「KANADEMONO(かなでもの)」は2018年の設立以来、シンプルで洗練されたデザインのテーブルや椅子など、それぞれのライフスタイルに合わせた家具を提供するD2Cブランドです。主力製品の「THEシリーズ」は、天板・脚・サイズを自由にカスタマイズでき、顧客が求める「ちょうど良い家具」として高く評価されています。
その成長を加速させるべく、KANADEMONOは2020年7月にShopifyを導入し、さまざまな成果を得てきました。さらに近年は法人顧客の増加に伴い、B2B事業にも注力。ShopifyのPlusプラン限定のB2B機能「B2B on Shopify」を活用し、2024年5月には法人会員向けストア「KANADEMONO for BUSINESS」をオープンしました。これらの施策により、商品選定から納品までのプロセスを円滑に進められる環境を整備したのです。
【ShopifyのPlusプラン活用による成果】
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チェックアウト時のコンバージョン率が約1.3倍向上*
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リピート顧客率3倍**
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法人会員向けストアを3ヶ月で開設
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B2Bの顧客数 10倍増、平均月間売上3.4倍***
*ShopifyのCheckout Extensibility導入前2024年1−4月 vs 導入後2024年5−12月
**開店直後90日間 vs 2024年10−12月
***B2B機能導入前1年間平均 vs B2B機能導入後2024年5-12月
今回は、KANADEMONOを展開するルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニーの管掌であり、ECビジネスの専門家としても知られる石川森生氏、テクノロジーチームとしてストア構築を手がける徳永宇映氏に、Shopify導入前の課題や導入後の成果、さらにB2B機能を活用した運営の工夫についてお話を伺いました。
ルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー 管掌 石川森生氏(左)、テクノロジーチーム 徳永宇映氏(右)
家具D2Cサービスを実現するまでの挑戦と進化
KANADEMONOの始まりは、創業メンバー自身が「理想のテーブルが見つからない」という課題に直面し、自ら製作を手がけたことがきっかけでした。その後、同様のニーズの存在に気づき、家具製作を開始。最初はECモールでのテスト販売からスタートし、顧客の反応を受けて本格的に自社ECサイトの構築に取り組みました。
家具は一度購入されると長期間使用されるため、他のECサイトのビジネスモデルとは異なり、リピート顧客が少ないという特徴があります。テーブルや椅子といった家具は、一度購入されると数年から十数年という長期間使用されるため、消耗品やファッションアイテムと異なり、頻繁な購入は期待できません。
しかし、石川氏はこの課題を逆にチャンスだと捉えました。「一度購入した顧客がブランドに共感し、リピーターとなることが他の家具企業にはない大きな強みになると考えました」と石川氏は述べます。
この考えのもと、KANADEMONOはブランドの世界観を重視した戦略を展開します。「D2Cブランドとしてマーケットで勝つためには、ブランドの世界観を構築し、それに共感する顧客とつながることが不可欠です」と石川氏は強調します。この取り組みは、顧客のブランドへの継続的な関心を引き出し、広告のCPA(顧客獲得単価)の削減にもつながり、効果的なマーケティング戦略として機能します。
ルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー 管掌 石川森生氏
しかし、この戦略を実現するにあたり、当時利用していたカートシステムには3つの大きな課題がありました。
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「家具のサイズオーダー」機能が実装できず、カスタマイズ性に欠けていたこと
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デザインの自由度が低く、ブランドの世界観を十分に表現できなかったこと
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天板と鉄脚の組み合わせに関するデータ処理が複雑で、注文処理に多くの手作業が必要だったこと
これらの課題を解決するため、KANADEMONOは2020年に柔軟性と成長性を兼ね備えたShopifyへの移行を決断しました。
実は、導入のかなり前からShopifyには注目していました。
Shopifyは豊富な機能とアプリ連携の容易さが特徴で、短期間かつ低コストで導入が可能です。また、UIの自由度も高いため、ユーザーにとって使いやすいインターフェースを構築しやすく、KANADEMONOのセミオーダー家具という特性を十分に発揮できるプラットフォームとなりました。さらに、受注から発注までのプロセスが自動化され、運営の効率性も向上。移行当時を振り返り、拡張性、スピード感、そしてコストパフォーマンスを総合的に考慮した結果、「Shopify以外を選ぶ理由はなかった」と石川氏は断言します。
KANADEMONO「THE TABLE」。天板や脚を豊富なデザインの中から自由に選択できる。特にサイズは1cm単位で調整できるサイトを実現した。
実際に、Shopifyを導入したことで、KANADEMONOは新規顧客とリピーターの増加と売上向上を達成しました。石川氏の狙い通り、家具カテゴリーにおいてもリピート購入者の増加に成功しています。
新規購入者と、リピート購入者の売上推移。
B2B市場への進出と法人顧客向けサービス強化
Shopifyへの移行後、KANADEMONOは順調に成長を続ける中で、オフィスや教育機関を中心に、法人顧客からの需要が高まっていることに気づきました。「短納期かつサイズオーダー対応」という特性が法人顧客にも支持され、売上の約4割を法人が占めるようになっていたのです。そこで、KANADEMONOは従来のD2Cモデルに加え、B2B市場への進出を決断しました。
「従来の消費者向けマーケティング施策が法人顧客にも一定の成果を上げていましたが、多くの場合、法人家具市場では依然として対面営業や電話対応が主流です。しかし、Shopifyを通じてDXを進めることで、さらに法人需要を取り込む余地があると感じました」と石川氏は語ります。
そこでKANADEMONOは、ShopifyのB2B機能を活用した法人向けサービスの強化に着手していきます。法人専用ストア「KANADEMONO for BUSINESS」では、ShopifyのPlusプランに搭載された「B2B on Shopify」機能を利用し、以下のようなサービスを実現しました。
KANADEMONO for BUSINESSサイト
卸売価格の設定と表示の出し分け
B2B機能を活用する前は、法人顧客が卸価格で購入する際に、都度クーポンを発行したり、手動で価格を変更したりする必要がありました。しかし、卸機能を実装したことで価格表示が自動化され、オペレーション負担が軽減されました。また、法人顧客には「会社様特別価格」を価格に表示することで、特別感を表現しています。
法人向けナビゲーションとコンテンツの出し分け
法人顧客には一般の個人顧客とは異なるナビゲーションや商品構成を表示し、使いやすさを向上させました。その結果、必要な商品を効率的に見つけられるスムーズな購買体験を実現し、オンラインでも特別な接客を受けているような体験を提供しています。
配送日時の指定と請求書払い対応
チェックアウト時に配送日時を指定できる機能を追加し、オフィスや施設の納品スケジュールに合わせた注文が可能になりました。さらに、請求書払いを導入することで、問い合わせや手作業での調整を減らし、業務効率を大幅に改善しました。これにより、個別対応コストの削減とオペレーション負担軽減が実現しています。
見積もりの即時発行
希望する商品やサービスに対して即座に見積もりを取得できる機能を導入しました。見積もり依頼にかかる手間が減ることで、法人顧客は迅速に購入の意思決定ができるようになり、購買プロセスがよりスムーズになりました。こうしたB2B機能とカスタマイズにより、法人顧客の利便性が向上し、発注作業の負担が大幅に軽減されました。
さらに、法人顧客の社数や特性を正確に把握できるようになり、データを活用したマーケティング施策の質も向上しています。具体的には、マーケティングオートメーションツール「Dotdigital」を活用し、空間コーディネートに関するコンテンツを提供したり、顧客が購入した商品を基点に他の製品を組み合わせた空間提案を行ったりしています。これにより、リピート率や売上の向上が実現し、ヘビーユーザーとしての定着も進んでいます。
KANADEMONO for BUSINESSのローンチ以降のB2B売上の推移。B2B顧客数や売上を正確に把握できるようになり、着実に成長を続けている。
ShopifyのPlusプランでD2CとB2Bの両軸でビジネス成長を実現
今回のShopifyのPlusプラン導入によって、業務の効率化が大きく進展しました。これまで手作業で行っていたプロセスが自動化され、業務コストの削減に成功。また、配送先の住所不備を減らすバリデーション機能の導入など細部まで改善を加えたことで、顧客にとっても使いやすい環境が整いました。
さらに、Shopifyにより、ブランドの世界観をECサイトにも反映できるようになり、SNS経由で訪れた顧客にも一貫した体験を提供しています。これにより顧客がスムーズに購買できる環境を実現し、ブランドイメージを保ちながら顧客満足度を高めることができました。具体的な成果としては、以下の4つが挙げられます。
1. チェックアウト時のコンバージョン率が約1.3倍向上
チェックアウト体験をカスタマイズできるShopifyの機能「Checkout Extensibility」の導入によりチェックアウトのプロセスが改善され、コンバージョン率は1.3倍上昇しました(Checkout Extensibility導入前2024年1−4月 vs 導入後2024年5−12月)。
2. リピート顧客率3倍(Shopify導入直後 vs 現在)
Shopifyの導入後、KANADEMONOは新規顧客獲得に加え、リピート顧客率を3倍に引き上げることに成功しました(開店直後90日間 vs 2024年10−12月)。
3. 法人会員向けストアを3ヶ月で開設
「KANADEMONO for BUSINESS」をわずか3ヶ月で開設。開設後、B2B売上の割合が拡大し、顧客数全体に占める法人顧客の割合が約10%に到達しました。
4.B2Bの顧客数 10倍増、平均月間売上3.4倍
法人顧客の新規顧客とリピーターが増え、売上が右肩上がりで推移しています。B2B機能の導入前(社名から法人と推測)と比較すると、顧客数は10倍に増加し、月間売上も3.4倍になっています。
ストア構築を手がけたテクノロジーチームの徳永氏は「Shopifyは機能追加がしやすく、受発注管理や倉庫管理、CRMシステムとの連携がスムーズです。フロント部分だけでも50以上のアプリを入れてるのですが、柔軟に機能追加が可能な点が優れています」と、Shopifyの拡張性を評価しています。
ルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー テクノロジーチーム 徳永宇映氏
さらに、石川氏もShopifyの仕様が迅速なPDCAサイクルを促進する点を評価しており、「アプリの仕様が定まっているため、要件定義に時間をかける必要がなく、機能をボタン一つで追加し、すぐに効果を検証できる環境が整っています」と語ります。
KANADEMONOでは、チェックアウト時のコンバージョン率(CVR)の週ごとの推移を分析し、B2CおよびB2Bの両方を含めた改善を進めています。Shopifyの機能やアプリを効果的に活用し、定期的かつ迅速な更新を行った結果、特に4月の更新以降、CVRが顕著に上昇しました。
チェックアウト時のCVR(コンバージョン率)の週ごとの推移(B2CおよびB2Bを含む)。
具体的には、ユーザーが決済情報を登録することで、次回以降はワンタッチでカード情報やお届け先を入力できる「Shop Pay」の導入や、クロスセル・アップセルをサポートするアプリ「qikify Checkout Customizer」の導入も、手間をかけず短期間で設定することができたと徳永氏は言います。特に「qikify Checkout Customizer」は通常なら多くの工数がかかるチェックアウトのアップセルの設定をボタン一つで完了でき、売上向上に寄与しています。
KANADEMONOが描く成長への次なる一手
今後の展望について、石川氏は「顧客維持の強化を目指し、ロイヤリティプログラムの導入を検討していきたい」と語ります。現在注力しているCRM施策に加え、適切な経済的インセンティブを組み合わせることで、顧客ロイヤリティのさらなる向上が期待できるとの考えです。また、EC運用においては、「これまで培ってきた通販のベストプラクティスとShopifyの機能やアプリを掛け合わせて、売上拡大に取り組んでいきたい」と展望を示しています。
一方、徳永氏は「KANADEMONOを総合店と位置付け、新たな専門店として他ブランドを展開することも視野に入れています。Shopifyであれば、迅速にビジネスの立ち上げができ、複数ブランド展開もスムーズに進められるでしょう」と、今後の可能性に言及しました。
さらに、リアルスペース「KANADEMONO BASE」では、Shopifyの機能を活用し、オンラインとオフラインが連携したシームレスな顧客体験の提供を目指しています。石川氏は、「将来的には、リアルとオンラインの接客オペレーションを統合し、顧客に一貫性のある購買体験を提供する計画です」と述べています。KANADEMONOは、Shopifyを活用してブランド価値を一層高め、持続的な成長を目指しています。