近年、AR技術の向上により、オンラインショッピング体験は進化しています。実際に商品を手に取ることができないECサイトにおいて、ARは消費者にリアルな購買体験を提供し、購入決定を後押しする強力なツールになります。2025年には、米国のAR利用者数は1億1,030万人に達し、世界人口の75%がARを利用するようになると予測されています。
この記事では、ARとは何かを説明し、ECサイトにARを導入することで得られる具体的なメリットや、その活用事例をご紹介します。最先端のARを取り入れたネットショップに興味がある人は、ぜひこの記事を参考にしてください。
ARとは
ARとは日本語では「拡張現実」とも訳されるAugmented Reality(アグメンティッド・リアリティ)の略で、現実世界に仮想空間のコンテンツを重ね合わせて表示する技術を指します。例えば、スマートフォンをかざすと部屋に家具を配置した際のイメージを実寸大の3Dモデルで表示したり、ポスターにスマートフォンをかざしたときその写真が画面上で動き出したりするサービスは、AR技術で実現できます。ARでは、現実の環境に仮想の情報を重ねて、よりリアルに情報を認識することができるのです。
AR技術は、幅広い分野で活用されていますが、特にEC分野では、消費者体験を向上させる重要なツールとして、今後もさらなる発展が期待されています。
ARをECストアに取り入れるメリット
返品率の低下
商品のモデルと現実の環境を重ね合わせて体験できるARは、実際の商品が体験できないというECストアの課題に対するソリューションとして、返品率を低下させる効果があります。3Dモデルで商品をあらゆる角度から確認するなど、顧客は商品の見た目やサイズ感を、自宅などでリアルに体感することができます。2021年に実施されたSnap.IncとDeloitte Digitalの共同調査(英語)によると、ARの利用で商品への品質に対する信頼が増すと答えたAR利用者は、回答者の56%にのぼります。
エンゲージメントの強化
ARを活用したショッピング体験はユニークで、楽しいものです。ARを取り入れることで、顧客の関心を集め、エンゲージメントの強化を図ることができます。頻繁にARを使う人は、ブランドに対する関心が50%増加したという調査結果があります。また、ARで商品を購入した顧客の94%は、翌年も同等程度、またはそれ以上の頻度でARでのショッピングを利用しています。
ブランドの差別化
ARを導入することで、最先端技術を活用するブランドというイメージがつき、ブランドの差別化を図ることができます。新商品の発表やキャンペーンにおいて、ARは強力なツールとなります。都市や街中のイベント型マーケティングとも相性がいいため、顧客に商品を直接アピールしつつ、バズを生み出すチャンスがつかめます。また、自社商品の信頼性と競争力を高める方法としても、ARは効果的です。消費者の実に75%近くが、細部をくまなく確認できる商品があれば他より高額でも購入すると述べていますが、ARならそれも実現可能です。
精度の高い商品レコメンド
ARは機械学習との統合も進んでいます。顧客がARを使用する度に、カメラに映し出された環境により適した商品を探し出し、より顧客のニーズに合った商品を提案することができます。顧客の環境に合わせた提案はもちろん、もう一段階高価な商品を提案するアップセルを行うときにも効果的です。
丁寧な商品サポートの提供
ARは、実際の使用環境でのデモンストレーションも可能なので、商品購入後のサポートなどでも役に立ちます。例えば、家具の組み立て、家電の設定などは、ARでその方法を楽しく理解することができます。
ARをECストアに導入した成功事例
Rebecca Minkoff(レベッカミンコフ)
https://www.rebeccaminkoff.com/en-jp
ファッションブランドのRebecca Minkoffは、Shopify Plusで3D表示とARを商品ページに導入しました。訪問者の中で商品の購入に至った人の割合は、ARを体験しなかった場合に比べて、ARを体験した場合の方が、65%高くなっています。
NARS(ナーズ)
カラーバリエーションの豊富さと豪華な質感に定評のある、女性用化粧品のNARSは、YouCamというアプリの技術を利用して、バーチャルメイクアップを試せるARサービスを最初に実店舗で発表しました。その後、オンラインストアにも、ファンデーションとシェードを試せるARのバーチャルメイクアップツール「NARSマッチメーカー」を導入し、結果としてCV(コンバージョン率)300%アップを達成しました。また、1回当たりの平均注文品数も、10%増加しました。
Warby Parker(ワービーパーカー)
D2C(ディーツーシー)のビジネスモデルで知られる、ニューヨーク発の眼鏡ブランドWarby Parkerは、顧客が気になるフレームをオンラインでチェックし、取り寄せて試着し、気に入った商品を注文するという以前からのサービスに加え、AR技術を導入してオンラインでフレームを試着できるサービスを実現しました。投影された眼鏡は、顔の向きを変えても、傾けても顔からずれることなく表示され、フレームが光を透過する様子や、金属が光を反射する様子まで再現されています。
LOWYA(ロウヤ)
家具やインテリアグッズを販売しているLOWYAは、AR技術を使って商品の配置シミュレーションが行えるサービスを提供しています。スマートフォンを使って実際の部屋に家具を配置した際のイメージを確認できるため、購入前に商品のサイズ・デザインが部屋にマッチするか把握できます。同時に複数商品の配置をシミュレーションすることも可能なので、単品ではなく、部屋全体のコーディネートを想像してもらうことも可能です。また、端末のカメラ映像のなかで360度回転させて、背面や足下などのディティールもチェックすることができます。
MINIBUTSU(ミニブツ)
ミニチュアの仏像フィギュアを販売しているMINIBUTSUも、ARを導入しています。商品写真の上の立方体マークをおすと、カメラに仏像を重ねて表示してくれるため、販売している仏像を購入して自分の部屋に置いた場合、どう見えるか確認することができます。
NIKE(ナイキ)
イベントと組み合わせて使用されたARの好例が、NIKEの『AIR JORDAN 3』です。2018年、NIKEはNBAオールスターゲーム中の新作発売にあわせて、マイケル・ジョーダンの伝説のダンクシュートをARで再現しました。ジョーダン着用モデルの『AIR JORDAN 3』は、そのままアプリ内で購入できるようになっており、このモデルはわずか23分で完売しました。
まとめ
この記事では、AR技術をECサイトに取り入れるメリットとその具体的な活用事例について解説しました。ARは現実の環境に仮想情報を重ねる技術で、顧客にユニークなショッピング体験をもたらします。ECサイトは、ARを活用することで、返品率の低下、エンゲージメントの強化、ブランドの差別化、精度の高い商品レコメンド、丁寧な商品サポートの提供など、多くの利点が得られます。ARを導入することにより、オンラインショッピングはより没入感のある体験となるでしょう。
Shopifyでは、商品画像にARを使用するShopify ARが使用可能で、ARに特化したさまざまなアプリも用意されています。興味をもった人は、ぜひ導入を検討してみてください。
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よくある質問
ARとは何の略?
ARとはAugmented Reality(アグメンティッド・リアリティ)の略です。
ARをECサイトに導入するメリットは?
- 返品率の低下
- エンゲージメントの強化
- ブランドの差別化
- 精度の高い商品レコメンド
- 丁寧な商品サポートの提供
ShopifyのECストアでARは使える?
はい、使えます。Shopify ARという機能を使うと、特別なアプリを入れることなくストアにARを導入できます。他にもAR導入に役立つアプリが多数用意されています。
ARが効果的な業界や商品は?
ARは、家具、ファッション、化粧品、自動車、家電製品などのオンラインストアで多く利用されており、CVの向上などに貢献しています。事前に実物を確認したい、サイズ感などを体験したいという要望の多い商品には、特に効果的です。
文:Taeko Adachi