ECの新たな形としてサブスクリプションコマースに注目が集まっています。安定した収益が見込めることから、ビジネスに取り入れたいと考えている事業者も多いでしょう。しかし、どのようにサブスクリプションコマースを始めれば良いかわからないという人もいるのではないでしょうか。
この記事では、ECにおけるサブスクの種類や国内事例について解説します。サブスクリプションコマースの導入を検討している人は、ぜひこの記事を参考に、自社のEC事業に適したモデルを選択しましょう。
サブスクリプションコマースとは
サブスクリプションコマースとは、顧客が毎月一定の金額を支払うことで定期的に商品やサービスを受け取れるビジネスモデルです。サブスクリプションはサブスクとも呼ばれます。ECサイトでのサブスクは、顧客が商品を選ぶのではなく、事業者が選んだ商品を定期的に届けるのが一般的です。
元々はソフトウェアや音楽・動画配信などの無形商品を扱うデジタル分野で普及していたサブスクリプションコマースですが、昨今ではアパレルやコスメなど、幅広い分野に広がっています。
サブスクリプションコマースは事業者が厳選した商品を提供するため、ECサイトの数ある選択肢のなかから商品を選ぶことに疲れた現代の消費者の支持を集めています。消費行動が所有から利用へ変わってきていることもあり、企業のサブスクリプションコマースの導入も増加し、市場のさらなる拡大が予想されています。
4つのサブスクリプションモデル
ECサイトで導入されるサブスクリプションコマースは、サービス提供の仕組みによって4つに分類されます。サブスクリプションのモデルごとにサブスクリプションサービスの作り方が異なるので、それぞれの特徴を理解したうえで選びましょう。
1. 会員制モデル
会員制モデルは、定額料金で特定のサービスを使い放題にするサブスクリプションモデルです。動画・音楽配信サービスを中心に、多くのサービスに導入されています。
初回1ヶ月間無料などのキャンペーンが行いやすく、新規顧客を獲得しやすいという特徴があります。また、日常的な利用のために定額で使い放題のサブスクを選ぶ消費者が多いこともあり、継続率も高くなっています。
会員制モデルの具体例は以下のとおりです。
- 動画が見放題の配信サービス
- 雑誌やマンガが読み放題の電子書籍サービス
- 語学レッスンが受け放題のオンライン学習サービス
使い放題であることが会員制モデルの最大の魅力であるため、有形の商品よりも無形の商品やサービスに適しています。
2. レコメンドモデル
レコメンドモデルは、顧客の好みや嗜好に基づいて最適な商品やサービスを提供するモデルです。専用のカルテやアンケートを通して収集した情報をもとに、AIや事業者が商品を選定します。
商品選択に迷う顧客の悩みを解消するだけでなく、利用回数が増えるほどデータが蓄積されるので、提案精度を向上させることもできます。サービスに合わせたカスタマイズが必要なため運営は複雑になる傾向にありますが、高い顧客満足度が期待できることから、多くの事業者の注目を集めています。
レコメンドモデルの具体例は以下のとおりです。
- 毎月好みに合わせたおやつが届くサービス
- スタイリストが診断結果に基づいてセレクトした洋服が毎月届くサービス
- AIが分析したユーザーデータをもとに、健康や美容のメニューを提供してくれるサービス
3. 頒布会モデル
頒布会モデルは、サービス提供者が厳選した商品を定額で定期的に届けるモデルです。レコメンドモデルと異なり、専門家が全ての商品を選定します。
頒布会モデルは、どんな商品が届くかわからないワクワク感が魅力です。幅広い分野で展開されており、おすすめ商品を試したい人や商品を選ぶのに専門知識が必要な商品などに適しています。
また、在庫を管理しやすく利益率の調整が可能なため、安定した収益を確保できるのがメリットです。顧客に新しい商品を定期的に提供することによって、長期的な関係構築も期待できます。
頒布会モデルの具体例は以下のとおりです。
- プロが選んだ日本酒が届くサービス
- 花屋が厳選した花が届くサービス
- 化粧品や雑貨が届くサービス
4. 定期購入型モデル
定期購入型モデルは、顧客が特定の商品を定期的に受け取るモデルです。日用品や消耗品を対象としたものが多く普及しています。
購入の手間を省けるだけでなく、定期購入にすると割引価格になるなど顧客にとってのメリットも多いため、継続率が高い傾向にあるのが特徴です。在庫管理や売上計画が立てやすく、安定した収益も見込めます
定期購入モデルの具体例は以下のとおりです。
- サプリメントの定期購入
- 指定した生活必需品の定期購入
- 指定した食材の定期購入
サブスクリプションコマースのメリット
1. 安定した収入を得られる
サブスクリプションコマースは、安定した収入を見込めるのがメリットです。従来の売り切り型ビジネスでは、顧客の購入タイミングが予測しづらいため、売り上げが不安定なことも少なくありませんでした。しかし、サブスクリプションコマースなら、顧客から毎月一定額を得られるため、収入が安定しやすくなります。
たとえば、月額1,000円のサービスを1年間提供することで、1人あたり12,000円の売り上げを確保できます。また、顧客満足度が高ければ継続利用が期待できるので、長期的な収益増加にもつながるでしょう。
在庫回転率や仕入れの計算、販売予定数の把握がしやすくなるため、経営も安定化しやすい傾向にあります。予定された販売数をもとに、大量に仕入れれば、コスト削減も可能です。
2. 利用者に関するデータを集めやすい
サブスクリプションコマースは、登録時に性別や年齢、趣味嗜好などの詳細情報を集められるため、顧客のニーズを深く理解できます。商品の反応やアンケート、リピート率などのデータを継続的に取得でき、集めたデータをもとに商品開発やサービス改善をすれば、解約率を低くしたり売り上げを上げたりできます。分析にAIを活用すれば、個々の顧客に最適な商品を選定することもできるでしょう。
3. 新規顧客の獲得につながる
サブスクリプションコマースは、販売側が顧客に届ける商品を選ぶため、商品選択に疲れを感じている消費者の獲得につながります。
また、新しい発見や意外性を提供できるレコメンドや頒布会モデルでは「何が届くかわからないワクワク感」によって、通常の購買プロセスでは離脱してしまう可能性のある消費者を惹きつけることもできます。ただし、商品の演出や企画力が問われるため、魅力的な提案をし続けなければなりません。
4. 顧客との関係構築ができる
サブスクリプションコマースは長期的に利用されることが多いため、顧客との関係構築がしやすいのがメリットです。売り切り型のビジネスと比べてアンケートやメールマーケティングを行いやすく、顧客と密なコミュニケーションを取ることができます。パーソナライズされた商品選定を行うことも信頼関係やロイヤリティの構築につながり、企業の安定した収益基盤の拡大が期待できるでしょう。
サブスクリプションコマースのデメリット
1. 利益が出るまでに時間がかかる
サブスクリプションコマースは、継続的に安定した売り上げを出せるまでに時間がかかります。サービス開始直後は多くの顧客を獲得することが難しいため、初期段階では赤字になる可能性が高く、資金面での対策が重要です。また、新規顧客には最初はお試し価格で商品やサービスを提供することも多いため、ある程度継続してもらわないと利益が出ない可能性もあります。経営を軌道に乗せるのには長期的な計画を立てなければなりません。
2. 顧客が満足するサービスを提供し続ける必要がある
サブスクリプションコマースを成功させるには、継続的に顧客を満足させなければなりません。ある調査会社によると、約70%のサブスク利用者が「節約」や「利用頻度に見合わない」という理由で解約を検討しています。
そのため、新しい商品の追加やコンテンツの更新などを定期的に行い利用頻度を高める、ノベルティなどの付加価値を付けて価格に対する満足度を高めるなどの工夫をする必要があります。また、顧客の声を積極的に取り入れ、サービスの改善を続ける努力も必要です。
3. 価格競争になりやすい
サブスクリプションコマースは、コストパフォーマンスの良さやお得感を訴求することで消費者を惹きつけるため、価格競争になりやすい傾向にあります。類似のサービスや商品が増加すると、消費者は料金で比較するので、価格競争が起こり、収益性が下がる可能性があるでしょう。また、価格のみを強調しすぎると、ブランドイメージが低下する恐れもあります。
価格に頼らずに競合と差別化するためには、サービスや商品に独自の付加価値を加えるのが重要です。また、企業やブランドに対するロイヤリティを高めることも差別化につながります。ブランディングを行い、SNSマーケティングなどを活用してブランドイメージを定着させるのも有効です。
サブスクリプションコマースの始め方
サブスクリプションコマースは、以下の手順で始めるのがおすすめです。
- 商材を選ぶ:量産可能なコンテンツや定期的に使用できる有形商品など、サブスクリプションコマースに適した商品を探す
- 価格を決める:相場やメンテナンス費用などを考慮したうえで、月額や年額の定額料金を設定する
- 頻度を決める:複数の商品交換サイクルやお届け頻度を用意し、顧客が自由にプランを選べるようにする
- ECサイトを作成する:サブスクに特化したプラットフォームやShopifyなどを利用する
- サービスを宣伝する:SNSや広告、ランディングページなどを活用してターゲット層にアプローチする
- 顧客管理を効率化する:受注管理システムなどのツールを導入して、契約や請求書発行、発送管理などを効率化する
- 分析と改善を繰り返す:解約理由のような顧客データを分析し、サービスを継続して利用してもらうための施策を検討する
サブスクリプションコマースの国内事例
1. フェリシモ
フェリシモは、サブスクリプションサービスの先駆的存在です。オンラインショッピングが普及する前から、女性向けの頒布会形式のカタログ通販で人気を集めてきました。
フェリシモのサブスクはフェリシモ定期便といわれ、「〇〇の会」と名付けられたシリーズ商品が毎月1回、色柄やデザインを変えて届けられる頒布会モデルです。
- 運営会社:株式会社フェリシモ
- サブスクリプションモデル:頒布会モデル
- 主な内容:ファッションアイテムやインテリアなど
2. oisix
oisix(オイシックス)は、オイシックス・ラ・大地株式会社が提供する食材宅配サービスです。月額1,598円(税込)で45品以上の対象商品のなかから、3品まで商品を選べる「牛乳とか飲み放題」というサブスクリプションサービスを提供しています。登録解除や再開もネット上で簡単に行えるようにして顧客が使いやすいように工夫しており、利用者の70%以上が継続利用しています。
- 運営会社:オイシックス・ラ・大地株式会社
- サブスクリプションモデル:会員制モデル
- 主な内容:飲食料品
3. MY LITTLE BOX
MY LITTLE BOX(マイリトルボックス)は、My Little Box株式会社が展開するパリをテーマにしたサブスクリプションサービスです。2013年に日本での展開を開始し、女性を中心に人気を集めています。月額3,200円で、各月のテーマに沿ってパリジェンヌスタイルを意識したファッションアイテムや、日常生活では出会えないユニークなコスメや雑貨を選定し届けています。
- 運営会社:My Little Box株式会社
- サブスクリプションモデル:頒布会モデル
- 主な内容:ファッションアイテム、コスメ、雑貨
4. BLOOMBOX
BLOOMBOXは、株式会社アイスタイルが展開する美容系サブスクリプションサービスです。月額1,650円から利用でき、AVEDA、CRALINSなど500以上のブランドのなかから4〜5ブランドのお試しサイズのコスメが届きます。
毎月のテーマは公開されますが、具体的な商品は明かされないため、利用者はワクワクした気持ちで商品の到着を待てるのが特徴です。また、美容やライフスタイルに関する顧客情報をもとに、パーソナライズされた商品選びをしています。
- 運営会社:株式会社アイスタイル
- サブスクリプションモデル:レコメンドモデル
- 主な内容:ブランドコスメ
5. airCloset
airCloset(エアークローゼット)は、株式会社エアークローゼットが提供する日本最大級のファッションレンタルサービスです。利用開始時に好みや悩み、サイズなどの情報をカルテ化し、返却時にもアンケートを行うことで、よりパーソナライズされたスタイリングを提供できるようにしています。
- 運営会社:株式会社エアークローゼット
- サブスクリプションモデル:レコメンドモデル
- 主な内容:ファッションレンタル
6. subsc
subsc(サブスク)は、1965年設立の現代経営技術研究所が提供しているサブスクリプション専門のECモールです。「何が届くか、毎月ワクワク」というキャッチコピーのもと、全国のショップが厳選した商品が定期的に届きます。
取り扱う商品カテゴリーは幅広く、ご当地グルメやスイーツ、お酒、趣味関連商品など幅広い商品があります。また、いつでも解約可能な契約形態にすることで気軽な利用を促し、新規顧客の獲得につなげています。
- 運営会社:現代経営技術研究所
- サブスクリプションモデル:頒布会モデル
- 主な内容:飲料食品、文房具、花
7. トイサブ!
トイサブ!は、株式会社トラーナが提供する子ども向け知育玩具のサブスクリプションサービスです。子どもの月齢に応じた適切なおもちゃが定期的に届くだけでなく、気に入った知育玩具は格安で購入できます。
ECサイトに利用者の口コミや子どもがおもちゃで楽しむ様子を掲載し、サービスの魅力を具体的に伝えているのが特徴です。また、おもちゃのクリーニング方法も共有するなど、利用者目線での情報提供を行うことでロイヤリティも高めています。
- 運営会社:株式会社トラーナ
- サブスクリプションモデル:レコメンドモデル
- 主な内容:玩具
8. saketaku
saketaku(サケタク)は、日本酒応援団株式会社が提供する日本酒のサブスクリプションサービスです。全国1.5万種の日本酒から、プロが厳選した1本とおつまみが毎月届けられます。
ソムリエが選んだ希少性の高い日本酒に加え、おつまみや鑑定書、作り手情報が掲載された情報誌、初心者向けのウェルカムガイドが同梱されているのが特徴です。また、2回目の配送時には全員にグラスがプレゼントされるといった、継続利用を促す特典も用意されています。XとInstagramでハッシュタグ付きの投稿をお願いするなど、SNSマーケティングも活用しています。
- 運営会社:日本酒応援団株式会社
- サブスクリプションモデル:頒布会モデル
- 主な内容:日本酒
まとめ
サブスクリプションコマースは、安定的な収益の確保と顧客との長期的な関係構築を可能にするビジネスモデルです。しかし、収益を安定させるには、顧客満足度を維持するための商品やサービスの質の向上、競合との差別化戦略の構築が欠かせません。
また、サブスクリプションコマースは仕組みによって、会員制モデルやレコメンドモデルなどに分類されるため、どのモデルでサービスを展開するのかを考えるのも重要です。国内の成功事例を参考に、自社の強みを活かした独自の価値提供を心がけると良いでしょう。
サブスクリプションコマースを検討している事業者は、ぜひこの記事を参考に、独自性のあるサービスを考えていきましょう。
よくある質問
サブスクリプションコマースと従来の定期購入との違いは?
サブスクリプションコマースは、従来の定期購入と似ていますが、以下のような違いがあります。
- 従来の定期購入
- 顧客が選んだ商品を定期的に届ける(毎回同じ商品が届く)
- 飲食料品中心の取り扱い
- サブスクリプションコマース
- 顧客のニーズに合わせて事業者が選んだ商品を定期的に届ける(毎回同じ商品ではない)
- 飲食料品からファッション・コスメなど多様な商品を扱う
サブスクリプションコマースを導入できる商品は?
サブスクリプションコマースは、以下のような幅広い商品に導入できます。
- 日用品・消耗品
- 健康食品
- コーヒー豆
- 日用雑貨
- デジタルコンテンツ
- 動画配信
- 音声配信
- アパレル
- コスメ
- ファッション雑貨
- 洋服
消耗品やトレンドが変わりやすいカテゴリーの商品は、サブスクリプションコマースを導入しやすいでしょう。
ECサイトでサブスクリプションコマースを利用するメリットは?
ECサイトでサブスクリプションコマースを導入することで、以下のようなメリットを得られます。
- 安定した収益
- 顧客との関係構築
- 新規顧客の獲得
また、継続利用してもらうことで得られたデータやフィードバックをもとに商品やサービスを改善しやすくなり、顧客満足度も向上させられます。
サブスクリプションコマースにおすすめのShopifyのアプリは?
Shopifyでサブスクリプションコマースを始めるには、以下の日本語対応しているアプリがおすすめです。
- Go Sub:予約販売アプリRuffRuff 予約販売と干渉せず使える
- かんたんサブスク:月額無料からサブスクを始められる
- 定期購買:移行機能やサポート機能が充実している
- Mikawaya Subscription:売り上げ向上に特化した機能を備えている
- Shopify Subscriptions:Shopify純正アプリで、完全無料で利用できる
アプリを選ぶ際は、日本語対応の有無やカスタマイズ性、顧客管理機能、分析・レポート機能などを考慮する必要があります。ビジネスニーズに合わせて適切なアプリを選択し、効果的なサブスクリプションコマースを構築しましょう。
文:Kana Fukuzumi