このセッションでは、Shopify Plusを導入している老舗仏壇仏具会社の株式会社はせがわEC推進チームリーダーの藤山雅裕氏が登壇。Shopify Japan株式会社マーチャントサクセスマネージャーの押切啓介氏との対談のなかで、時代に合わなくなった旧来型のECプラットフォームをShopify Plusでどうアップデートしたかをテーマに語りました。
<目次>
1. Shopify導入前は、チャネルが複雑化の一途をたどっていた
2. 課題解消に向けたキーワードは「統合」と「簡素化」
3. 拡張性の高さやスモールスタートのしやすさに着目しShopifyを導入
4. 社内対立の解消に注力、結果として導入初年度でモール型ECに相等する売上を確保
5. 今後はオンラインとオフラインのシームレスな連結に取り組む
1. Shopify導入前は、チャネルが複雑化の一途をたどっていた
藤山氏は、押切氏の問いかけの元、13人が所属する自社のEC推進チームの業務について説明しました。AmazonとYahoo!ショッピング、楽天市場の3つのモール型ECに加え、Shopify Plusを活用した自社ECサイトを加えた4つのECプラットフォームを運営していると強調。リアル店舗については、関東と東海、九州・山口の3エリアで計129店舗を運営しているとしました。
続けて、藤山氏は、現状のEC体制に至るまでにどのような経営課題があったかという押切氏の質問に対し、実店舗とECの両方を発展させていくなかで、自社と顧客をつなぐチャネルが複雑化・分散・分断の一途をたどっていたと説明。「販売チャネルの重複により無駄が出て、お客様に迷惑をかけていました」と吐露しました。
さらに、藤山氏は、旧来型のデジタル体制でも、複数のチャネルをまたがる購買・購入情報の一元化はできていた一方、資料請求で得た情報など、購入前の顧客情報の管理ができていなかったと指摘。具体例として、カタログ請求・来店予約をした顧客の情報を挙げ、「過去に予約して銀座本店などに訪れたお客様が来店後に自社ECなどでどのような商品を購入していたかといった情報が、複数のチャネル間で統合されていなかった」としました。
このほか、藤山氏は、旧来のデジタル体制で、資料請求や購入などにつなげるブログ記事が500〜600記事あった一方、品質の低い記事も多くあったと説明。さらに、「ECとマーケティングサイトが統合されておらず、SEO的によい効果が得られなかった」と語りました。
2. 課題解消に向けたキーワードは「統合」と「簡素化」
このような旧来のデジタル体制に起因する問題にどのように対処したのでしょうか。そのキーワードとして、藤山氏は、「統合」と「簡素化」を挙げました。
藤山氏によると、EC推進チームは、旧来のデジタル体制の刷新にあたり、Shopify Plusを使い、自社ECのほか、低品質で不要なコンテンツの整理整頓に取り組んだといいます。加えて、カスタマーサービスの機能をShopify Plusに載せることで統合を図ったとのことです。
説明を受け、押切氏は「Shopify Plusの導入によって、自社ECサイトで商品の購買のみならず、コンテンツの閲覧やカスタマーサービスが一挙に受けられるようになったため、UX(ユーザーエクスペリエンス)がかなり上がっていますね」と応えました。
藤山氏は、顧客とのタッチポイントで取得したデータをどのように扱っているかという問いに対し、「Shopify Plusとカスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)を連携させることでデータの統合や分析を進めている」と強調。「CDPなどのデータ分析プラットフォームに良質なデータを流し込むことで、顧客の解像度向上を目的としたデータを設計したり、顧客の属性を分析したりする仕組みを構築しています」と語りました。
在庫情報や受注情報の管理については、Shopify Plusとモール型ECのそれぞれをOMS(注文管理システム)と統合することで、オーダーへの対応を速やかにする体制を構築しているとしました。
3. 拡張性の高さやスモールスタートのしやすさに着目しShopifyを導入
Shopifyは世界最大級のECプラットフォームとはいえ、使用性や管理のしやすさ、サポートの品質などでShopifyと肉薄するサービスも少なくありません。なぜ、はせがわはShopifyを選んだのでしょうか。
藤山氏は、Shopifyを選んだ理由について、豊富なアプリが搭載され、拡張性があるほか、アプリも自由自在に導入、廃止ができ、スモールスタートも可能な点を挙げました。Shopifyに搭載された機能の一つで、実店舗での販売情報も管理できる「Shopify POS」にも可能性を見いだせたといい、「Shopify POSを使うことで、より利便性が高まります」と語りました。
こうした藤山氏の導入理由に対し、押切氏は、アプリの豊富さがほかのECプラットフォームにはない機能であるとしつつ、「約130に上る店舗を持つエンタープライズ企業であっても、耐えうる機能がある点で、Shopifyを選んでいただけたのではないでしょうか」と解説しました。
4. 社内対立の解消に注力、結果として導入初年度でモール型ECに相等する売上を確保
Shopifyは高度な機能を持つ一方、詳細なカスタマイズに苦慮するマーチャントもいます。また、社内のしがらみや文化の違いに起因する適応課題を抱えるマーチャントもいるのも事実です。はせがわは、導入時のハードルをどうやって乗り超えたのでしょうか。
藤山氏によると、はせがわも、実店舗至上主義が強いことから、Shopify Plusの導入時に人的・資金的な問題に直面したと言います。また、実店舗の部署とEC推進チームの間で、売上評価を巡る対立も想定されたとのことです。
そうしたなか、藤山氏は、問題の解消策として、購入者の住所や郵便番号に応じてオンラインでの売上実績を実店舗の売上に計上する施策を実行したと説明。これにより、「社内での対立は起きていません」と語りました。
こうした社内施策の説明を受け、押切氏は、「オンラインとオフラインを統合していくなかで、オフラインの部署から協力を得たEC事業の推進は、社内文化の醸成という観点で大事ですね」とコメントしました。
配送アプリを実装することにより、受注から出荷までのプロセスをスムーズにさせたオリオンビール株式会社など、Shopify導入後に革新的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現した企業は多岐にわたります。はせがわも、ほかの企業と同様に、Shopifyの導入メリットを享受しました。
実際、藤山氏によれば、Shopify Plusに乗り換え、ECの掲載商品数を増やしたり、既存コンテンツとの統合を進めたりした結果、十分なSEO対策が図られ、自社ECサイトのアクセス数が増加したと言います。具体的には、2022年4月単月の実績で、ECサイトのページビューが対前年比270%に上ったとのことです。
また、藤山氏は、2022年度上半期(4〜9月期)の実績を示しつつ、「Shopify Plusを活用したECサイトは運営が初年度にもかかわらず、売上規模が1つのモール型ECに相等する」と説明。売上実績の好調については、Shopify Plusへの変更によるユーザーエクスペリエンス(UX)やSEOの改善を挙げました。
5. 今後はオンラインとオフラインのシームレスな連結に取り組む
最後にShopify Plusを活用して今後どのような事業に取り組むのかという押切氏の問いについて、藤山氏は、「オンラインとオフラインのシームレスな連結に取り組みます」と説明。具体的施策として、Shopify POSを使用した店頭受け取りを挙げました。
このほか、藤山氏は、Shopify POSを使い、在庫情報と連携することで、商品名の検索時に、検索結果に商品在庫とともに近隣店舗の情報を表示させるGoogleローカル在庫広告の導入に今後取り組みたいとしました。
企業がShopify Plusなど優れたECプラットフォームを導入しても、DXに成功するとは限りません。技術的な課題や適応課題を解消するためのハードルが高いためです。これを踏まえると、はせがわは、システムに合わせて仕事のやり方を変え、種々の課題を乗り超えた点で、好事例と言えるでしょう。