起業するにあたって、個人事業主として活動するか、株式会社を設立して活動するか悩んでしまう人は多いです。両者にメリット・デメリットがありますが、特定の条件下では株式会社のほうが適しているといえます。
この記事を読むことで、ほかの会社形態と比較して株式会社にはどのような特徴があるのか、どのような場合に法人化すべきなのかを理解することができます。株式会社の作り方や必要な手続きも紹介しますので、起業時の参考にしてください。
株式会社とは
株式会社は、営利目的の法人格(一団体を一人の人間として扱うこと)を持つ会社形態の一つです。経営者が株主と呼ばれる会社の社員権(株式)を持つ人々から資金を調達し、倒産しても全責任は追わない有限責任のもとで事業を行います。事業を通じて得られた利益は、不労所得となる配当金などを通じて株主に還元されます。
株式会社と持ち株会社の違い
株式会社は株式を発行して株主から資金を集め、その資金を用いて経営されるのに対し、持株会社はほかの企業を運営・管理する目的で該当企業の株式を保有し、その株式からの配当金や売却益を得ますが、自らは事業活動を行いません。
そのほかに、経営の仕組みや税務上の取り扱いにおいて以下のような違いがあります。
経営の仕組み:
株式会社は取締役会が会社の経営方針を決定しますが、持株会社は持株会社みずからが子会社の経営方針を決定します。
税務上の取り扱い:
株式会社は事業所得に対して法人税が課されますが、持株会社は配当金や経営指導料などに対して法人税が課されます。
株式会社と合同会社の違い
株式会社は出資者である株主と経営者である取締役が異なり、取締役が代表として経営を行いますが、合同会社は出資者である社員全員が会社の代表者として経営を行う(誰か1名を代表者にすることも可能)点に違いがあります。
また、株式会社における役員の任期は通常2年、最長10年ですが、合同会社には任期が存在しません。
そのほか、監査や決算など以下の項目において違いがあります。
監査役の人数:
基本的に株式会社では不適切な事業が行われないようにする役目を持つ監査役が最低1名は必要ですが、合同会社に監査役は不要です。
決算公告:
株式会社は財務状況を外部に伝える決算公告が必要ですが、合同会社は決算公告を行う必要がありません。
定款:
株式会社の定款(企業の根本原則)には公証人による認証が必要ですが、合同会社の定款には認証が不要です。
利益の分配:
株式会社は各株主の出資比率に準じて利益が分配されますが、合同会社は定款で利益の配当を請求する方法や時期などを定めることができ(会社法第621条第2項)、株式会社と比較すると自由に利益を分配できます。
会社の設立費用:
株式会社は登録免許税、定款用の認証手数料、定款の謄本手数料、定款用の収入印紙代などで約20~25万円がかかりますが、合同会社は約10万円で設立可能です。
株式会社を設立するタイミング(法人化のタイミング)
- 所得が900万円を超えたとき
- 売上高が1,000万円を超えて2年が経過したとき
- 事業の拡大を考えているとき
上記のいずれかに該当する時期が株式会社を設立するタイミングとして適しています。個人事業主の場合、所得が900万円を超えると所得税の税率が33%になります。しかし、法人格を持つ株式会社の場合は、800万円以降の税率は一律で23.2%となり、10%ほど適用される税率を下げることが可能になります。節税のために、900万円を超えている場合は法人化を検討することをおすすめします。
売上高が1,000万円を超えて2年が経過したタイミングで法人化すると、最大で2年間、消費税を納める必要がなくなります。法人化することで消費税を納める必要がある事業者かどうかを判断する「基準期間」がリセットされるためです。ただし、株式会社を設立する際の資本金が1,000万円を超えている場合は消費税の納付が免除されないため、注意が必要です。
事業の拡大を考えている場合も法人化すべきタイミングといえます。もちろん、個人事業主として事業を進めることに大きな問題があるわけではありません。しかし、法人格を有していないと契約できない案件があったり、資金調達に限界があったりなど、事業を拡大するにあたって困難な場面に遭遇することが比較的多くあります。その点、法人化することで請け負える仕事の幅が広がり、株式の発行や補助金・助成金の活用などを通じて資金調達が比較的容易となるため、事業を拡大しやすくなります。
株式会社の設立方法
1. 発起人を決定する
株式会社を設立する際に必要な手続きを行う発起人を決定します。発起人は資本金の出資や定款の作成などを行い、会社設立までの行為に責任を負います。要件や人数に定めはないものの、定款認証を受ける際に発起人の印鑑証明書を提出する必要があることから、印鑑登録が認められていない15歳未満の未成年者は発起人になれません。
2. 定款の作成に必要な事項を決定する
株式会社を設立する際は定款を作成しなければならないため、記載が求められる事項を決定する必要があります。定款とは、会社の基本情報をまとめた書類のことです。定款には、以下の事項の記載が求められます。
絶対的記載事項:
- 会社の目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立時に出資される財産の価額または最低額
- 発起人の氏名または名称と住所
絶対的記載事項は、会社法で定められた必ず定款に記載しなければならない基本的な事項です。記載されていない場合、定款自体が無効となります。
相対的記載事項:
- 金銭以外の財産を出資する者の氏名または名称とその財産の価額
- 会社の設立後に譲り受けることを約束した財産とその譲渡人の氏名または名称
- 発起人が受ける特別な利益とその発起人の氏名または名称
- 会社が負担する設立に関する費用
- 株式の譲渡制限
- 公告方法など
相対的記載事項は、定款に記載することで効力が生じる事項です。通常とは異なる条件下で株式会社を設立する際などに記載が求められます。該当する事項がなければ、記載する必要はありません。
任意的記載事項:
- 株主総会の招集時期
- 株主総会の議長
- 取締役や監査役の人数
- 事業年度など
任意的記載事項は、会社が必要とするその他の事項です。会社法に違反しない限り自由に定款に記載することができます。
3. 定款を作成して認証を受ける
発起人が定款を作成して記名または押印し、法務局の認証を受けます。認証は、会社の本店所在地を管轄する法務局もしくは地方法務局に所属する公証役場で行われます。どちらの機関で認証を受ける場合であっても、予約が必要となります。
4. 資本金を支払う
発起人は設立時に引き受けた株式の出資金を、遅滞なく指定した銀行などの取扱場所に支払う必要があります。支払いは金銭で行うのが一般的ですが、不動産や自動車といった金銭以外の財産を出資する現物出資を利用することもできます。
5. 登記申請書を提出する
登記申請書の提出は、設立時取締役の調査が終了した日、または発起人が定めた日から2週間以内に行わなければなりません。申請は書面またはオンラインで行うことができます。書面申請の場合、申請書には代表者または代理人の記名押印が必要です。
主な記載事項は以下のとおりです。
- 申請者の商号
- 本店と代表者の名前と住所
- 登記の事由
- 登記すべき事項(以下に記載)
- 登録免許税の額および課税標準の金額
- 申請の年月日
- 登記所の表示など
登記すべき事項:
- 目的
- 商号
- 本店及び支店の所在場所
- 資本金の額
- 発行可能株式総数
- 発行する株式の内容
- 発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数
- 取締役の氏名
- 代表取締役の氏名及び住所
- 取締役会設置会社であるときは、その旨
- 監査役設置会社であるときは、その旨及び監査役の氏名
- 公告方法についての定款の定めがあるときは、その定め
登記申請書には以下の添付書類も必要です。
- 認証を受けた定款
- 発起人全員の同意を証する書面
- 設立時取締役等の就任承諾書
- 設立時代表取締役の就任承諾書
- 資本金の支払いを証する書面
- 取締役の印鑑証明書
- 設立時取締役等の本人確認証明書
- 資本金の計上を証する書面
株式会社の特徴
株式会社の特徴は、出資者である株主と経営を行う取締役が分離している点です。株主は会社に資金を提供しますが経営の意思決定を行う権限がなく、取締役が経営の意思決定を行います。取締役は株主総会で選出され、代表取締役が会社を代表して業務を執行します。このように出資者と経営者を分けることで、株主総会・取締役・監査役がそれぞれ公正に機能し、社会的信用が得られるだけでなく、経営者は経営に専念し、株主を意識した経営を行うようになるため利益を還元しやすくなります。しかし、株主が取締役になることが禁じられているわけではありません。実際、小規模な会社のなかには、社員が株主と取締役を兼任する場合もあります。
株式会社の設立費用
- 収入印紙代:4万円
- 定款の謄本手数料:1ページにつき250円
- 定款の認証手数料:資本金が100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、300万円以上なら5万円
- 登記免許税:15万円または資本金額の1,000分の7のうち、いずれか高いほう
- 印鑑代:約2万円
- 印鑑証明書の取得費:1枚につき約450円
- 資本金:1円以上
株式会社を作る際にかかる主な費用は上記のとおりで、合計すると約20~25万です。電子定款を利用すれば収入印紙代は不要になるため、設立にかかるコストを抑えることができます。法律上、株式会社の設立時に必要な資本金は1円ですが、法人口座の開設や会社の信頼性に影響を及ぼす可能性がある点は事前に把握しておく必要があります。
株式会社を設立するメリット
外部からの信頼を得やすい
株式会社は個人事業主に比べて法律や規制の遵守が厳しく社会的な信用度が高いため、外部からの信頼を得やすいメリットがあります。たとえば株式会社を設立する際には、商号や住所、資本金などの情報を法務局に提出し、登記しなければなりません。登記した情報は誰もが閲覧できるため、偽りの情報を登録するのは困難です。さらに、株主総会や監査制度があることで、不適切な事業活動が行われていないかどうかを外部から確認しやすく、信頼を高める一因となっています。
資金調達がしやすくなる
株式会社を設立する大きなメリットの一つは、資金調達の容易さです。個人事業主は0円で起業できますが、資金調達の面では自己資金を利用したりクラウドファンディングを行ったりと、資金調達のハードルが高く選択肢も限られます。その点、株式会社は法人としての信頼性が高いため、銀行などからの融資も受けやすく、株式を発行することで多くの投資家から資金を集めることも可能です。また、株式投資は株主が出資額を超える責任を負うリスクがないため、出資のハードルが低く、出資者が集まりやすい点も資金調達を容易にする要因の一つです。
負うべき責任が限定される
法人格を持つ株式会社は個人保証による借り入れを除き、負債が発生した際に出資額を超える責任を個人が負わずに済むメリットがあります。仮に1,000万円の負債が発生したとしても、出資額が300万であれば、300万円を超える分の支払いは不要になります。仮に事業で失敗しても、個人の資産は保護できるため、安心して事業活動に取り組むことができるでしょう。
節税効果が高い
法人は法人税が適用されるため、一定額を超えると個人事業主より節税効果が高くなります。前述のとおり、個人事業主の場合は所得額が900万円を超えると法人より税率が10.2%高くなります。さらに、個人事業主の所得額が1,800万円を超えると40%、4,000万円を超えると45%と税率がだんだんと高くなり、納付額が増えていきます。その点、法人の場合は800万を超えた金額は一律23.2%の税率であるため、所得が増えるほど節税効果が高くなります。
まとめ
株式会社は営利を目的とする法人格を持ち、株式を発行して資金を調達し、株主と経営者が分離されている点が特徴です。外部からの信頼を得やすく、ほかの会社形態と比較して資金調達が容易であるといったメリットがあります。個人事業主とは異なり、法人税が適用されるため、所得が900万を超える場合は高い節税効果を発揮する点もメリットの一つです。
上記を踏まえ、株式会社を設立すべきかどうかを検討してみましょう。
よくある質問
法人と株式会社の違いは?
法人は法人格を持つ団体全般を指し、非営利法人も含まれる一方、株式会社は法人格を持つ営利法人である点に違いがあります。
法人は学校や病院、宗教団体、NPOなどの非営利法人が含まれ、株式会社は製品やサービスの提供などを通じて利益を上げる企業活動を行う営利法人を指します。
有限会社と株式会社の違いは?
有限会社の資本金は最低300万円以上が必要とされ、決算公告の義務や役員の任期に制限がありませんでしたが、株式会社では最低1円以上の資本金で設立することができ、決算公告の義務や役員の任期は通常2年、最長で10年までという制限があります。また、2006年の会社法の改正により有限会社は新設できなくなりましたが、株式会社はこれからも設立できます。
コストを抑えて株式会社をつくるには?
- 電子定款を利用する
- 資本金を抑える
- 設立の手続きを外部に依頼しない
- 収入や支出といったキャッシュフローの管理を無料の会計ソフトで実施する
- 事務所を借りずに自宅を登記住所にする
非上場の株式会社の割合は?
株式会社の約99%が非上場です。令和6年6月に公表された「令和4年度分 会社標本調査-調査結果報告-税務統計から見た法人企業の実態」によると、株式会社の数は約267万社です。一方、上場企業の数は 2024年7月現在において約4,000社であることから、全体の約0.15%が上場していることがわかり、残りはすべて非上場であると判断できます。
株式とは?
株式とは、株式会社が株主に発行する証券のことです。事業の開始や拡大に必要な資金を集める手段の一つで、融資のように返済の義務はありません。
文:Yukihiro Kawata