2022年に日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が実施した、広告に関する意識調査では、インターネット広告を信頼する人は22.3%にとどまっています。一方、アライドアーキテクツが実施したUGCへの意識調査では、2022年の段階でUGCを信頼すると答えた消費者の割合は64.6%でした。UGCを参考に購買行動を決定する消費者の数は、年々増加傾向にあります。ZETA(ゼータ)が2024年に行ったUGCと購買活動に関する調査から、あらゆる年代の消費者がUGCを購入時の参考にしていることがわかっています。SNSやコミュニティを活用して商品やサービスを販売するという「ソーシャルコマース」のビジネスモデルにおいても、UGCの活用は欠かせないと言えるでしょう。
この記事では、UGCの種類について解説し、UGCを獲得するコツや、活用事例、利用する際の注意点についてまとめました。
UGCとは
UGCとは、口コミやSNSの投稿のように、ユーザーが作成したコンテンツを指します。User Generated Content (ユーザー生成コンテンツ)の略で、製品やサービスを売る側の企業ではなく、消費者やスタッフなどユーザーが制作して発信するコンテンツを意味します。ECサイトに投稿されたレビュー、SNSに投稿された写真や動画、コミュニティの掲示板に投稿された質問や回答などはすべてUGCです。
購買行動に影響を与えるコンテンツという点は広告と同じですが、UGCは広告と比較して顧客からの信頼を得やすいことが特徴です。
UGC投稿の種類
UGCは、制作者となるユーザーの属性によって、消費者によるコンテンツ、スタッフによるコンテンツ、インフルエンサーによるコンテンツの3つに分類できます。
1. 消費者によるコンテンツ
UGCの中でもっとも多いのが、消費者、つまり顧客によるコンテンツです。ユーザー目線の内容となるため製品やサービスのリアルな使用イメージが伝わりやすく、潜在顧客からの共感を得やすいコンテンツであると言えます。UGCをきっかけに企業と顧客、または顧客間にコミュニケーションが生まれれば、ブランドへのエンゲージメントも高まります。
また消費者によるコンテンツは、それ自体が企業にとって非常に価値のあるものです。例えば商品レビューは、企業にとっては貴重なフィードバックとなります。製品やサービスに対して、企業側が想定していなかった画期的な使い方が発見されたり、新しいアイデアが生まれたりする場合もあります。
消費者によるコンテンツには、次のような例が挙げられます。
- 口コミや星評価
- 消費者が撮影した商品写真
- レビュー動画
- コミュニティフォーラムでの質問と回答
2. スタッフによるコンテンツ
企業のスタッフが一個人として、製品やサービスについて発信するコンテンツもUGCです。販売するスタッフの人となりがわかれば、ユーザーは商品をより身近に感じられるようになります。ユーザーがスタッフ個人のファンになり、スタッフのおすすめから購買につながるという展開も期待できます。
スタッフにとっても、コンテンツの発信はモチベーションを高める要素になります。フォロワーからのポジティブなコメントや「いいね!」は、より積極的な販売活動につながるはずです。また、スタッフとしての自信を高め、会社や商品への愛着をより深く感じてもらうきっかけにもなるでしょう。スタッフによるコンテンツは、特にアパレル、コスメ、インテリア業界で多く活用されており、現在では食品、家電業界などでも注目を集めています。
こうしたコンテンツには、次のような例が挙げられます。
- アパレル販売員のコーディネート写真
- 化粧品販売スタッフのおすすめスキンケアアイテム紹介
- 食品会社スタッフのアレンジレシピ
- 家電の使用風景を見せるライブ配信
- ライブコマース
3. インフルエンサーによるコンテンツ
いわゆる「インフルエンサーマーケティング」として、影響力のあるインフルエンサーに企業が報酬を払い、UGCを投稿してもらう場合もあります。生活者としてのインフルエンサーの意見を参考にしたいユーザーは多く存在します。商品と相性が良さそうなインフルエンサーを探し、UGCの投稿を依頼しましょう。こうした方々のフォロワー層をはじめ、企業アカウントからではリーチしづらい層へアピールできる可能性があります。
なおインフルエンサーによるUGCについては、ステマ(ステルスマーケティング)にならないよう、注意が必要です。報酬を払い、案件としてUGCの投稿を依頼する場合、その旨を明示してもらいましょう。
インフルエンサーによるコンテンツには、次のような例が挙げられます。
- インフルエンサーが商品と共に写った写真
- 商品のレビュー動画
- 商品の使用感のレポート漫画
- インフルエンサーとコラボした商品プレゼントキャンペーン
UGCを獲得するコツ
UGCを獲得するために取れる手段としては、SNSで返信したりキャンペーンを実施したりして消費者に働きかける方法や、インセンティブ制度を構築するなどしてスタッフに働きかける方法、ギフティングを行ってインフルエンサーに働きかける方法などがあります。
1. 消費者へのアプローチ
SNSでの検索と返信
SNSで製品名やサービス名を検索し、既に投稿されているUGCに対しては、反応を返しましょう。公式アカウントで「いいね!」や返信、引用や再投稿をすることで、コンテンツを投稿したユーザーとの交流が生まれ、そこから新たなUGCが生まれる可能性があります。投稿を見た別のフォロワーが、新たなUGCを投稿してくれるという効果も期待できます。ポジティブなものだけでなくネガティブなコメントにも、迅速に返信を行いましょう。
アライドアーキテクツが2022年に実施した調査では、良くない点について書かれた口コミやレビューが信頼できると回答した人の割合が41.2%にのぼりました。ネガティブなコメントも無視せずしっかりと対応することで、良質なUGCを新たに獲得しやすくなると言えるでしょう。
ファンコミュニティの育成
Instagram(インスタグラム)、X(エックス)、Facebook(フェイスブック)、TikTok(ティックトック)などのSNSアカウントを運用して、フォロワーや潜在的な顧客と積極的に交流したり、ファン同士でやり取りできるよう誘導したりして、ファンコミュニティを育てていきましょう。FacebookやLINEの公式アカウントのグループ機能を利用して、ユーザーコミュニティを立ち上げるのもいいでしょう。ファン同士の情報交換が活発になれば、投稿に対するハードルが下がり、投稿されるUGCの数も増えていきます。
ハッシュタグを利用したユーザー参加型キャンペーンの実施
SNSで商品やブランド専用のハッシュタグを設定し、ハッシュタグを使った投稿募集のキャンペーンを開催するというアイデアもあります。投稿してくれたユーザーに対して、抽選などでプレゼントを提供するといった形式が一般的です。キャンペーンの内容を工夫すれば、既存の顧客だけでなく、潜在的な顧客にもアプローチすることが可能となり、多数のUGCを集めやすくなるでしょう。
コンテストの開催
コンテストを開催して、製品の利用に関連するコンテンツを募集すれば、良質なUGCを多数獲得できます。
例えば、アクションカメラの先駆けで知られるGo Pro(ゴープロ)は、GoProで撮影した動画を募集し、公式サイトで「GoProアワード」というコンテストを開催しています。アワードを受賞した写真には$250、映像には$500の賞金が授与されます。GoProのアプリのサブスクリプションを契約しているユーザーであれば、賞金額は2倍です。アワードを獲得した動画はYouTubeに掲載されており、既存顧客、潜在顧客両方の注目を集めています。
レビューの依頼
製品やサービスを購入した顧客に対し、レビューの投稿を直接依頼するのも良いでしょう。物理的な商品を販売している場合は、レビュー投稿先のQRコードや、投稿方法を記載した紙を、商品に同梱するという方法もあります。
購入後のフォローアップメールでレビューに誘導する、レビューの投稿特典に割引クーポンをつけるなど、製品やサービスを購入した顧客が、自然とレビューを投稿したくなるような導線を設計しておきましょう。
2. スタッフへのアプローチ
インセンティブ制度の構築
スタッフがSNSで企業に関するポジティブな投稿を行った場合や、スタッフ個人のSNSを通じて売り上げが発生した場合などに、インセンティブが発生するように制度を整えましょう。投稿の成果を可視化し、インセンティブとして還元することで、スタッフの投稿に対するモチベーションを高められます。
ガイドラインの共有
SNSの投稿にあたって、守るべきガイドラインを設定し、スタッフ間で共有しておきましょう。同時に、基本的なネットリテラシーに関する知識も共有しておくことが重要です。スタッフの投稿による「炎上」などのリスクを低減できます。また、正しい知識によって、SNS運用に対するスタッフの不安を軽減できれば、投稿の頻度が上がることにもつながります。
研修、勉強会の開催
SNSの効果的な活用方法について、研修を行いましょう。それぞれのスタッフがどんな工夫をして投稿を行い、どんな反響があったか、定期的に社内で共有し、勉強会を開催するのもいいでしょう。それぞれが経験を共有できれば、スタッフ全体としてUGCの品質を高めていくことができます。
3. インフルエンサーへのアプローチ
無償ギフティング
ギフティングとは、インフルエンサーに自社製品やサービスのサンプルを提供し、そのレビューや紹介を依頼するマーケティング手法ですが、それを報酬なしで依頼する、いわゆる無償ギフティングを使うのも一つの手です。気になるインフルエンサーを見つけたら、DMで無償ギフティングを提案し、連絡先を聞いて商品を郵送しましょう。報酬は支払わないため、企業側が提供する必要があるのは製品と送料のみです。
無償のため、必ずレビューしてもらえるとは限らない点や、コンテンツのコントロールができない点、投稿日時が指定できない点などに注意してください。
有償ギフティング
いわゆるPR案件の依頼を指します。報酬を設定し、UGCの制作と投稿を依頼します。投稿の内容や形式、フォロワー数によっても異なりますが、報酬額は「フォロワー数×フォロワー単価」で計算するケースが多いようです。フォロワー単価はインフルエンサーによって異なりますが、だいたいTikTokで2~3円、Instagramで3〜4円、YouTubeで4〜5円が目安です。たとえ有償ギフティングであっても、正直な意見を、インフルエンサー自身の言葉で述べてもらうのをおすすめします。インフルエンサーに対し、無理に好意的な意見を求めたり、言ってほしい言葉をおしつけたりしてしまうと、広告らしくなってしまい、せっかくのUGCのよさが失われてしまうおそれがあるので気をつけましょう。
イベント招待
会社で企画したイベントにインフルエンサーを招待し、イベントの体験レポートを発信してもらうというのも有効なアプローチです。
UGCの活用事例
BASE FOOD(ベースフード)
完全栄養食を販売する「BASE FOOD(ベースフード)」は、Instagramに投稿されたUGCの中から、実際の利用シーンが想像できそうなものを厳選し、ウェブサイト訪問者が最初にアクセスするLP(ランディングページ)に配置することで、CVR(コンバージョンレート)の改善に成功しました。CVRとは、ウェブサイト訪問者のうち、購入や問い合わせなどに至った人の割合を意味します。「映え」よりも、消費者の生活を想起させるUGCが、消費者にアクションを促し、最終的な購買を後押ししています。
Furbo(ファーボ)
台湾発のドッグカメラブランド「Furbo(ファーボ)」は、UGCを効果的に活用して、顧客と顧客、企業と顧客のコミュニケーションを活性化させています。
特にFurboはInstagramアカウントを効果的に活用しています。ユーザーが投稿した製品のレビューを、公式アカウントが引用でリポストし、返信と共にアンケートなどを追加して、他のユーザーにも交流を呼びかけています。
また、Furboは公式ECサイトとAmazonという2つの販売チャネルで、レビュー全件に返信するという戦略をとっています。ネガティブなレビューに対しても分析を行い、特に製品に関するレビューは、製品開発チームへフィードバックし、次の開発要件に生かしているといいます。
COHINA(コヒナ)
150cm前後の低身長・小柄女性のためのファッションブランド「COHINA(コヒナ)」では、スタッフによるUGCをうまく取り入れたマーケティングを行っています。
COHINAの公式サイトでは、スタッフの身長と共にコーディネートのスナップ写真が掲載されており、各スタッフのプロフィールページからは、それぞれ個人のInstagramアカウントへ移動できます。
スタッフはターゲット層と同様に小柄女性です。同じ身長の悩みを持つスタッフが、同社の服を着こなして生き生きと日常を過ごす様子を捉えたInstagramの投稿は、良質なUGCの例と言えます。
kurasso(クラッソ)
「家事をもっとシンプルに」をテーマにした、生活雑貨のショッピングサイト「kurasso(クラッソ)」は、家事に関する投稿で人気のインスタグラマーを「kurassoファミリー」としてアンバサダーに任命し、UGCの投稿を依頼しています。Instagramの公式アカウントでは、kurassoファミリーの投稿をフィードやまとめで紹介し、実際の製品への導線を引いています。
UGCを利用する際の注意点
企業がUGCを引用して利用する場合、著作権やプライバシーの保護、法律の遵守など注意すべき点が多くあります。
コンテンツの使用許諾
UGCを企業のサイトに掲載したい場合、必ず事前に著作権をもつユーザーから許諾を得ましょう。コンテンツの著作権は、原則コンテンツを作って投稿したユーザーにあります。ユーザーが投稿したコンテンツを、許可なく使用すると、著作権の侵害になります。
また、UGCの掲載にあたっては必ず適切なクレジットを表示するようにしましょう。クレジットの表示は、投稿者に対して敬意を示すだけでなく、他のユーザーに参加を促す効果もあります。
著作権の保護
UGCは企業と関係のない第三者の創作物のため、投稿されたUGCそのものが、著作権に違反していないか確認が必要です。投稿者が他のユーザーの投稿を無断転載している、他のコンテンツの二次創作をしている、権利のない画像や音楽を使用しているなど、投稿された時点で著作権に違反している場合があります。UGCを利用したい場合は内容に問題がないか、事前に精査しましょう。
プライバシーの保護
UGCには、ユーザーや、ユーザー関係者の個人情報が含まれている場合があります。特に、顔写真や個人の名前をそのまま共有してしまうと、プライバシーの侵害に加担するおそれがあります。コンテンツに、取り扱いに注意が必要な個人情報が含まれていないことを確認しておきましょう。
情報の正確性の担保
UGCは、ユーザーによるコンテンツであるため、誤った情報が含まれている可能性があります。コンテンツ内で伝達されている情報が正確か検証し、不正確な場合は訂正を依頼し、正確な情報を周知しましょう。
法律の遵守
使用したいUGCが、国や地域の法規制を遵守しているか確認しましょう。特に気をつけなければならないのは、薬機法です。薬機法とは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等品などにおいて、製造方法・効能・効果などに関して虚偽または誇大な記事を広告してはならないという法律です。例えば「〇〇なら安心」「〇〇が治る」「〇〇が改善する」「〇〇に効果的」などの表現はすべて違反となります。
取り扱う製品の種類によっても違反となる表現の範囲が異なるため、法律を確認し、必要であれば専門家にチェックを依頼しましょう。
ネガティブコンテンツへの対応
ネガティブなUGCは、企業の信頼性を高められるチャンスです。批判的なフィードバックやクレームも無視せず、誠実に対応すれば、新たなファンが得られるかもしれません。批判が投稿されたということは、ユーザーが製品に強い関心を示していたことの証左でもあります。建設的な意見が得られた場合は、社内で共有し、製品やサービスの改善に活用しましょう。
まとめ
ユーザー発信のコンテンツであるUGCは、消費者からの信頼性が高く、購買行動に影響を与えます。UGCには、消費者によるコンテンツ、スタッフによるコンテンツ、インフルエンサーによるコンテンツの3種類があり、特徴に応じて上手に活用することで、さまざまなメリットを得ることができます。ユーザーに応じた適切なアプローチでUGCを獲得しましょう。UGCは、あくまでも第三者による創作物です。使用する際は、著作権やプライバシーの保護などに十分な注意をはらいましょう。
ユーザーが、お気に入りの製品やサービスを自発的にすすめて拡散してくれることほど、幸運なことはありません。効果的なマーケティングのツールとして、ぜひUGCを活用してください。
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UGCについてのよくある質問
UGCとは?
UGCとは、User Generated Content (ユーザー生成コンテンツ)の略で、製品やサービスを売る側の企業ではなく、消費者であるユーザーが制作し、発信するコンテンツを意味します。
UGCとCGMの違いは?
UGCはUser Generated Content (ユーザー生成コンテンツ)の略で、ユーザーが制作し発信するコンテンツを指しており、CGMはConsumer Generated Media(消費者生成メディア)の略で、UGCが投稿されるメディア(媒体)のことを指しています。CGMには以下のようなものがあります。
- 口コミサイト:食べログ、アットコスメなど
- ナレッジコミュニティ:OKWave(オウケイウェイヴ)、Yahoo!(ヤフー)知恵袋など
- SNS:Instagram、Facebook、Xなど
- 動画共有サービス:Youtube、TikTokなど
- キュレーションサービス:NAVER(ネイバー)まとめなど
- イラストコミュニティ:Pixiv(ピクシブ)など
- レシピコミュニティ:クックパッドなど
- ブログポータル:アメーバブログなど
- BBSポータル:2ちゃんねるなど
UGCを活用するメリットは?
- 信頼性の向上:ユーザーの生の声は、広告よりも信頼性が高い印象を与えられます。
- エンゲージメントの強化:ユーザーがコンテンツを生成することで、ブランドとの関わりが深まります。
- コストの抑制:自社でコンテンツを制作するコストを削減できます。
- ソーシャルプルーフの提供:他のユーザーが製品やサービスを利用していることを示すことで、購入を検討している顧客に安心感を与えられます。
- 創造性の拡大:多様な視点やアイデアが集まるUGCから、企業では想定していなかった製品の画期的な使用方法や、新製品のアイデアが見つかる可能性があります。
文:Taeko Adachi