※この記事は情報の提供のみを目的としています。この記事を読み、適切に利用することは自己責任となりますのでご了承ください。記事の内容は、法律、税金、ビジネスについて助言するものではなく、またその提供を意図するものではありません。法的事項の変更は頻繁に起こるためご自身で確かめ、必要に応じて法律、税金、ビジネスの専門家にご相談ください。
東京商工リサーチの調査によると、2023年の新設法人のうち、合同会社の設立は4万社を上回り、株式会社に次いで全体の26.5%を占めるなど、数ある会社の形態の中でも注目を集めています。その理由としては、設立までの期間が短い、コスト削減につながるなど他の法人と比べて手軽であるという特徴が考えられるでしょう。
この記事では、合同会社の設立手続きの流れを6つのステップで紹介します。必要書類や設立費用についても解説しているので、参考にしてみてください。
合同会社とは
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合同会社とは、出資者が会社の経営者となる会社形態です。アメリカに存在するLLC (Limited Liability Company)をモデルとして、2006年に施行された新会社法により導入されました。この際、有限会社は廃止となっています。
日本でも合同会社を設立するメリットが多く、会社を法人化するために、株式会社ではなく合同会社を選ぶ組織が増えています。株式会社と異なり、株主総会がなくとも迅速な会社の意思決定が可能で経営の自由度も高いため、事業を小規模からスタートする場合に適しています。また2023年10月のインボイス制度の導入に伴い、個人事業主から合同会社へと法人化する動きもあります。
合同会社設立するまでの6つのステップ
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1. 基本事項を決める
合同会社を設立するには、最初に以下の基本事項を決める必要があります。のちに作成する定款にも記載する内容です。
- 目的
- 商号
- 本店及び支店の所在場所
- 資本金の額
- 業務執行社員の氏名又は名称
- 代表社員の氏名又は名称及び住所
- 代表社員が法人の場合は、当該社員の職務を行うべき者の氏名及び住所
目的
目的とは、合同会社が行う事業内容のことです。定款を見た企業や機関にも伝わりやすいよう、事業目的の最初にメイン事業を記載しておきます。また、誰が読んでもわかりやすい、明確で過不足のない目的の記載を心がけましょう。事業目的に記載した内容のみが事業として認められるため、将来的に行う予定のある事業内容も記載することをおすすめします。
ただし、一貫性に欠ける目的が多い、実態のない事業目的ばかりが並んでいるといった場合は、企業の印象を悪くする可能性があります。特別な理由がない場合には、最大でも10件程度に絞って記載すると良いでしょう。目的の最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」と記載することで、事業目的に記載されていない関連事業を行うことができます。
登記後に事業目的を変更するには、定款と登記の変更手続きを行う必要があります。その場合、目的変更登記申請をすることとなり、登録免許税が3万円かかります。
商号
商号とは、登録する会社名のことです。会社の顔としての役割もあるため、事業内容がわかりやすいものや、会社の雰囲気を伝えるもの、理念や理想を込めたものなどを商号とすることがよくあります。個人事業から合同会社を設立した場合には、屋号をそのまま引き継ぐことも珍しくありません。
商号を決める際には、有名企業や団体などの既存の機関や組織と類似したものを付けないよう注意が必要です。不正競争防止法により、類似商号を付けてしまうと損害賠償請求や商号の使用差止などのリスクを負うことになります。そのため、商号決定の際には、法務省のオンライン登記情報検索サービスを使って商号調査を行いましょう。
本店及び支店の所在場所
合同会社の住所を決定します。事業を運営する場所を定める場合が一般的ですが、レンタルオフィスやバーチャルオフィスを所在場所として登録することも可能です。ただし、所在地を変更する場合には登記の変更手続きのため登録免許税(管轄内の場合は3万円、管轄外は6万円)がかかるので、長期的に業務を行う場所を選びましょう。
資本金の額
事業計画書に合わせて資本金の額を決定します。下限が設定されていないため法律上は1円からでも合同会社を設立できますが、資本金は事業の規模に合った金額にすることで、会社としての信用を確保する要素のひとつにもなります。一般に、資本金は初期費用と3~6か月分の運転資金の合計金額を確保すると良いとされています。
業務執行社員の決定
合同会社では、出資者のことを社員と呼びます。社員という言葉から一般的にイメージされる、従業員とは異なる点に留意が必要です。業務執行社員とは、そのなかでも実際に会社の経営を行う人のことを指します。出資者が複数いる場合、実際に経営に参画する人を明確にする必要があります。
代表社員の決定
代表社員とは、出資者のうち代表権を持つ人のことです。一般に、業務執行社員が複数人いる場合、その中から代表社員を決定します。出資者が1人の合同会社の場合には、業務執行社員と代表社員は同一人物となります。登記上は代表者と記載されていますが、肩書はCEOや社長、最高責任者など自由に決めることが可能です。ただし、代表取締役は株式会社に使用する肩書のため使用できません。
代表社員が法人の場合は、当該社員の職務を行うべき者(職務執行者)の決定
合同会社は、法人が代表社員を務めることができます。その場合、職務執行者を選任する必要があります。職務執行者は経営を行うことが可能ですが、代表権を持たないという特徴があります。
2. 法人用の実印を作る
合同会社設立に伴い、必要となる法人用の実印を作ります。実印とは、法務局に登録した印鑑のことを指し、一般に丸い形状で外側に会社名、内側に主に代表者の役職名が彫られます。所在地のある地域の管轄法務局に印鑑を持参し、印鑑登録申請をすると使用できるようになります。契約書類や合同会社設立申請などの公的機関への書類提出の際に使用しますが、オンライン申請で合同会社を設立する場合には実印は不要です。しかし、取引先との契約の際など実印を必要とする場面は多いため、作っておくと安心です。
また、銀行の法人口座開設時に必要となる銀行印や、社判とも呼ばれる請求書や納品書に押印される角印も作っておきましょう。
3. 定款を作成する
定款とは、会社の基本情報やルールを定めた書類のことです。定款には記載が必要となる絶対的記載事項のほかに、相対的記載事項、任意的記載事項と呼ばれる任意の記載項目があります。
絶対的記載事項(必須項目)
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 社員(出資者)の氏名又は名称及び住所
- 社員の全部を有限責任社員とする旨
- 社員の出資の目的及びその価額又は評価の標準
相対的記載事項(定款に定めがなければ効力を発揮しない事項)
- 持分の譲渡の要件
- 業務を執行する社員(業務執行社員)の指名又は選任方法
- 社員又は業務執行社員が2人以上ある場合における業務の決定方法
- 合同会社を代表する社員(代表社員)の指名又は互選
- 存続期間又は解散の事由 等
任意的記載事項(絶対的記載事項と相対的記載事項に該当せず、会社法の規定にも違反しない事項)
- 業務執行社員の員数
- 業務執行社員の報酬
- 事業年度 等
定款の作成には、作成した書類を印刷・製本して4万円分の収入印紙を貼付し提出する方法と、書類をPDFファイルで作成し電子署名を行う電子定款という方法の2種類があります。電子定款の場合は収入印紙が不要となるため、この方法を選ぶ人が増えています。
また、株式会社などの場合は定款を公証役場で認証手続きを行う必要がありますが、合同会社の場合は不要です。
4. 出資を履行する
出資金を銀行口座へ払い込みます。ただしこの時点ではまだ登記が完了しておらず合同会社の銀行口座は作成できないことから、一般に出資者の個人口座へ入金します。入金したことが確認できるよう、通帳の表紙と1ページ目、振り込み内容が確認できるページのコピーを取ります。
5. 登記に必要な書類を準備する
以下の登記に必要な書類を準備します。
- 合同会社設立登記申請書
- 定款(書面で登記申請する場合)
- 業務を執行する社員の一致があったことを証する書面
- 印鑑届出書
- 代表社員の印鑑登録証明書(書面で登記申請する場合のみ)
- 出資の履行を証明する書類
- 登録免許税の収入印紙(資本金の額の0.7%。この金額が6万円に満たない場合は申請1件につき6万円)
- 代理人が登記申請を行う場合は、その権限を証する書面
- 資本金の額が会社法及び会社計算規則に従って計上されたことを証する書面(出資財産が金銭のみの場合は不要)
また、代表社員が法人である場合には作成後3か月以内の以下の書類も必要となります。
- 当該法人の代表者が登記所に印鑑を提出していない場合:印鑑届書に押印された個人印の印鑑証明書
- 代表社員の職務執行者が当該法人の代表者である場合:当該法人の代表者事項証明書
- 代表社員の職務執行者が当該法人の代表者でない場合:当該法人の代表者事項証明書、当該法人の代表者が職務執行者の印鑑に相違ない旨を保証した書面(保証書)で、登記所に提出した当該法人の印鑑を押印したもの
6. 法務局に登記申請を行う
書面で登記申請を行う場合
法務局のホームページから合同会社の所在地の管轄法務局を探し、必要書類を持参し登記申請を行います。通常、書類に不備がない場合、提出から登記が完了するまでには1週間ほどかかり、合同会社の設立日は申請日となります。なお、登記が完了しても税務局から連絡が来ることはありません。
オンライン申請で行う場合
デジタル庁の法人設立ワンストップサービスからオンライン申請が可能です。オンライン申請を行うにあたり、以下の事前準備が必要となります。
- マイナンバーカードとICカードリーダライタ
- 申請者情報登録
- 申請用ソフトのダウンロード
必要書類については、法務局の合同会社の設立の登記申請(オンライン申請)に必要な添付書面情報を、申請の流れについてはオンライン申請の手順も参考にしてください。
合同会社の設立費用
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合同会社の設立費用は、資本金や手続きの方法により異なります。自分で手続きを行う場合、必要となる費用は以下のとおりです。
- 登録免許税:資本金の額の0.7%(この金額が6万円に満たない場合は申請1件につき6万円)
- 定款の収入印紙(書面で定款を作成する場合):4万円
- 印鑑証明書(書面で申請する場合):390~450円
- 登記簿謄本:480~800円
手続きを司法書士や行政書士、税理士などの専門家に依頼する場合には、さらに費用がかかります。また、上記の手続き費用に加えて資本金も必要となります。
合同会社の設立後に必要な届け出
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合同会社を設立したら、以下の機関に届け出を行う必要があります。
税務署
管轄の税務署に、設立後2か月以内に以下の書類を提出して届け出を行います。法人としての税務処理を行うために必要となる手続きです。
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書
さらに、出資額が1,000万円以上の場合は消費税関連の届け出も必要となります。
地方自治体
地方自治体への届け出は、法人住民税や事業税といった地方税の支払いに関わる届け出です。
- 法人設立届出書
- 定款のコピー
- 登記事項証明書
年金事務所
法人には社会保険への加入義務があることから、管轄の年金事務所への届け出が欠かせません。社会保険には健康保険、介護保険、厚生年金保険の3種類があり、必要書類は以下のとおりです。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
労働基準監督署
従業員を雇う場合、労働者災害補償保険(労災保険)への加入が義務付けられており、以下の届け出を労働基準監督署に提出します。
- 労働保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
- 就業規則(変更)届(従業員が10名以上の場合)
- 適用事業報告書
なお、一人で合同会社を設立した場合、労働者に該当しないため労災保険への加入はできません。
公共職業安定所(ハローワーク)
1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある雇用者を雇う場合、雇用保険への加入が義務付けられています。そのため、以下の届け出を公共職業安定所へ提出しなければなりません。
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格届
まとめ
合同会社は、1人でも設立することができ、資本金1円からでも起業することができるため、会社を設立する方法の中でも注目を集める形態のひとつです。合同会社を設立するには、まず基本事項を決め、定款を作成する必要があります。法人用の実印を用意したり、出資を履行したりした後に登記に必要な書類を準備し、法務局に登記申請を行うことで設立できます。デジタル庁の法人設立ワンストップサービスを使えばオンライン申請をすることもできます。
合同会社設立に必要な費用は、資本金の額や、申請手続きをオンラインで行うか書面で行うか、デジタル定款にするかで異なります。専門家に手続きを依頼する場合にはさらに費用が必要となります。合同会社の事業登録を検討している方は今回の記事を参考に、自分に合った設立方法を見つけて、ビジネスをスタートさせましょう。
合同会社設立に関するよくある質問
合同会社を設立するのに必要な費用の目安は?
合同会社の設立費用は、一般に6~10万円程度です。具体的には以下の費用が必要となります。
- 登録免許税:資本金の額の0.7%(この金額が6万円に満たない場合は申請1件につき6万円)
- 定款の収入印紙(書面で定款を作成する場合):4万円
- 印鑑証明書(書面で申請する場合):390~450円
- 登記簿謄本:480~800円
手続きを専門家に依頼する場合にはさらに費用が必要となります。
合同会社の設立に必要な書類は?
- 合同会社設立登記申請書
- 定款(書面で登記申請する場合)
- 業務を執行する社員の一致があったことを証する書面
- 印鑑届出書
- 代表社員の印鑑登録証明書(書面で登記申請する場合のみ)
- 出資の履行を証明する書類
- 登録免許税の収入印紙(資本金の額の0.7%。この金額が6万円に満たない場合は申請1件につき6万円)
- 代理人が登記申請を行う場合は、その権限を証する書面
- 資本金の額が会社法及び会社計算規則に従って計上されたことを証する書面(出資財産が金銭のみの場合は不要)
合同会社の設立はひとりでできる?
合同会社はひとりで設立できます。
文:Masumi Murakami