これから起業することを考えている人や、個人事業主から法人化を目指す人にとって、合同会社という会社形態は一つの選択肢です。東京商工リサーチのデータによると、2023年に新設された法人のうち、合同会社の設立数は前年より9.6%増えており、注目度の高さが伺えます。
この記事では、合同会社とは何か、そのメリットとデメリットをわかりやすく解説します。また、合同会社に向いている会社や具体例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
合同会社とは
合同会社とは、出資者と経営者が同一である持分会社で、2006年5月1日に施行された新会社法により誕生した新しい会社形態です。アメリカに存在するLLC(Limited Liability Company)をモデルとして導入されたことから、日本版LLCとも呼ばれます。有限会社が廃止されたことにより、現在新設できる会社形態は株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4種類となりました。
日本でも合同会社を設立するメリットが多くあることから、合同会社を設立する組織が増えています。
合同会社の特徴
- 一人から設立でき、人数の上限がない
- 役職は代表社員(会社の代表)、業務執行社員(経営に携わる社員)、社員(出資者)の3つ
- 出資者の責任は有限責任
- 役員の任期がない
- 決算公告の義務がない
- 基本的に、出資者が経営者となる
- 意思決定は全員での話し合い後、過半数の同意で議決する
また、業務執行社員の決定や意思決定、利益配分などの内部決定事項に関しては、定款に明記することで、独自に取り決めを行うことができます。
合同会社の表記方法
合同会社の略記は、(同)です。旧会社法において、合名会社を(名)、合資会社を(資)と表記していたことから、合同会社もこれにならって(同)とされました。また、銀行口座のカナ略称においては、(ド)が使われています。
法人名を英語表記する場合、アメリカにならってLLCと表記したり、Godo Kaishaの略であるGK.やG.K.が使われたりすることもあります。
合同会社設立のメリット
1. 設立費用が安い
合同会社の設立にかかる費用は、自分で手続きを行う場合、6~10万円程度です。登記の際に必要となる登録免許税は、資本金の0.7%、または申請1件につき6万円のどちらか高い方となります。定款を書面で作成する場合には、定款の収入印紙代4万円や印鑑証明書代390~450円が必要です。株式会社の設立費用が約20~25万円程度であることを考えると、安価に設立できることがわかります。
2. 定款の認証が不要
合同会社設立の際に、定款の認証は必要ありません。株式会社を設立する場合は、定款を公証人に認証してもらわない限り、定款として認められません。公証役場に出向いたり、公証人に認証を受けるための費用がかかったりと、手間と費用がかかります。合同会社の場合はこれが不要になり、すばやく設立することができます。
3. 経営の自由度が高い
合同会社の特徴の一つに、経営の自由度の高さがあります。前述の定款に記載する必要がありますが、利益の配分や議決権、業務執行社員や社員の決定など、経営に関わる事項を自由に決めることができます。通常、定款の変更には社員全員の同意が必要となりますが、定款に明記することで、全員の同意なく変更できるようにすることも可能です。
4. すばやく判断できる
合同会社では、出資者と経営者が同じであることが多く、重要な意思決定も迅速に行えます。出資者が同意すれば、特別な会議を開く必要もなく、競合に対抗するために事業の方向性を大きく変えたり、損失が大きくなる前に迅速に撤退をしたりするといった決定ができます。
5. 役員の任期に制限がない
役員の任期は制限がないため、任期満了に伴う登記の変更手続きが発生しません。また、役員変更に伴う登記申請も不要となり、コストもかかりません。
6. 出資者は有限責任社員
会社が倒産した場合、出資者は出資した金額までの責任を負います。これを有限責任と呼び、出資者が支払う金額の上限は出資額となり、個人の財産が脅かされることはありません。会社の倒産に際して、負債金額をすべて負う無限責任と異なり、巨額の負債を背負うリスクがありません。
7. 決算公告の義務がない
会社の決算状況を公にすることを決算公告と呼びますが、合同会社にはこの義務がありません。決算公告では、官報や日刊新聞紙、自社ウェブサイトなどに掲載するという形で情報を公開します。官報や日刊の新聞に掲載する場合、掲載費として数万~数十万円かかる場合がありますが、決算公告の義務がないことで、掲載費用がかかりません。ウェブサイトに掲載する場合も、自社のホームページであれば費用はかかりませんが、外部機関に掲載を依頼する場合には掲載料がかかります。
決算広告は誰でも閲覧できる情報であることから、信用を得やすいというメリットがある反面、取引先や競合他社に自社の財政状況を知られるという側面があります。資金調達の際の判断材料として利用されたり、取引先に値引き交渉のための資料にされたりする可能性があります。
8. 株式会社への移行も可能
事業を拡大するにあたって、合同会社から株式会社へ移行することも可能です。現状では合同会社が最適な会社形態であっても、事業規模の拡大や資金調達の必要性により、株式会社への移行を検討するケースも少なくありません。変更には約40日と時間がかかるものの、最初から株式会社を設立するよりも、合同会社から株式会社に移行する方が費用も安価になります。
合同会社設立のデメリット
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1. 社会的信用を得にくい場合がある
合同会社は、比較的新しい会社形態であるため、知名度が低い傾向にあり、小規模企業も多いことから、社会的信用を得にくい場合があります。特にBtoB取引など、企業を相手にした取引の場合は決算公告もないことから、取引先は財政状況に関する情報を得にくく、取引をためらわれてしまうケースもあります。このような事態を避けるために、自主的に決算公告を行う合同会社もあります。
近年では、合同会社を選択する以下のような有名企業も増えていることから、日本国内での知名度は上がってきていると言えるでしょう。
- Apple Japan合同会社
- Google合同会社
- アマゾンジャパン合同会社
- 合同会社ユー・エス・ジェイ(USJ LLC)
- 合同会社クリムゾングループ
- 日本ケロッグ合同会社
- クロックス・ジャパン合同会社
2. 資金調達方法が限定的である
合同会社の資金調達は、社員からの出資のほか、国・自治体の補助金、銀行からの融資など限定的です。株式会社のように株式発行による資金調達ができず、株式上場という選択肢もないことから、多数の投資家から出資を受けることが難しいというデメリットがあります。また、合同会社は社債を発行することが可能ですが、融資と同様に償還日には元本を返済する必要があります。
3. 社内で対立があると、意思決定が難しくなる
合同会社では、特別な規定がない限り、全員が経営者としての権利を有することから、対立が生じてしまうと意思決定が難しくなります。意見が一致した場合はすばやい意思決定が可能となるので強みになりますが、逆に対立が発生してしまった場合は意思決定が困難となり、営業活動にも支障をきたす可能性があります。
対立による意思決定を避けるために、合同会社設立の際に、定款に議決割合や業務執行社員を明記したり、利益配分を明確にするとよいでしょう。
合同会社に向いている事業・業種
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合同会社に向いている事業や業種は、次のとおりです。
BtoC(一般消費者向け)事業
合同会社は、一般消費者向けのBtoC事業に向いています。合同会社は、株式会社などの会社形態に比べて信用度で劣ってしまったり、信用を得るまでに時間がかかる可能性があるため、BtoB事業では不利になる可能性があります。
一方で、一般消費者向けの小売業やサービス業であれば、会社の形態よりも商品の特徴や魅力、知名度が重視される傾向にあります。提供するサービスが魅力的かつ信用を与えられるものあれば、消費者は企業名を気にすることなく購入することも少なくありません。
小規模事業
合同会社は、高額な資金調達を必要としない小規模事業にも適しています。株式会社よりも迅速な意思決定が可能で、利益配分も定款に明記することで自由に行えることから、社員の少ない小規模事業の場合におすすめです。
法人化による節税効果を期待する個人事業主が、設立の手間やコストが比較的低い合同会社へ移行するケースも少なくありません。また、将来的に事業拡大を目指す小規模スタートアップ企業も、費用を抑えて事業を開始し、事業拡大のタイミングで株式会社へと移行することが可能です。
家族や友人・知人との起業
家族や友人・知人同士、または資金を提供する人と技術を持つ人が協力して新事業やサービスを開始する場合にも、合同会社の会社形態が適しています。社員が対等な立場で経営を行えるだけでなく、意思決定に関しては代表者を決める、議決権に関するルールを定める、といったことも可能です。
このように、合同会社は利益配分や意思決定などに関して自由度が高く、社風に合わせた経営が可能です。
合同会社と株式会社の違い
合同会社と株式会社の主な違いは、合同会社の場合は出資社員が所有者になるのに対して、株式会社では株主が所有者になる点です。合同会社は意思決定が迅速である、定款認証や決算公告が不要、設立費用が少ない、役員の任期の制限がない、利益配分は定款に明記することで自由に決定できるなど、株式会社に比べて自由度が高いという特徴があります。一方で、合同会社は株式発行や株式上場による資金調達ができず、多数の投資家から出資を受けることが難しくなります。
合同会社と株式会社の細かな違いは、以下のとおりです。
合同会社の場合
- 会社の所有者:出資社員。
- 意思決定:定款に明記した通りの方法か、定款に規定がない場合は社員全員の同意が必要となる。
- 定款:認証は不要。電子定款なら収入印紙も不要。
- 設立費用:約6~10万円程度。
- 役員の任期:制限なし。
- 利益配分:自由に決めることができるが定款に明記する必要がある。
- 決算公告:義務なし。
- 監査役:不要。
- 議決権:1人1議決権。
株式会社の場合
- 会社の所有者:株主。
- 意思決定:株主総会で決議する。
- 定款:認証が必要。
- 設立費用:約20~25万円程度。
- 役員の任期:通常は2年、最長で10年。
- 利益配分:出資の割合による配分。
- 決算公告:義務あり。
- 監査役:1名以上必要。
- 議決権:1株につき1議決権。
まとめ
2006年より日本に導入された合同会社は、出資者と経営者が同一の会社形態です。株式会社に比べて設立費用が安い、意思決定を迅速に行える、利益配分や議決権などへの自由度が高い、というメリットがあり、特に小規模事業者やスタートアップ企業、個人事業主からの法人化の場合に合同会社が選ばれるケースが増えています。株式会社に比べると社会的信用度が低い、株式発行による資金調達ができないというデメリットもあります。一方で、Apple Japan合同会社やGoogle合同会社、アマゾンジャパン合同会社といった大手の有名大企業でも採用されている会社形態で、認知度が高まっていることも事実です。
合同会社のメリットやデメリットだけでなく、合同会社に向いている事業・業種や株式会社との違いをよく理解して、あなたのビジネスに合った会社形態を選びましょう。
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合同会社に関するよくある質問
合同会社と株式会社の違いは?
合同会社と株式会社の主な違いは、合同会社の場合は出資社員が所有者になるのに対して、株式会社では株主が所有者になる点です。合同会社は意思決定が迅速である、定款認証や決算公告が不要、設立費用が少ない、役員の任期の制限がない、利益配分は定款に明記することで自由に決定できるなど、株式会社に比べて自由度が高いという特徴があります。一方で、合同会社は株式発行や株式上場による資金調達ができず、多数の投資家から出資を受けることが難しくなります。
合同会社の略は?
合同会社の略は(同)です。また、銀行口座のカナ略称においては、(ド)が使われています。英語表記の場合には、LLCと表記したり、Godo Kaishaの略であるGK.やG.K.が使われたりすることもあります。
合同会社設立に必要な資本金は?
合同会社を設立する際に必要な資本金は、下限が設定されていないため1円からでも可能です。ただし、会社としての信用確保のためにも、初期費用と3~6か月分の運転資金の合計金額を用意すると良いとされています。
合同会社のメリットは?
- 設立費用が安い
- 定款の認証が不要
- 経営の自由度が高い
- 素早い判断ができる
- 役員の任期に制限がない
- 出資者は有限責任社員
- 決算公告の義務がない
- 株式会社への移行も可能
合同会社設立手続きに必要な費用は?
合同会社の設立に必要な費用は、自分で手続きを行う場合、一般に6~10万円程度です。
株式会社から合同会社に移行できる?
できます。外資系企業の日本法人が多く、その事例として、Apple Japan合同会社、Google合同会社、アマゾンジャパン合同会社などが挙げられます。
文:Masumi Murakami