ネットショップ開設のあと、売り上げや利益、キャッシュフローの管理と同じくらい重要になるのが税金への対応です。特に消費税は、事業規模や取引内容によってルールが変わるため、正しい知識を持つことが必要です。消費税の計算や申告を適切に行わなければ、思わぬ負担が発生してしまうことにもなりかねません。
日本では、2023年10月からインボイス制度が始まり、2024年1月には電子帳簿保存制度が改正されるなど、消費税の申告方法や請求書の扱いが変化しました。また、ネットショップであっても海外販売は消費税の免税対象となり、還付申請の手続きが必要になります。
この記事では、EC事業を運営するうえで知っておくべき消費税の基本的なしくみから、適切な価格表示のルール、インボイス制度への対応、そして越境ECにおける消費税の扱いなどを解説します。
消費税のしくみ
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消費税とは、商品やサービスの取引に対して課される税金です。日本の標準税率は10%で、特定の品目には軽減税率8%が適用されます。オンラインショップでも、国内で販売する商品には基本的に税金がかかります。
消費税は、税を負担する人と国に納める人が異なる間接税で、事業者は原則として商品に消費税分を上乗せして消費者に請求します。そして、個人事業主であれ、法人であれ、納税義務のある事業者は集めた消費税を一定期間ごとにまとめて税務署へ納めるしくみになっています。
事業者は消費税の制度を理解し、期限内に申告と支払いができる準備をしておくことが重要です。管理を怠ると、いざ納税義務が発生したときに、いきなり大きな額を支払うようなことにもなりかねません。申告漏れが発生していた場合、追徴課税や罰則が発生するリスクもあります。
消費税のルールを理解し、適切に対応することは、事業の信頼性向上にもつながります。
ネットショップの税金納付の基本6ステップ
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1. 課税事業者か免税事業者か把握する
すべての事業者に消費税の納税義務があるわけではありません。事業の規模が小さく、売上額も少ない場合は、事務手続きの負担が重いなどの理由から、消費税の納税が免除されています。消費税の課税事業者となる条件は次のとおりです。
課税事業者:
- 2年前(法人は2期前)の課税売上高が1,000万円を超えている事業者
- 前年の1月から6月まで(法人は期の始まりから6か月の間)の課税売上高が1,000万円を超えている事業者
- 資本金が1,000万円以上の新設法人
- インボイス登録事業者(適格請求書発行事業者)
上の条件に該当しない場合は、免税事業者となります。
2. 免税事業者だった場合、インボイス制度に登録するか選択する
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、2023年10月1日から日本で導入された新しい消費税のしくみです。
通常、事業者は、仕入れ時に自分が支払った消費税を、納税額から差し引く「仕入税額控除」を受けることができますですが、インボイス制度が導入された後は、登録事業者が発行したインボイス(適格請求書)でしか控除が受けられなくなりました。
インボイスに登録すると、課税事業者になるので、売り上げの金額に関わらず消費税を納める必要がでてきます。一方で、インボイス未登録の免税事業者のままでいると、取引先が控除を受けられなくなってしまうため、特に卸売ECサイトなどのBtoB ECにおいては、取引を避けられてしまうおそれもあります。
既存の取引先にインボイスの発行を求められている場合や、仕入れや経費が多く、課税事業者になっても十分なメリットがある場合は、登録を検討しましょう。
逆に、まだ事業が成長段階にあって売り上げが少なく、課税事業者になると事務負担で業務が回らなくなってしまうことが予想される場合や、取引先の大半が一般消費者であるB2Cビジネスの場合は、登録しないで免税の制度を活用してもよいでしょう。
3. 適切な価格表示で販売する
総額表示の完全義務化
ネットショップでは、消費者にわかりやすい適切な価格表示をすることが求められています。
2021年4月からは、消費者向けの商品の価格を税別表示することが禁止され、総額表示が完全義務化されました。商品の価格は、「1,100円(税込)」のように、総額で表記します。送料にも消費税がかかります。こちらも「送料550円(税込)」のように、総額で表示しましょう。
ネットショップの商品説明のみならず、次の媒体はすべて、総額表示義務の対象となります。
税別表示が認められている場合
企業間取引(B2B)では、税別の価格表示が認められています。
また、見積書や契約書、請求書なども、税別表記で問題ありません。
軽減税率
酒や外食を除く食料品と、週2回以上発刊している新聞に対しては、消費税率が10%ではなく8%になります。ネットで食品販売をする場合、標準税率10%の商品と軽減税率8%の商品を区別して管理する必要があります。
また、軽減税率が適用される商品の取引には「軽減税率対象」という記載が求められる点にも留意しましょう。
4. 記帳と書類管理を正確に行う
消費税の計算にむけて、日々の記帳や書類の保存など、会計管理を正確に行うようにしましょう。申告に関わる書類は、申告後も7年間保管することが義務付けられています。次は保存が必要です。
- 会計帳簿
- 決算書類
- 請求書・領収書
- 申告の控え
- 仕入明細書
- 取引先との契約書や覚書
- 電子取引データ
電子帳簿保存法の影響
2024年1月1日の電子帳簿保存法の改正以降、電子取引でやり取りしたデータについては、データのまま保存することが義務化されました。
紙に印刷して保管することは禁止されているため、電子帳簿保存法の要件に対応した会計ソフトを利用してください。
5. 消費税を計算する
消費税の計算方法には、「原則課税方式」「簡易課税方式」「2割特例」の3つがあり、事業規模や業種に応じて選択ができます。自分の事業にあった計算方式を選ぶことは、税金対策にもなります。
原則課税方式(最も一般的な計算方法)
課税売上にかかる消費税額から、仕入れや経費にかかる消費税額を差し引いて納税額を求めます。つまり、1年間に消費者から預かった消費税から、事業主が事業で支払った消費税を差し引いた額が納付額になります。消費税の支払分を正確に控除できるため、仕入や経費の割合が多い事業者に有利です。
原則課税方式の計算式:
預かった消費税 − 支払った消費税 = 納税額
原則課税方式の計算例:
売り上げが1,000万円(消費税率10%)で受取消費税 が100万円、
仕入・経費が500万円(消費税率10%) で、支払消費税 が50万円の場合、
納付消費税額は、100万円 − 50万円 = 50万円になります。
簡易課税方式(売り上げに対して一定の割合を控除する計算方法)
基準期間(2年前)の課税売上高が 5,000万円以下 の事業者だけが選択できる簡易的な計算方法です。簡易課税方式では、業種ごとに定められた「みなし仕入れ率」を使って、納付額を計算します。例えば小売業のみなし仕入れ率は80%で、売り上げの80%は経費にかかったとみなされます。
簡易課税方式は、取引や経費の件数が多く計算を簡単にしたい事業者にはおすすめです。しかし、経費の額が大きい事業者が選択した場合、原則課税で計算した場合よりも納税額が高くなる可能性もありますので注意してください。
また、簡易課税方式で納税するには、事前に税務署へ届け出が必要です。
簡易課税方式の計算式:
預かった消費税 − (預かった消費税 × みなし仕入率) = 納税額
簡易課税方式の計算例(小売業):
売り上げが1,000万円(消費税率10%)で 受取消費税が100万円の場合、
小売業のみなし仕入率が80%なので、
納付消費税は100万円 の20%、20万円になります。
2割特例
年間売上1,000万円以下の事業者が、2023年10月から2025年9月の期間限定で選択できる計算方法です。集めた消費税の2割を納めればよい、というルールなので、計算が非常に簡単です。
2割特例の計算式:
売り上げにかかる消費税 − (売り上げにかかる消費税 × 0.8) = 納税額
2割特例の計算例(小売業):
売り上げが1,000万円(消費税率10%)で 受取消費税が100万円の場合、
納付消費税は100万円 の20%、20万円になります。
仕入や経費が多い場合は 原則課税方式、経費の額が小さく計算を簡単にしたい場合は簡易課税方式、売り上げが小さい場合は 2割特例を活用することをおすすめします。
納税額がいくらになるか、事前に計算して把握し、支払う金額を用意しておきましょう。
6. 消費税の申告と納税を行う
課税事業者は、毎年、税務署に消費税の申告・納税を行います。売り上げや経費の記録を正確に管理し、適切に申告しましょう。税理士に相談するのも一つの方法です。
申告期限
個人事業主:課税期間(通常は1月1日から12月31日)の翌年3月31日まで
法人:事業年度終了の日から2ヶ月以内
申告期限を過ぎると、延滞税や加算税が課される可能性があるため、期限内の申告を心掛けてください。
越境ECの消費税
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海外に商品を販売する越境ECは、輸出取引であり、消費税の取り扱いが国内取引と異なります。
消費税還付
輸出取引は原則として消費税が免除されるため、申告により還付を受けられる場合があります。例えば、国内の仕入先から商品を仕入れて、海外に向けて販売する場合、仕入れ時に支払った消費税分は申告することで、還付が受けられます。
消費税還付を受けるための要件
- 課税事業者であること
- 輸出取引として申告すること
- 輸出許可証、インボイス、発送伝票の控えなど輸送書類、契約書など、各種書類を準備すること
消費税還付の申請方法
消費税還付の申請は、確定申告の際に行います。必要な書類をそろえ、所轄の税務署に申告を行うことで、仕入れ時に支払った消費税の還付が受けられます。
申請後、還付金が支払われるまでには、1ヶ月から1ヶ月半程度かかります。e-Taxで提出された還付申告は、3週間程度で完了します。
販売先の国の消費税
販売先の国によっても課税のルールは異なります。欧州や米国などでは、一定の売り上げを超えると現地の消費税の登録義務が生じる場合もありますので、販売先の国の税制を確認することも重要です。
まとめ
ネットショップを運営するうえで、消費税のしくみを理解し、正しく対応することは不可欠です。
課税事業者か免税事業者か把握し、適切に書類管理を行い、準備を整え、期限内に申告と納税を終えましょう。消費税の制度や、それに関わる法律は変更されることもあるので、最新の情報を確認しながら対応することが大切です。不安な場合は、税理士に相談するのも一つの手段です。
正しい知識をもち、しっかりと準備をして、スムーズな税務処理と安定した運営を目指しましょう。
よくある質問
個人事業主でも消費税の申告は必要?
個人事業主であっても、2年前の課税売上高が1,000万円を超えた場合や、前年の1月から6月までの課税売上高が1,000万円を超えた場合、消費税の確定申告・納税が必要です。
売り上げが1,000万円未満の場合は免税事業者となり、消費税の納税義務はありません。
ただし、インボイス制度に登録すると、免税事業者であっても課税事業者として消費税を納める必要があります。
インボイス制度に登録したほうがいい?
登録を検討したほうがいいケース:
- 取引先からインボイスの発行を求められている場合
- 仕入れや経費が多く、消費税の控除を受けたほうがメリットが大きい場合
登録しなくてもいいケース:
- まだ成長段階で売り上げが少なく、課税事業者になると事務負担で事業が回らなくなってしまう場合
- 取引先のほとんどが一般消費者で、インボイスの影響が少ない場合
ネットショップの売り上げが1,000万円未満でも消費税を納税する必要はある?
売り上げが 1,000万円未満の場合は免税事業者となり、消費税の納税義務はありません。ただし、インボイス制度に登録した場合は、課税事業者となります。
国外に販売する場合、消費税の扱いは?
国外に商品を販売する場合、消費税は免除されます。申告することで、事業者は消費税の還付を受けることができます。
消費税の申告・納税を簡単にする方法は?
確定申告をスムーズに行うためには、会計ソフトを活用するのがおすすめです。特に、電子帳簿保存法の改正後は、電子取引データはデータのまま保存することが義務化されているため、クラウド型の会計ソフトを利用すると便利です。税理士に相談するのも一つの方法です。
消費税の計算方法はどれを選ぶべき?
仕入や経費が多い場合は 原則課税方式、経費が少なく計算を簡単にしたい場合は簡易課税方式がおすすめです。売り上げが1000万円以下で、2割特例の期間内(2023年10月から2025年9月)であれば、2割特例を活用することもできます。
業種や売り上げ、経費の割合によって、適切な計算方法は異なるので、自分の事業にあった計算方式を選ぶようにしましょう。
文:Taeko Adachi