要な設備を整えることも大切になるため、そういった点で障害がないかどうか確認する必要もあります。宿泊客が快適に滞在できるよう、宿泊者目線で物件を探しましょう。
4. 各機関への事前相談
ゲストハウス開業の際は、後々の許認可申請がスムーズに進むよう、事前に各機関への相談を行いましょう。保健所や消防署、市役所などで事前に相談しておくことで、基準を満たすための設備設計をスムーズに進めることができます。
5. リフォームや内装の着工
工事中は進捗状況を定期的に確認しましょう。予定通り開業を迎えられるように、各業者との連携を密にし、スケジュール管理を徹底することが大切です。
自分でリフォームをする場合は、法令や申請基準などをしっかりと順守するよう注意しなければなりません。必要に応じて専門家にチェックしてもらうなどすると良いでしょう。
6. 設備や備品の準備
着工したタイミングで、必要な設備や備品の準備を始めましょう。工事が完了し次第すぐに設備を設置でき、開業までの時間の短縮につながります。
ゲストハウスで最低限必要な設備は、布団やベッドなどの宿泊設備、アメニティやタオルなどの備品です。設備や備品は、コンセプトに合っていることはもちろん、宿泊者が使いやすいものを選ぶことが重要です。例えば、キッチンやバスルーム、トイレなどの水回りに関するアイテムは、衛生的で使いやすい製品をそろえましょう。
支払いに関する設備を整えることも重要です。現金だけでなくクレジットカードやスマホ決済に対応できるよう、クレジット端末機などを導入しておくと良いでしょう。
7. 許認可の申請
資金の準備や物件決めが終了したら、許認可の申請を行います。
それぞれの申請の項目と所要期間、申請場所は以下の通りです。
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旅館業法に関する申請(必須)
項目:旅館業営業許可
所要期間:約1か月
申請場所:管轄の保健所 -
消防法に関する申請(必須)
項目:消防法令適合通知書交付申請
所要期間:約1週間
申請場所:管轄の消防署 -
建築基準法に関する申請
項目:建築確認申請、用途変更申請など
所要期間:約1〜2か月
申請場所:管轄の自治体
ゲストハウスの規模に関わらず申請しなければならないのは、旅館業営業許可と消防法令適合通知書の2つです。
旅館業営業許可は、衛生基準など複数の要件を満たすことで取得できます。申請は管轄の保健所で行います。
消防法令適合通知書交付申請は、経営する物件が消防法令に適合している物件であることを証明するために必要です。管轄の消防署に申請し、監査を受けて、適合が認められると交付されます。
また、物件が宿泊用物件ではなく200㎡を超える場合は、用途変更が必要になります。用途変更には、用途変更申請と建築確認申請を行い、最終的に建築検査済証の交付を受ける必要があります。申請は自治体または民間の指定確認検査機関で行ってください。申請後は監査が行われるため、建築検査済証を受け取るまでに時間がかかります。余裕を持って早めに申請しましょう。
8. 立入検査
工事が完了し、必要な設備の設置が済んだら、立入検査が始まります。立入検査は主に消防署や保健所が行い、宿泊者が安全に宿泊できる環境が整えられているか、防災面や衛生面に問題がないかなどが検査されます。すべての検査項目で基準を満たしていれば営業が可能になります。
9. マーケティングの実施
開業に向けてマーケティングも行いましょう。ゲストハウスのインスタアカウントを作るなどしてSNSマーケティングを行ったり、ホームページを作成したりします。
SNSでは、ゲストハウスのコンセプトや世界観が伝わるような投稿をすると良いでしょう。自分でリフォームをする場合などは、リフォーム過程も共有することで、開業までの期待感を高め、宿泊予約につなげることができます。
ホームページも、ブランディングやデザインを念頭に置きつつ、予約方法や宿泊料のわかりやすさ、キャンセルポリシーの明示など、利用者が安心して予約できるサイトを作りましょう。
ゲストハウスの宿泊予約をホームページ上で受け付ける場合は、Shopifyでのサイト構築がおすすめです。ホテル・旅館予約用のShopify連携型宿泊予約システム「くじらブッキング™」を利用すれば、ネット経由の予約受付だけでなく、予約管理、宿泊管理、マーケティングまで一元化できます。運営の効率化が図れると同時に、ゲストにとっても使いやすいホームページが作成できます。
Airbnb(エアビーアンドビー)などの宿泊施設仲介サービスや、旅行予約サイトへの登録も行い、マルチチャネル戦略をとってより多くの潜在顧客の目にとまるようにしましょう。
ゲストハウスの客室稼働率
ゲストハウスの客室稼働率は、国土交通省観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2023年は25.1%(ゲストハウスを含む簡易宿所営業)でした。
ゲストハウスは、一般的にホテルや旅館と比較してリーズナブルな宿泊料金が設定されているため、特に観光シーズンや週末には高い稼働率を維持しやすい傾向にあります。大阪や福岡、東京では40〜50%を超える地域もあり、開業する地域によっては旅館などの他の宿泊施設よりも高い客室稼働率を期待できます。
ゲストハウス経営に必要な資金の調達方法
自己資金以外にゲストハウス経営の資金を調達する方法を紹介します。
銀行からの融資
銀行から融資を受ける場合、銀行によっては営業許可証の原本またはコピーの提示を求められます。一般的に営業許可証は工事が完了しないと受け取れないため、融資を受けてから工事を始めたい場合の資金調達には適していません。銀行から融資を受けたい場合は、営業許可証の提出が不要な銀行を選びましょう。
日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫の「新規開業資金」は、新たに事業を始める人を対象とした制度で、最大で7,200万円(うち運転資金は4,800万円)まで融資を受けることができます。返済期間も10〜20年以内と長めに設定されているため、銀行からの融資に比べて返済に余裕が生まれるところが魅力です。
補助金の活用
ゲストハウス経営で活用できる補助金は「小規模事業者持続化補助金」や「事業再構築補助金」があります。
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の経費の一部を支援する補助金制度のことで、インボイス特例の要件を満たす場合は最大100万円の補助金が受け取れます。また、補助金を申請する際には、事業計画書や販路開拓について商工会議所からアドバイスも受けられます。初めて起業する人などは、補助金の受け取りとあわせて、このようなサポートも有効活用すると良いでしょう。
事業再構築補助金は、企業が新たな事業展開や業態転換などを行う際に、その取り組みを支援するための補助金制度です。申請枠や類型、従業員数によって補助上限金額は異なります。例えば、成長分野進出枠(通常類型)で従業員数が20人以下の場合、最大1,500万円の補助を受けられます。建物の修繕費がメインになりやすいゲストハウス事業においては、この補助金が採択されやすく、相性がいいでしょう。
クラウドファンディング
インターネットを通じて多数の支援者から資金を集めることができるクラウドファンディングの利用も可能です。資金を集めるためには、コンセプトを明確にして、SNSなどで積極的にアピールすることが重要です。クラウドファンディングがSNSで拡散されれば、資金調達だけではなく、顧客の獲得も期待できます。
ゲストハウス経営で成功するポイント
ゲストハウス経営で成功するには、コンセプトの設定や設備を整える、マーケティングを行うなど準備段階で基本となること以外に、いくつかポイントがあります。
主なポイントには以下のようなものがあります。
ゲストハウス経営で成功するには、賃料や光熱費、人件費などを差し引いて利益が出る適正な価格を設定することが重要になります。平均客室稼働率は25.1%なので、ベッド数と単価、運営日数から、適正価格を算出しましょう。
また、価格設定で失敗しないためには、物件の周辺エリアの相場を正しく把握することも大切です。さらに、繁忙期は価格を高めに設定し、閑散期は安めに設定するなど、時期によって柔軟に価格を調整するのも有効です。
集客においては最初の3か月が重要となるため、適切なタイミングにオープンすることも成功するポイントの一つです。周辺エリアの閑散期を避け、賑わいのある時期にオープンすることで集客効果が高まります。例えば、桜が有名な場所が近いのであれば、開花時期に合わせてオープンすることで、効果的に集客できます。ハイシーズンの観光地は数ヶ月前から宿泊先を探す人も多いため、数ヶ月前からオープン告知をしておくことも大切です。
外国人も多く利用するゲストハウスではクレジットカード払いが一般的なため、売上金が手元に入るまでに時間がかかります。特に開業したての頃は売り上げも安定しないため、運営費を補填できるだけの資金を用意しておきましょう。
ゲストハウスでは、旅館やホテルなどに比べて客単価が低いため、稼働率を高くすることも成功のポイントです。宿泊者を増やすために、イベントの開催や個性的なサービスの提供など、さまざまな工夫が必要です。例えば、通訳案内士の資格などがあれば、外国人観光客向けにガイドツアー付きの宿泊などを提供し、稼働率や単価をアップすることができます。
まとめ
ゲストハウスの経営で成功するためには、ターゲット層に適したコンセプトを明確にし、施設設備の整備や、適正な価格設定を行いましょう。周辺エリアの相場を把握し、繁忙期と閑散期に応じた価格の変動を計画的に行うことで、収益の安定を図ることが可能です。開業に至るまで、各種許認可の申請や立入検査など法的にクリアしなければならないステップも多くありますが、行政機関や専門家に相談しながら進めることで、初心者でもゲストハウスをオープンさせることができます。
ホームページやSNSを活用して集客を行い、客室稼働率を高められるようにしていきましょう。
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よくある質問
ゲストハウス経営に必要な資格は?
ゲストハウス経営に必要な資格はありません。ただし、施設内で食事やお酒を提供する場合には、手続きが必要です。飲食店営業許可を取得し、食品衛生責任者の資格を持つ担当者を選任する必要があります。アルコールを提供する場合は、酒類販売業の免許も取得する必要があります。
ゲストハウス経営に必要な許可は?
ゲストハウスの規模に関わらず必ず必要になる許可申請は、旅館業営業許可と消防法令適合通知書の2つです。その他、条件によって建築確認申請などが必要になります。
- 旅館業営業許可の申請(必須)
- 消防法令適合通知書交付申請(必須)
- 建築確認申請/用途変更申請(物件が宿泊用物件ではなく200㎡を超える場合)
ゲストハウス経営でどのくらい儲かる?
文:Momo Hidaka