自分の知識やノウハウなどをまとめた参考書、ビジネス本、小説、漫画、絵本、詩集、写真集、レシピ集、ブログ記事のまとめなど、いつか自分で本を出版してみたいという夢を持っている人は多いのではないでしょうか。最近では、プリントオンデマンド出版(POD出版)など、以前よりも自分の本を出版しやすい環境が整っています。この記事では、自分で本を出版する方法について、自費出版の場合を中心に詳しく解説していきます。
本を出版する方法
本を出版する方法は、大きく「自費出版」と「商業出版」に分けられます。
自費出版
自費出版は文字通り、自分で費用を負担して出版することを指します。費用は自分で負担する必要がありますが、その分自由度が高く、内容やフォーマット、販売価格なども、自分で決めることができます。自費出版のなかでも、「自己完結型」と「代行型」があり、さらに紙書籍か電子書籍化によって作る方法が異なります。
- 自己完結型:編集やレイアウト、印刷出し、販売まで、すべてを著者の采配で行います。
- 代行型:編集から販売までを自費出版専門の出版社に代行してもらいます。
商業出版
出版社が利益を出すために、費用を負担して出版することを「商業出版」と言います。企画書の持ち込みや、出版社からの声かけによって実現します。あくまで出版社が利益を出すという目的があるため、自費出版に比べて自由度は少ないですが、費用負担がなく、プロモーションなども出版社が行ってくれます。商業出版は、著者の費用負担によって、次の2通りに分類できます。
- 全額無料の場合:出版社が本を出すために必要な費用をすべて負担する
- 一部有料の場合:著者は売れなかった在庫の買取費用や宣伝費を負担する
自費出版の場合も、商業出版の場合も、紙書籍を出版するか、電子書籍を出版するかによって、出版方法が異なります。
自費出版(自己完結型)で本を出す9ステップ
1. 企画・構成を立てる
- コンセプト:誰に向けたどんな本にするのか、どのくらいの長さにするのかといった方向性を決めます。類書も調査し、似た内容のベストセラーなどがある場合は「そこに書かれていないことは何か」を考えて、差別化をはかりましょう。
- 概要:書きたいことの概要をまとめて、構成を立てます。
- 形式:紙書籍か電子書籍か、またはその両方かを選択しましょう。
- 使用ソフト:紙書籍か電子書籍かに応じて、使用するソフトを決めます。読み物であれば、Microsoft Word(マイクロソフトワード)や一太郎などのソフトで作ることができます。レイアウトを組む際には、Adobe InDesign(アドビインデザイン)などのDTPソフトが便利です。ページ数が少ない場合は、Adobe Illustrator(アドビイラストレーター)を使ってもいいでしょう。
- 発行日と発行までのスケジュール:自分の執筆ペースを考え、余裕をもったスケジュールをたてましょう。
上記を検討した上で、企画を立て、構成を決めていきます。
2. 本の仕様を決める
紙書籍の場合
- ページ数:ページ数は4の倍数である必要があります。印刷会社は、1枚の大きな紙に表裏各4ページ(合計8ページ分)、または表裏各8ページ(合計16ページ分)をまとめて印刷してから裁断するため、紙の無駄をなくすために、8または16の倍数にするのが理想です。
- 判型:内容に応じて、本の大きさを決めます。文章が中心の場合は、文庫サイズやA5、B6、新書サイズが一般的です。絵や写真が多い場合はB5、A5、A4サイズがよく使われます。
- 印刷製本業者:作る本の部数や体裁にあわせて、依頼する印刷製本業者を決定します。オンデマンド印刷を利用できるプリントオンデマンド出版社であれば、注文に応じて必要な部数のみ印刷・製本を行ってくれるので、0円から出版が可能です。
- 印刷方法:作りたい部数に応じて、印刷方法を決めます。中〜大部数にはオフセット印刷、作りたいときに作りたい部数だけ作る場合はオンデマンド印刷を選びましょう。100〜200部以上は、オフセット印刷の方が価格が安くなる場合が多いです。
- 用紙/インキ色/加工:印刷製本業者と相談しながら、紙の種類と使用するインクの数を決定しましょう。紙は、厚みや重さ、手触りなど、さまざまな種類があるので、イメージに合わせて選びましょう。インクは4色(フルカラー)、1色刷り、2刷りから選べることが多いです。また、表紙などにコーティングなどの加工を施す必要があるかも検討しましょう。
- 予算/販売価格/部数:全体の予算をもとに、販売価格と部数を決定します。印刷にかかる費用だけでなく、執筆・制作のためのソフトや、使用するフォントや素材にかかる費用、販売手数料なども考慮しましょう。
電子書籍の場合
- 電子書籍の種類:電子書籍には、リフロー型とフィックス型の2種類があります。リフロー型は文字のサイズや大きさなどを変えることができ、全文検索や読み上げ機能にも対応しています。フィックス型はいわゆるPDF形式で、レイアウトを固定したものです。読み物にはリフロー型、図版が多いものや、文字の組み方が特殊なものにはフィックス型が選ばれます。
紙書籍・電子書籍に共通
- ISBNの有無:全国に流通している本には、バーコードの下に「ISBNコード」という固有の識別コードがついています。つくった本を図書館に寄贈したり、取次を介して書店に流通させたりしたい場合は、ISBNコードを取得する必要があります。ISBNコードの取得には、出版者登録と手数料が必要です。
上記の内容を検討し、実際にどのような仕様の本にするかを決めていきましょう。
3. 本の設計図「台割表」をつくる
台割表とは、1ページにおさまる文字数などを踏まえて、どの内容に何ページ使い、何ページ目に図を入れるのか、などを定めた本の設計図です。この台割表により、最終的なページ数が決まります。
特に、図を多く挿入する必要がある場合や、見開きなどの込み入ったレイアウトにする場合などは、台割表が非常に重要になります。図版が入らない1段組の読み物の場合や、リフロー型の電子書籍場合は、多少ずれても調整できますが、台割表をつくっておくことで完成形を可視化できます。
4. 執筆する
執筆して、初稿を書き上げましょう。次の点に気をつけることで、原稿の品質を高めることができます。
ジャンルと読者層を意識する
ジャンルとその読者層にあわせた言葉遣いを意識しましょう。例えば児童書であれば、対象年齢にあわせて使用するかな漢字を決めておく、といった工夫ができます。反対に、一部の読者を対象とする専門書であれば、専門用語を使ったほうがより濃い内容を伝えることができ、説得力も増します。対象とする読者に伝わりやすい表現を心がけましょう。
構成に沿う
最初にたてた構成に沿って執筆をすすめることで、バランスがよくなります。あとで調整しても問題はありませんが、自由に書き進めた結果、冒頭の前置きが本の80%を占めてしまうようなことを防ぐことができます。
推敲をする
何度も読み直し、理想とする表現に近づけるように推敲を重ねましょう。声に出して読むことも効果的です。
5. 表紙をデザインする
自分でデザインする場合
自分でデザインできれば、費用を大幅に節約できます。デザインの経験があり、自分でカバーをデザインしてみたい場合は、以下のような無料デザインツールが役にたちます。
- Canva(キャンバ)
- Fotor(フォター)
- Edit.org(エディット・オルグ)
- Visme(ヴィスメ)
デザイナーに依頼する場合
プロのデザイナーに依頼するのも選択肢のひとつです。Instagramなどで気に入ったデザイナーがいれば直接依頼してみるのもいいでしょう。CloudWorks(クラウドワークス)、Lancers(ランサーズ)、ココナラなどのクラウドソーシングサイトでも、表紙デザインの依頼を受けているデザイナーを探すことができます。
どちらの場合も、次の点に気をつけましょう。
- 販売プラットフォームでの見た目:一番最初に目に入るのが表紙です。色やデザインなどが、販売プラットフォームで埋もれてしまわないか、確認しましょう。たとえば、電子書籍の販売プラットフォームで小さなサムネイルしか表示されない場合、細かいモチーフを使ったデザインでは、目立たない可能性があります。
- タイトルのよみやすさ:タイトルが目立つと、タイトルと合わせて本そのものを認知してもらえます。
- 背表紙や裏表紙:表紙といっても表面だけではなく、背表紙や裏表紙も含まれます。一貫性のあるデザインにしましょう。
6. フォーマットを整える
出来あがった原稿を実際のレイアウトに配置して整えていきましょう。目次や参考文献、ページ番号なども加えて全体を調整していきます。フォントの種類やサイズ、行間、文字幅、余白などで、読みやすさは大きく変わります。テキストや図版の配置を専門とする組版デザイナーを探して、依頼するのもおすすめです。
電子書籍は、販売プラットフォームにあわせたファイルを用意しましょう。フィックス型の場合はPDF、リフロー型の場合はEPUBという電子書籍専用の形式で出力する場合が多いです。EPUB形式のファイルは、Romancer(ロマンサー)や一太郎などのソフトで作成できます。
7. 編集・校正をする
フォーマットを整えたら、客観的な目で見直し、編集しましょう。内容に誤りがないか、情報の出典は確かか、表記にゆれがないか、細かいところまで確認していくことで、原稿の品質を高めることができます。
編集するにあたっては、次のような方法があります。
- 自分で編集する:自分が読者になったつもりで通読し、編集と校正を加えていきます。
- プロの編集者に依頼する:表記や読みやすさなど、自分の目では気づきにくい部分は、プロの編集者に依頼できます。編集プロダクションに連絡をとり、プロの目でみてもらうのもいいでしょう。CloudWorksやLancers、ココナラなどのクラウドソーシングサイトで、フリーランスの編集者を探すこともできます。業界のプロから客観的な視点でアドバイスが得られるので、品質の大幅アップが期待できます。
- 読者からフィードバックを得る:ある程度原稿が整っているのであれば、一部の読者に先行公開し、フィードバックを得るという方法もあります。
8. 入稿する
紙書籍の場合
印刷製本業者の指示に従ってデータを入稿します。オンライン入稿やUSBメモリでの入稿など、入稿方法は印刷製本業者によって異なります。試し刷り(校正刷り)がある場合は、誤りや修正箇所がないかチェックし、必要に応じて修正を加えた上で、最終確認を行いましょう。
電子書籍の場合
販売プラットフォームの指示に従って、データをアップロードします。
9. 販売する
紙書籍の場合
日本のほとんどの書店は、日本出版販売株式会社、株式会社トーハンなどの出版取次を介して書籍を仕入れています。そのため、全国展開している書店などで販売してもらうには、出版取次との取引が必要になりますが、それにはISBNの取得や、最低でも3,000冊程度の在庫が必要などの条件があり、一定の規模が求められます。個人で行うのは容易ではありません。
自費出版の書籍を販売するには、次のような方法があります。
- 自費出版の取り扱いがある書店:自費出版の書籍を置いてくれる書店を探し、直接営業して販売をお願いします。
- 独自ネットショップ:Shopify(ショッピファイ)などでネットショップを開設し、読者に直接販売します。
- イベント:自費出版書籍の販売イベントに参加します。
- Amazon Kindle ダイレクトパブリッシング:データで入稿することで、印刷から発送などもすべてAmazonが行ってくれるサービスです。自分で印刷所に依頼する必要がなく、1冊から販売できます。また、Amazon独自のISBNコードを取得することができます。
電子書籍の場合
電子書籍は、独自のネットショップや各プラットフォームで販売できます。それぞれ次のような特徴があります。
- Shopify:独自のネットショップを開設して、電子書籍を販売できます。ブランディングがしやすく、Shopifyの利用料以外の販売手数料が無料です。
- Amazon Kindle:取り扱いジャンルは小説、ビジネス本、漫画、イラスト、ポエム、写真集、専門書籍など。手数料は売上価格の30%または65%(販売価格、Kindleダイレクトパブリッシングセレクトへの登録、他プラットフォームでの販売など、各種条件により異なる)です。
- 楽天Kobo:取り扱いジャンルは小説、ビジネス本、漫画、写真集など。手数料は売上価格の30%または55%(販売価格により異なる)です。
- Google Play Books:取り扱いジャンルは漫画、ビジネス本、趣味本、ライトノベルなど。手数料は売上価格の48%です。
- Apple Books:取り扱いジャンルは漫画、小説、ライトノベル、ビジネス本など。手数料は売上価格の48%。海外ユーザーも多いですが、EINという米国法人番号を取得する必要があり、日本と米国両方の税金がかかります。
- forkN:取り扱いジャンルは漫画、小説、イラスト、写真集など。手数料は売上価格の30%です。
- BCCKS:取り扱いジャンルは、小説・ビジネス本・漫画・イラスト・ポエム・写真集など。手数料は売上価格の30%です。
自費出版(代行型)で本を出す方法
自己完結型と異なり、まとまった費用が必要になりますが、代行型の自費出版では上記の執筆以外をすべて出版社が代行してくれます。ISBNコードの発行に対応しているところも多いため、個人では難しい流通に載せることも可能です。興味がある方は、出版社を探して、コンタクトをとってみましょう。
まとめ
さまざまなプラットフォームや、プリントオンデマンドなどのサービスも登場して、自分の本を比較的手軽に出版できる時代になりました。特に電子書籍は無料で作ることができ、在庫を抱える必要もないので、ネットで稼げるビジネスになります。人気が出て長い期間売り続けることができれば、不労所得になる可能性も秘めています。いつか自分の本を出版したいと思っている人は、この記事を参考に、自費出版の可能性を探ってみませんか。
自費出版についてのよくある質問
自費出版の費用の相場は?
電子書籍の場合は、編集者やデザイナーを雇わなければ、ほぼ無料で出版できます。 紙書籍の場合、大手出版社の自費出版部門に依頼する場合は、1000冊で100〜200万円が相場と言われていますが、プリントオンデマンド出版社に依頼すれば0円から出版が可能です。
文:Taeko Adachi