このセッションでは、株式会社ZENB JAPANダイレクト戦略グループ主任の菅野真史氏、ShopifyのStrategic Partnerである株式会社Huckleberry代表取締役CEOの安藤祐輔氏、Shopify Japan株式会社シニアパートナーシップマネージャーの徳永真穂氏の3名が登壇。Shopifyパートナーエコシステムの活用法や、その未来について語り合いました。
<目次>
1. ブランドのビジョンを消費者に届けるためD2Cに参入
ZENB JAPANは食品大手ミツカンホールディングスのグループ企業として2019年に誕生しました。菅野氏は誕生経緯についてこう語ります。
「ミツカンが10年、20年後の未来を見つめた際にどうあるべきかを考えた未来ビジョン宣言というものがあります。その中の『人と社会と地球の健康、新しい美味しさで変えていく社会』というキーワードを具現化したブランドです。地球環境に優しくサステナブルな食生活を提案したい、ブランドの背景やビジョンを消費者に届けていきたいという想いからD2C(※)というビジネスモデルを選定するに至りました」
※Direct to Consumer、製造者と消費者を直接つなぐビジネスモデル
中間流通を通すというのがミツカンのメイン販路となるため、紆余曲折もあったのではないかと問いかける安藤氏の問いかけに菅野氏はこう答えます。
「組織的な苦労はありました。ミツカンはある程度プロセスや販路が固まっているので、そのままでは新たなブランド価値を伝えていくのが難しいという背景から出来たブランドがZENBです。ミツカンは創業から220年経っている会社であり、新しいものを作るのであれば人も組織も新しいものにしなければなりませんでした。
苦労した点としてはグループ会社ではあるので稟議などはミツカンを通さなければならない部分です。カルチャーギャップはありますね。ミツカン本部よりスピード感がある点がZENBの強みです。ローンチ時は10人未満のメンバーで始まった小さな組織でしたが、業績の伸びとともに商材、顧客、人員も増えていきました」
2. アンケートで解約理由を定量的に把握できるように
続いて、安藤氏よりEC構築にShopifyを選んだ理由を尋ねられた菅野氏は、次のように話しました。
「拡張性と安定したインフラをもち、『こういった機能や運用がしたい』と考えれば次の日には実現可能という点は非常に大きいと感じています。以前利用していたカートシステムはそれができなかったため、商品がTVに紹介された際にアクセス集中によりサイトに繋がらないという機会損失を経験しました。それ以来、インフラ面にはこだわるようになっています。
また、我々はUSやUKにも事業展開していますが、その国々でShopifyが使われていたというのも大きな理由です。さらに、約10000種類のアプリがあり、機能実装がしやすく、機能拡張のスピード性、有事の際のリカバリー力が優れていることも魅力だと感じています」
EC運営の課題について菅野氏は、「人員が足りず、スピード感が損なわれてしまうことが課題です。具体的には、プロジェクトマネージャーが忙しいことや、タスクの優先順位づけや要件定義に時間がかかってしまうことなどですね」と話します。
さらに、安藤氏より複数のパートナー会社と連携している狙いについて尋ねられた菅野氏は「パートナー制度が充実していて、フィットしている会社を選ぶことができる点もShopifyの魅力です。Shopifyを使っていなかった時は1社しか選ぶことができず、価値観が合わなかったり、要望を汲み取ってもらえなかったり、希望とは異なるものができ上がったりという問題がありました」と述べました。
これからの理想について、「売り上げをより伸ばしていきたいですが、理想とのギャップがまだまだあります。キャンペーンや施策を考えてはいるものの人が足らずに実現まで時間がかかってしまっています。そういった点でHuckleberryの定期購買アプリは助かっています」と話す菅野氏。
同社では定期購入の解約時にアンケートを取っており、「具体的な理由についてコメントをもらえることは大きい」といいます。これまで仮説レベルでしか把握できなかった顧客が離れてしまう理由を、「ニオイが気になる」「うまく作れない」「美味しく作れない」など、定量的に原因を追うことができるようになってきました。
菅野氏は、「明確にやることが見え改善が進んでいます。分析で理由付けができるのはありがたく、たとえばユーザーから『くっつく』『粉っぽい』『茹でたら麺が切れる』という具体的な課題点が挙がれば、それを研究開発チームにフィードバックし、商品の改良につなげてもらうことができます。パートナーエコシステムからこういった専門的な知見を持ったパートナーを見つけられるのはとても心強いです。」と語りました。
3. パートナーは共にブランドを育てる存在
続いて安藤氏からパートナーとの関係性について問われた菅野氏は、「ブランドに共感してもらい、共にブランドを育てていってもらえるような間柄、戦略パートナー」と答えます。
「パートナーさんにも我々の商品を食べてもらうと言うことを実践し、商品を食べてもらったうえで、我々がしている事業に共感してもらうことを意識しています。ShopifyパートナーとShopifyでストアをしているマーチャントの間柄がフラットなのでコミュニケーションをとりやすく、提案などもしてもらえるので非常にありがたく感じています」と、その関係性について語りました。
今後パートナーに期待している役割を問われた菅野氏は、「Huckleberryは定期購買アプリやオールインギフトアプリを入れてくれており、大事な購入導線を支援してもらっているので引き続きお願いできればと考えています」と想いを伝えました。
「パートナーは単独よりも複数社いたほうがメリットが大きい」と話す菅野氏。各社ごとに得意分野や知見が異なるため、同じ課題に直面した時でも多様なアプローチがあるため方向性を検討し選択していくことができる点をそのメリットとして挙げます。
さらに、今後の要望として「国産のアプリをより多く作ってほしいですね。日本製のアプリはUIが優れており、Shopify担当の人間でなくとも直感的に操作できます」と話します。
そして安藤氏から、海外でのローカライズアプリのニーズの大きさを尋ねられた徳永氏は「もちろん国や地域、業種ごとに各ビジネス固有の要求があるため、ローカライズアプリの需要は世界中にあるものの、のし文化・コンビニ払い文化などとりわけ独特な商慣習を持つ日本は特に要求水準が高い」と回答。「国産アプリはShopify側としても楽しみにしています」と話しました。
4. より多くの価値提供がパートナーエコシステムの神髄
セッションのまとめとして徳永氏は、Shopifyの強みを次のように語りました。
「Shopifyのミッションは『全ての人のためにコマースをよりよくする』です。エンドユーザーももちろん大切ですが、ビジネスを行う事業者、マーチャントが主役であると我々は考えます。Shopifyが創業した2000年頃は今のように簡単に使えるECカートシステムが全くない状況でした。そのため、多額の資金を使ってシステムを外注するか、自社にしっかりコードが書ける人材を置かなければ、ECサービスを展開することができなかったのです。Shopifyはそういった状況を打破すべく作られました。
多くの事業者に共通した課題として、EC人材がいない、専門知識がない、予算や時間が足りない、と言う経営資源に関するものがあります。ECの課題をShopifyと合わせ、専門的知見をかけ合わせて解決できるのがパートナーエコシステムです。これは日本の事業者には特に心強い存在だと思います。その理由は3つあります。
まず、パートナーの活用により自社独自のニーズを追求することができます。標準機能は世界中のユーザーのなかのマジョリティをターゲットとしていますが、業界固有の慣例や独特の商習慣のような個別ニーズへの対応が必要となる場合もあります。パートナーを活用すればこのケースに対応できます。
2つ目に、日本企業では3年毎のジョブローテーションなどの人材流動がまだまだ一般的であり、ECサイト担当が社内に確立されていることは少ないという課題を解決できます。パートナーを活用し、ECのプロ、専門コンサルと仕事ができるメリットがあります。
そして3つ目に、時代の最先端技術を簡単に導入できることがあります。たとえば、NFTやメタバース、VR、ARなどの新しいテクノロジーをShopifyで導入できるといわれても、どういった部分に注意し、どこから始めるべきなのかを見極めるのは難しいかもしれません。そのような場合にパートナーを活用することで、最先端分野のプロと手を組むことで解決が可能です。
最後に徳永氏は、「Shopifyは自社のみで提供できる以上の価値を事業者に提供できる。これがパートナーエコシステムの真髄である」というShopify社長の次の言葉を紹介してセッションを締めくくりました。