オンライン上でのパーソナルスタイリング、カウンセリングとオリジナルアイテム/セレクトアイテムの展示を行うサロン、そしてShopifyで制作したECサイト。3つの柱でファッションを気軽に手軽に楽しみたい大人の女性のニーズに応えているのがSOÉJU(ソージュ)です。前例のないファッション・ビジネスを展開するモデラート株式会社の代表取締役市原明日香さんにSOÉJUの取り組みについてお話をうかがいました。
■服装に悩む人のサービスが実現できたら--
代官山の駅から歩くこと約3分。オシャレな店が立ち並ぶ一画にSOÉJUのサロンがあります。オリジナルブランドSOÉJUの洋服やセレクトアイテムが並ぶ空間で、チェックリストによる体型タイプやファッション志向診断、個々の悩みに応じたカウンセリングを丁寧に行っているサロンは、2018年9月にオープンしました。2015年にスタートしたオンライン上でのパーソナルスタイリングサービス「SOÉJU personal」のリアル版という位置づけです。
パーソナルスタイリングサービスは、市原さんの極めて個人的な思いをベースに誕生しました。大手コンサル会社のアクセンチュアに勤めた後、ルイヴィトンに転職した市原さんは、あるとき、こんな経験をしたといいます。
「アクセンチュア時代にはずっとダークスーツで通していたので、ルイヴィトンでも同じ服装で仕事をしていたら、もっとファッションコンシャスな服装をしましょうと言われたんです。ショックでしたね。仕事の内容で怒られることはあっても、服装が自分の評価につながるなんて考えたこともなかったですから」
シビアな指摘を受けて市原さんは、部内の先輩の助けを借りました。百貨店に行き、助言を受けて服を購入。服装問題を解決しましたが、そのとき、仕事上の服装に悩む人のサービスが何かできないだろうかとぼんやりとしたアイデアが浮かんだそうです。
この思いがさらに大きくなったのは、お子さんの闘病を経て、仕事に復帰したときでした。
「上の息子が白血病にかかり、いっしょに闘病生活を送っていたときには完全にカジュアルな服装一辺倒でした。幸い、弟から骨髄移植を受けて息子は完全に復活できたのですが、いざ仕事を再開しようと思ったら、何を着ていいのかわからない。悩んで、パーソナルスタイリストに頼み洋服を選んでもらいましたが、そのサービスを受けた経験からいくつもの問題点を感じました」
パーソナルスタイリストからのアドバイスは非常に役に立ったものの、費用は1時間あたり数万円。頻繁に頼める金額でありません。価格のほかに、もう一つ、利用しづらいハードルがありました。
「自分のワードローブをスタイリストさんに見てもらう必要があるので、その前にハンガーを揃えたり、部屋を片付けて恥ずかしくない状態に整えるのが大変(笑)。もう少し、友人のように気軽に相談できるサービスがあったら利用しやすくなるのにと思いました」
そうしたサービスが世の中にないなら、自分が始めてみようかーー。こうして市原さんは、プロのスタイリストがオンライン上でのカウンセリングによる診断結果をもとに手軽でも高品質なスタイリングを提案するサービス「Let me know」を5年前に立ち上げました。
■購買率の高さに着目して生まれたSOÉJU
「Let me know」のサービス開始から3年。市原さんはある課題に直面していました。
「スタイリストが身近な存在ではないという方が多く、サービスにどういった価値があるのかという説明が難しかったんです。雑誌やインターネット上にはいくらでもコーディネート例が出ていますから、スタイリングのアドバイスに料金が発生することに対して疑問を持つ方も多かった。その一方で、スタイリストに一緒に買物についてきてほしいというオフラインのサービスを求める人も少なくない。その中間を狙っていた私たちのサービスの難しさを痛感していました」
しかし、投資家からのアドバイスをもとに活路が拓けていきます。「Let me know」でスタイリストがユーザーに提案していた商品の購買率に投資家が着目。ここに新たなビジネスの芽があると指摘しました。
「スタイリストはお客様に、『ZARAのこの洋服とユニクロのこの服とを組み合わましょう』といった具合に商品のリンクを送ってスタイリング提案をしていますが、68%の確率でその商品が購入されていたんです。これだけ購買率が高いのならブランドを自分たちで立ち上げたらどうかと提案され、コーディネートを入り口にしたECでサービスの裾野を広げようと決意しました」
こうして2018年にスタートしたのが、SOÉJUです。一見、フランス語に見えるブランド名は、「装」と「樹」を組み合わせた造語。服装(ファッション)を樹木のように育てるお手伝いをしていきたい。ブランド名にはそんな市原さんの願いが込められています。
同年9月には代官山にサロンもオープンしました。
「代官山はもともとシェアオフィスを借りていた場所ですが、駅前から素敵な感じですよね。お客様が駅に降り立った段階で、テンションが上がる。サロンにはそんなファッションコンシャスな街がふさわしいと考えました」
サロンオープンにあたっては、初のオリジナルアイテムとして黒のワンピースやスカート、パンツを作り、クラウドファンディングのMAKUAKEで販売しました。手応えは上々。目標の1.5倍の資金調達に成功し、新装開店したSOÉJUのビジネスは好調に滑り出します。
■女性のリアルで切実な悩みに応えたオリジナルの服
2019年4月末からはECサイトもオープンしました。ラインアップは徐々に増え、現在は45型に達しています。いずれもベーシックなアイテムばかりです。
「私たちのブランドは言ってみれば主食。主食ばかりでは飽きてしまうので、そこに他社のアイテムを追加してもらえばいい、というスタンスです。その意味で着物と似ているかもしれませんね。着物も帯や着方で印象が変わりますから」
ベーシックといってもSOÉJUの服にはいくつも工夫が施されています。例えば、「コクーンブラウス」は、ふっくら体型の着やすいシルエットですが、華奢な女性が着てもたわみが生まれ、独自の表情を醸し出す独特のシルエット。着回しが効き、さまざま体型の人が自分に合った着こなしが可能なシルエットはSOÉJUの洋服の大きな特徴です。
女性のニーズはいくつになっても「すっきり見せたい」。深く根源的なこの要望に応えるため、SOÉJUは生地の選択にも苦心しています。
「あまり肉感を拾わない、ほどよく厚めの生地で落ち感がある素材を選ぶことが多いです。下着の線が見えないことも重要ですね。ハリ感のあるオーバーシルエットはファッション上級者でないとうまく着こなせません。ファッションに苦手意識がある人も気兼ねなく取り入れてもらえる服を目指しています」
色もSOÉJUの特徴といえるでしょう。ベーシックアイテムというと、白、黒、紺、ベージュになりがちですが、SOÉJUの場合、何色とにわかに表現しがたい色も揃えられています。
「マンネリ化は、お客様のお悩みのトップ3に入ります。気がつくとベーシックカラーばかりという方が多いんですね。でも、まったく違う色をお勧めすると違和感があって着こなしが難しいので、ベーシックカラーに馴染むけれど新鮮な色を採用しています。例えばピンク。気恥ずかしくて着られないという方に向けて、ネイビーに合わせやすいトーンのピンクの服をラインナップしているんですよ」
上質で、よく作り込まれた商品でありながら、SOÉJUの服の価格はリーズナブルに抑えられています。1点あたりの平均単価は1万5000円。カットソーなら8000円、ジャケットでも2万円台で手に入ります。
「これも私のこだわりですね。高くて良いのは当たり前。お客様には良い買い物をしたと思っていただきたいんです。その代わり、セールは一切していません」
洋服選びに悩む女性たちは、そのまま市原さんの過去の姿です。何を着ればいいのか、どうやってコーディネートすればいいのか、どうやったらすっきり見えるのか。いろいろなシーンに柔軟に対応できて、買いやすい価格帯の洋服がほしい。女性たちのリアルで切実な悩みにとことん寄り添ったデザイン、色、シルエット、素材、価格を追求しているからこそ、SOÉJUは多くの女性の信頼を得ることができ、熱心なファンを獲得しているのでしょう。
■ECサイトはビジネスに大きなプラス効果をもたらした
2019年4月にはECサイトもオープンしました。選んだECプラットフォームはShopify。決め手を市原さんはこう語ります。
「外部株主がついたときからD2Cを意識していました。米国のD2CのほとんどはShopifyを使っているのが選んだ理由ですね。マーケティング的にも使いやすく、InstagramやFacebookなどSNSとの連携もしやすい。アプリを使えば、必要な機能を必要なタイミングで追加できる点も決め手になりました」
アプリの中で市原さんが特に重宝していると語るのが、送り状や納品書の発行など発送業務を一元管理できる「Ship&co」や、品切れしている商品の入荷待ち連絡を受け付け、在庫が戻ると自動的に客に連絡が行く「Back In Stock」です。
「『Back In Stock』はすごく働いてくれています(笑)。先行予約ができるアプリ『Pre-order Manager』もとても便利なアプリですね。Shopifyを使っていて特に不満はありませんが、もう少しショッピングカート周りでカスタマイズしたいので、上位プランへの移行を考えています」
ECサイトの開設はSOÉJUのビジネスに大きなプラス効果をもたしました。1対1の対面でのスタイリングサービスでは接することのできる人の数には限りがありますが、ECサイトであれば接する人数は無限大。間口が広がり、ECサイトで購入した後、スタイリングサービスを利用するユーザー、サービスを受けてからECサイトで洋服を購入するユーザー、2つの流れが活性化しました。
「特に、スタイリングサービスを受けてから購入される方は顧客単価が高いです。スタイリストが提案すると説得力があるからでしょう」
今後は、Shopifyの利点を生かし越境ECにも着手する方針です。
「サロンの新店も計画しています。落ち着いた環境の中で展開していきたいですね。ハワイなどリゾート地への出店も考えたい。毎日の生活に疲れた女性がリゾート地にやってきて、そこで洋服を買ってスタイリングの見直しができる。そんな空間を作るのは夢ですね」
まもなくアクセサリーの展開もスタートします。市原さんの頭の中には、性別を問わず、男性も気軽に楽しめるジェンダーレスなコンセプトショップの構想もあるそうです。SOÉJUのビジネスがこれからどのような広がりを見せていくのか。日本のファッションビジネスに新しい風を吹き込んでいくことは間違いありません。
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