想定外がニューノーマルに
コマースの世界で唯一変わらないことは「絶え間ない変化」です。そして、この世界で前進するには適応するしか道はありません。昨年は、予想外の事態に直面しても回復力を発揮した何百万もの企業が、世界全体で27兆米ドル以上の小売売上高に貢献するのを目撃しました。しかし、世界中の企業のうち64%は、パンデミックの悪影響からまだ回復できていません*。
2022年には、ロシア・ウクライナ戦争による制裁で貿易の遅延や停止が発生し、パンデミックによる経済的な障害はさらに深刻なものとなりました。財政が不安定であることから、過去40年で最悪のインフレを引き起こしています。
オンラインショッピングはパンデミック突入からほんの数か月で前年比77%の上昇があり、5年でイノベーションとデジタルコマースの導入が急速に進められました。そして、オンラインでのショッピングや仕事、人との交流が当たり前のものになりました。
しかし、何年ものロックダウンと行動制限の後、人々は生活のあらゆる面で意味のあるつながりを切望するようになりました。これはコマースも例外ではありません。物理的なスペースは、オンラインとオフラインのコマースを連携させ、マーチャントとお客様の間のつながりを生み出す場を提供します。
ブランドは2023年の課題に取り組みながら、商品、計画、ポリシーに柔軟性を持たせることで対応する必要があります。経済不況の兆しを考慮すると、アジャイル性がいまだかつてなく重要になっています。このレポートでは、ブランドが想定外の事態に立ち向かう準備ができるようにグローバルトレンドについて概説しています。
数値の単位はすべて米ドルです
経済的見通しからEコマース企業は不況に備えることを余儀なくされる
コマースの成長は鈍化している一方で、2022年の小売売上高は2020年から15%増え、2025年には31兆ドル以上に達することが予測されています。ただし、それは緩やかな上昇基調をたどるとみられます。
2020年から2025年の世界の小売売上高成長率の予測
出典: Statista
世界貿易機関は、2022年が進むにつれて貿易量の伸びについてあまり楽観的ではなくなりました。同機関は2023年について、4月に成長率を3.4%と見積もりましたが、10月まででその予測値は大幅に下方修正され、わずか1.0%にとどまっています。
コマースの成長が減速するにつれ、インフレに対する懸念が高まっています。
インフレがビジネスにどう影響するか
出典: Shopify/Ipsosによるコマーストレンド調査。14か国で900社の中小企業と大企業を対象としたアンケート (2022年8月~9月)
コストの上昇を気にかけているのはビジネスオーナーだけではありません。平均的な人はコロナウイルスよりも102%多くインフレを心配しており、コロナウイルスは世界的な懸念事項のリストで順位が落ちた一方で、インフレがトップに躍り出ました。価格高騰の懸念は2023年にもなくなりそうにありません。
不況の懸念は誇張されているという意見もありますが、現実に向き合いましょう。不況の可能性があるというだけでも、企業の支出方法やベンチャーキャピタルの投資方法、人々の買い物方法に影響が及ぶのです。
消費者の行動の変容に伴ってブランドへの期待は高まる
消費者の選択肢はかつてないほどに広がっており、今日の経済情勢下で、消費者は選択の自由を行使する準備ができています。2021年5月から2022年5月の間に、消費者10人のうち7人以上が競合他社の人気ブランドから購入しています。そして、2023年に予測されるとおり、購買力が減少すると、消費者はお買い得品を求めて引き続き探し回ることになります。
ただし、買い物客は値札にばかり気を取られているわけではありません。環境、社会、ガバナンスへの懸念は世界の約半数の消費者に影響を与えています。輸送、流通、そして、特にフルフィルメントは多くの企業にとってコントロールがほぼ不可能なのにもかかわらず、購入者は、持続可能なサプライチェーンを持つよりエシカルな企業をサポートしたいと考えます。そのため、商品の欠品が、ブランド切り替えのほぼ半分を引き起こしているのです。具体的には、消費者の46%が消費者の欲しい商品の在庫を持つ競合他社に乗り換えると回答しています。
新しいブランドを見つけて試してみるのも、消費者にとっては簡単です。そして、ほとんどの人がいつでも購入する準備ができています。10人中7人以上が閲覧している場所ですぐに商品を購入できる便利さを気に入っています。その閲覧場所として挙げられるのがSNSです。SNSユーザー数が世界人口の6割に達した今、新しいブランドや商品を見つけるには、自分がすでに利用しているプラットフォームにアクセスするだけでよいのです。
このようなシームレスかつ即時性への期待は、実店舗にも向けられるようになってきました。「お客様はストアにまた来店して個人的な応対を受けたいと考えていますが、すぐに必要なものが手に入ることにもとても慣れています」と、Daily Paperのリテール部門責任者のShaza Mahmoud氏は語り、「お客様はすぐに手に入れたいと思っています。これはまさに時代の流れです。あらゆるものがボタンを1回クリックするだけで手に入るのですから」とまとめました。
消費者は、ショッピングがパーソナルなもので、すぐに購入でき、レスポンシブ性が高いことを望み、場所を問わずにそのような価値の高い体験が得られることを望んでいます。
Arpan Podduturi Shopify 製品・小売&メッセージング担当ディレクターコマースはどこにでも存在しますし、購入の流れは一直線ではありません。Instagramの広告や、TikTokのインフルエンサー、Twitterの投稿など、どこでも起こりえます。実店舗のウィンドウショッピング中かもしれませんし、友人から受け取ったリンクがきっかけということもあるでしょう。
そのため、収益拡大もさることながら、顧客体験の向上がグローバル企業にとって最優先課題となっているのが現状です*。
この究極の柔軟性と相互接続性は、雇用を含め、コマースのあらゆる側面に至っています。従業員は、自身の収入、ライフスタイル、価値観にプラスになる会社に転職します。従業員の5人に1人が、「融通の利くスケジュールと場所が会社に定着するカギだ」としています。これは、小売業で強い存在感を持つブランドが念頭に置いておくべき重要なポイントです。
2023年コマーストレンドレポートは、サプライチェーン、インフレ、マーケティング、ソーシャルコマース、小売の5つの分野にわたる調査から得られた最も強力なインサイトをまとめたものです。
方法論
グローバル市場調査会社であるIpsosと提携し、コマース業界の現状と今後の方向性、そして変化し続けるコマース環境に対応するために主要ブランドがどのように戦略を見直しているかを調査しました。この調査は、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、スペイン、日本、シンガポール、インド、中国、オーストラリア、ニュージーランドを拠点とする900社のビジネスオーナーとコマースの意思決定者を対象に実施されました。
上記の調査結果に、サードパーティデータ、Shopify Plusを利用しているブランドに関する独自調査、さらに業界リーダー、投資家、各分野に精通した専門家 (SME) に対して20回以上行った面談から得た定性的なインサイトを組み合わせました。こうして得られた知見をもとにトレンドレポートが作成されました。各章の内容をご紹介しましょう。
サプライチェーン
サプライチェーンの危機により、ブランドは長期的な成長計画の加速を強いられる
専門家は2023年にはサプライチェーンが正常化すると予測していましたが、ロシア・ウクライナ戦争の勃発により、パンデミックの影響で緊迫した状態にあるサプライチェーンがさらに圧迫されることになりました。サプライチェーンの混乱は62%の財務上の損失をもたらすという調査結果もあります。
サプライチェーンの危機が企業に及ぼす影響はさまざまですが、特に、世界中の消費者の60%が当日、翌日、または翌々日の配達を期待していることを踏まえると、ブランドは自社のサプライチェーンの脆弱性を認識し、不確実性に備えることが必要です^。
ビジネスオーナーは、単一の調達先や手元にある在庫の量を見直すことで、サプライチェーンの課題に対応しています。このような方針転換は、短期的には費用がかかるかもしれませんが、激動する物流環境に対応した、より強固なサプライチェーンの構築につながります。また、ブランドはサプライチェーンのデジタル化を進めることで、混乱にいち早く対応するか、あるいは混乱が発生する前に対応できるようにしています。
資金
インフレ下のコスト削減戦略も、顧客ロイヤリティを向上させる
世界貿易は2021年に過去最高の28.5兆ドルに達し、パンデミック前から約13%増加しました。しかし、コマースの成長は2022年に鈍化しました。また、ウクライナでの戦争が石油とガソリンの価格高騰をもたらしたため、小型包装物の輸送に関連する費用と時間が、現地だけでなくさまざまな場所で増加しました。
中国、オランダ、ドイツ、イタリアなどのいくつかの国は、燃料、石油、小麦、木材、金属などの必需品をロシアからあるいはロシア経由で輸入しているため、世界規模でリードタイムが伸びるとともに価格も上昇しています。品不足はすでに弱体化した経済にさらなる財政負担として重くのしかかっています。物価の上昇に伴い、金利や借入コストも上昇しています。
パンデミック下の成長の誇張も、D2Cブランドによる雇用への過度な投資をもたらしました。現在コスト上昇とビジネスの鈍化によって経費に折り合いを付けるのが難しくなっています。その結果が大量解雇です。
景気後退の懸念が大きくのしかかり、投資家心理を悪化させています。今年外部投資家に頼ることを計画しているブランドの73%にとって、これは難題となるでしょう*。
ブランドや購入者はインフレを踏まえた購買力低下を目の当たりにして、両者とも経費を抑える方法を模索しています。買い物客はより安い選択肢を探すことにより解決策を見出しています。つまり、値上げを予定している (またはすでに実施している) 81%のブランドは、顧客を維持するために自社の価値を強調する必要があるのです*。
一部のブランドにとって、値上げは既存の商品の価格を上げるのではなく、より高価な新製品を投入することを意味します。価格を凍結したり、予算に合う商品ラインを導入したりすることで長期のロイヤリティ獲得を試みるブランドもあります。機転の利くブランドは、将来の業績回復に期待して、現在は顧客の獲得と維持に投資することで、その可能性にかけています。
マーケティング
コラボレーションによってサードパーティデータの課題を解決したブランド各社
不安定な市場は、消費者に新しいブランドを試すことを促します。パンデミックの間に、消費者の4人に1人が新しいブランド、商品、購入方法を試しています。ロックダウンが解除され、国や自治体間の往来が自由になると41%の購入者が、これまで利用してきたブランドに対するロイヤリティを捨て、新しいものを選ぶようになっています。
ただし、このような潜在顧客を転換させるのは簡単ではありません。すでに高騰している顧客獲得費用は、広告費用対効果 (ROAS) の低下に伴って、上昇傾向にあります。さらに、プライバシー規制が強化されたことで、ブランドはサードパーティデータに依存できなくなり、購入する可能性が最も高い客層に対して商品を表示させることがますます難しくなっています。これに対処するため、ブランドはコラボレーションに目を向けています。
ブランド同士のコラボレーションでは、競合しないブランドが商品や体験を一緒に作り上げ、互いのオーディエンスを利用することで、低コストで相互に露出の機会を増やすことができます。インフルエンサーとのコラボレーションは、2023年以降もブランドにとって大きなメリットがあるでしょう。
ロックダウンを契機にインフルエンサーマーケティングの人気が急上昇しました。実店舗で商品に触れ、感じ、試すことができなかったため、消費者は、代わりに商品を箱から取り出したり、商品レビューをしたりするライブストリームを視聴しました。現在10社中7社以上の企業が、今後オンラインインフルエンサーがよりいっそう重要になることを期待しています*。
Eコマース
ソーシャルEコマースがよりインタラクティブに
Eコマースはパンデミック時より穏やかなペースで成長していくと考えられますが、それでも世界の小売売上高で次第に大きな割合を占めるようになっていくとみられています。2023年末までに小売販売の5件に1件がオンラインで行われるでしょう。
これらの数値は意味のあるものですが、コマースは取引だけにとどまるものではありません。また、私たちが目の当たりにしているソーシャル販売の世界ほど、それを実感できる場所はないでしょう。
10人中9人が、SNSでフォローしているブランドから購入しています。ソーシャルコマースは、ブランドの発見とコンバージョンの間に存在する摩擦を減らし、1対1のエンゲージメントと潜在的な販売を簡素化します。Shopifyのグローバル調査結果によると、マーケティングやプロモーションにソーシャルチャネルを活用することは、今後数年間で成長を促進するために、ビジネスにとって最も重要な顧客獲得および維持戦略であることがわかりました*。
出典: マーケティングの徹底解剖
ブランドが成長促進に活用している顧客獲得、顧客維持戦略の上位5項目
出典: Shopify/Ipsosによるコマーストレンド調査。14か国で900社の中小企業と大企業を対象としたアンケート (2022年8月~9月)
ブランドは、古いプラットフォームを革新的なツールと併用し、買い物客が望む複数チャネルをまたいだつながりを生み出しています。ただし、過去10年間してきたことと同じことをするわけではありません。私たちは、デジタル接続の新時代、メタバースの幕開けを迎えています。拡張現実とバーチャルリアリティの技術によって、ソーシャルコマースの次なる最大の空間がいよいよ現実のものになりつつあります。
そして将来を見据えたEコマースブランドは、すでに未来のインターネットでどのようにお客様と出会うかについて考え始めています。
小売
ブランドは実店舗体験を多様化して差別化を図る
雇用市場は流動的です。多くの雇用主はスタッフの定着に苦労しており、ブランドの59%が人材確保を自社の課題として挙げています。世界中の労働者の10人に4人が近い将来に仕事を辞める可能性があると回答しています。半分は昇給によってその職にとどまろうと考える可能性があるとしていますが、ブランドは現在の財政難で支出を抑制しているため、解雇のほうが昇給よりも現実的に発生する可能性が高いと考えられます。
それでも、複数チャネルの融合に慣れている今日のお客様に応対するために、各店舗に十分な人材を確保しておく必要があります。また、小売業者に対しても同様の対応が期待されることが多いのも事実です。このような期待により、店舗従業員の役割、また小売店舗の役割が変化しています。
Arpan Podduturi Shopify 製品・小売&メッセージング担当ディレクターオンラインとオフラインのつながりが高まるほど、顧客体験はより良いものになります。そして、最終的には小売業者と中小企業ブランドが今後の生き残りをかけて前進するチャンスをもたらします。
ブランドは、引き付けたオーディエンスから学び、ストアの目的を再定義しています。また、ますます激化する競争の中で自社の実店舗体験の差別化を図ることも必要です。
Shopify Retailのシニア商品マーケティングリードであるKevin MacGillivrayは、店舗での体験を実体験型にするという新たな傾向が見られていることを指摘しています。「石けんのストアを想定してみましょう」とMacGillivrayは言い、「石けんを試し、香りを嗅ぎ、使う。ストアでのみできることをやって、ウェブサイトでの購入では得られないちょっとした魅力を加えます」と続けました。さらに「運動器具や、車、ソファから買い物ができるようになりました。デジタルの世界ですべてを再現することは不可能です。実際に使用することで個人の体験と強く結びつく作用こそが、実店舗の特徴だと言えます。ますます多くの小売業者が、この方向で対面販売を成功させています」と説明しました。
小売の未来において、価値は単なる流行語ではなくなります。地域レベルで消費者を理解することはストアオーナーにとってますます重要になっています。お客様と一緒に生涯価値を高めたいと考えるなら、商品だけではなく、ブランド体験で心をつかみ購買意欲を高めることから始める必要があります。
コマースとテクノロジーの状況は、絶え間なく変化しています。ブランドは関係性を保つためにリアルタイムで対応する必要があります。
数百万ものShopifyのブランドからのデータを備えたShopify独自のレポートは、今後1年間の成長牽引に必要なツールとインサイトを提供します。
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2023年コマーストレンド